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2018/08/30

モナッシュ大学脳研究所と学術交流協定を締結

国立遺伝学研究所は、2018年6月1日よりマレーシア モナッシュ大学脳研究所(Brain Research Institute Monash Sunway, Monash University)との学術交流協定を締結しています。
組織間交流による今後の共同研究などが期待されます。

モナッシュ大学脳研究所 国立遺伝学研究所(桂勲 所長:右 と川上浩一 教授:左)
モナッシュ大学脳研究所
(Ishwar Parhar 所長:右と小川諭 講師:左)
国立遺伝学研究所
(桂勲 所長:右 と川上浩一 教授:左)

他研究機関との交流

2018/08/29

植物の水の通り道を自在に制御する

Press Release

A Rho-based reaction-diffusion system governs cell wall patterning in metaxylem vessels

Yoshinobu Nagashima, Satoru Tsugawa, Atsushi Mochizuki, Takema Sasaki, Hiroo Fukuda, Yoshihisa Oda

Scientific Reports DOI:10.1038/s41598-018-29543-y

プレスリリース資料

植物の細胞壁は、その沈着の仕方によって、細胞の形、さらには葉や茎、果実といった器官の大きさや硬さといった性質に影響します。道管において、この細胞壁の沈着の仕方に影響するのが、細胞壁の「壁孔」と呼ばれる直径数ミクロンの水を通す無数の穴なのです。

情報・システム研究機構国立遺伝学研究所、東京大学大学院理学系研究科、理化学研究所、京都大学の共同研究グループは、遺伝学的な手法と「反応拡散モデル」と呼ばれる数学的な手法を組み合わせて、道管に壁孔が作り出される仕組みを明らかにしました。

この知見を利用することにより、道管をはじめとする植物の細胞の細胞壁の沈着の仕方を自在に操り、植物の大きさや硬さ等の性質を人為的に制御できるようになる可能性があります。

本研究は、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の細胞空間制御研究室(長島慶宜 特別共同利用研究員、佐々木武馬 特任研究員、小田祥久 准教授)と東京大学大学院理学系研究科(福田裕穂 教授)、理化学研究所 開拓研究本部望月理論生物学研究室(津川暁 基礎科学特別研究員)、京都大学ウイルス・再生医科学研究所(望月敦史 教授)との共同研究として行われました。

本研究は、文部科学省の科学研究費補助金 (16H01247、15H05958)、日本学術振興会の科学研究費補助金(16J03646、16H06172、16H06377)、科学技術研究機構(JST)の戦略的創造研究推進事業さきがけ (JPMJPR11B3)およびCREST (JPMJCR13W6)、内藤財団、三菱財団の助成、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所NIGスーパーコンピューターの支援を受けて行われました。

Figure1

図:
(A) 植物の水輸送
(左)植物の根から吸水された水は道管を通って葉まで輸送される。葉では水が蒸散により失われ、さらに水が引き上げられる。
(中央)道管の内部を輸送される水は壁孔を通じて道管間を移動する。壁孔の薄い細胞壁を水が通り抜けることができる。
(B) ROP11のはたらきを調節することより細胞壁の壁孔の数が決まる。
細胞内のROPGEFとROPGAPの量により、活性型ROP11のスポットを作る数やその間隔が制御される。その結果として壁孔の数が決まる。

2018/08/28

一般向け講演会「暮らしの中のデータサイエンス」を三島市で開催:11月12日(月)

自然災害と農業をテーマに、それぞれの研究分野で活躍する科学者が講演を行います。暮らしに関わりのある2つのテーマを採り上げ、科学の新しい潮流「データサイエンス」の視点からお話しします。 ぜひ最先端の科学に触れてみてはいかがでしょうか。みなさまのお越しをお待ちしております。

データサイエンス一般講演会
「暮らしの中のデータサイエンス」


日時: 11月12日(月)午後4時~午後5時半(開場午後3時半)

場所: 三島市民文化会館【ゆぅゆぅホール】1 階小ホール

講演 ①:「東海地震と富士山噴火の歴史」

     中西 一郎 京都大学教授

講演 ②:「DNAデータが加速する新品種の育成」

     田畑哲之 かずさDNA研究所所長

対象: 小学生以上 参加無料

申込: 事前申込み不要

後援: 三島市、三島市教育委員会

2018/08/28

ソルガムにおける乾汁性決定遺伝子の発見~糖やエタノールの生産性向上に関わる100年来の謎を解明~

Press Release

Transcriptional switch for programmed cell death in pith parenchyma of sorghum stems

Masaru Fujimoto, Takashi Sazuka, Yoshihisa Oda, Hiroyuki Kawahigashi, Jianzhong Wu, Hideki Takanashi, Takayuki Ohnishi, Jun-ichi Yoneda, Motoyuki Ishimori, Hiromi Kajiya-Kanegae, Ken-ichiro Hibara, Fumiko Ishizuna, Kazuo Ebine, Takashi Ueda, Tsuyoshi Tokunaga, Hiroyoshi Iwata, Takashi Matsumoto, Shigemitsu Kasuga, Jun-ichi Yonemaru, Nobuhiro Tsutsumi

PNAS August 27, 2018. 201807501; published ahead of print August 27, 2018. DOI:10.1073/pnas.1807501115

プレスリリース資料

五大穀物の一つであるソルガムは、製糖・エネルギー作物としても、高い潜在能力を有しています。その茎搾汁液からの糖やエタノールの生産効率を左右する形質の一つに、茎の水分含量によって規定される乾汁性が知られています。乾汁性は、単一遺伝子によって支配される形質であることが、100年ほど前から予想されていましたが、その実体は不明でした。

東京大学と農業・食品産業技術総合研究機構、名古屋大学、国立遺伝学研究所、基礎生物学研究所、株式会社アースノート、信州大学の研究グループは、ソルガムの乾汁性決定遺伝子を世界に先駆けて単離することに成功しました。さらに、その働きにより、茎柔組織の大規模なプログラム細胞死が誘導され、茎水分含量の低下が起こることを明らかにしました。製糖・エネルギー作物における茎水分含量の増大は、糖やエタノール生産の原料に用いる茎搾汁液の生産量や生産効率の向上につながります。今回の研究成果は、乾汁性決定遺伝子機能の調節を標的とした、糖やエタノール生産用作物の効率的な品種改良や、新たな資源作物開発への道を拓くものとして期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に平成30年8月27日(アメリカ合衆国・東部時間)に掲載されました。

本研究は、農林水産省委託プロジェクト「新農業展開ゲノムプロジェクト」、国立研究開発法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業「二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出」CREST・さきがけ、文部科学省および独立行政法人 日本学術振興会 科学研究費助成事業の支援を受けて行われました。

遺伝研の貢献
独自の細胞培養技術により乾汁性決定遺伝子を高発現する培養細胞株を作出し、乾汁性決定遺伝子が細胞構造に及ぼす影響を解析しました。

Figure1

図:
ソルガムにおける乾性品種と汁性品種の茎の違い
(上段) 搾汁の様子。汁性品種の茎には、多量の水分が含まれる。
(中段) 茎の断面図。乾性品種の茎では、含水率の低いスポンジ状の柔組織が発達する。
(下段) 茎断面の拡大図。乾性品種のスポンジ状の柔組織は、気体(矢尻)を内包した死細胞から構成される。
スケールバーは、5 mm (中段)と100 μm (下段)。

2018/08/15

卵巣子宮内膜症および正常子宮内膜における遺伝子変異を解明

Clonal expansion and diversification of cancer-associated mutations in endometriosis and normal endometrium

Kazuaki Suda*, Hirofumi Nakaoka*, Kosuke Yoshihara, Tatsuya Ishiguro, Ryo Tamura, Yutaro Mori, Kaoru Yamawaki, Sosuke Adachi, Tomoko Takahashi, Hiroaki Kase, Kenichi Tanaka, Tadashi Yamamoto, Teiichi Motoyama, Ituro Inoue, Takayuki Enomoto
* These authors contributed equally to this work.

Cell Reports DOI:10.1016/j.celrep.2018.07.037

国立遺伝学研究所の井ノ上逸朗教授、中岡博史助教、新潟大学大学院医歯学総合研究科の榎本隆之教授、吉原弘祐助教、須田一暁特任助教らの共同研究グループは、卵巣子宮内膜症と正常子宮内膜の網羅的な遺伝子解析を行い、癌に関連する遺伝子変異がすでに良性腫瘍や正常組織に起きていることを明らかにしました。本研究結果はCell Press 社の科学雑誌Cell Reportsに掲載されました。

子宮内膜症は生殖年齢女性のおよそ10%程度が罹患する病気であり、本来子宮内に存在するはずの子宮内膜組織が子宮の外に存在し、月経周期に合わせて子宮の外で出血をきたす病気です。これが月経困難症、骨盤痛や不妊症の原因となります。子宮内膜症が発生する理由については、子宮内膜細胞を含む月経血が卵管内を逆流し、腹腔内で生着するという説(月経逆流説)が有力ですが、この仮説が科学的に証明されたわけではありませんでした。

また疫学研究より、子宮内膜症が一部の組織型の卵巣癌(明細胞癌、類内膜癌)の発症に関連することが知られています。これらの卵巣癌は「子宮内膜症関連卵巣癌」と呼ばれ、これまでの研究で癌の原因と考えられる遺伝子の異常(遺伝子変異)が報告されて来ました。しかし、これらの卵巣癌の発生母地とされる卵巣子宮内膜症で、どのような遺伝子の異常が起きているのかについては、まったくわかっておりませんでした。

癌の増殖や維持に関係する遺伝子を「癌関連遺伝子」といいます。今回の研究では、良性腫瘍である卵巣子宮内膜症と正常子宮内膜のいずれにも高頻度で癌関連遺伝子に遺伝子変異が起きていることが明らかとなりました。特にKRASPIK3CAなどの発がんに重要な役割を果たすことが知られている癌遺伝子が多くの症例で変異をきたしており、癌遺伝子の変異が子宮内膜症の発生にも深く関わっていることが推察されました。

一方、正常子宮内膜を腺管単位で観察すると、腺管一本ずつに多種多様の遺伝子変異が認められ、子宮内膜という組織は分子生物学的に多様性をもった組織であることが明らかとなりました。また卵巣子宮内膜症と正常子宮内膜で認められた遺伝子変異の特徴は非常によく似ており、月経血の逆流により子宮内膜症が発生するという月経逆流説を支持する結果となりました(図)。

今回の研究で明らかとなった遺伝子変異は婦人科領域のみならず、人体の多くの癌において発生原因とも考えられているものが含まれています。癌が存在しない良性・正常組織においてどうして癌関連遺伝子に変異が多くみられるのか、正常組織における癌遺伝子の変異の意義を解明していくことが今後の課題の一つです。同時に既存の癌発生メカニズムを見直すことにもつながる可能性があります。子宮内膜は、卵巣からのホルモンの影響で毎月増殖・脱落を繰り返すという人体の中でも極めて個性的な特徴をもつ組織です。こうした月経という現象に対応し、生存に有利な環境を得るために遺伝子変異が獲得されているのかもしれません。

Figure1

図:本研究結果に基づいて、子宮内膜症における月経血逆流説を表した図。正常子宮内膜に由来する癌関連遺伝子(KRASPIK3CAが代表的)をもった子宮内膜細胞が月経時に卵管を逆流して腹腔内に到達します。卵巣表面に生着した子宮内膜細胞が増殖し、卵巣子宮内膜症を形成します。

2018/08/10

夏季休業のお知らせ(8/16,17)

本研究所は、下記のとおり夏季一斉休業を実施します。
ご不便をおかけいたしますが、ご理解とご協力のほどお願いいたします。


平成30年8月16日(木)、17日(金)

2018/08/08

斜視、早期治療への可能性を拓く

Press Release

Protocadherin-mediated cell repulsion controls the central topography and efferent projections of the abducens nucleus

Kazuhide Asakawa, Koichi Kawakami

Cell Reports Volume 24, ISSUE 6, P1562-1572, August 07, 201 DOI:10.1016/j.celrep.2018.07.024

プレスリリース資料

片方の眼が目標とは違う方を向いてしまう斜視は、子どものおよそ2%で発症するといわれています。斜視の原因は環境要因と遺伝要因の両方と考えられていますが、遺伝要因は現在のところ一部しか解明されていません。眼の動きの発達に関わる遺伝子を発見してその働きを理解することは、斜視の適切な治療につながると期待されています。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の浅川和秀助教らの研究グループは、眼の動きの発達に必要な新しい遺伝子を発見しました。

眼の動きは、脳からの指令を眼を動かす筋肉に伝達することで制御されます。本研究グループは、身体が透明に近い熱帯魚ゼブラフィッシュを実験材料に使うことで、“脳と筋肉のつながり”の全体像を観察する、という長年にわたり困難とされてきた課題を克服しました。この新しく開発した観察法とゲノム編集法などを組み合わせて、脳と筋肉のつながりに必要な遺伝子を探索しました。その結果、プロトカドヘリン(Pcdh17)タンパク質を作る遺伝子の働きを阻害すると、脳の細胞が凝集して、眼の筋肉にまで到達できなくなることを発見しました(図1)。この研究によって、「脳の細胞が互いに反発しながら筋肉に到達する」、という脳と眼の筋肉のつながりを発達させる新しい仕組みが明らかになりました。プロトカドヘリンは、私たちヒトの脳でも働いていることから、プロトカドヘリンをつくる遺伝子の変異によって眼の動きの発達が停滞し、斜視が発症しやすくなる可能性が考えられます。

本研究成果は、米国のオンライン科学雑誌『Cell Reports』に平成8月7日(米国東部標準時)に掲載されます。

本研究は情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の浅川和秀助教と川上浩一教授らの研究チームによっておこなわれました。

また、本研究は科研費補助金(JP15H02370, JP18H04988, JP22700349, JP23115720) 、日本医療研究開発機構ナショナルバイオリソースプロジェクト、上原記念生命科学財団、花王芸術・科学財団、三菱財団、第一三共生命科学研究振興財団の支援を受けておこなわれました。

Figure1

図:
(左)プロトカドヘリンを介した反発力によって、脳と筋肉がつながる。
(右)反発力が十分でないと、脳の細胞が凝集し、筋肉に到達できない。

2018/08/07

北極と南極の雪を赤く染める藻類の地理的分布の解明

Press Release

Bipolar dispersal of red-snow algae

Takahiro Segawa*, Ryo Matsuzaki, Nozomu Takeuchi, Ayumi Akiyoshi, Francisco Navarro, Shin Sugiyama, Takahiro Yonezawa, Hiroshi Mori *責任著者

Nature Communications 9, Article number: 3094 (2018) DOI:10.1038/s41467-018-05521-w

プレスリリース資料

山梨大学総合分析実験センター 瀬川高弘助教,国立環境研究所 松崎令JSPS特別研究員,千葉大学理学部 竹内望教授らの研究グループは,国立極地研究所 秋好歩美技術専門員,北海道大学低温科学研究所 杉山慎教授,東京農業大学 米澤隆弘准教授,国立遺伝学研究所 森宙史助教とのチームと共同で,世界各地の雪氷環境に生息する雪氷藻類に対して遺伝子解析を行い,特定の藻類種が北極と南極の両極から共通で検出されること,またそれらは現在も分散,交流している可能性があることを明らかにしました.

雪氷藻類は,融解期の雪氷上で繁殖する光合成微生物で,世界各地の氷河や積雪上に広く分布しています.雪氷藻類の多くは緑色の藻類(緑藻)に分類されていますが,雪氷上の強光によるDNAの損傷を防ぐために,細胞内にアスタキサンチンなどの赤い色素を貯め込むので,高密度に繁殖すると雪が赤く染まったように見えます(図1).この現象は赤雪と呼ばれ,日本をはじめ南極から北極まで世界各地の積雪でみることができますが,優占する藻類細胞はほぼ休眠胞子で,どこの赤雪でもほぼ似たような色とサイズであることから(図2),顕微鏡で観察しても正確な種同定は難しいことが知られています.

氷河や積雪といった雪氷圏は,極域や高山にそれぞれ地理的に独立して分布していることから,距離的に離れた各地の雪氷藻類が同一種なのかどうかは興味深い問題です.近年の研究から,北極域ではどこでも同じ種類の雪氷藻が分布していると信じられてきました.しかしながら,北極と南極の両極の赤雪試料を用いて,より解像度の高い手法による遺伝子分析を実施した結果,大部分の藻類は南極もしくは北極のどちらかに分布し,北極域においても特定の地域または氷河からのみ検出される事がわかりました.さらに,ごく一部の系統の藻類が両極に分布し,このようなタイプの藻類が積雪や氷河上で多くの割合を占めている事も示しました.本研究は,微生物の全球的な分散や,多様な微生物たちが相互作用する生態系を理解する上で,重要な知見になると期待されます.

本研究成果は,Nature Communications 誌に掲載されました(日本時間平成 30 年 8月 6日午後 6 時 オンライン版掲載).

遺伝研の貢献
ゲノム進化研究室 森宙史助教は赤雪の塩基配列データを用いた配列クラスタリングや系統推定等の情報解析を行いました。解析には遺伝研スーパーコンピュータを使用しました。

Figure1

図1:
(左、中央)赤雪の写真 アラスカで観察された赤雪現象.
(右)赤雪を構成する主な雪氷藻類 赤い色素をもった雪氷藻類の増殖により,雪が赤く染まる.

Figure1

図2:各地域間の微生物—微生物ネットワーク図
雪氷藻類の完全一致配列は,ほとんどが地域固有のものであり,地域間で共通する配列は少なかった.完全一致配列(点)につながった線の色が,その配列が検出された地域を示している.図中の矢印が全ての地域から検出された完全一致配列.

Figure1

図3:両極から検出された雪氷藻類の割合
完全一致配列の多くは特定の地域のみに存在するエンデミックなものであり(平均55.1%),両極から検出された(=コスモポリタンな)完全一致配列(912種類の配列)が全ての完全一致配列に占める割合は,地域別で3-9%(平均1.4%)と低頻度だった(図A).一方,コスモポリタンな完全一致配列(912種類の配列)が全塩基配列数に占める割合は平均で37.3%と高く(図B),限られた系統の雪氷藻類が全球に共通して分布しており,それらが赤雪上では優占していることが明らかとなった.

2018/08/07

樹状突起が適切な方向に伸びる仕組み ―世界初:新生児マウス脳で神経細胞を長期間くり返し観察することに成功―

Press Release

Differential dynamics of cortical neuron dendritic trees revealed by long-term in vivo imaging in neonates

Shingo Nakazawa, Hidenobu Mizuno, Takuji Iwasato

Nature Communications 9, Article number: 3106 (2018) DOI:10.1038/s41467-018-05563-0

プレスリリース資料

個々の神経細胞が適切な方向に樹状突起(1)を伸ばすことは、脳が正常に機能するために重要です。しかしながら、新生児期の脳の中の神経細胞を長期間観察する技術がなかったため、神経細胞がどのように樹状突起を伸ばすかは、よくわかっていませんでした。

情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の中沢信吾 総研大大学院生、水野秀信 助教(現熊本大特任准教授)と岩里琢治 教授の研究グループは、マウスの大脳皮質の特定の神経細胞を、樹状突起形成に重要な生後3日目から6日目までの3日間くり返し観察することに世界で初めて成功しました。

その結果、樹状突起はいろいろな向きで生えては消えてということを繰り返しており、偏った方向から入力(刺激など)があるときには、入力の向きに生えたものの一部だけが生き残り「勝者」として大きく成長することがわかりました(図1)。

本研究で、世界で初めて哺乳類新生児の脳の中の神経細胞を長期間(3日間)にわたり観察することで、大脳皮質の神経回路が作られる仕組みの一端を明らかにしました。

本研究成果は、英国電子ジャーナル Nature Communicationsに平成30年8月6日(グリニッジ標準時)に掲載されました。

本研究は、国立遺伝学研究所 形質遺伝研究部門(岩里琢治 教授)にて、中沢信吾(総研大大学院生)が中心となり、水野秀信 助教(現熊本大学 国際先端医学研究機構 特任准教授)の協力のもと行われました。

この研究は新学術領域研究「スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御」(JP16H06459)および科研費(JP15J03643、JP16H06143、 JP16K14559、JP15H01454、JP15H04263)の支援を受けて行われました。

Figure1

図1:新生児の大脳皮質での樹状突起の発達
神経細胞の樹状突起はあらゆる方向に作られたり消えたりしているが、特定の方向(緑色の部分)からのみ入力を受ける場合、入力の方向に生えたものの一部だけが勝者となり生き残り大きく成長する。早い者勝ちではなく後から生えた樹状突起にも勝者となるチャンスがある。その結果として、入力のある方向だけに樹状突起が広がるようになる。(形成されたばかりの樹状突起をオレンジ、勝者となり大きく成長していく樹状突起を赤、敗者となり消えた樹状突起を点線で表した。)
 一方、どちらの方向からも入力を受けることができる場合、樹状突起の生存競争は緩和し、多くの樹状突起が生き延びマイルドに成長する。

Figure1

図2:観察の手順
二光子顕微鏡(3)を用いて、生後3日目から6日目まで繰り返し同じ神経細胞を観察し、神経細胞の形態変化を解析した。仔マウスは観察の合間に母親マウスの世話をうけながら正常に成長した。

本研究の基盤となった実験技術についてこちらでご覧いただけます

本論文の第1著者の中沢さんが「森島奨励賞」を受賞しました


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