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2006/01/01

受容体によるリガンド提示に基づくパターニング機構

Nature誌 8月24日号

広海研究室(発生遺伝研究部門)

The Drosophila Netrin receptor Frazzled guides axons by controlling Netrin distribution. Hiramoto M, Hiromi Y, Giniger E, Hotta Y.Nature, 406(6798), 841-843, 2000.  生物がかた ちを作るには、正確なパターニングが順序だてて起こる必要がある。細胞の移動を制御する機構の概念として広範囲性(long range cue)のものと狭範囲性(short range cue)のものが提唱されている。分泌性のガイダンス分子は拡散してlong range cueなるものを作ると考えられている。 受容体はリガンドを認識するために結合するが、このために観察問題が生じる。例えば分泌性リガンドの分布が情報であるとすると、受容体との結合でリガン ドの分布が変わってしまう事になる。分子の濃度勾配を認識する現象として細胞性粘菌はのcAMPへの走化性が良く知られている。この時に使われるcAMP 受容体はcAMPを数秒で放すが、これは濃度勾配のセンサーとしては合理的な性質である。またこれと同様に良く知られた現象として成長円錐の走化性が挙げ られ、ネトリンをはじめとして幾つかの分泌型ガイダンス分子が同定されている。しかし、こちらは細胞性粘菌の場合とは逆でリガンドと受容体が安定に結合す る。これでは受容体を発現する軸索が多数通過すると、もとの分布は壊されてしまうのではないだろうか(図1)?実は、受容体がリガンドをトラップするのに は訳があったのである。  ネトリン受容体DCCはネトリンのセンサーであるが、リガンドと結合するという受容体の特性を利用してネトリンを捕捉する。さらにDCCタンパクには軸 索の特定の部分に局在する能力があり、その結果ネトリンはあるパターンに正確に配置される。この様にしてできたネトリンのパターンを元に、別の方向に走る 軸索の束が編まれる。すなわち、生物はリガンドが受容体に捕捉される事を積極的に利用してリガンドの分布を再編成し、次のパターニングの為の位置情報とし て利用する設計を組んでいたのである(図2)。
図1 分泌リガンドはこれと結合する受容体により分布を変えられる。
図2 軸索の特定の部分に局在する受容体が分泌ガイダンスリガンドを正確に配置し、次のパターニングの為の位置情報を作る。(ネトリンの移動経路は解析中。軸索内を輸送されると予想される。)
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