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2014/08/26

真核細胞の染色体DNA複製開始に不可欠なSld3/Treslin領域の立体構造を解明

超分子構造研究室・白木原研究室 微生物遺伝研究部門・荒木研究室

Crystal structure of the homology domain of the eukaryotic DNA replication proteins Sld3/Treslin

Hiroshi Itou, Sachiko Muramatsu, Yasuo Shirakihara, and Hiroyuki Araki Structure Published: August 7, 2014 DOI:10.1016/j.str.2014.07.001

染色体のDNAは、細胞周期の適切な時期に一度だけ過不足なく正確に倍加(複製)します。それは、DNAを複製する際に必要なDNAヘリカーゼの形成が調節されているためです。DNAヘリカーゼは2本鎖DNAを1本鎖にほどく酵素で、ほどかれた1本鎖DNAを鋳型として、初めてDNA合成酵素がDNA鎖の合成を行うことができます。真核生物のDNAヘリカーゼは、Mcm2-7複合体にCdc45とGINSと呼ばれる2つの因子が結合する事で形成されます。酵母のSld3は、Cdc45やGINSと結合し、ヘリカーゼ複合体形成の仲立ちをするタンパク質で、ヒトなどの高等真核生物では同じ働きを持つTreslinタンパク質が知られています。 今回の研究では、出芽酵母のSld3を用いて、Sld3とTreslinに共通して保存された領域がCdc45との結合領域である事を示し、更にその立体構造を明らにしました。この領域は結合相手であるCdc45との結合に適した形をしていて、自由に動く塩基性の領域が結合に重要である事が分かりました。 ヘリカーゼの形成には、Cdc45とSld3/Treslinタンパク質の結合が重要である事がこれまで知られていましたが、そのメカニズムは不明でした。本研究からSld3がCdc45と結合する領域の立体構造が明らかになり、Sld3とCdc45の結合を原子のレベルで考えられる様になりました。今後、この構造に基づく研究により、真核生物の染色体DNA複製開始の詳細なメカニズムの理解が更に進むことが期待されます。

Figure1

(A) 細胞周期に連動してリン酸化されたMcm2-7複合体に、Cdc45と結合したSld3が結合する。このSld3との結合を介して更にGINSが結合し、ヘリカーゼが形成される。 (B) 今回明らかとなったSld3とTreslinに保存された領域の立体構造と、その立体構造から考えられるCdc45との結合モデル。

2014/08/25

学習能力の発達を調節するタンパク質を発見! ~成長期でのはたらきが、おとなの脳機能を左右する~

Press Release

RacGAP α2-Chimaerin Function in Development Adjusts Cognitive Ability in Adulthood

Ryohei Iwata, Kazutaka Ohi, Yuki Kobayashi, Akira Masuda, Mizuho Iwama, Yuka Yasuda, Hidenaga Yamamori, Mika Tanaka, Ryota Hashimoto, Shigeyoshi Itohara, Takuji Iwasato Cell Reports Available online 21 August 2014 DOI:10.1016/j.celrep.2014.07.047

プレスリリース資料

私たちの脳には、1000億以上の神経細胞(ニューロン)があります。これらは互いに突起(神経突起)を延ばして結びつくことによりネットワーク(神経回路)を作り出し、記憶、学習、思考、判断、言語といった高いレベルの機能(高次機能)を果たしています。このような神経回路は成長期にさかんに作られ、おとなになってからの脳のはたらきを支えていると考えられています。ただし、そこにどのようなしくみが存在し、どのような分子が関与するのかといったことは、よくわかっていません。

今回、国立遺伝学研究所 形質遺伝研究部門(総合研究大学院大学 生命科学研究科教授兼任)の岩里琢治教授、理化学研究所 脳科学総合研究センターの糸原重美シニアチームリーダー、大阪大学大学院 連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授らのチームは「αキメリン」というタンパク質に注目し、このタンパク質が脳の機能にどのような影響を与えているかを調べました。αキメリンにはα1型(α1キメリン)とα2型(α2キメリン)がありますが、それらの遺伝子をさまざまに改変したマウスを作り、行動実験を行ったのです。その結果まず、両方のタイプのαキメリンがまったくはたらかないマウスは、正常マウスの20倍も活発に活動することがわかりました。次に、このマウスはおとなになってからの学習能力が高いことが明らかになりました。α1型だけをはたらかなくしたマウスや、おとなになってから両方のタイプがはたらかないマウスの学習は正常であったことから、学習能力には、成長期におけるα2キメリンのはたらきが鍵であることもわかりました(図)。

一方で、健康な人を対象に「αキメリン遺伝子のタイプ(多型:SNPs)」と人格や能力などとの関係を調べました。すると、α2キメリン遺伝子のすぐ近くにある「ある塩基」が「特定の型」の人では、性格や気質に一定の傾向がみられ、計算能力が高いことが明らかになりました。 一連の結果は、αキメリンが「活動量、学習機能といった幅広い脳機能の制御を担っていること」、「成長期でのはたらきが、おとなになってからの学習機能に影響すること」、「ヒトにおいて、脳機能の個人差に関与すること」などを示唆しており、ヒトの学習障害や精神疾患との関連の検証、これらの病気のメカニズム解明などに役立つと期待できます。

今回の研究は、国立遺伝学研究所 形質遺伝研究部門の岩田亮平研究員(元 総研大大学院生)が中心となり、国立遺伝学研究所 形質遺伝研究部門 岩里琢治研究室、理化学研究所脳科学総合研究センター 行動遺伝学技術開発チーム、大阪大学大学院医学系研究科 情報統合医学講座精神医学教室との共同研究で行われました。 また、この研究は、科学研究費補助金(11J03717, 20300118, 22115009)、FIRST、国立遺伝学研究所共同研究(A,B)、三菱財団、上原記念生命科学財団、内藤記念科学振興財団、山田科学振興財団、包括脳ネットワークの支援により行われました。

Figure1

α2キメリンは子どもの脳で働いて、間接的に、おとなの脳での学習能力を適切なレベルに合わせる。学習能力は神経回路の性能によって左右されるが、α2 キメリンは回路がつくられるときに働いて、その性能を決める過程に関わっていると考えられる。

2014/08/12

比較ゲノム法による分裂酵母インターメアの解析

Press Release

細胞遺伝研究部門・小林研究室

Population genomics of the fission yeast Schizosaccharomyces pombe

Jeffrey A. Fawcett, Tetsushi Iida, Shohei Takuno, Ryuichi P. Sugino, Tomoyuki Kado, Kazuto Kugou, Sachiko Mura, Takehiko Kobayashi, Kunihiro Ohta, Jun-ichi Nakayama, Hideki Innan PLOS ONE August 11, 2014 DOI:10.1371/journal.pone.0104241
総合研究大学院大学 【プレスリリース】『分裂酵母の32の野生株の全ゲノム配列決定』  

 生物の設計図であるゲノム(全遺伝子情報)は染色体という「乗りもの」にのって細胞の核に収納されています。さらに、染色体は発生、分化、老化、生殖等の生理機能の制御においても中心的な役割を担っています。我々は、この染色体の機能維持に関わる非コードDNA領域(インターメアと呼んでいます)を同定するために研究チームとして取り組んで参りました。

 従来の変異株を用いた遺伝学的な解析法では、インターメアの解析は非常に困難です。というのは、同じ機能のインターメアが複数個存在する可能性があること、またタンパク質をコードする遺伝子とは違い、変異の影響を受けにくいと考えられるからです。そこで今回、染色体研究のモデル生物「分裂酵母」を研究材料とし、多くの個体のゲノムを比較する「比較ゲノム解析法」を行いました。この方法では、ゲノムの比較により変異の入りにくい、つまり保存性の高い領域を探し出すことができます。保存性の高い領域は、染色体機能に重要な配列であり、そのために進化の過程で変化しにくかったと予想できます。我々は、分裂酵母野生株32種のゲノムを決定し、比較ゲノム解析を行い、インターメア候補領域を多数特定しました。

 染色体の機能が異常になると、癌をはじめとする多くの疾患を引き起こすことが知られています。インターメアは染色体の機能維持に関わると考えられるので、今回の成果はそのような染色体異常の発症メカニズムの解明につながる重要な基礎研究となります。

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「ゲノムを支える非コードDNA領域の機能」(代表 小林武彦・国立遺伝学研究所)の支援を受け、総合研究大学院大学、名古屋市立大学、東京大学、国立遺伝学研究所の共同研究として行われました。

Figure1

分裂酵母 (Schizosaccharomyces pombe) を、DAPIという試薬で核を染色して蛍光顕微鏡で見た画像 (クレジット:名古屋市立大学)


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