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2014/03/28

新生児の大脳皮質で神経回路が成長する様子を観察することに成功

Press Release

NMDAR-Regulated Dynamics of Layer 4 Neuronal Dendrites during Thalamocortical Reorganization in Neonates.

Hidenobu Mizuno, Wenshu Luo, Etsuko Tarusawa, Yoshikazu M. Saito, Takuya Sato, Yumiko Yoshimura, Shigeyoshi Itohara, and Takuji Iwasato Neuron  27 March 2014 10.1016/j.neuron.2014.02.026

プレスリリース資料

ヒトの脳表面の大部分を占める大脳皮質は、哺乳類に特有の脳構造です。大脳皮質には複雑な「神経回路」があり、これによって、知覚や運動、思考、記憶などの高度な情報処理が行われています。大人の神経回路は精密につくられていますが、生まれた時は未熟でおおまかにしかできていません。赤ん坊の脳では、様々な刺激をうけて神経回路が劇的に成長します。しかし、そのプロセスやメカニズムは、適当な観察・解析技術がなかったため今までほとんどわかっていませんでした。

当研究グループでは、生まれて間もないマウスの大脳皮質の神経回路を可視化する方法を開発しました。さらに、生きたまま脳の深部までとらえることのできる二光子顕微鏡の観察技術の改良もはかりました。これらの新しい技術を組み合わせることで、新生児大脳皮質の神経回路が成長する様子を直接観察することに、世界で初めて成功しました

その結果、新生児マウス大脳皮質の神経細胞は突起を激しく伸び縮みさせながら、結合すべき「正しい」相手に向かって突起を広げていくことがわかりました。一方、遺伝子操作によって情報をうまく受け取れなくした神経細胞では、突起の伸び縮みの程度が異常に大きくなり、「正しい」相手の有無と関係なくランダムに突起が広がりました。

この研究では、新生児の大脳皮質で神経回路が発達するときの正常な過程と異常な過程を直接観察することに初めて成功しました。この新しいアプローチは、ヒトをはじめとする哺乳類の赤ん坊の脳の発達メカニズムの理解に大きく貢献することが期待されます。

Figure1

二光子顕微鏡によって観察した大脳皮質神経細胞が正常に成熟する様子。樹状突起の先端(矢頭)が伸び縮みしていることがわかります。(0hの白色の矢頭:最初の枝の先端の位置。4.5h, 9h, 18hの白の矢頭:変化しなかった枝。黄色の矢頭:伸びた枝。青色の矢頭:縮んだ枝。下図の緑色の部分はバレル内側。)

18時間に4回(生後5日目、4時間半後、9時間後、18時間後)マウスを顕微鏡のところに持ってきて同じ細胞を観察しています。1回の観察は30分ほどです。残りの時間にはマウスはミルクを与えられ兄弟姉妹とともに健康に成長しています。

2014/03/14

特殊な性染色体を持つ日本海イトヨのゲノムを解読

Press Release

Sex chromosome turnover contributes to genomic divergence between incipient stickleback species.

Yoshida, K., Makino, T., Yamaguchi, K., Shigenobu, S., Hasebe, M., Kawata, M., Kume, M., Mori, S., Peichel, C. L., Toyoda, A., Fujiyama, A., and Kitano, J. PLOS Genetics  10(3): e1004223 (2014) DOI: 10.1371/journal.pgen.1004223

プレスリリース資料

性染色体はオスになるかメスになるかを決定する性染色体で、例えばヒトの場合には、XYをもつと男性、XXをもつと女性になります。しかし、どの染色体が性染色体になるかは種によって様々で、近縁の種間でも性を決定する染色体が異なっている場合が多く知られています。しかし、このような性染色体の転換現象の生物学的な意義については多くが不明です。

今回、我々は、日本海イトヨと太平洋イトヨが異なる性染色体を持つことに着目し、これらの全ゲノムを決定することで、性染色体の転換現象が遺伝子の進化に与える効果を解析しました。日本には、太平洋イトヨと日本海イトヨの二種のイトヨが生息していますが、これまでの我々の研究の結果、日本海イトヨには、太平洋イトヨにはない新しく出現した性染色体(ネオ性染色体)があることが明らかになっていました。今回これら二種のゲノムを解読し比較することによって、日本海イトヨ固有のネオ性染色体の上では、XとYの間で遺伝子配列の分化が起こり始めるなど性染色体の特徴を既に示しつつあること、また、太平洋型の当該ゲノム領域と比較することで種間差を示す遺伝子が蓄積していることなどを見いだしました。

この成果は、これまで謎であった性染色体の転換という現象が、遺伝子の進化を促進することを示していることから、性染色体の進化と種分化との強いつながりを示すものとして評価され、米国科学誌のプロスジェネティックスに掲載されました。

この成果は、国立遺伝学研究所の生態遺伝学研究室と比較ゲノム研究室に加え、基礎生物学研究所、東北大学生命科学研究科、フレッドハッチンソン癌研究所、岐阜経済大学との共同研究です。

Figure1 Figure1

上図:固有の性染色体をもつ日本海イトヨ
下図:日本海固有のネオ性染色体上で、X染色体とY染色体が、ゲノム配列レベルでまさに分化しつつあることを示す。

2014/03/14

集団遺伝研究部門 神澤秀明さんが「森島奨励賞」を受賞

集団遺伝研究部門 神澤秀明さん 総合研究大学院大学 遺伝学専攻が独自に行っている「森島奨励賞」の選考が、平成25年度後期の学位申請者に対して行われ、集団遺伝研究部門 斎藤研究室に所属する神澤秀明さんが受賞しました。授与式が平成26年3月11日に行われ、桂専攻長から賞状と研究奨励金が贈られました。
森島奨励賞
「遺伝学の先達」第3回 森島啓子名誉教授
2014/03/04

イネの生殖組織特異的な小分子RNAの生合成経路

実験圃場・野々村研究室 植物遺伝研究室・倉田研究室

Rice Germline-specific Argonaute MEL1 protein binds to phasiRNAs generated from more than 700 lincRNAs

Reina Komiya, Hajime Ohyanagi, Mitsuru Niihama, Toshiaki Watanabe, Mutsuko Nakano, Nori Kurata, and Ken-Ichi Nonomura The Plant Journal Accepted manuscript online, 2014, doi:10.1111/tpj.12483

減数分裂は、品種改良など交雑育種の根幹となる生命現象であり、その分子機構の解明は安定な種子生産などにつながる重要な研究課題です。今回は、イネの生殖細胞で特異的に発現し、減数分裂進行に必須の役割を果たすMEL1蛋白質に着目しました。MEL1は、RNAサイレンシング(用語解説)のエフェクターとして知られるArgonaute(AGO)蛋白質です。

MEL1と結合する小分子RNA (MEL1-sRNA)を免疫沈降により回収し、塩基配列を解読しました。MEL1-sRNAは、75%が21塩基長であり、5′-末端の80%はシトシンでした。驚いたことに、MEL1-sRNAは機能未知の1,000カ所以上のゲノム領域に由来し、その多くは遺伝子間領域でした。私たちは、生殖成長移行後にそれらの領域から蛋白質をコードしない長鎖RNA(lincRNA)が700種類以上作られることを明らかにしました。その後lincRNAは二本鎖化され、等間隔に切断されて、MEL1-sRNAを含む21塩基長の小分子RNAが作られる可能性を示しました。

今回の成果から、RNAサイレンシング機構が植物の生殖細胞発生および減数分裂で果たす役割を考える上での重要な情報が得られました。

[用語解説] RNAサイレンシング: 20〜30塩基長の短いRNA(小分子RNA)を介して、それと相補的な配列を含む遺伝子の発現が抑制される現象

Figure1

生殖細胞特異的なイネArgonaute蛋白質MEL1の解析
(A) mel1突然変異体は種子不稔。 (B) MEL1遺伝子は葯(Anther)と胚珠(Ovule)の中の生殖細胞で発現(青)。 (C) 正常型 (1)とmel1変異体(2)の穂に対するRNA免疫沈降。 (D) MEL1-sRNAは1,000カ所以上の遺伝子間領域(青)に由来。 (E) 変異体では減数分裂染色体の対合を示すZEP1の伸長が起こらない。
A-Bは Plant Cell 19: 2583-2594 (2007)の図を、C-Eは Plant J (2014)の図をそれぞれ一部改変して掲載。


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