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2019/02/26

Cep57-PCNT複合体による分裂期中心体の制御機構の解明: MVA(多彩異数性モザイク)症候群とMOPDⅡ(小頭症性骨異形成性原発性小人症2型)の発症機構の解明

北川研究室・中心体生物学研究部門

The Cep57-pericentrin module organizes PCM organization and centriole engagement

Koki Watanabe, Daisuke Takao, Kei K. Ito, Mikiko Takahashi, Daiju Kitagawa

Nature Communications 10, Article number: 931 (2019) DOI:10.1038/s41467-019-08862-2

細胞分裂に伴い、遺伝情報を運ぶ染色体(DNA)が複製されて倍加し、娘細胞に均等に分配されることはよく知られています。このときに染色体を 2 方向に引っ張っているのが、微小管とよばれる繊維状の構造体であり、この微小管形成の中心として働くのが中心体です。この中心体の数や機能に異常が生じると、染色体を適切に分配できず、ゲノム不安定化に起因する癌などの疾患に繋がることが知られています。

中心体の構造はその核として機能する2つの母・娘中心小体とそれを取り囲む中心体マトリクス(PCM)から構成されています。細胞分裂前に母中心小体から娘中心小体が複製されますが、形成されたばかりの娘中心小体は細胞分裂の間、母中心小体に近接して存在します。しかしながら、細胞分裂時における母・娘中心小体ペアの結合メカニズムについては未知な部分が多く残っていました。

今回、東京大学大学院薬学系研究科(前・国立遺伝学研究所)の北川大樹教授、渡辺紘己研究員、高尾大輔助教、伊藤慶(学部四年生)らのグループは、帝京平成大学の高橋美樹子教授と共同で、母・娘中心小体間の結合とゲノム安定性維持に必須な中心体因子複合体(Cep57-PCNT複合体)を発見しました。Cep57、PCNTはそれぞれ多彩異数性モザイク(MVA)症候群とMOPDⅡと呼ばれる難病の原因遺伝子として知られていましたが、その発症メカニズムは長らく不明なままでした。Cep57-PCNT複合体に異常が生じると、分裂期前期に母・娘中心小体が早期に分離してしまい、適切な紡錘体が形成されないために、染色体分配異常が高頻度に誘発されることを明らかにしました。さらに、両疾患の患者由来の細胞や遺伝子変異体を用いた詳細な解析から、母・娘中心小体間の結合異常が両疾患の発症原因であることを明らかにしました。

本研究成果は、MVA症候群および、MOPDⅡの予防や治療のみならず、中心体の異常に起因する様々な病気の原因解明に役立つことが期待されます。

本研究は、日本学術振興会 特別研究員奨励費、科学研究費補助金・若手(A)、武田科学振興財団、持田記念医学薬学振興財団、第一三共生命科学研究振興財団、上原記念生命科学財団の支援により行われました。

Figure1

図:分裂期の正常細胞では、母・娘中心小体ペアは近接して存在することで、微小管形成の中心として機能し、適切に染色体を分配します。Cep57-PCNT複合体の異常(MVA症候群、MOPD病)では、母・娘中心小体が早期に分離し、ひいては染色体分配異常の原因となることを明らかにしました。

2019/02/19

活性酸素を除去する新型酵素を昆虫から発見

Press Release

Comparative analysis of seven types of superoxide dismutases for their ability to respond to oxidative stress in Bombyx mori

Yuta Kobayashi, Yosui Nojima, Takuma Sakamoto, Kikuo Iwabuchi, Takeru Nakazato, Hidemasa Bono, Atsushi Toyoda, Asao Fujiyama, Michael R. Kanost and Hiroko Tabunoki

Scientific Reports 2019 URL:www.nature.com/articles/s41598-018-38384-8

プレスリリース資料

東京農工大学大学院農学府生物生産科学専攻 小林裕太と大学院連合農学研究科 野島陽水、大学院農学研究院生物生産科学部門 天竺桂弘子准教授とカンザス州立大学Michael R Kanost教授、国立遺伝学研究所、ライフサイエンス統合データベースセンターにより構成された研究グループは、活性酸素を除去する働きのある新型の酵素を昆虫から発見しました。本成果は、昆虫が他の生物にはない環境適応能力を持つ理由の解明に繋がると期待されます。

昆虫は他の生物が選ばない毒成分を含む食物や、厳しい生存環境を積極的に利用して、地球上で大繁栄することができたと考えられています。その適応システムのひとつとして、環境からストレスを受けた際に発生する多量の活性酸素を素早く処理できる能力があります。そのため昆虫は哺乳類とは異なる、活性酸素を除去する特別なシステムを持つと推測されていましたが、それに関わる酵素については分かっていませんでした。

本研究チームは、蛾(チョウ目昆虫に分類されます)に注目しました。公開されているカイコやタバコスズメガの遺伝子データベースから、活性酸素を除去する酵素SODを、バイオインフォマティクスを用いて予想される遺伝子産物の類似性に着目し探索しました。その結果、カイコでは既に知られている3タイプに加えて新しい4タイプのSOD遺伝子が存在することを発見しました(図)。4種類のうち2種類は、既知のSODでは知られていないユニークなタンパク質構造を持ち、それらの発現は組織や発生段階、ストレス要因に応じて異なっていました。さらに、タバコスズメガではカイコと共通するSOD遺伝子と共通しないSOD遺伝子が存在し、それぞれの昆虫において異なる遺伝子を使い分けていることが分かりました。

本研究チームが発見した特別なSODの機能解析が進めば、昆虫の環境適応戦略の仕組みの解明に役立つことが期待されます。さらに、昆虫とヒトのSOD遺伝子機能の比較により、ヒトのSODが進化の過程においてどのように機能の変化を遂げてきたのかを推測することができます。

研究体制
本研究は国際共同研究として東京農工大学(上記参照)、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所(豊田敦特任准教授、藤山秋佐夫特任教授)、情報システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設ライフサイエンス統合データベースセンター(坊農秀雅特任准教授、仲里猛留特任助教)およびアメリカ・カンザス州立大学(上記参照)で実施されました。

国立遺伝学研究所の貢献
比較ゲノム解析研究室および先端ゲノミクス推進センターはトランスクリプトーム配列解析を実施することにより、機能遺伝子の基盤情報提供と質の向上に貢献しました。

情報・システム研究機構 ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)の貢献
ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)はトランスクリプトームデータ解析を実施することにより、遺伝子発現の定量情報提供と生物種間比較データ解析に貢献しました。

Figure1

図:昆虫の遺伝子データベースから新規SOD遺伝子配列を発見

2019/02/15

大腸菌in vivo DNAクローニング(iVEC)のメカニズム

Exonuclease III (XthA) Enforces In Vivo DNA Cloning of Escherichia coli To Create Cohesive Ends

Shingo Nozaki, Hironori Niki

Journal of Bacteriology 2018 Dec 10 PMID:30530516 DOI:10.1128/JB.00660-18

DNAクローニング技術では制限酵素処理をしたDNA断片同士をDNAリガーゼにより結合させる方法がかつては主流でした。しかし、最近では末端部分に15 – 40 bp程度の相同配列を持たせたDNA同士を試験管内で結合させる方法が取って代わるようになりました。いずれの方法も精製した酵素を必要とします。意外なことにこのような精製酵素による処理をせずとも、相同配列が付加されたDNA断片を大腸菌に導入するだけで目的の組換え体を得ることができます。大腸菌の組換え能力を利用したDNAクローニング(iVEC、in vivo E. coli cloning)法については、これまでも様々手順や条件が検討されてきましたが、そのメカニズムに関しては分かっていませんでした。

今回私たちはiVEC活性が、3’→5’エキソヌクレアーゼであるXthAに依存することを明らかにしました。細胞内に入った二本鎖DNAはXthAにより3’末端のみが削られて一本鎖の5’突出末端を生じます。この相補的な一本鎖の5’突出末端同士が二本鎖を形成し、DNA断片同士がつながるのです。この作用原理を理解した上で、私たちはiVEC活性を高めた大腸菌株を新たに作製しました。この株を使うと最大7つのDNA断片を同時にクローニングできます。さらにコンピテント大腸菌の作製からDNAの導入までの実験操作をマイクロテストチューブ一本で行える形質転換法も開発しました。この新型形質転換方法と改良版iVEC株を組み合わせることで、DNAクローニングや遺伝子変異導入法に要する時間やコストを大幅に削減することできます。改良版iVEC株はナショナルバイオリソース大腸菌から公開されており、オンラインで入手可能となっています。

本論文はJournal of Bacteriology誌でSpotligt論文、またF1000primeの2つ星に選出されました。

Figure1

図:
(A) 大腸菌におけるin vivo クローニングのメカニズムのモデル
(B) “One-tube”形質転換。一本のチューブでコンピテントセルの作製から大腸菌へのDNAの導入までが可能。

2019/02/15

生態遺伝学研究室 石川助教が 内藤コンファレンスのポスター賞を受賞

石川先生

生態遺伝学研究室 石川麻乃 助教は、2018年10月2~5日に開催された「第46回 内藤コンファレンス」に於いてポスター発表を行い、ポスター賞を受賞しました。


第46回内藤コンファレンス

北野研究室・生態遺伝学研究室


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