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2023/03/28

卵で増えない胎生のサメも卵黄遺伝子を持つ
―「ラブカ」など12種のサメ・エイ類の比較解析で発見-

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Egg yolk protein homologs identified in live-bearing sharks: co-opted in the lecithotrophy-to-matrotrophy shift?

Yuta Ohishi, Shogo Arimura, Koya Shimoyama, Kazuyuki Yamada, Shinya Yamauchi, Taku Horie, Susumu Hyodo, and Shigehiro Kuraku

Genome Biology and Evolution (2023)15, evad028 DOI:10.1093/gbe/evad028

プレスリリース資料

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター分子配列比較解析チームの工樂樹洋チームリーダー(国立遺伝学研究所分子生命史研究室教授)、大石雄太大学院生リサーチ・アソシエイト(研究当時、現形態進化研究チーム大学院生リサーチ・アソシエイト、神戸大学大学院理学研究科生物学専攻大学院生)、東京大学大気海洋研究所の兵藤晋教授、東海大学海洋学部海洋生物学科の堀江琢准教授、同海洋科学博物館の山田一幸学芸員、ふくしま海洋科学館の山内信弥上席技師の共同研究グループは、ヒトを含む哺乳類が胎生を獲得する進化の過程で失った「卵黄タンパク質を作る遺伝子」が、胎生のサメ類で保持されており、母体内の胚への栄養供給に寄与している可能性を明らかにしました。

本研究成果は、卵生から胎生まで見られる脊椎動物の繁殖様式の多様性を、分子レベルから理解する上で重要な知見を提供すると期待できます。

軟骨魚類(サメ・エイ類)の半数以上は胎生で繁殖し、胎内の胚が卵黄の栄養で発生するものから、母体からの栄養供給に依存するものまでさまざまなタイプが存在しますが、卵生も含めた多様な繁殖様式の間の分子レベルの比較はほとんど行われていません。

今回、共同研究グループは卵黄タンパク質「ビテロジェニン」に着目し、胎生サメのラブカなどについて解析しました。その結果、胎生サメ類ではビテロジェニン遺伝子がゲノム中に複数存在し、ビテロジェニンが卵黄や子宮を介して母体内の胚への栄養供給源として利用されている可能性が示されました。

本研究は、理化学研究所運営費交付金(生命機能科学研究)で実施し、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(B)「Hoxクラスターの大域的制御について残された謎に分子進化とエピゲノムから迫る(研究代表者:工樂樹洋)」、ならびに神戸大学「異分野共創による次世代卓越博士人材育成プロジェクト(研究代表者:大石雄太)」による助成を受けて行われました。

本研究は、科学雑誌『Genome Biology and Evolution』3月号(3月15日付)に掲載されました。

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図: 脊椎動物の繁殖様式とビテロジェニンの関係 卵黄タンパク質ビテロジェニンを作る遺伝子は、硬骨脊椎動物のグループ(左)と軟骨魚類のグループ(右)が共通に持つが、胎生の哺乳類では進化の過程で喪失(偽遺伝子化)した。一方、独自に胎生を進化させたサメ類では、卵黄への依存度にかかわらずビテロジェニン遺伝子を保持しており、ビテロジェニンが子宮内の胚への栄養供給源になっている可能性がある。また、軟骨魚類が複数のビテロジェニン受容体(VLDLR)遺伝子を持つことは、一部の卵生サメや卵黄依存型胎生サメに見られる巨大な卵黄との関連が考えられる。
2023/03/27

神経回路構築研究室 Piu Banerjeeさんが「研究科長賞」を受賞

左:Piuさん 右:岩里研究科長
左:Piuさん 右:研究科長/主任指導教員の岩里教授

 総合研究大学院大学の各研究科において、特段に顕彰するに相応しい研究活動を行い、修了する学生に対し、研究科長賞が授与されます。
 神経回路構築研究室 岩里研究室に所属するPiu Banerjeeさんが、2022年度後期の生命科学研究科 研究科長賞を受賞しました。

・Piu Banerjee(神経回路構築研究室 岩里研究室)
「Study of Spontaneous Activity in the Peripheral Structure of Developing Mouse Somatosensory System」

 Piu Banerjeeさんは今回、遺伝学専攻の「森島奨励賞」も受賞しています。

2023/03/23

ジンベエザメだけに起きた視覚の進化
~深海生活への適応か?~

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海洋博公園・沖縄美ら海水族館提供

Whale shark rhodopsin adapted to deep sea lifestyle by a substitution associated with human disease

Kazuaki Yamaguchi, Mitsumasa Koyanagi, Keiichi Sato, Akihisa Terakita, Shigehiro Kuraku

PNAS (2023) 120, e2220728120 DOI:10.1073/pnas.2220728120

プレスリリース資料

動物は、生息環境中の光を活用するしくみをもっています。なかでも、深海や地中など微弱な光環境で暮らす生物種は、その限られた光を活用する特別なしくみを備えています。最大の魚類であるジンベエザメは、海水面近くで摂餌をする一方で、光の届きにくい深海にも潜ることが知られています。

今回、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の工樂樹洋教授(理化学研究所 チームリーダー)、大阪公立大学の小柳光正教授が率いる研究チームは、ジンベエザメが光を活用するしくみの解明に挑みました。

本研究チームは、眼の網膜にある光受容タンパク質(オプシン)のうち、微弱光下での視覚をつかさどるロドプシンについて、DNA情報と吸収する光の波長を測る分光測定を組み合わせることで、ジンベエザメと他のサメ類を比較しました。その結果、ジンベエザメのロドプシンは、従来の常識を覆すアミノ酸置換によって、深海の中で最も届きやすい青色の光を効率的に受け取ることができることを明らかにしました。また、ジンベエザメのロドプシンは熱に弱く、低温となる深海での機能に適していることもわかりました。

本結果から、ジンベエザメの視覚は、水温が低下した深海において、微弱な光を活用できるような進化を遂げたことが示唆されます。この進化の引き金になったアミノ酸置換部位はヒトの夜盲症の原因となる置換部位でもあり、ジンベエザメの海水面付近から水深2000メートル付近の深海まで潜水するというその独特のライフスタイルの表れともいえるかもしれません。

さらに、本研究は、様々な生物のくらしをその生体を犠牲にすることなく解き明かすために、DNAの情報を活用したタンパク質の人工合成技術が有用であることも示しました。

本研究は、科研費補助金(18H02482, 21H00435)の支援を受けておこなわれました。

本研究成果は、米国科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)」に 2023 年3月22日午前1時(日本時間)に短報論文として 掲載されました。

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図: ジンベエザメおよび近縁な他のサメ類のロドプシンの性質。
左に3つの生物種の系統関係を、右に合成したロドプシンの吸収スペクトルを表示した。生息水深は文献に基づく。
2023/03/23

カミキリムシと酵母の共生関係を特定
~酵母は特殊な器官で運ばれ、親から子へ受け継がれる~

プレスリリース

技術課 / 細胞建築研究室
フェノタイプ研究推進センター

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Yeast associated with flower longicorn beetle Leptura ochraceofasciata (Cerambycidae: Lepturinae), with implication for its function in symbiosis

Mako Kishigami, Fumiaki Matsuoka, Akiteru Maeno, Shohei Yamagishi, Hisashi Abe, Wataru Toki

PLOS ONE (2023) 6, 172 DOI:10.1371/journal.pone.0282351

プレスリリース資料

東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の岸上 真子 元大学院生、松岡 史晃 大学院生、土岐 和多瑠 講師の研究グループは、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の前野 哲輝 技術専門職員、森林研究・整備機構 森林総合研究所の山岸 松平 研究員、安部 久 室長との共同研究で、カミキリムシの一種ヨツスジハナカミキリは、特殊な器官を発達させて特定の酵母と共生すること、その酵母は餌である木材の成分を分解することを解明しました。

木材を食べる昆虫で、微生物との関係について分かっているものはごく一部に限られます。本研究では、日本の夏山で最もよく見られるヨツスジハナカミキリについて調べたところ、酵母と共生することが判明しました。メス成虫の産卵管に、チューブ状の袋があり、酵母Scheffersomyces insectosaが分離されました。メスの体をマイクロCTスキャンによって調べたところ、このチューブ状の袋は、体内で折れ曲がった状態で存在していました。幼虫の消化管には粒状の袋があり、同じ酵母が貯蔵され、卵からも同じ酵母が分離されました。酵母が木材の成分を分解できるかどうかを調べたところ、キシロースなどのほとんどの昆虫が自力で分解できない木材の成分を分解しました。

このことから、酵母は親から子へ産卵を通して受け継がれ、木材を食べる子の成長に大きく関わっているものと考えられます。

本研究は、科学研究費助成事業(18K14473, 20KK0349)、発酵研究所一般研究助成(G-2018-1-034)、国立遺伝学研究所共同研究「NIG-JOINT」(26A2022)の支援のもとでおこなわれたものです。

本研究成果は、2023年3月23日午前4時(日本時間)付アメリカ科学誌「PLOS ONE」に掲載されました。

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図1: Scheffersomyces insectosa

遺伝研の貢献
ヨツスジハナカミキリの成虫メス標本についてマイクロフォーカスX線CT装置によるスキャンをおこないました。研究対象である共生器官「マイカンギア」は、膜質でチューブ状の構造のためCT装置で取得した断面画像上での特定が非常に難しい器官でしたが、段階的に解剖を進めながらより高解像度のCTデータを取得することで、断面画像上での「マイカンギア」の判別が可能となり、体内での「マイカンギア」の立体構造の解明に貢献しました。

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図2:(a),(b),(d),(e) 成虫メス個体のX線CT像。(c)通常個体を解剖して取り出した産卵管および周囲臓器の実体顕微鏡像。(b)は(a)の黄色破線部分を拡大してCTスキャンしたデータを腹側から見た冠状断面像。発達した胸部筋肉と楕円形の卵が多数確認できるが交尾器周辺部(赤四角線内)の構造については確認するのが難しい。(d)解剖により交尾器周辺部を取り出し高解像度でCTスキャンを行なった。そのデータの腹側から見た冠状断面像。 緑の線で囲った部分がマイカンギア。(e)高解像度のデータから作成した3Dモデル。折れ曲がったマイカンギア(青)が確認できる。eg:卵、mya:マイカンギア、ov:産卵管、mus:筋肉。スケールバー:(a)〜(c) 1mm、(d) 500µm、(e) 300µm。

▶ X線マイクロCTについてはこちら

2023/03/15

神経回路構築研究室 Piu Banerjee さんが「森島奨励賞」を受賞

Piu Banerjeeさん
Piu Banerjeeさん

総合研究大学院大学 遺伝学専攻が独自に行っている「森島奨励賞」の選考が、2022年度後期の学位出願者に対して行われ、神経回路構築研究室 岩里研究室に所属する Piu Banerjeeさんが受賞しました。

・Piu Banerjee(神経回路構築研究室 岩里研究室)
 「Study of Spontaneous Activity in the Peripheral Structure of Developing Mouse Somatosensory System」

 授与式が2023年3月14日に行われ、花岡専攻長から賞状と研究奨励金が贈られました。

森島奨励賞とは

 総研大遺伝学専攻で優秀な研究成果を発表して学位を取得した学生に、その研究内容を称えるとともに今後のさらなる発展を促す目的で贈られます。

遺伝学の先達

 森島啓子名誉教授

2023/03/13

ゲノム多様性研究室の村上匠特任研究員が日本ゲノム微生物学会で若手賞を受賞

村上匠特任研究員

 2023年3月8~10日にかずさアカデミアホールで開催された日本ゲノム微生物学会第17回年会でゲノム多様性研究室の村上匠特任研究員が若手賞を受賞しました。

 若手賞は、ゲノム微生物学分野において優れた研究成果を挙げた若手研究者に授与される賞です。大学院時代から行ってきた、フィールドワークとゲノム情報解析を組み合わせた、氷河環境の微生物についての研究が評価されました。

第17回日本ゲノム微生物学会年会HP

日本ゲノム微生物学会 プログラム(受賞講演)

森研究室・ゲノム多様性研究室

村上匠特任研究員より受賞のコメントが届いておりますのでご紹介します。

 この度は若手賞という栄えある賞を頂き、大変光栄に思います。一連の研究にお力添えいただいた皆様に心から感謝申し上げます。
 この賞を糧に、より一層研究に精進していきたいと思います。

2023/03/13

メダカにおける隠蔽的な性連鎖遺伝子座の同定

A cryptic sex-linked locus revealed by the elimination of a master sex-determining locus in medaka fish.

Kitano, J., Ansai, S., Fujimoto, S., Kakioka, R., Sato, M., Mandagi, I. F., Sumarto, B. K. A., and Yamahira, K.

The American Naturalist 2023 March 12 DOI:10.1086/724840

魚類などの分類群では、性染色体が転換するターンオーバー現象が広く知られています。このような性染色体のターンオーバーは、新しい性決定遺伝子がまず出現し、一過的に複数の性染色体が多型で存在する状態を経て、新しい性決定遺伝子が固定化されることで完成すると考えられています。しかし、複数の性染色体が多型で存在する状態が、野外集団においてどの程度普遍的なのかは不明です。

本研究では、メダカ北日本集団(キタノメダカ)を用いてこの謎に迫りました。メダカは、メスがXX、オスがXYの性染色体を持ちます。Y染色体上のDMY遺伝子がオス化を誘導します。しかし、胚発生の段階で高温刺激を加えると、XX個体が高頻度でオスに性転換します。この特性を利用して、生態遺伝学研究室の北野教授らは、琉球大学の山平研究室との共同研究として、オス性決定遺伝子DMYを持たないメダカ系統を作出しました。4世代にわたって実験室で維持したあと、ゲノム解析をすると、元の集団では常染色体であったある染色体上に、性染色体に特徴的な性質を持つゲノム領域を発見しました。

本成果は、性決定機能をもつ遺伝子座がなくなると、隠れていた性決定遺伝子座が出現し、それが性染色体ターンオーバーの元になる可能性があることを示唆します。すなわち、単純なXY性染色体を持つように見える野外集団にも、性決定機能を持つ別の染色体領域が存在する可能性を示唆しています。主働性決定遺伝子座を実験的に除去することは、性染色体の原型となりうる遺伝子座を見つけるための有力な方法となり得ると考えられます。

本成果は、アメリカン・ナチュラリスト協会発行のThe American Naturalistに掲載されました。科研費やJST CRESTの支援のもと実施されました。

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図:第18染色体上に、雌雄でアリル頻度が異なり(上)、オスでヘテロ接合になっている座位が多数見つかった(下)。従来の性染色体は、第1染色体である。

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