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2022/02/25

イネ属植物の花粉管の発芽伸長能力に種間差異を生じるジベレリン活性化酵素の多様性

Evolutionary alterations in gene expression and enzymatic activities of gibberellin 3-oxidase 1 in Oryza

Kyosuke Kawai, Sayaka Takehara, Toru Kashio, Minami Morii, Akihiko Sugihara, Hisako Yoshimura, Aya Ito, Masako Hattori, Yosuke Toda, Mikiko Kojima, Yumiko Takebayashi, Hiroyasu Furuumi, Ken-ichi Nonomura, Bunzo Mikami, Takashi Akagi, Hitoshi Sakakibara, Hidemi Kitano, Makoto Matsuoka & Miyako Ueguchi-Tanaka

Communications Biology (2022) 5, 67 DOI:10.1038/s42003-022-03008-5

植物ホルモンのひとつであるジベレリン(GA)(用語説明1)は、植物体内で活性をもつ複数の活性型GAが存在し、ジベレリン3酸化酵素(GA3ox)の働きにより前駆体GAから合成されます。イネは2種類のGA3ox(OsGA3ox1、OsGA3ox2)を持ちますが、葯のみに遺伝子発現するOsGA3ox1についてはその生物学的な意味はほとんどわかっていませんでした。

osga3ox1変異体の解析から、OsGA3ox1が葯(花粉)で活性型GAのうちGA4だけでなく非常に生物活性が高いGA7を多量に合成し、これが発達後期の花粉のデンプン蓄積と受粉後の花粉管の発芽伸長に働くことが示されました。X線結晶構造解析により、このようなOsGA3ox2とは異なるOsGA3ox1のGA7合成能の高さは、GA3oxを含む酵素ファミリーで高度に保存された活性中心のチロシン(Y)がOsGA3ox1でフェニルアラニン(F型GA3ox1)に置換していることが原因である、とわかりました。

F型GAox1は栽培イネとそれに近縁な野生イネだけが保存し、比較的遠縁の野生イネは保存しないことから(図1)、イネ属の分岐後に生じたと推定されます。また、その進化に伴って遺伝子発現も葯特異的性が強くなり、より葯にGA7を多量に合成するようになりました。栽培イネおよび4種の野生イネのGA3ox1遺伝子をosga3ox1変異体に導入すると、葯でのGA7合成能の高いGA3ox1ほど花粉稔性の向上に寄与しました。

これらの結果は、F型GAox1の獲得および花粉での活性型GA7の増加が花粉管の伸長能を補強し、イネ属植物の種分化や繁殖能力に影響を及ぼす可能性を示唆します。

本論文は、名古屋大を中心とした理研、遺伝研、京都大、岡山大による共同研究成果です。本成果には、文科省ナショナルバイオリソース(NBRP)イネの支援を受けて遺伝研が保存する野生イネ系統が貢献しています。

用語説明1:ジベレリン
 茎の伸長や種子の発芽誘導、花芽の形成などに重要な生理現象を制御する植物ホルモンのひとつ。イネ馬鹿苗病の原因菌(Gibberella fujikuroi)が生産する毒素として日本人研究者により初めて発見された。

Figure1
図:イネ属植物のGA3ox活性中心のアミノ酸の置換とGA3ox1活性の種間比較
(A) 栽培イネOryza sativaの草型(左上)と開花時の花(右上)、および遠縁野生イネO. granulataの草型(左下)と開花直後の花(右下)。(B) GA3ox1(点線より上)およびGA3ox2(下)の活性中心におけるアミノ酸配列の種間比較。全てのイネ属GA3ox2および栽培イネ(sativa)とは遠縁の野生イネ (granulatameyerianalongiglumisridleyi)のGA3ox1では、活性中心にチロシン(Y)が保存されるが、栽培イネと比較的近縁な野生種(brachyanthaまで)のGA3ox1活性中心ではF(フェニルアラニン)への置換が生じていた。(C) イネ科植物のGA3oxファミリーの系統樹。イネ属におけるGA3ox1活性中心のYからFへのアミノ酸置換は分岐(赤い矢印)の後に生じたと考えられる。(D) イネ属栽培種および野生種のGA3ox1の活性型GA7合成能力の比較。granulataのY型GA3ox1は、他のイネ属種のF型GA3ox1と比べてGA7合成能が低い。
2022/02/21

井ノ上研究室 総研大生・西村瑠佳さんが令和3年度「ROIS若手+ベテラン異分野クロストーク」でベストポスター賞を受賞

西村さん
西村さん

 2021年12月20日に開催された令和3年度「ROIS若手+ベテラン異分野クロストーク」では参加者投票により2名のベストポスター賞が選出されました。

 井ノ上研究室 西村瑠佳さん(総研大・遺伝学専攻)はそのベストポスター賞を受賞しました。


受賞ポスタータイトル:

 「縄文人の歯髄や糞石由来DNAの古代微生物ゲノム解析」

人類遺伝研究室 井ノ上研究室 

2022/02/21

「Quantitative Biology – A practical introduction」SpringerLinkより出版

Quantitative Biology

SpringerLinkから細胞建築研究室 木村 暁教授が執筆した教科書「Quantitative Biology – A practical introduction」が発行されました。

本教科書は木村教授が総合研究大学院大学で行った講義「定量生物学」の内容を、実習に用いたコンピュータプログラムとともにまとめたものです。
プログラミングの予備知識が全くない方を対象としています。
また、木村教授がすすめている「細胞建築学」の研究についても概説しています。

タイトル:
Quantitative Biology – A practical introduction

  SpringerLink 書籍のページ

2022/02/18

子宮内膜のゲノム解析がもたらすブレイクスルー
〜不妊症から癌まで様々な婦人科疾患に対する画期的な予防法開発につながる内膜ゲノム異常の新知見〜

Spatiotemporal dynamics of clonal selection and diversification in normal endometrial epithelium

M. Yamaguchi, H. Nakaoka, K. Suda, K. Yoshihara, T. Ishiguro, N. Yachida, K. Saito, H. Ueda, K. Sugino, Y. Mori, K. Yamawaki, R. Tamura, S. Revathidevi, T. Motoyama, K. Tainaka, R. G. W. Verhaak, I. Inoue, T. Enomoto

Nature Communications (2022) 13, 943 DOI:10.1038/s41467-022-28568-2

プレスリリース資料

新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の榎本隆之教授、吉原弘祐講師、須田一暁助教、同大学医歯学総合病院総合周産期母子医療センターの山口真奈子特任助教、佐々木研究所腫瘍ゲノム研究部の中岡博史部長、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所人類遺伝研究室の井ノ上逸朗教授らの研究グループは、これまでに正常な子宮内膜で癌に関連する遺伝子が既に変異を起こしていることを世界で初めて明らかにしていました(Cell Reports. 2018年8月16日)。また、人体組織学が確立された19世紀以降、子宮内膜腺は髪の毛のように一本一本が独立していると考えられていましたが、子宮内膜の3次元構造解析によって子宮内膜は基底層で地下茎によって繋がっていることを明らかにしていました(iScience. 2021年3月16日)。今回、本研究グループは、月経によって剥離再生を繰り返す子宮内膜で癌関連遺伝子変異が維持されるメカニズムを解明するため、ヒト正常子宮内膜腺管の大規模なゲノム解析と3次元構造解析を統合した新しい手法の解析を行いました。それによって、月経時に剥がれない子宮内膜基底層の内膜腺管の地下茎構造内に癌関連遺伝子変異が蓄積し、地下茎を介して子宮内で領域を広げていくことを明らかにしました。一見正常にみえる子宮内膜に癌関連遺伝子異常が蓄積する現象は、子宮内膜が関係するすべての病態の根幹の現象である可能性が高く、将来の子宮体癌の発症母地になるだけでなく、月経困難症や不妊症を引き起こす子宮内膜症の原因、さらには受精卵の着床障害の原因になることが推定されます。

本研究結果はSpringer Nature社の科学雑誌Nature Communicationsに掲載されました。

遺伝研の貢献
新潟大学で準備された正常内膜腺管891本について、井ノ上教授らの研究グループが独自に開発したプールドキャプチャー法とイルミナシーケンサーを用い遺伝子変異検索をおこないました。データ解析のみならず統計的な解析も担当しました。

本解析は2019年度先進ゲノム支援の支援課題としておこなわれたものです。

Figure1
図: 区域分けした子宮内膜の遺伝子解析結果
A. 摘出した子宮の内膜を24区画に分け、1区画から5ずつ腺管を採取して遺伝子解析を行いました。
B. 同じ色で塗られた区域は、複数の共通する遺伝子変異をもつ腺管が見つかった区域で、それぞれクラスターを形成しています。
2022/02/10

野々村研究室 総研大生・Harsha Somashekarさんが日本遺伝学会Best Papers賞を受賞

 植物細胞遺伝研究室(野々村研)の総研大大学院生(D4)のHarsha Somashekarさんが2021年9月に行われた日本遺伝学会第93回大会において筆頭発表者として発表し、Best Papers賞(2021年度)を授与されました。

 
右から野々村先生 Harshaさん 津田先生
右から野々村先生 Harshaさん 津田先生

受賞発表タイトル:

正常な雄性減数分裂進行に必要なイネ葯室細胞間隙へのカロース多糖の高蓄積
Hyper accumulation of callose at extracellular spaces of anther locules is required for normal progression of male meiosis in rice

日本遺伝学会第93回大会BP賞受賞者リスト

植物細胞遺伝研究室 野々村研究室

2022/02/07

改良オーキシンデグロンAID2による線虫個体における迅速なタンパク質の分解除去法の開発

The auxin-inducible degron 2 (AID2) system enables controlled protein knockdown during embryogenesis and development in Caenorhabditis elegans.

Negishi T#, Kitagawa S#, Horii N, Tanaka Y, Haruta N, Sugimoto A, Sawa H, Hayashi KI, Harata M*, Kanemaki MT*.
# 筆頭著者 * 責任著者

Genetics (2022) 220, iyab218 DOI:10.1093/genetics/iyab218

線虫のタンパク質機能を解析するためには、そのタンパク質機能を欠損させて表現型を調べることが有効です。この目的のために、変異遺伝子を持つ個体やRNA干渉法が用いられてきました。しかしながら、発生過程に重要な役割を持つ遺伝子は、欠損により発生不全となり、それ以降の解析が困難となる場合があります。また、卵には母性由来のmRNAやタンパク質が多量に蓄積しているために、本来ならば初期発生に関与するタンパク質の機能が、既存の技術では初期発生において表現型として表出しないこともあります。我々の開発したオーキシンデグロン(AID)法は、標的タンパク質を任意の時間において迅速に分解除去できるため、既存の技術では観察できない表現型を解析できることが期待されます。すでにAID法はアメリカのグループにより線虫に応用されて、さまざまな研究で使われています。しかしながら、従来のAID法はオーキシン非添加時における弱い標的分解や、高濃度オーキシン投与による影響などの問題点がありました。

そこで、我々は出芽酵母、培養細胞、マウスを材料に去年開発した、改良オーキシンデグロンAID2を線虫に応用し、これらの問題を克服することを目指しました(図1)。その結果、線虫においてもAID2法を用いることでリガンド非特異的分解を完全に抑制し、従来の1/1300のリガンド濃度で迅速に標的タンパク質分解を誘導できることを見出しました(図2)。さらに、内在性ヒストンタンパク質の一種H2A.Zを分解することで、初期発生における発生不全表現型を観察することに成功しました。さらには、卵内の胚において分解誘導を誘導するために、卵殻透過に適した修飾リガンドを開発し、胚における迅速タンパク質分解も可能にしました(図3)。

本研究は、国立遺伝学研究所・根岸剛文助教、鐘巻将人教授と東北大学・大学院生北川紗帆、原田昌彦教授が中心となり、岡山理科大学・林謙一郎教授、国立遺伝学研究所・澤斉教授、東北大学・杉本亜砂子教授らとの共同研究として行われました。

Figure1
図1:線虫におけるAID2の作動原理。デグロンタグ(AID*もしくはmAID)を付加した標的タンパク質は、リガンド5-Ph-IAA存在下において、変異型AtTIR1 (AtTIR1(F79G))が作るE3ユビキチンリガーゼ複合体に認識されて、ユビキチン化後に迅速に分解される。
Figure1
図2:幼虫および生体における分解誘導。AIDとAID2の比較実験をおこなった。AIDを導入した個体では、GFPレポーターの発現が低下している。一方で、AID2導入個体では、GFPレポータの発現変化は見られない。両システムとも、リガンド添加により分解誘導できるが、AID2で使用する5-Ph-IAAはより低濃度で分解誘導が可能である。
Figure1
図3:卵内の胚における分解誘導。卵殻透過性をもつ新規リガンド5-Ph-IAA-AMを利用することで、胚においても効率的な分解誘導が可能になった。

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