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2019/11/19

【開催中止】遺伝研国際シンポジウム「Molecular Mechanism of Chromosome Replication」

2020年3月4-5日に開催予定の遺伝研国際シンポジウムは、新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点から開催の中止を決定いたしました。

既にお申し込みをいただきました皆様におかれましては大変申し訳ありませんが、何卒ご理解をいただきたく宜しくお願い申し上げます。

遺伝研国際シンポジウム中止のお知らせ:http://kanemaki-lab.sakura.ne.jp/symposium/

2019/11/18

大脳皮質ニューロンが適切な場所で移動を停止するしくみ

Semaphorin 6A–Plexin A2/A4 interactions with radial glia regulate migration termination of superficial layer cortical neurons.

Yumiko Hatanaka, Takahiro Kawasaki, Takaya Abe, Go Shioi, Takao Kohno, Mitsuharu Hattori, Akira Sakakibara, Yasuo Kawaguchi & Tatsumi Hirata

iScience 21, pp 359-374, 2019 DOI:10.1016/j.isci.2019.10.034

中枢神経系では、多くのニューロンが脳室に面した場所で生まれたのち、最終目的地まで移動します。大脳皮質においても脳室帯で生まれたニューロンは、ラジアルグリア細胞の突起をガイドとして、脳表面に向かって移動することが知られています。機能的な脳構造を作るためには、これら移動ニューロンが適切な位置で停止することが必要ですが、そのメカニズムについてはよくわかっていませんでした。私たちはセマフォリン(Sema)ファミリーの受容体として知られるプレキシン(Plxn)A2とA4のダブルノックアウト(dKO)マウスを解析する過程で、大脳皮質の最表層を占めるニューロンが適切な位置を超え、第1層に侵入するということを見出しました。野生型マウスではPlxnA2/A4はこれら移動ニューロンの先導突起上に発現しており、PlxnA2を使ったレスキュー実験により、これら分子の発現が移動停止に必要であることを確認しました。一方PlxnA2/A4のリガンドであるSema6A分子はラジアルグリア細胞に発現しており、ラジアルグリア細胞のSema6A遺伝子をノックアウトするとニューロンは第1層へと侵入しました。これまでの研究から、PlxnA2/A4とSema6Aの相互作用は反発活性を引き起こすことが知られています。以上の結果から、最表層のニューロンはラジアルグリアの突起をガイドとして移動したのち、ニューロン上のPlxnA2/A4と突起上のSema6Aが相互作用することにより突起を離れ、そこで移動を終了するという新しい分子メカニズムが考えられました。

Figure1

図:大脳皮質のニューロンはラジアルグリア細胞の突起をガイドとして表層方向へ移動します。最表層ニューロンの停止過程では、ニューロンに発現しているPlxnA2/A4とラジアルグリア細胞上のSema6Aの相互作用により、辺縁帯(将来の第1層)の直下で移動を停止すると考えらます。どちらかの遺伝子が欠損するとこれらニューロンは第1層に侵入し、大脳皮質ニューロンの配置が乱れます。



本研究は畠中由美子(大阪大学生命機能研究科助教)と川崎能彦(遺伝学研究所助教)が中心となって行ったものであり大阪大学生命機能研究科、国立遺伝学研究所、理化学研究所、名古屋市立大学、中部大学、生理学研究所の共同研究として行われました。
NIG-JOINT Collaboration Research Grants 2013-A, 2017-A

2019/11/15

植物のユニークな細胞分裂の仕組みを解明 ~農作物増産に期待~

Press release

A novel katanin-tethering machinery accelerates cytokinesis

Takema Sasaki, Motosuke Tsutsumi, Kohei Otomo, Takashi Murata, Noriyoshi Yagi, Masayoshi Nakamura, Tomomi Nemoto, Mitsuyasu Hasebe, Yoshihisa Oda

Current Biology 29, 1-11 DOI:10.1016/j.cub.2019.09.049

プレスリリース資料

細胞分裂はあらゆる生物の成長の根幹となる生命現象です。植物の細胞分裂は根や茎の先端で繰り返され、植物の成長は細胞分裂の効率に大きく依存します。植物細胞は細胞板で細胞質を仕切ることにより分裂します。この仕組みは細胞がくびれることにより分裂する動物細胞と異なっています。植物細胞が細胞板を形成して細胞分裂をする仕組みには未解明の部分が数多く残されています。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の小田祥久教授らの研究グループは、植物細胞が細胞板を効率よく作り出す仕組みを世界で初めて明らかにしました。本研究グループは、細胞板を作り出す装置に含まれるタンパク質「CORD4」を見出し、CORD4が細胞板の成分を運ぶレールである微小管(1)を効率よく配置することにより、細胞板をより短時間で作り出していることを突き止めました。

本研究により、植物のユニークな細胞分裂の仕組みの一端が明らかになりました。この成果は植物の細胞分裂の仕組みとその仕組みの進化の過程の解明に繋がる貴重な手がかりです。この仕組みを利用することで、農作物の生育を早める新しい技術に繋がる可能性も期待されます。

本研究は、北海道大学電子科学研究所ニコンイメージングセンター、自然科学研究機構基礎生物学研究所、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)との共同研究として行われました。

また、本研究は、文部科学省の科学研究費補助金(JP19H05372, JP19H05677, JP19H05670)、日本学術振興会の科学研究費補助金(JP18H02469, JP18K14737, JP18KK0195, JP15H05953, JP16H06280, JP16H06378)、物質・デバイス領域共同研究拠点:人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンスにおける共同研究「COREラボ」(20186001,20166001)、国立遺伝学研究所 NIG-JOINT(89A2019)、ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムの助成を受けました。なお、所属は論文受理時のものです。

本研究成果は、米国科学雑誌「Current Biology」に2019年11月14日午前11時(米国東部時間)に掲載されました。

Figure1

図: 植物細胞の分裂の様子
A, 植物細胞は細胞板により細胞質を仕切ることで分裂する。
B, 細胞板はフラグモプラスト(2)と呼ばれる装置により作られる。フラグモプラストでは短い微小管が細胞壁の成分を含む小胞を輸送する足場としてはたらいている。CORD4は、フラグモプラストの微小管を細胞板に垂直に並べる。輸送された小胞が細胞板と融合することにより細胞板が拡大していく。

2019/11/12

マイクロフォーカスX線CT装置による海産無脊椎動物の解析方法

Microfocus X-ray CT (microCT) Imaging of Actinia equina (Cnidaria), Harmothoe sp. (Annelida), and Xenoturbella japonica (Xenacoelomorpha).

Maeno A, Kohtsuka H, Takatani K, Nakano H.

Journal of Visualized Experiments 150 e59161 1-9 DOI:10.3791/59161

これまで生物を扱う研究者は、不透明な生物内部の器官を調べる際に、組織標本の作成など破壊的な観察方法に頼らざるをえませんでした。一方で、非破壊的なマイクロフォーカスX線CT装置(microCT)を用いる観察方法は、技術進歩によりとても有効な観察手法となってきました。しかしながら、この観察手法は、生物学分野では医療および産業分野においてほど一般的とはいえません。この理由はサンプル採取、固定、染色、撮影、およびデータ解析までの各ステップをカバーするわかりやすいマニュアルが少ないことと、生物学で対象とするような後生動物に多様性があるからです。特に、海産無脊椎動物は、多様なサイズや形態、生理機能を持つため、サンプル調整法やハードウェア設定などの手法をサンプルに応じて最適化することが重要です。

国立遺伝学研究所 前野哲輝技術専門職員、東京大学 幸塚久典技術専門職員、筑波大学 中野裕昭准教授らの共同研究グループは、この課題の解決に取り組みました。その取り組みの成果として、系統発生的に異なる3つの海産無脊椎動物(ウメボシイソギンチャク(刺胞動物)、ウロコムシ(環形動物)、およびニッポンチンウズムシ(珍無腸動物))を使用して、microCTによる解析手法を紹介した論文を、ビデオジャーナル「JoVE(Journal of Visualized Experiments)」にて公開しました。今後、本手法により、様々な海産無脊椎動物の構造が明らかになることが期待されます。

microCTを研究に活用したい方へ
国立遺伝学研究所では、microCTを使用する環境にない研究者を対象に、研究目的に合わせた撮影計画とmicroCTによるデータ取得、プレゼンテーション用の画像や動画作成までをサポートする画像解析支援を行なっています。対象となる生物材料は、海産無脊椎動物だけでなく、魚類、哺乳類、昆虫、植物など広い範囲をカバーしています(装置の仕様による制限はあります)。ご興味のある方は、毎年、10月頃に募集の始まる公募型共同研究(NIG-JOINT)をご確認の上、担当者までお問い合わせください。

技術専門職員 前野哲輝(amaeno@nig.ac.jp

Figure1

図:この研究で使用した海洋無脊椎動物 (A,B)
(A)麻酔下のウメボシイソギンチャク(刺胞動物花虫綱)。(B)麻酔下のウロコムシ (環形動物門多毛綱)。この段階で、ほとんどのウロコ(背鱗)が失われている。残っているのは後方(写真右側)の4枚のみである。 Scale bars = 3 mm.
CTスキャンによる断面画像 (C-G)
ウメボシイソギンチャクの横断面(C) と縦断面(D) Scale bars in C, D = 3 mm.
ウロコムシ前端部分の矢状断面 (E) とE図点線fとgの横断面(F, G)
Scale bars: E = 1 mm; F, G = 0.3 mm.

動画: CTスキャンデータから作成したウロコムシ全身のボリュームレンダリングおよび横断面動画。6秒から16秒:ボリュームレンダリング画像。上段は左から見た図、下段は正面から見た図。17秒から1分42秒:横断面動画。上段の矢状面画像上の動く緑色のラインは横断面の位置を示す。17秒から53秒の左下は、標本前端部分を拡大撮影したデータの横断面。1分7秒から1分14秒の右上は、画像解析ソフトImarisを用いて作成した主要臓器の3Dモデル。
協力:鹿児島大学 田中正敦氏

関連リンク
生物の複雑な構造を3次元で解き明かす

本技術は以下の研究成果の基盤のひとつになっています。
日本近海で初の珍渦虫の新種を発見 ―動物の起源や進化過程を探る糸口に―
ヒト先天異常「全前脳胞症」の発症にかかわる制御配列を発見
魚の浮き袋という進化上の発明のカギは、「腹側」から「背側」への遺伝子スイッチの切り替えだった
単子葉植物の茎に特徴的な形態形成を制御するメカニズム
歯の本数は、複数のエンハンサーによるShh遺伝子の発現調節によって決まる
ゼブラフィッシュ胚/稚魚全個体移植による個体形成
遺伝子スイッチの「移設」が手に水かきを作る
カブトムシの角(ツノ)にオスとメスとの違いが現れる時期の特定に成功(基礎生物学研究所)
ヒト4番染色体長腕部分重複症の原因解明:Hand2遺伝子量効果による四肢・心臓の形態異常

2019/11/11

神経細胞の誕生日タグづけ法を開発して新規嗅覚回路を発見

A Novel Birthdate-Labeling Method Reveals Segregated Parallel Projections of Mitral and External Tufted Cells in the Main Olfactory System

Tatsumi Hirata, Go Shioi, Takaya Abe, Hiroshi Kiyonari, Shigeki Kato, Kazuto Kobayashi, Kensaku Mori and Takahiko Kawasaki

eNeuro 31, ENEURO.0234-19.2019, 2019 DOI:10.1523/ENEURO.0234-19.2019

鼻で受容された匂いの情報は、脳の嗅球へと伝えられ、ここで二次元的に整理された匂い地図として表現されます。この情報は、その後ランダムに拡散的に入り混じりながら次の中枢へと伝えられてゆくと考えられてきました。我々は、神経細胞の発生タイミングの違いを利用してloxP遺伝子組換えを誘導するトランスジェニックマウス系統(誕生日タグづけ法)を開発し、嗅球から中枢への神経結合パターンを解析しました。その結果、嗅球の神経細胞のうち早生まれの僧帽細胞と遅生まれの房飾細胞は、同じ匂い情報の入力を受けながらも、異なる標的に出力する並列回路を作ることがわかりました。

並列処理は感覚情報処理の基本です。例えば視覚系は、眼で受け取られた視覚風景の中から「色」「線の傾き」「動き」といった異なる特徴を抽出して並列処理することで、エッジの効いた属性情報へと転換し、我々が「物をどう見るべきか」を一義的に決めています。本研究結果は、嗅覚並列回路も、同じように、同一セットの匂い情報の中から、何らかの特徴を抽出し、強調して、出力へとつなげていることを意味しています。嗅覚の鈍い私たち人間には嗅覚の属性情報を想像することは難しいですが、「誕生日タグづけ法」は、今後嗅覚の並列情報処理の機能的意味を知る上でも有効であると期待されます。

本研究は、日本学術振興会と文科省による科学研究費(16H04659、17H05776; 17H05587) および、ROIS未来投資型プロジェクト研究支援を受けて実施されました。

Figure1

図:誕生日タグづけ法による嗅球投射神経細胞の分類と軸索投射のパターン
タグづけ時期 (TM10.5~17.5) の違いにより、副嗅球(AOB)、僧帽細胞(MC)、房飾細胞(TC)を分類でき(円グラフ)、それらが異なる標的に軸索を投射することが明らかとなった(下模式図)。

2019/11/05

ヒト先天異常「全前脳胞症」の発症にかかわる制御配列を発見

Press release

SHH signaling mediated by a prechordal and brain enhancer controls forebrain organization

Tomoko Sagai, Takanori Amano, Akiteru Maeno, Rieko Ajima, Toshihiko Shiroishi

PNAS first published November 4, 2019 DOI:10.1073/pnas.1901732116

プレスリリース資料

わたしたちの脳は、DNA配列に書き込まれた設計図をもとに作られます。その設計図は、どの遺伝子が「どのような細胞で働き」、「どれくらいのタンパク質を生産するか」を正確に指示しています。もし、設計図が壊れて、胎児期の脳を形成する重要な時期に、遺伝子の「制御」にエラーが起これば、重篤な先天異常につながります。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の嵯峨井知子博士研究員、城石俊彦名誉教授(現理化学研究所(理研)バイオリソース研究センター(BRC)センター長)、理研BRCの天野孝紀チームリーダーらの共同研究グループは、脳の形成に重要な「遺伝子の働きを制御する」仕組みを発見しました。脳の形成には、SHH(ソニックヘッジホック)遺伝子が重要であることが知られていましたが、本研究ではこの遺伝子の遺伝子発現を調節する「制御DNA配列(エンハンサー(1))」をマウスのゲノムから見出しました。ヒトを含む他の脊椎動物ゲノム中にもこの配列に類似の配列が存在していました。そして、この配列の機能不全は、ヒトの先天異常である全前脳胞症(holoprosencephaly)の発症原因となり得ることがわかりました。

本研究成果は、米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に2019年11月4日午後3時(米国東部標準時間)に掲載されました。

本研究は、文部科学省のJSPS科研費 JP24247002ならびにJP15H02412の助成を受けたものです。

組織構造解析では、国立遺伝学研究所のX線マイクロCT技術が研究成果の基盤の一つになっています。
国立遺伝学研究所 3D Imaging Roomウェブサイト
生物の複雑な構造を3次元で解き明かす

Figure1

図: X線CT解析で撮影された正常マウスの脳(左)と異常をきたした脳(右)。
異常をきたした脳(右)は、エンハンサー(SBE7)の欠損によって大脳不分離となった。


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