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2019/08/29

インドネシアの古代湖はメダカの進化のゆりかご ~スラウェシ島の湖で3種のメダカが同所的に種分化したことを証明~

Press release

Evidence for sympatric speciation in a Wallacean ancient lake

Nobu Sutra, Junko Kusumi, Javier Montenegro, Hirozumi Kobayashi, Shingo Fujimoto, Kawilarang W. A. Masengi, Atsushi J. Nagano, Atsushi Toyoda, Masatoshi Matsunami, Ryosuke Kimura, Kazunori Yamahira

Evolution 13 August 2019 DOI:10.1111/evo.13821

プレスリリース資料

 琉球大学の山平寿智教授、松波雅俊助教、木村亮介准教授、九州大学の楠見淳子准教授、龍谷大学の永野惇准教授、および国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授らの共同研究チームによる研究成果が、進化学の国際学術雑誌「Evolution」誌に掲載されます。※本日オンライン版に掲載されました。

<発表のポイント>
◆インドネシアのスラウェシ島の古代湖に生息する3種のメダカが、1つの湖の中で同所的に3種に分化したことを明らかにしました。
◆種の誕生=種分化は、通常集団が別々の場所に隔離されることが引き金となります。隔離を伴わない“同所的種分化”の実証例はこれまでに数例しか知られていませんでした。種分化の仕組みの一端を明らかにしたことは、地球上の生物多様性の成り立ちを知る上で重要な研究成果です。
◆メダカは日本が誇る生物学のモデル生物です。今後は、同所的種分化の原因遺伝子の特定など、モデル生物としての利点を活かした種分化研究の展開が期待されます。

国立遺伝学研究所の貢献
国立遺伝学研究所 比較ゲノム解析研究室は、先進ゲノム支援の一環として、インドネシアの スラウェシ島ボソ湖に生息する3種のメダカの多型情報を得るために必要な参照配列(セレベ ンシスメダカのゲノム)を主にPacBio Sequelのロングリードを用いて構築しました。

Figure1

図: インドネシアのスラウェシ島の古代湖と古代湖に生息する3種のメダカ

2019/08/26

[遺伝研70周年記念] 第二部パネルディスカッションをまとめたPDFを公開

パネルディスカッション

 6月1日に開催された遺伝研70周年記念講演会では、第二部にてパネルディスカッションがおこなわれました。
パネルディスカッションでは、小林武彦日本遺伝学会長、桂勲遺伝研前所長、大隅良典東工大栄誉教授の3名がパネラーとして登壇し、 「遺伝学について」、「3人の出会い」、「高校生の質問」などが話題となりました。
これらの内容をPDFにまとめ、以下のリンクから公開しました。

PDFリンク

70周年記念特設サイトリンク

2019/08/26

川上教授・鈴木准教授が「遺伝学講座・みしま」で講演

遺伝学講座・みしま

最新の研究についてわかりやすくお話しします。この機会に生命の不思議、遺伝について学んでみませんか。

内容:

発生遺伝学研究室 川上浩一教授
「モデル生物ゼブラフィッシュで生命の謎を解く」

遺伝子回路研究室 鈴木えみ子准教授
「ミクロの世界の遺伝学~電子顕微鏡で解き明かす生命の不思議~」

対象:

三島市民及び近隣住民(先着350人)

日時:

令和元年9月29日(日)
18時00分から20時00分(開場17時30分)

場所:

三島市民文化会館小ホール(一番町20番5号)

申込:

要申込
三島市政策企画課までお申込みください。
申込時に、①代表者名②人数③連絡先 をお伝えください。
申込締切は令和元年9月24日(火)です。

TEL:055-983-2616
FAX:055-973-5722
E-mail: seisaku@city.mishima.shizuoka.jp

三島市HP

2019/08/23

ゼブラフィッシュ研究からわかった「てんかん発作」の新しい仕組み ―てんかん発作へのグリア細胞ネットワークの関与―

Press release

Glia-neuron interactions underlie state transitions to generalized seizures

Carmen Diaz-Verdugo, Sverre Myren-Svelstad, Ecem Aydin, Evelien van Hoeymissen, Celine Deneubourg, Silke Vanderhaeghe, Julie Vancraeynest, Robbrecht Pelgrims, Mehmet LLyas Cosacak, Akira Muto, Caghan Kizil, Koichi Kawakami6, Nathalie Jurisch-Yaksi & Emre Yaksi

Nature Communications 10, Article number: 3830 (2019) DOI:10.1038/s41467-019-11739-z

プレスリリース資料

重篤なてんかん発作が発生すると脳神経細胞のはたらきとつながりが大きく変化します。この変化を通して、脳神経細胞のネットワークはバランスのとれた安静状態から、きわめて活動的、同期的になります。しかしながら、この変化の根底にあるしくみはわかっていませんでした。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の川上浩一教授らとノルウェー科学技術大学カヴリ統合神経科学研究所ほかの共同研究グループは、モデル生物のゼブラフィッシュにおいて、てんかん発作を人為的に発生させて、脳全体の神経細胞とグリア細胞の活動をカルシウムイメージングによって調べました。その結果、てんかん発作直前に、神経細胞に先んじてグリア細胞のネットワークが大きく活動することを見出しました。

これまでのてんかん治療薬は、神経細胞やその活動をターゲットにしたものが主流でしたが、この研究成果によってグリア細胞やその活動をターゲットにしたてんかん治療薬の開発が期待できます。

本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications」に2019年8月23日午前10時(英国夏時間)に掲載されました。

Figure1

図: ゼブラフィッシュ脳のグリア細胞の活動のカルシウムイメージング
ゼブラフィッシュの稚魚で人為的にてんかんを発生させたときのグリア細胞の活動の様子をカルシウムイメージングで記録した。紫色の部分がグリア細胞ネットワークを示す。

2019/08/21

微生物ゲノムの遺伝子アノテーションおよびDDBJ登録支援ツール DFAST

DFAST: a flexible prokaryotic genome annotation pipeline for faster genome publication

Yasuhiro Tanizawa, Takatomo Fujisawa, Yasukazu Nakamura

Bioinformatics 34(6) 1037-9, 2018 DOI:10.1093/bioinformatics/btx713

新型シークエンサーの利用が広がる微生物のゲノム研究においては大量のゲノムデータを高速に処理することが求められつつあります。また一方で、新規解読された塩基配列は公共塩基配列データベースに登録することが学術雑誌への論文掲載の必須条件となっており、煩雑な登録手続きは研究者の大きな負担ともなっています。DDBJ Fast Annotation and Submission Tool (DFAST) は微生物ゲノムアノテーションおよびDDBJへの塩基配列登録支援を目的に開発された解析パイプラインです。画面上の操作のみでDDBJへの塩基配列登録に必要なファイルを生成することができるウェブ版と、コマンドラインで動作し大量データ処理や解析ワークフローの自由なカスタマイズを特長とするスタンドアローン版が開発されており、https://dfast.nig.ac.jp で利用可能となっています。典型的なゲノムサイズのバクテリアであれば5分でアノテーションを行うことができ、偽遺伝子の検出やセレノシステイン等のアミノ酸翻訳時の例外検出などの独自の機能も持っています。

実験研究者とバイオインフォマティシャンのどちらにとっても使いやすいツールを目指した本ツールにより、微生物研究におけるゲノムデータの利用を一層促進することが期待されます。

Figure1

図:A) DFASTのアノテーションワークフロー。B) ウェブ版DFASTのジョブ投入フォーム

2019/08/19

イネの花粉形成を司る葯タペート細胞でオートファジーの可視化に成功

Monitoring autophagy in rice tapetal cells during pollen maturation.

Shigeru Hanamata, Jumpei Sawada, Bunki Toh, Seijiro Ono, Kazunori Ogawa, Togo Fukunaga, Ken-Ichi Nonomura, Takamitsu Kurusu, Kazuyuki Kuchitsu.

Plant Biotechnology 36 (2): 99-105 (2019) DOI:10.5511/plantbiotechnology.19.0417a

オートファジーは、真核生物に広く存在するタンパク質や脂質など生体分子の大規模な分解系です。最近では、我々の主食である穀物イネの正常な花粉・種子の形成にも必須の役割を果たすことがわかっています。本論文では、イネの花粉への栄養・材料の供給組織である葯タペート細胞における、時空間的なオートファジー動態の定量解析手法を開発しました。

タペート細胞においてオートファジーの誘導過程を可視化するために、タペート細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーターを用いて、オートファゴソーム(用語解説)の形成に必要なATG8とGFPの融合タンパク質をイネで誘導し、解析を行いました。タペート細胞の細胞質特異的にオートファゴソーム様の構造体が観察されるとともに(図1A)、葯の発達ステージ毎の3次元画像解析から、特定のステージからタペート細胞全体にオートファジーが誘導されることが明らかになりました(図1B)。

今後は、多様なイネの葯発達に異常を示す変異体群に本技術を適用することで、穀物イネの葯発達のしくみや、その過程におけるオートファジーの重要性を明らかにできると期待されます。さらに、地球環境変動などの要因により、イネの品質や収量の低下が懸念される中で、それを防ぐ新たな技術開発への貢献も期待されます。

本研究は、東京理科大学、公立諏訪東京理科大学、国立遺伝学研究所の共同研究成果であり、NIG-JOINT (84A2018)の支援を受けました。

用語解説
オートファゴソーム:オートファジーを担う、細胞内の二重膜に包まれた球状の構造体

Figure1

図:イネの葯におけるオートゴソーム/細胞内オートファジー関連構造体の可視化
 (A) GFP-ATG8を発現するイネの葯の縦断切片の、レーザー共焦点蛍光顕微鏡による可視化解析。中央の黒い多数の球状の構造物は、将来花粉になる小胞子。GFP-ATG8はタペート組織全体に分布し(緑)、しばしばオートファゴソーム様のドット(赤い矢頭)として検出される。タペートを取り囲むマジェンタのシグナルは、葯壁細胞のクロロフィルの自家蛍光。(B) オートファジーが進行中の葯の3D再構築画像。 「図は掲載誌より転載」

2019/08/09

神経回路構築研究室 中沢研究員が「時実利彦記念神経科学優秀博士研究賞」を受賞

 神経回路構築研究室の中沢さんが、2019年7月に開催されたNEURO2019(第42回日本神経科学大会・第62回日本神経化学会大会合同大会)において「時実利彦記念神経科学優秀博士研究賞」を受賞しました。

この賞は、神経科学・脳科学分野における大学院学生による優秀な研究への助成により、同分野の若手研究者を顕彰し、日本における同分野の研究の更なる発展を促進することを目的として、在学中もしくは、博士号取得2年以内の研究者に贈られるものです。

▶ 学会HP:日本神経科学学会 「時実利彦記念神経科学優秀博士研究賞」受賞者一覧

▶ 受賞テーマ:新生仔マウス大脳皮質の長期in vivoイメージングによる神経回路再編の動的機構の解明

岩里研究室・神経回路構築研究室

中沢さんは総合研究大学院大学で2018年9月に学位を取得しており、その際 総合研究大学院大学の「SOKENDAI 賞」
遺伝学専攻の「森島奨励賞」も受賞しています。

2019/08/02

マウスが黒毛になるしくみ、四半世紀を経て解明 ―江戸時代の愛玩用ねずみから受け継がれた遺伝子―

Press release

Nested retrotransposition in the East Asian mouse genome causes the classical nonagouti mutation

Akira Tanave, Yuji Imai, Tsuyoshi Koide

Communications Biology 2 August 2019 10.1038/s42003-019-0539-7

プレスリリース資料

マウス遺伝学の「ABC」をご存知でしょうか?aは黒色の毛色になる変異、bは茶色の毛色になる変異、cは白色の毛色(アルビノ)になる変異です。(図1)このABCは、マウス遺伝学の黎明期にアルファベットの一文字で有名な変異が順番に表記されたことに由来し、これらの変異を「古典的変異」と呼びます。黒色の毛色になるaはノンアグーチとよばれ、その原因は1994年の論文で報告されました。その論文によると、Agouti遺伝子内にVL30というレトロウイルス様配列が挿入されたことで毛色が野生色の茶色から黒色に変化したとされ、今までの四半世紀の間、広く信じられてきました。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の田邉彰研究員と小出剛准教授らの研究グループは、VL30の挿入が原因ではなく、この配列の中にさらに入れ子状に挿入された別のタイプのレトロウイルス様配列(β4)が、黒色の毛色の真の原因であることをつきとめました。(図2)また、この黒毛変異は日本産愛玩用マウスを起源としていることを発見しました。(図3)この黒毛変異は現在の標準的な実験用マウス系統の多くに共通してみられることも分かりました。

本研究成果は、マウス実験で古くから利用されている黒毛変異の理解を深めるとともに、レトロウイルス様配列の挿入に起因する遺伝子変異のしくみおよびゲノム進化の理解に貢献すると期待されます。

本研究成果は、英国科学雑誌「Communications Biology」に2019年8月2日午前10時(英国夏時間)に掲載されました。

本研究の一部は、科研費(基盤研究B)「新規野生由来ヘテロジニアスマウス集団を用いた不安障害モデルの確立」、科研費(基盤研究B)「動物のヒトへのなつき行動における遺伝子・神経回路および行動学的基盤の解明」の支援を受けておこなわれました。

Figure1

図1: 代表的な実験用系統C57BL/6 (B6)と野生系統MSM
(左)B6系統は黒毛のノンアグーチ変異(a)を有することで知られている。他にも多数の実験用系統がノンアグーチ変異を持つ。
(右)日本産の野生系統MSM。アグーチ(A)の遺伝子型で野生色(茶色)を示す。

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図2: アグーチ遺伝子へのレトロウイルス様配列挿入が引き起こす黒色の毛色
古典的変異であるノンアグーチは、2段階のレトロウイルス様配列の挿入により生じた。アグーチ遺伝子のイントロン内にレトロウイルス様配列のVL30が挿入されたが、アグーチの毛色に変化は生じない。次にVL30内にレトロウイルス様配列β4が挿入されたことで、アグーチ遺伝子の発現が遮断され、黒色の毛色が生じた。ゲノム編集によりβ4配列のみを削除したβ4-delマウスと、β4を含むVL30全体を削除したVL30-delマウスは、ともに茶色のアグーチ表現型を示したことにより、β4が黒色に毛色を変化させる主要な役割を果たしていることがわかる。

Figure1

図3: 古典的変異ノンアグーチ(黒毛)と日本産愛玩用マウスとの関連
VL30配列は、東アジア産野生マウスにおいてアグーチ遺伝子に挿入された。その後、日本産愛玩用マウスがつくられるまでの過程でVL30内にβ4の挿入が生じて、黒毛となった。日本産愛玩用マウスと標準的な実験用マウスの間で同じ黒毛変異が共有されていることから、ノンアグーチ変異は日本産愛玩用マウスから広まったものであることが分かった。実験用マウスB6と日本産愛玩用マウスJF1は、ともにβ4の挿入を持ち黒毛になる。


▶ Nature Research Ecology & Evolution Communityの”BEHIND THE PAPER”に小出准教授による紹介記事が掲載されました。
Reexamining the a of Mouse Genetics A to Z

▶本成果に関する小出准教授の”Comment”が同学術誌に掲載されました。
A role for the rare endogenous retrovirus β4 in development of Japanese fancy mice(PDF)


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