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2022/03/31

ゲノム進化研究室の黒川真臣特任研究員が日本ゲノム微生物学会で若手賞、第16回年会で最優秀ポスター賞を受賞

黒川真臣特任研究員
黒川真臣特任研究員

 2022年3月2~4日にオンライン開催された日本ゲノム微生物学会第16回年会でゲノム進化研究室の黒川真臣特任研究員が若手賞と最優秀ポスター賞を受賞しました。

 若手賞は、ゲノム微生物学分野において優れた研究成果を挙げた若手研究者に授与される賞です。大学院時代から行ってきた、実験進化手法を用いた、微生物のゲノムサイズと適応進化の関係性についての研究が評価されました。

 最優秀ポスター賞は、日本ゲノム微生物学会の年会において参加者投票によって選ばれた、最も優れたポスター発表を行った研究者に授与される賞です。




黒川真臣特任研究員より受賞のコメントが届いておりますのでご紹介します。

 この度は若手賞および最優秀ポスター賞を受賞し、大変光栄に思います。今後、一層興味深い研究へと発展させられるよう励んでまいります。本賞の受賞にあたりサポートをいただきました皆様に厚く御礼申し上げます。
2022/03/23

氷河生態系の謎に迫る
~世界各地の氷河に生息する微生物をメタゲノム解析~

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Metagenomics reveals global-scale contrasts in nitrogen cycling and cyanobacterial light harvesting mechanisms in glacier cryoconite

T. Murakami, N. Takeuchi, H. Mori, Y. Hirose, A. Edwards, T. Irvine-Fynn, Z. Li, S. Ishii, T. Segawa

Microbiome (2022) 10, 50 DOI:10.1186/s40168-022-01238-7

プレスリリース資料

氷河には寒冷な環境にもかかわらず様々な微生物が生息しています。すなわち、氷河は雪と氷に囲まれた生物のいない世界ではなく、微生物群集を含む一つの「生態系」とみなすことができます。しかしながら、氷河に生育する微生物の情報は断片的で、氷河上での微生物群集の活動の様子はあまりわかっていませんでした。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の村上匠特任研究員と森宙史准教授、山梨大学の瀬川高弘講師、千葉大学の竹内望教授、豊橋技術科学大学の広瀬侑助教らによる共同研究チームは、極域やアジア山岳域などの氷河から、「クリオコナイト」とよばれる微生物集合体を採集し、クリオコナイトに含まれる細菌の遺伝情報を「メタゲノム解析」により探索しました。その結果、クリオコナイト内部には多様な細菌種が共存していて、様々な代謝方法で栄養やエネルギーを得ていることがわかりました。さらに世界中のクリオコナイトの細菌群集を比較したところ、地域によって含まれる細菌種やその代謝能が大きく違っていたのです(図)。

こうした「構成員の異なるクリオコナイト」は、地域ごとの氷河環境の違いを反映していると考えられ、氷河生態系の地球規模での多様性に迫る手掛かりになります。氷河は気候変動の影響を最も受けやすい環境の一つで、氷河生態系の存続も危惧されています。今後、得られた知見をもとに環境変動が氷河微生物の活動や多様性に与える影響を継続的に調査していくことが重要です。

本研究は日本学術振興会科研費(課題番号: 19K23766, 19H01143, 20K21840, 21H03588)、北極域研究加速プロジェクト(ArCS II, 課題番号: JPMXD1420318865)、および公益財団法人発酵研究所 一般研究助成(課題番号: G-2020-2-133)の支援を受けました。

本研究成果は英国科学雑誌「Microbiome」に2022年3月23日(日本時間)に掲載されました。

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図: メタゲノム解析から推測された極域とアジアのクリオコナイトの違い
クリオコナイト外層(緑色部分)をシアノバクテリアが占めており、活発に光合成を行う点は極域とアジアで共通している。一方で、外層を構成するシアノバクテリアの種類や利用できる光の幅は極域とアジアで異なる。アジアのクリオコナイトの内部(茶色部分)では、豊富な窒素酸化物の供給を受けて細菌による脱窒が行われるが、窒素酸化物の供給が限られる極域では脱窒はほとんど起こらないと見られる。
2022/03/15

一般社団法人大学共同利用研究教育アライアンスの設立について

Press Release




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5人の設立時理事(前列中央:山内代表理事)

 4つの大学共同利用機関法人(人間文化研究機構、自然科学研究機構、高エネルギー加速器研究機構、情報・システム研究機構)と国立大学法人総合研究大学院大学は、5法人が社員となる「一般社団法人大学共同利用研究教育アライアンス(略称:IU-REAL)」(以下「アライアンス」という。)を、令和4(2022)年3月1日に設立しました。

 アライアンスは、5法人が一体的な研究教育活動を通じてその機能を十分に発揮するため、①研究力強化のための連携事業、②大学院教育の充実や若手研究者の育成のための連携事業、及び③効率的な業務運営に資する連携事業を企画し、推進します。

 また、5法人の大学共同利用の機能を強化する取組を通じて、研究教育・共同利用の両面から、大学や研究機関等の活動に貢献し、我が国の学術研究の発展に寄与してまいります。

プレスリリース資料

2022/03/10

自然免疫に重要なKIR遺伝子領域の構造を解明
~高深度シークエンス技術と配列決定アルゴリズムを実装~

Decoding the diversity of killer immunoglobulin-like receptors by deep sequencing and a high-resolution imputation method.

Saori Sakaue*, Kazuyoshi Hosomichi, Jun Hirata, Hirofumi Nakaoka, Keiko Yamazaki, Makoto Yawata, Nobuyo Yawata, Tatsuhiko Naito, Junji Umeno, Takaaki Kawaguchi, Toshiyuki Matsui, Satoshi Motoya, Yasuo Suzuki, Hidetoshi Inoko, Atsushi Tajima, Takayuki Morisaki, Koichi Matsuda, Yoichiro Kamatani, Kazuhiko Yamamoto, Ituro Inoue, Yukinori Okada*.
* 責任著者

Cell Genomics (2022) 2, 100101 DOI:10.1016/j.xgen.2022.100101

プレスリリース資料

大阪大学大学院医学系研究科の坂上沙央里助教(研究当時、現ハーバード大学医学部博士研究員)、岡田随象教授(遺伝統計学 / 理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)、金沢大学医薬保健研究域医学系革新ゲノム情報学分野 細道一善准教授、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 井ノ上逸朗教授、理化学研究所生命医科学研究センター 山本一彦センター長、東京大学大学院新領域創成科学研究科 松田浩一教授らの研究グループは、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)遺伝子領域の構造を高精度に解明し、ヒト疾患への関わりを明らかにしました(図)。

KIR遺伝子は、ナチュラルキラー(NK)細胞表面に発現しHLA分子を認識してその機能を調節していることから、ヒトの自然免疫応答や移植後拒絶反応に重要な役割を果たすと考えられています。しかしその重要性にも関わらず、KIR遺伝子領域は高度な多様性を持つことから、詳細な解析が困難で集団中での構造多様性の全貌が謎のままでした。

今回研究グループは、KIR遺伝子構造に特化した独自の高深度シークエンス技術の開発と、機械学習や深層学習の手法を応用した遺伝子コピー数推定・遺伝的変異・アレル組み合わせを網羅する解析アルゴリズムの実装により、日本人集団1,173名の高精度タイピングに成功しました。さらに、より多くのサンプルを対象としたゲノムデータにおいても、コンピューター上で簡便にKIR遺伝子配列の個人差(KIR遺伝子型)を特定するためにインピュテーション法を実装し、様々な疾患やヒト形質とKIR遺伝子型との網羅的関連解析が可能になりました。バイオバンク・ジャパンのゲノム・表現型情報を対象に解析を実施したところ、これまで報告されてきたKIR遺伝子と自己免疫疾患との関わりは想定されていたより弱いことが示唆されました。研究グループは本研究で得られた独自の解析アルゴリズムと日本人集団内でのKIR遺伝子型参照配列パネルを公開し、インピュテーション法の実装と合わせて今後さらに多くのデータへ応用する道を開き、免疫疾患や造血幹細胞移植の成績との関連を明らかにすることが期待されます。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED) ゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム:B-cureのうち、ゲノム研究バイオバンク(旧:疾患克服に向けたゲノム医療実現プロジェクト(オーダーメイド医療の実現プログラム))、ならびにゲノム医療実現推進プラットフォーム・先端ゲノム研究開発:GRIFIN 「遺伝統計学に基づく日本人集団のゲノム個別化医療の実装」の一環として行われ、文部科学省が推進する新学術領域研究「ゲノム科学の総合的推進に向けた大規模ゲノム情報生産・高度情報解析支援(ゲノム支援)」・「先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム(先進ゲノム支援)」および大阪大学大学院医学系研究科バイオインフォマティクス・イニシアティブの協力を得て行われました。

本研究成果は、米国科学誌「Cell Genomics」に、2022年3月10日(木)午前1時(日本時間)に公開されました。

遺伝研の貢献
自然免疫機能に重要な役割を果たす19番染色体上のKIR遺伝子はシーケンシングが困難領域の一つとして知られています。井ノ上教授らの研究グループはKIR遺伝子を網羅的にターゲットシークエンスする手法を確立し、日本人1,173名の高精度KIR配列決定に寄与しました。

本解析の一部は、2017年度先進ゲノム支援の支援課題としておこなわれました。

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図: 高深度シークエンス技術と集学的数理解析手法の開発により日本人集団1,173名で高精度にKIR遺伝子構造を解明
2022/03/04

生物多様性研究を保護し、利益を公平に共有するための遺伝子データの政策的解決策の必要性

Multilateral benefit-sharing from digital sequence information will support both science and biodiversity conservation

Amber Hartman Scholz, Jens Freitag, Christopher H. C. Lyal, Rodrigo Sara, Martha Lucia Cepeda, Ibon Cancio, Scarlett Sett, Andrew Lee Hufton, Yemisrach Abebaw, Kailash Bansal, Halima Benbouza, Hamadi Iddi Boga, Sylvain Brisse, Michael W. Bruford, Hayley Clissold, Guy Cochrane, Jonathan A. Coddington, Anne-Caroline Deletoille, Felipe García-Cardona, Michelle Hamer, Raquel Hurtado-Ortiz, Douglas W. Miano, David Nicholson, Guilherme Oliveira, Carlos Ospina Bravo, Fabian Rohden, Ole Seberg, Gernot Segelbacher, Yogesh Shouche, Alejandra Sierra, Ilene Karsch-Mizrachi, Jessica da Silva, Desiree M. Hautea, Manuela da Silva, Mutsuaki Suzuki, Kassahun Tesfaye, Christian Keambou Tiambo, Krystal A. Tolley, Rajeev Varshney, María Mercedes Zambrano & Jörg Overmann

Nature Communications (2022) 13, 1086 DOI:10.1038/s41467-022-28594-0

地球上の生物多様性の破壊を食い止めるためには、緊急の国際行動が必要であり、国連の生物多様性条約(CBD)は、そのような行動を調整できる最も重要な国際文書の1つです。生物多様性条約の締約国は現在、2020年以降の生物多様性条約の枠組みについて交渉中です。この枠組みは、今後数十年間、地球を守るための野心を定め、国や関係者の行動を形作っていくものです。しかし、「デジタル配列情報」(DSI)と呼ばれる遺伝資源に由来するデータをどのように扱うか(規制するか)については、CBD締約国間で意見の相違が生じています。この問題は、生物多様性フレームワークの合意に至る前に解決されなければなりません。

科学者たちは、ウェブ上の公開データベースでDSIをオープンに共有してきた長い歴史があります。この共有の文化は、現代の生物学と生物多様性研究の中心であり、医療、食糧安全保障、グリーンエネルギー生産など多様な分野での技術的進歩を後押ししてきました。公開オンラインデータベースには、現在、何十万もの生物の配列情報が登録されており、日々その数は増えています。これらのデータベースは、科学的な再現性、透明性、そして進歩を支えています。それにもかかわらず、この研究から生まれる恩恵は、世界中に不平等に分布していることが明らかです。

Nature Communicationsに掲載された論文の中で、著者らは、研究コミュニティが大切にしている共有文化を損なうことなく、CBDの目的をサポートする方法で、DSIの利益を公平に配分することができ、またそうしなければならないと主張しています。

科学的なデータ共有を妨げることなく、利益を共有し、生物多様性研究にインセンティブを与えるポジティブフィードバックループが生まれるでしょう。また、政策立案者に対し、DSIに依存する自国の研究者と協力し、いかなる政策的解決も重要な生物多様性研究の妨げにならないようにすることを呼びかけています。

この論文の著者たちは、DSIの議論において収束的な視点を共有し、この重要な問題に対する賢明な政策解決策を主張するために声を合わせている、異なる国や経済環境の科学者のグループであるDSI科学ネットワークのメンバーです。

著者の一人、国立遺伝学研究所の産学・知的財産室長 鈴木睦昭はNBRP情報整備プログラムの中でABS学術対策チームとして、生物多様性条約および名古屋議定書に関係する遺伝資源のアクセスと利益配分(Access and Benefit-Sharing、ABS)の学術分野の対応を行っています。また、生物多様性条約締約国会議に日本政府団とし参加、10年以上の活動を行っています。

Figure1
図:DSIのためのWin-Winのマルチラテラルオプションのための5つの基本

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