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2020/11/30

お米(イネ胚乳)の生長を制御する遺伝子を同定
〜受粉無しでデンプンを蓄積〜

Press release

Mutation of the imprinted gene OsEMF2a induces autonomous endosperm development and delayed cellularization in rice.

Kaoru Tonosaki, Akemi Ono, Megumi Kunisada, Megumi Nishino, Hiroki Nagata, Shingo Sakamoto, Saku T. Kijima, Hiroyasu Furuumi, Ken-ichi Nonomura, Yutaka Sato, Masaru Ohme-Takagi, Masaki Endo, Luca Comai, Katsunori Hatakeyama, Taiji Kawakatsu, Tetsu Kinoshita.

The Plant Cell 2020 November 25 DOI:10.1093/plcell/koaa006

プレスリリース資料

横浜市立大学 木原生物学研究所 木下 哲 教授、岩手大学 殿崎 薫 助教(前 横浜市立大学 特任助教)らの研究グループは、イネの可食部にあたる胚乳の発生に関する研究から、デンプン合成を含めお米の生長を制御している遺伝子を同定することに成功しました。

イネの胚乳は、花粉がめしべに受粉受精することでその生長を開始します。今回、遺伝子発現の制御機構の一つであるヒストン修飾に関わるポリコーム複合体の構成因子OsEMF2a遺伝子の機能をゲノム編集によって欠損させた変異体で、受精していない子房においても自律的に胚乳が発生して肥大し、デンプン合成過程まで進行することを発見しました(図)。このことから、受精によって開始される一連の生長過程がOsEMF2aによって抑制されていることが考えられます。

イネの花粉は環境の影響を受けやすく、例えば気温が低い際には花粉が正常に形成されず冷害の主要因になることが知られています。本研究をさらに発展させることで、花粉を用いることなく充実した胚乳(お米)を作ることのできる品種を開発できれば、環境変化に左右されることのない安定したお米の生産が可能になると期待されます。

本研究は、文部科学省科研費 新学術領域研究「植物新種誕生の原理」、日本学術振興会(JSPS)若手研究B、科学技術振興機構(JST)ALCA「人為的アポミクシス誘導技術の開発による植物育種革命」などの支援を受けて、日本、アメリカの2カ国、計7研究機関の国際共同研究として遂行しました。また本研究は公募型共同研究「NIG-JOINT」の成果です。

本研究は『The Plant Cell』に掲載されました。(11月24日オンライン)

遺伝研の貢献
実験材料の育成と試料収集などで本研究に貢献しました。

Figure1

図: 通常のイネにおける胚乳発生(左)とemf2a変異体における自律的な胚乳発生(右) emf2a変異体では花粉を受粉しない場合でも、受粉した通常イネと同様に胚乳が肥大し、デンプン粒が形成される。

2020/11/12

染色体DNAをつかまえろ!〜コヒーシンローダーの役割〜

DNA Binding by the Mis4Scc2 Loader Promotes Topological DNA Entrapment by the Cohesin Ring.

Yumiko Kurokawa and Yasuto Murayama.

Cell Reports 33, 108357(2020) DOI:10.1016/j.celrep.2020.108357

生命の遺伝情報はDNAに書き込まれており、細胞の核内で染色体のかたちでコンパクトにまとめられています。細胞分裂時にはコピーされた後に一時的に割り箸のように接着しています(姉妹染色分体間接着)。姉妹染色分体間接着の形成は遺伝情報を均等に分配されるために必須であり、「コヒーシン」と呼ばれるリング状のタンパク質がそのリングの中にDNAを2本取り込むことで、DNA同士を束ねていると考えられています。しかし、コヒーシンがDNAをリング内に取り込む(トポロジカルなDNA結合)詳細なメカニズムは明らかになっていませんでした。

新分野創造センター・染色体生化学研究室の黒川裕美子特任研究員と村山泰斗准教授は、分裂酵母コヒーシンの姉妹染色分体間接着の形成に必須のコヒーシンローダータンパク質Mis4に着目しました。Mis4はこれまでの研究からコヒーシンのトポロジカルなDNA結合を促進することが明らかになっていますが、Mis4がどのようにコヒーシンの反応を促進するのかは不明でした。今回の研究により、Mis4が2か所でDNAと直接結合することが明らかとなり、このDNA結合によってコヒーシンーDNA―Mis4の3者複合体の形成だけでなく、コヒーシンリング内へのATPase依存的なDNAの取り込みが可能となることが明らかになりました。

本成果によりコヒーシンの染色体結合に重要なメカニズムが明らかになりました。コヒーシンやローダーの機能欠損は様々な疾患や不妊と相関があることが知られており、これらの原因究明や予防治療法の開発に繋がると期待されます。

本研究成果は、2020年11月10日 (米国東部時間) に米国科学雑誌 Cell Reports に掲載されました。

本研究は、科学研究補助金 (19H03160)、武田科学振興財団特定助成、内藤記念科学奨励金の支援を受けておこなわれました。

Figure1

図:ローダーによるコヒーシンのトポロジカルなDNA結合促進モデル。DNAはローダーとコヒーシンに挟み込まれる形となり、安定な3者複合体が形成される (赤丸が同定したDNA結合部位)。その後、コヒーシンの構造変化が促されてリングの一部が開けられ、DNAがリング内へ押し込まれることでトポロジカルなDNA結合が完了する。

2020/11/12

遺伝学的タンパク質除去:AID2による細胞及びマウス個体におけるタンパク質高速分解

Press release

The auxin-inducible degron 2 technology provides sharp degradation control in yeast, mammalian cells, and mice

A Yesbolatova, Y Saito, N Kitamoto, H Makino-Itou, R Ajima, R Nakano, H Nakaoka, K Fukui, K Gamo, Y Tominari, H Takeuchi, Y Saga, K Hayashi, MT Kanemaki

Nature Communications 11, 5701(2020) DOI:10.1038/s41467-020-19532-z

プレスリリース資料

タンパク質の働きを調べるには、そのタンパク質を除去して何が起きるのかを調べることが有効です。また、狙ったタンパク質の除去を任意のタイミングで制御できれば、タンパク質の機能を制御することができます。このようなニーズの中で、近年、「プロテインノックダウン」と呼ばれる、細胞内のタンパク質分解系を利用して標的タンパク質を分解する方法が注目されています。

国立遺伝学研究所の鐘巻将人教授を中心とする研究グループは、目印になる「デグロンタグ」を付加したタンパク質を分解除去する「AID2法」を開発し、出芽酵母、培養細胞、マウス個体において本方法が機能することを示しました。この方法では、タンパク質の分解を5-Ph-IAAという化合物と変異型TIR1ユビキチンリガーゼによって制御します。本技術により、狙ったタンパク質を必要な時のみ、素早く分解除去することが可能になったのです。AID2法を利用したタンパク質の発現操作は、生命科学の基礎研究に役立つのみならず、医学および創薬研究にも役立つことが期待されます。

本研究は国立遺伝学研究所の鐘巻将人教授が中心となり、同研究所の相賀裕美子教授、岡山理科大学の林謙一郎教授、東京大学の竹内春樹特任准教授、佐々木研究所の中岡博史部長、ファイメクス株式会社による共同研究により行われました。

本研究は日本学術振興会科研費(16K15095, 18H02170, 18H04719, 20H05396)、科学技術振興機構A-STEP(AS2915150U)、武田財団特定研究助成、AMEDナショナルバイオリソースプロジェクト基盤技術整備プログラムの支援により遂行されました。

本成果は英国科学雑誌Nature Communicationsに2020年11月11日(水)午後7時(日本時間)に掲載されました。

Figure1

図: AID2により、酵母、培養細胞、マウス個体において迅速な標的タンパク質分解制御が可能になった。

2020/11/09

第3回「寺deサイエンス」を開催:12月10日(木)

日 時: 令和2年12月10日(木)19:00~21:00

場 所: 君澤山 蓮馨寺(三島市広小路町1-39)

内 容:

 第1部:コンピューターグラフィクスによる科学的再現
 ~「Nスぺ恐竜超世界」制作舞台裏~

  講演:植田和貴氏(NHKエンタープライズ自然科学番組 チーフ・ディレクター)
  鼎談:植田和貴氏、
   五條堀孝 (遺伝学普及会 共同代表理事、KAUST特別栄誉教授)、
   小林武彦 (遺伝学普及会 共同代表理事、東京大学教授)

 第2部:遺伝学から見た新型コロナウィルス

  鼎談:中川草氏(東海大学医学部講師)、五條堀孝、小林武彦

対 象: サイエンスに関心のある一般の方 

定 員: 200人(Zoomでのライブ配信参加)、20人(収録場所での参加)
  12/9正午 申込〆切(先着順)遺伝学普及会維持会員 は優先します。

参加費: 無料(Zoomでのライブ配信参加)、1000円(収録場所での参加)

お申込: 専用フォーム


【問い合わせ】
〒411-8540 三島市谷田1111
公益財団法人遺伝学普及会
TEL:055-981-6857、 FAX:055-981-6877
Email:genetics@nig.ac.jp

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