Archive

2020/08/25

有用藻類を高塩濃度、酸性下で増やせ!

Press release

Efficient open cultivation of cyanidialean red algae in acidified seawater

Shunsuke Hirooka, Reiko Tomita, Takayuki Fujiwara, Mio Ohnuma, Haruko Kuroiwa, Tsuneyoshi Kuroiwa and Shin-ya Miyagishima

Scientific Reports (2020)10: 13794 DOI:10.1038/s41598-020-70398-z

プレスリリース資料

微細藻類は機能性食品や代替燃料などに広く利用されていくことが期待されています。しかしながら、微細藻類を容易に増やすための「屋外開放培養」は、藻類を捕食する微生物など他生物の混入増殖が問題となり、限られた種類の淡水産藻類でしか成功していません。一方で、淡水はこれから不足することが予測され、淡水産藻類の培養には様々な制約が生じるため、豊富にある海水による淡水産藻類の培養が望まれています。

本成果では、淡水産藻類である単細胞紅藻「イデユコゴメ類」の塩耐性を強化する培養法を開発し、酸性化させた天然海水を用いた「屋外開放培養」に成功しました。高塩濃度、酸性下では他生物が混入増殖できないので、本培養系では酸性を好むイデユコゴメ類を高塩濃度に馴化させ、高い塩濃度である天然海水を酸性化させた培養液を用いることで、微生物の混入増殖を抑制できるようにしました。

本研究で使用したイデユコゴメ類は、他の微細藻類に比べて高密度まで増殖し、タンパク質および各種ビタミンの含有量が高く、それらの栄養成分の不足が問題となっている水産飼料などとしての利用が期待されています。また、遺伝的改変によりDNAワクチン含有飼料などとしての利用も期待されます。

本研究は、情報・システム機構 国立遺伝学研究所の廣岡俊亮特任助教、宮城島進也教授、広島商船高等専門学校の大沼みお准教授、日本女子大学理学部の黒岩常祥客員研究員(東京大学名誉教授)による共同研究グループによって実施されました。

また、本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業 探索加速型 「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域における研究開発課題「弱酸性化海水を用いた微細藻類培養系及び利用系の構築」(研究代表者:宮城島進也)の支援を受けて行われました。

本研究の成果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」に2020年8月24日午後6時(日本時間)に掲載されました。

なお、本研究に関連して以下の国際特許を出願中です。
・WO2019/107385 新規微細藻類、及びその使用
・WO2020/071444 淡水産微細藻類の培養方法
・公開前出願中 薬物送達組成物

Figure1

図: 淡水培地と天然海水培地におけるシゾンの屋外開放培養とその比較
それぞれ7リットルの淡水培地と天然海水培地に塩耐性を強化したシゾンを植え、14日間屋外開放培養した結果を示す。シゾンが、海水培地でも淡水培地と同等の速度でまた同等の密度まで増殖したことが分かる。一方で、海水培地では細菌が混入していない。

2020/08/04

微細藻類の一日
~真核光合成生物の増殖機構の理解に向けた日周-細胞周期トランスクリプトームデータベースの構築~

Relationship between cell cycle and diel transcriptomic changes in metabolism in a unicellular red alga.

Takayuki Fujiwara, Shunsuke Hirooka, Ryudo Ohbayashi, Ryo Onuma, and Shin-ya Miyagishima.

Plant Physiology (2020) 183: 1484–1501 DOI:10.1104/pp.20.00469

水圏では様々な系統の微細藻類が光合成を行っており、一次生産者として重要な役割を果たしています。近年、再生可能エネルギー、タンパク質源として藻類バイオマスの活用が注目されている一方で、水域の富栄養化によるプランクトンの異常発生(アオコの発生や赤潮など)など生活環境や水産業への被害も問題となっており、その増殖機構を知ることは重要です。

微細藻類は光合成によって増殖しますが、自然環境には昼夜があり、光合成のできる時間帯は昼間に限られています。一方で、多くの微細藻類は夜間にDNA複製と細胞分裂(細胞周期進行)を行うことが知られています。しかしながら、微細藻類が一日の中で、どのように効率よく光合成を行い、どのような分子基盤で細胞分裂を行うのか、という基本的な問題は意外にもほとんど理解が進んでいません。

この問題を解決するために、本研究では、微細藻類の日周におけるトランスクリプトーム変動解析を行いました。また、モデル藻類として単細胞紅藻Cyanidioschyzon merolae(シゾン)を用いました。C. merolaeは遺伝子数が真核光合成生物の中で最少クラス(16 Mb, 約5,000遺伝子)で、解析対象となる遺伝子セットが極めて少なく様々な実験に有用です。解析の結果、昼間には多くの主要代謝系(炭化水素、アミノ酸、ビタミン合成など)の遺伝子群が一斉に誘導されること、一方で夜間には解糖系に関連する一部の遺伝子群やdNTP(DNAの材料)新生に関わる遺伝子群が誘導されることがわかりました。この結果は昼間に光合成を行い細胞生長し、夜間に細胞周期進行することをよく反映しています。代謝遺伝子群の変動の詳細は、論文のサプリメントデータで見ることが出来ます。

また、細胞周期に依存する遺伝子発現を日周期によるそれと区別するために、細胞周期制御タンパク質(CDKAやRBR)の変異体を作成し、トランスクリプトーム変動解析を行いました。その結果、既知の細胞分裂関連遺伝子群とともに、細胞周期に依存する機能未知遺伝子群を見つけることが出来ました。これらは、藻類の細胞分裂に関わる新規遺伝子群である可能性が高いと考えられます。

本研究で樹立した遺伝子発現データベースは、微細藻類の日周における基本的な細胞動態の理解にとどまらず、将来的には、代謝改変によるバイオマス生産の増大、プランクトンの異常発生の予測や対策などに役立てることが出来ます。

本研究は、科学研究費補助金(17H01446、18K06300、20H00477)、JST未来社会創造事業などの助成のもとに実施されました。

Figure1

図:真核微細藻類の一日。真核微細藻類の多くは、昼間光合成によって成長し、夜間DNA合成と細胞分裂を行う。これを反映するように多くの代謝遺伝子の発現は昼に上昇する。一方で、DNA複製や細胞分裂関連遺伝子は細胞周期に依存して夜間に発現する。


  • X
  • facebook
  • youtube