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2015/04/22

攻撃行動の強度を制御する脳領域の神経伝達物質を特定 ~背側縫線核のグルタミン酸入力が攻撃行動のレベルを決定している~

Press Release

Glutamate input in the dorsal raphe nucleus as a determinant of escalated aggression in male mice

Aki Takahashi, Ray X. Lee, Takuji Iwasato, Shigeyoshi Itohara, Hiroshi Arima, Bernhard Bettler, Klaus A. Miczek, Tsuyoshi Koide Journal of Neuroscience, 22 April 2015, 35(16): 6452-6463; DOI: 10.1523/JNEUROSCI.2450-14.2015

プレスリリース資料

国立大学法人筑波大学人間系の高橋阿貴助教と国立遺伝学研究所マウス開発研究室の小出剛准教授らは、雄マウスの攻撃行動のレベルを決めている脳内メカニズムの一端を明らかにしました。脳内セロトニン系が攻撃行動に重要な役割を果たしていることはすでに多くの研究から分かっていましたが、動物が攻撃行動を示している最中に、セロトニン系がどのような活性を示し、それがどのような伝達物質で制御されているかについては明らかになっていませんでした。本研究により、セロトニン神経系が存在する背側縫線核において興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の入力が増加することで、雄マウスの攻撃行動が高ぶることが分かりました。本研究は、攻撃行動のレベルを決めている脳内の制御機構を初めて明らかにしたものです。

本研究の成果は、米国神経科学学会誌「The Journal of Neuroscience」に発表されました。本研究は科学研究費補助金(23683021, 25116527)の支援を受けて行われ、NIGINTERNで来日した大学院生も貢献しています。

Figure1

日雄マウスが攻撃行動を示している最中に、背側縫線核(DRN)へのグルタミン酸(Glu)入力が増加する。しかし、攻撃行動が適度なレベルのときには、内側前頭前野(mPFC)でのセロトニン(5-HT)の放出量は変化しない。一方、雄マウスの攻撃行動が高ぶる(昂進した攻撃行動を示す)と、DRNのグルタミン酸入力が更に増加し、それに応じてセロトニンの放出も増加する。

2015/04/21

定量メカノバイオロジー研究室の島本勇太准教授が平成27年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞

定量メカノバイオロジー研究室の島本勇太准教授が平成27年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞

 新分野創造センター・定量メカノバイオロジー研究室の島本勇太准教授が平成27年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞しました。

 本賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者に授与されるものです。

授賞式日時

平成27年4月15日(水)

授賞式会場

文部科学省3階 講堂

受賞名

平成27年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞

受賞テーマ

有糸分裂紡錘体の集合と機能を制御する細胞内物理化学の研究

2015/04/14

新分野創造センターのテニュアトラック教員がテニュア獲得

2015年4月1日付けで新分野創造センターの3人の特任准教授がテニュアを獲得するとともに、教授に採用されました。

北川 大樹:分子遺伝研究系,中心体生物学研究部門

宮城島 進也:細胞遺伝研究系,共生細胞進化研究部門

北野 潤:集団遺伝研究系,生態遺伝学研究部門

遺伝研の新分野創造センター(Center for Frontier Research)は,「あたらしい人材」と「あたらしい分野」を同時に育成するためのインキュベーションセンターです。遺伝研の卓越した研究環境や様々なサポートを活用して若手の優れた研究者がテニュアトラック独立准教授として研究室を運営し、遺伝学とその周辺領域に新しい分野を開拓する研究を行っています。テニュアを獲得した教員は遺伝研に新しい研究部門を創り、自らが創成に貢献している新分野を牽引していきます。

北川 大樹 教授
宮城島 進也 教授
北野 潤 教授
2015/04/14

遺伝研に5人の助教が着任

2015/04/08

形質遺伝研究部門 中沢信吾さんが総研大未来科学者賞を受賞

中沢信吾さん

 総研大は平成26年度から、科学者として活躍している修了生の研究を顕彰することを目的とした「総研大科学者賞」と、科学者を志す在学生の研究の奨励を目的とした「総研大未来科学者賞」を新設しました。 形質遺伝研究部門 岩里研究室所属の中沢信吾さん(総研大遺伝学専攻D3)がそのうちの「総研大未来科学者賞」を受賞しました。

研究テーマ

新生仔大脳皮質における入力依存的なバレル神経回路発達機構の解析

2015/04/03

孤島におけるカニクイザルの遺伝的多様性

進化遺伝研究部門・明石研究室
集団遺伝研究部門・斎藤研究室

Whole-genome sequencing of six Mauritian cynomolgus macaques (Macaca fascicularis) reveals a genome-wide pattern of polymorphisms under extreme population bottleneck
Naoki Osada, Nilmini Hettiarachchi, Isaac Adeyemi Babarinde, Naruya Saitou, Antoine Blancher
Genome Biology and Evolution, 7(3):821–830 (2015) DOI: 10.1093/gbe/evv033

カニクイザル(Macaca fascicularis)は医学・薬学実験で広く用いられている霊長類で,多様な遺伝的背景を持っていると考えられています.これら実験用霊長類の遺伝的背景を明らかにすることは医学・薬学研究の発展にとって重要な課題です.

カニクイザルは東南アジアに広く分布していますが,それに加えモーリシャス島に生息する特徴的な集団が知られています.これらのサルは16世紀に船乗りによって少数の個体が持ち込まれ,その後急速な速度で島全体に広がったと考えられています.今回の研究目的のひとつは,モーリシャス産カニクイザルの全ゲノムレベルでの遺伝的多様性がどのようになっているかを明らかにすることです.また本件は,哺乳類のような生物種で,少数の個体から爆発的に集団内の個体数が増えたときにどのような影響がゲノムに起こるのかを調べるよいモデルになります.

今回,我々はトゥールーズ第三大学との共同研究により,モーリシャス産カニクイザル6個体のゲノム配列を決定し解析を行いました.これらのゲノム配列を比較解析することにより,モーリシャス産のカニクイザルは,これまで考えられていたようにインドネシア・マレーシア集団に由来し,母集団よりも2割程度低い遺伝的多様性を持っていることが確認できました.それだけでなく,急激な個体数の減少が集団の中の遺伝子多型頻度に強く影響影を与えることが観察されました.これらの全ゲノム情報は新規遺伝子の同定や効率的な遺伝子発現解析など,今後モーリシャス産カニクイザルを医学・薬学実験で用いる際の重要な情報になるでしょう.

Figure1

左)赤い円で囲まれた島がモーリシャス島 右)カニクイザルの写真

2015/04/02

プロテオミクスによるクロマチンコード情報の解読

生体高分子研究室・前島研究室

End-targeting proteomics of isolated chromatin segments of a mammalian ribosomal RNA gene promoter

Ide, S. and Dejardin, J.
Nature Communications, 6, Article number: 6674, DOI: 10.1038/ncomms7674

ゲノムが記憶する遺伝情報をどのように使うのか、その役割を担っているのはクロマチンです。その実体はDNAがヒストンに巻き付いてできるヌクレオソームとそこに相互作用する転写因子などの結合タンパクです。各塩基配列上のクロマチンコード情報の解読は、個体の発生や疾患の原因解明のための大きな手がかりとなります。

Proteomics of isolated chromatin segments (PICh) 法は、質量分析法を用いて、特定のDNA配列に相互作用する因子を網羅的に同定する方法です。人工核酸プローブを核抽出液に混ぜ、プローブと相補鎖である配列に複合体を形成させることで、その領域をクロマチンごと特異的に回収します。この方法により、単純な塩基配列の繰り返し[(TTAGGG)n]からなるテロメア領域のタンパクを精製し、質量分析装置で網羅的に同定することが可能でした。しかしながら、複雑な塩基配列からなる遺伝子やその制御配列に適用できませんでした。

今回、人工核酸プローブのデザインの至適化とクロマチン調製の改良により、遺伝子領域に適用可能なPICh法のグレードアップに成功しました。連続した2つのプローブがDNAの切断末端に結合してはじめて安定に維持されることから、クロマチン断片を制限酵素で切断することで、末端配列を人為的にコントロールし、目的の領域の制限部位の周辺に結合するプローブを作成する工夫をしました(DNA断片の末端を狙う戦略に因んでEnd targeting PICh: ePICh法と命名)。ePICh法を哺乳細胞のガン化や老化に関連するリボソームRNA遺伝子のプロモーター配列に応用したところ、転写開始前複合体や新規機能性タンパクも含めた多数の分子群を同定できました。ePICh法を応用すれば、あらゆる生物から、多くの塩基配列上のクロマチンコード情報を包括的に抽出することが可能になり、今後、エピジェネティクス研究を加速させることが期待されます。

本研究は、本研究所とフランス国立科学研究センター人類遺伝学研究所で行われました。

Figure1

ePICh法のための人工核酸プローブデザインの秘訣。ターゲット配列近くの制限酵素認識部位周辺に、連続した二つ以上のプローブを作成する。プローブ結合部位がDNA断片の末端に位置する場合、ハイブリダイゼーション後に、解離したもう一方の鎖の再アニリーングする力が弱くなるため、プローブが二本鎖DNA内に安定にとどまる。

2015/04/01

石川麻乃研究員が日本生態学会奨励賞を受賞

インドネシアムナ島の調査地で現地の人たちと

インドネシアムナ島の調査地で現地の人たちと。 後方左から3番目が石川研究員。

3月20日の日本生態学会において、生態遺伝学研究室の石川麻乃研究員が「表現型可塑性の進化とその分子遺伝機構」の研究に関して、日本生態学会奨励賞(鈴木賞)を受賞しました。鈴木賞は、学位取得後4年くらいまでの今後の優れた研究展開が期待できる若手研究者に授与される賞です。 石川研究員は、大学院時代にはアブラムシの表現型多型の運命決定機構について、学位取得後はトゲウオ科魚類に材料を移し季節性回遊を示す生態型と示さない生態型の日長応答性の違いの遺伝基盤について研究してきました。双方のシステムにおいて、表現型可塑性の進化の背景に存在する多機能性ホルモンの環境応答性の進化過程を解明し、さらに、トゲウオではこのホルモン応答の獲得や喪失を引き起こす具体的な遺伝的変化を明らかにしつつあります。これらの一連の研究成果と将来性が高く評価されました。


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