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2018/03/30

どんなときでも身体をメスにしたがる細胞:生殖細胞 〜この特質によって身体はメスになる〜

Press Release

Germ cells in the teleost fish medaka have an inherent feminizing effect

Toshiya Nishimura, Kazuki Yamada, Chika Fujimori, Mariko Kikuchi, Toshihiro Kawasaki, Kellee R. Siegfried, Noriyoshi Sakai, Minoru Tanaka

PLoS Genetics Published: March 29, 2018 DOI:10.1371/journal.pgen.1007259

プレスリリース資料

名古屋大学大学院理学研究科の 田中 実 教授、西村 俊哉 助教の研究グループは、国立遺伝学研究所の 酒井 則良 准教授のグループ及びUniversity of Massachusetts BostonのKellee Siegfried博士との共同研究により、身体をメスにしたがる特質の細胞がいることを、メダカを利用した実験において見出しました。

哺乳類もメダカもY染色体を持っていると身体はオスになります。ところが、「生殖細胞」は身体がY染色体を持っていようがいまいが、もともと、身体をメスにしたがる働きを持っているだけでなく、この特質がないとメダカはメスにはなれないこともわかりました。「生殖細胞」は精子と卵(配偶子)の元となる細胞、すなわち、子孫を作り出すのに必須の細胞なのです。生殖細胞は、精子と卵のどちらにもなれる能力を持っています。興味深いことに、このメスにさせる特質は、生殖細胞が精子もしくは卵のどちらになるのかが決まる前の状態から発揮され、また「精子になる」と決まった生殖細胞にもこの特質があることがわかりました。

身体をメスにしたがる細胞の特質がわかったことにより、今後、身体の性が決まる仕組みの理解が一層深まると期待されます。

この研究成果は、平成30年3月30日付(日本時間午前3時)米国科学雑誌「PLOS Genetics」オンライン版に掲載されました。

また、この研究は文部科学省科学研究費補助金、住友財団及びノバルティス科学振興財団の支援のもとで行われたものです。

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2018/03/23

カイコモデル系によるヒト薬物吸収性の評価

Construction of a simple evaluation system for the intestinal absorption of an orally administered medicine using Bombyx mori larvae

Fumika Ichino, Hidemasa Bono, Takeru Nakazato, Atsushi Toyoda, Asao Fujiyama, Kikuo Iwabuchi, Ryoichi Sato, Hiroko Tabunoki

Drug Discoveries & Therapeutics, 12(1) 7-15, 2018 DOI:10.5582/ddt.2018.01004

ヒトの腸管吸収はヒト結腸癌由来の細胞株Caco-2細胞や腸灌流、哺乳類モデルを用いて見積もられていますが、これらの系にはその能力において限界がありました。マウスやラットなどの実験動物によるin vivoの評価系には倫理的な問題があり、また創薬段階における大規模な薬剤スクリーニングが困難となっていました。そこで、東京農工大学農学部 天竺桂弘子講師を中心とするグループは、薬剤腸管吸収の評価にカイコガ(Bombyx mori)幼虫を用いる手法を提案し、さらに経口投与による腸管透過性を評価する系を開発しました。

遺伝学研究所 比較ゲノム解析研究室 豊田敦特任教授、同研究所先端ゲノミクス推進センター 藤山秋佐夫特任教授はカイコ中腸のトランスクリプトーム配列解読を行いました。ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS) 坊農秀雅特任准教授、仲里猛留特任助教はそのカイコ中腸の遺伝子発現データ解析を行い、公共遺伝子発現データセットから得たCaco-2細胞ならびにヒト小腸の遺伝子発現データとの比較トランスクリプトーム解析をおこなうことで本研究に貢献しました。

本研究は、国立遺伝学研究所が有する遺伝研スーパーコンピュータシステムを利用し、また国立遺伝学研究所公募型共同研究 NIG-JOINT (2014-A171 & 2015-A155)の支援を受けました。

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図:腸管透過性のモデル系の評価とカイコガ幼虫の内部構造。体内の大部分が中腸(Midgut)によって占められており(緑色)、それらは血リンパ(Hemolymph)によって取り囲まれている(黄色)。

2018/03/19

全国のソメイヨシノの花びらに付着したDNAを解析し、環境中に存在するDNAの由来を調査

Collaborative environmental DNA sampling from petal surfaces of flowering cherry Cerasus × yedoensis ‘Somei-yoshino’ across the Japanese archipelago

Ohta T, Kawashima T, Shinozaki NO, Dobashi A, Hiraoka S, Hoshino T, Kanno K, Kataoka T, Kawashima S, Matsui M, Nemoto W, Nishijima S, Suganuma N, Suzuki H, Taguchi Y, Takenaka Y, Tanigawa Y, Tsuneyoshi M, Yoshitake K, Sato Y, Yamashita R, Arakawa K, Iwasaki W

Journal of Plant Research 2018, Epub ahead of print. DOI:10.1007/s10265-018-1017-x

概要

複数の研究機関から研究者が参加した研究プロジェクト「お花見プロジェクト」によって、ソメイヨシノの花びら表面に付着した環境DNAのサンプルを収集し、DNAの由来を解析しました。プロジェクトはクラウドソーシングのアプローチを採用し、150名以上の協力者を得て、2015年春に全国の577地点からサンプルを収集しました。プロジェクトチームは、収集された環境DNAの塩基配列を高速DNAシーケンサーによって解析し、データベースに登録された配列と比較することで、その由来を調べました。その結果、ソメイヨシノの花びらの表面から、ソメイヨシノ自身のものと思われるDNAの他に、スギを始めとする異なる植物由来と考えられるDNAが存在することがわかりました。本研究プロジェクトは全ての研究データを公開しており、関連する環境DNAの研究にとって貴重な参照データとなることが期待されます。また、短い期間のうちに全国規模でサンプルを集めた世界でも珍しいプロジェクトとして、科学研究におけるクラウドソーシングの有効性を示すことができました。

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図1: サンプリングの様子。桜の花びらを綿棒状の採取キットでぬぐうことで、表面に付着する環境DNAを採取する。

背景

生命の設計図とも呼ばれるDNAは、生物の組織や分泌物の飛散によって、環境中のいたるところに存在していることがわかっています。このように特定の生体サンプルではなく、環境中から検出されたDNAは環境DNAと総称され、人工物の表面や生物の体表面からも見つかります。環境DNAの由来を調べることで、そのDNAが見つかった場所が、どのような生物が存在する環境であるかを知ることができます。樹木などの植物の表面にも環境DNAは付着しており、これらを調べることは植物の生育している環境のことを知る手がかりになります。特に花を咲かせる植物において、開花直前まで外界に晒されていない花びら表面に付着する環境DNAを調べることで、開花してからの環境の情報を読み取ることができると考えられます。

ソメイヨシノ (学名 Cerasus × yedoensis ‘Somei-yoshino’) は沖縄県や北部北海道を除く日本全国で見ることのできる桜の一種で、観賞用にも人気のある桜の品種として親しまれています。ソメイヨシノは特定の気候条件が整った際に、一週間程度の短い期間だけ開花するという特徴を持っています。さらに、ソメイヨシノは自家不和合性の品種であり、接木で増やされ全国に広まりました。つまり、全てのソメイヨシノは同じゲノムを持つクローンだということです。そのため、ソメイヨシノの開花後、花びら表面に付着する環境DNAを全国から集めて解析し、比較することによって、環境DNAを通した生息環境の比較を行うことができると考えられます。しかし、開花の期間が短く、また全国の様々な場所で見られるソメイヨシノに付着したDNAのサンプルを大量に得ることは、単独の研究チームでは時間と費用の両面が問題となり、困難でした。そこで、全国に点在する研究者に呼びかけ、ソメイヨシノからDNAをサンプリングしてもらい、集まったサンプルを比較解析する「お花見プロジェクト」が2015年に企画されました。

成果

お花見プロジェクトでは、最新の高速DNAシーケンサーに関する研究交流を行っている「NGS現場の会」を通して、全国の大学や研究所、企業に所属する研究者に参加を呼びかけ、環境DNAのサンプリングを依頼しました。その結果、約150名の協力者を得て、577ものサンプルを集めることに成功しました。サンプルは沖縄県を除く全ての都道府県から届き、2015年の最も早い開花時期であった3月中頃から、最も遅い開花時期であった5月前半のうちにサンプリングが完了しました。協力者には、環境DNAを採取するための綿棒状のキットを送付し、ソメイヨシノの花びらの表面をぬぐうことで環境DNAを採取してもらいました (図1)。

研究チームは、集められた環境DNAサンプルから微生物の系統判別に用いられる 16S rRNA と呼ばれるDNA配列を対象に、高速DNAシーケンサーで配列の解読を行いました。これによって、開花して数日から一週間という短い期間においても、環境DNAが花びらに付着していることが明らかになりました。さらに、得られた塩基配列をデータベースに登録された情報と比較することで、環境DNAが何の生物に由来するものかを調べました。結果として、桜の花びらから様々な生物に由来するDNAが見出されました。特徴的なものとして、スギと思われる植物に由来するDNAが付着しているサンプルが多く見出されました。この結果は、開花後間もないソメイヨシノの花びらに、スギ花粉が飛散し、付着している可能性を示唆しています。しかし同時に、ソメイヨシノの花びらに付着した環境DNAの由来をさらに正確に調べるためには、より精度の高いサンプリング方法と、DNA配列解析の工夫が必要であることもわかりました。

展望・波及効果

本プロジェクトでは、短期間に広範囲の地点から環境DNAのサンプルを得るために、クラウドソーシングを採用し、同手法が科学研究においても重要な手段となり得ることを示しました。さらに、開花後1週間前後という短い期間にしか採取できないサンプルを、日本全国という大規模な範囲から得ることに成功した世界でも例の少ないプロジェクトとなりました。また、同じ条件で開花するクローン植物というユニークな性質をもつソメイヨシノに付着する環境DNAを数多く採取し解析した結果は、関連するプロジェクトにとって優れた参照データになる可能性があります。ソメイヨシノという日本に馴染みの深い植物を通して、環境DNAの解析による様々な研究成果にも目が向けられることを期待しています。

研究プロジェクトについて

お花見プロジェクトは、NGS現場の会 第四回研究会 の主催者チームによって企画されました。同研究会の参加者を通してお花見プロジェクトへの参加者を募り、サンプルの収集を行いました。収集されたDNAの塩基配列解析は研究会主催者チームによって行われました。塩基配列データの解析は、プロジェクト参加者からの希望者によって行われました。塩基配列データや、関連するサンプルの情報は、全て国立遺伝学研究所 DNA Data Bank Japan (DDBJ) に寄託され、一般に公開されています。プロジェクトにおけるサンプリングキットの購入や配布、DNA解析の費用は NGS現場の会 第四回研究会 の運営費から支出されました。データの解析の一部は、遺伝学研究所のスーパーコンピューターシステムを利用しました。

補足情報

Journal of Plant Research に掲載された論文の Fig. 1b において、説明文では “ID 005789” とありますが、これは正しくは “ID 005754” の誤りです。論文のデータの解釈や結論には影響を与えないため、修正 (Erratum) は出版されませんが、この場で訂正させていただきます。

2018/03/16

バフンウニのゲノムを解読 〜研究・教育推進のためにゲノムデータベースを公開〜

Press Release

HpBase: a genome data base of a sea urchin, Hemicentrotus pulcherrimus

Sonoko Kinjo, Masato Kiyomoto, Takashi Yamamoto, Kazuho Ikeo, Shunsuke Yaguchi

Development Growth & Differentiation DOI:10.1111/dgd.12429

プレスリリース資料

筑波大学 生命環境系 谷口俊介准教授(下田臨海実験センター)は、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所 遺伝情報分析研究室 池尾一穂准教授、金城その子研究員、お茶の水女子大学 湾岸生物教育研究センター 清本正人准教授、広島大学 大学院理学研究科 山本卓教授との共同研究により、バフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)のゲノム配列を解読しました。

バフンウニは北海道南端より南の地域の海岸線でよく見られるウニの一種であり、地域によっては貴重な漁獲対象物となっています。また、その採集のしやすさ、卵や精子といった配偶子取得の容易さから、発生生物学、細胞生物学等の優れた研究材料としてだけでなく、動物の発生を学ぶ教育現場においても、我が国では長い間利用されてきました。本研究では、バフンウニのゲノム配列を解読し、研究・教育の過程で利用できるデータベース「HpBase」(http://cell-innovation.nig.ac.jp/Hpul/)を作成しました。

本研究の成果は2018年3月13付で日本発生生物学会の機関誌「Development Growth & Differentiation」にて先行公開されました。データベースは3月19日公開の予定です。

本研究は、AMEDおよび文部科学省の助成金によって実施されました。

なお、国立遺伝学研究所にて開発した次世代シーケンサーデータの解析ツールを以下のurlにて提供しています。
http://cell-innovation.nig.ac.jp/maser/
参考文献:Kinjo, S. et.al. 2018. Maser: one-stop platform for NGS big data from analysis to visualization. DATABASE. In press.

Figure1

図キャプション:HpBaseのトップページ

2018/03/15

生体高分子研究室 今井さん が「森島奨励賞」を受賞

今井さん(右)と所長
今井さん(右)と所長

 総合研究大学院大学 遺伝学専攻が独自に行っている「森島奨励賞」の選考が、2017年度後期の学位申請者に対して行われ、 生体高分子研究室 前島研究室に所属する今井亮輔さんが受賞しました。

・今井亮輔(生体高分子研究室 前島研究室)
 「DNA transactions and physical environment of chromatin」

授与式が2018年3月13日に行われ、桂専攻長から賞状と研究奨励金が贈られました。


森島奨励賞とは

総研大遺伝学専攻で優秀な研究成果を発表して学位を取得した学生に、その研究内容を称えるとともに今後のさらなる発展を促す目的で贈られます。

遺伝学の先達

 森島啓子名誉教授

2018/03/13

「二つの顔」を持つタンパク質 ~転写促進とメッセンジャーRNAの分解抑制~

Press Release

形質遺伝研究部門

Mbf1 ensures Polycomb silencing by protecting E(z) mRNA from degradation by Pacman

Kenichi Nishioka, Xian-Feng Wang, Hitomi Miyazaki, Hidenobu Soejima, Susumu Hirose

Development 2018 145:dev162461 DOI:10.1242/dev.162461

プレスリリース資料

Mbf1はストレス耐性などにかかわる転写因子で、いわば細胞を守る「正義の味方」です。Mbf1は核内で様々なストレス耐性にかかわる遺伝子の転写を促進することがわかっていました。

本成果では、Mbf1が転写促進活性とは異なる新たなメカニズムによってポリコーム抑制やストレス防御に関わっていることを見出しました。細胞には、パックマンと呼ばれる「悪役」酵素が存在し、メッセンジャーRNAを分解しています。このメッセンジャーRNAにMbf1が結合し、パックマンによる分解からメッセンジャーRNAを守っていることがわかったのです。Mbf1によって守られているメッセンジャーRNAが作るタンパク質には、パックマンの発現を抑えるポリコーム抑制やストレス耐性にかかわるものなどがありました。したがって、Mbf1は、ポリコーム抑制を強固にすると共に、「ストレス耐性遺伝子の転写の促進」と「メッセンジャーRNAの分解抑制」という二つの機能によってストレス防御を制御していたのです。

本研究は、情報・システム機構国立遺伝学研究所の広瀬進名誉教授らと佐賀大学医学部の西岡憲一講師らによる共同研究の成果で、科学技術振興機構さきがけ、日本学術振興会科研費と九州大学生体防御研究所機器利用型共同研究プロジェクトの支援を受けておこなわれました。

本研究成果は、英国科学雑誌Developmentに平成30年3月9日(グリニッジ標準時)に掲載されました。

Figure1

図キャプション:二つの顔を持つMbf1

2018/03/01

3月1日付で助教が着任

2018年3月1日付けで遺伝研に助教が着任しました.

高浪 景子:マウス開発研究室・小出研究室


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