Archive

2022/05/31

英国王立協会哲学紀要にて特集号を編集

北野研究室・生態遺伝学研究室

生態遺伝学研究室の北野潤教授は、リードエディターとして英国王立協会哲学紀要(Philosophical Transactions of the Royal Society B)に「Genetic basis of speciation and adaptation: From loci to causative mutations」の特集号を企画・編集し、このたび2022年5月30日に出版されました。英国王立協会哲学紀要は、現存する最古の科学雑誌(1665年より刊行)として知られています。

野生生物の適応進化や種分化の遺伝基盤を研究する分野はこの10年間で大きく進展しました。発展に貢献した一つの技術革新は次世代シークエンサーの開発でした。また、より近年にはゲノム編集技術の発展もその流れを加速化しました。このような生態遺伝学研究の現状を総括し、今後の展望を議論するために、コロナ禍の中、2020年の夏頃から企画を進め、このたび11本の論文・総説をまとめて発表することができました。

本特集号の編集は、生態遺伝学研究室の元助教の石川麻乃博士(現・東京大学・准教授)、元博士研究員のマーク・ラビネイ博士(現・ノッティンガム大学・助教授)、バージニー・コーティアー・オルゴゴーゾ博士(ジャックモノー研究所・グループリーダー)とともに行いました。科研費基盤A、JST CRESTなどの支援を受けて行いました。

特集号では、以下の北野グループの共著論文も発表しました。

1. 特集号全体の序文として、野生生物の適応進化や種分化の遺伝基盤を研究する意義、現状、今後の展望について議論しました。

Genetic basis of speciation and adaptation: From loci to causative mutations.

Kitano, J., Ishikawa, A., Ravinet, M., and Courtier-Orgogozo, V.

Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences (2022) 377, 20200503 DOI:10.1098/rstb.2020.0503

2. 生態遺伝学研究室では、海と淡水では不飽和脂肪酸のDHAの量が異なるため、海水魚と淡水魚ではDHA合成酵素をコードするFads2遺伝子のコピー数が異なることを見出して2019年にサイエンスに報告していましたが、今回、海水魚と淡水魚の間でコピー数の異なる遺伝子をゲノム配列情報から網羅的に探索し、Fads2以外に、免疫に関与するPSMB81、甲状腺ホルモンシグナルに関与するUGT2などが淡水魚で増幅している傾向を見出しました。本研究は、東京大学の石川麻乃准教授、山内駿さん、岩崎渉教授との共同研究として実施されました。

Convergent copy number increase of genes associated with freshwater colonisation in fishes.

Ishikawa, A., Yamanouchi, S., Iwasaki, W., and Kitano, J.

Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences (2022) 377, 20200509 DOI:10.1098/rstb.2020.0509

3. ゲノム編集技術を用いることで、野生生物の種分化や適応進化の遺伝研究において何ができるのか、とりわけ、染色体編集や遺伝子置換の最新手法についての総説を、東北大学の安齋賢助教と執筆しました。

Speciation and adaptation research meets genome editing.

Ansai, S., and Kitano, J.

Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences (2022) 377, 20200516 DOI:10.1098/rstb.2020.0516

2022/05/27

製品評価技術基盤機構と国立遺伝学研究所がバイオテクノロジー分野での連携に関する協定の締結式を開催

Press Release




Figure1
締結式、左から長谷川史彦 (NITE 理事長)、花岡文雄(遺伝研 所長)

 独立行政法人 製品評価技術基盤機構(以下、NITE(ナイト))[理事長:長谷川 史彦、所在地:東京都渋谷区西原]と大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所(以下、遺伝研)[所長:花岡 文雄、所在地:静岡県三島市]は、令和4年4月1日にバイオテクノロジー分野における包括的な連携協定を締結し、5月19日に締結式を行いました。

 9万株を超える微生物を保有し、微生物の持つ様々な情報を一元化した生物資源データプラットフォーム「DBRP」を提供するNITEと、ゲノム解析の中核拠点としてゲノム研究及びマイクロバイオーム研究の共同利用・共同研究を進める遺伝研が、双方の強みを融合させることにより、微生物を使用したバイオテクノロジーによるものづくりの研究開発とその実用化を支援します。

 また、5法人の大学共同利用の機能を強化する取組を通じて、研究教育・共同利用の両面から、大学や研究機関等の活動に貢献し、我が国の学術研究の発展に寄与してまいります。

プレスリリース資料

2022/05/24

モデル生物「ハリサンショウウニ」の全ゲノムを解読しデータベースを公開

TrBase: a genome and transcriptome database of Temnopleurus reevesii

S. Kinjo, M. Kiyomoto, H. Suzuki, T. Yamamoto, K. Ikeo, S. Yaguchi.

Development Growth & Differentiation 2022 May 19 DOI:10.1111/dgd.12780

プレスリリース資料

ウニは古くから発生生物学や細胞生物学の教育・研究材料として世界中で利用されています。日本においては、バフンウニ(Hemientrotus pulcherrimus)が主に用いられており、本研究グループでは、2018年にバフンウニの全ゲノム解読を行い、公的に利用できる遺伝子のデータベースHpBaseを作成し発表しています。一方で、バフンウニは受精卵から成長した個体が次の世代を生み出すまでの性成熟サイクルが1〜2年と長く、世代を超えて伝わる遺伝形質を解析するための対象としては不向きでした。そこで、新たなモデルとなるウニの確立を目指し、さまざまなウニの発生や成長を調べたところ、ハリサンショウウニ(Temnopleurus reevesii)の性成熟サイクルが約半年と非常に短いことを発見し、ノックアウト系統を作成することなどによって、その有用性を示してきました。

本研究では、ハリサンショウウニの全ゲノム情報を解読するとともに、公的に利用できる遺伝子のデータベースTrBaseを作成し公開しました。これにより、ハリサンショウウニが、ゲノム情報の整備されたモデル生物として、より多くの研究者や教育者に利用可能となり、ウニの発生や成長を司る遺伝子機能の解析などの基礎研究のみならず、水産などの応用研究や教育分野での活用などに貢献することが期待されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) が助成する戦略的創造研究推進事業 さきがけ「多細胞システムにおける細胞間相互作用とそのダイナミクス」研究領域(JPMJPR194C;2019-2022年度)および研究成果最適展開支援プログラムA-STEP「産学共同 (本格型)」(JPMJTR204E;2020-2025年度)、日本学術振興会が助成する科学研究費基盤(B)(26290070; 2014-2016年度)、科学研究費基盤(C)(JP19K06736; 2019-2021年度)、ゲノム支援(221S0002)によって実施されました。

次世代シーケンサー解析プラットフォーム「Maser」が本研究の基盤の一つになっています。

Figure1
図: TrBaseのトップページ
2022/05/18

魚類ヒレの進化的起源に関する150年来の定説を覆す
―新規仮説:ヒレは削り出しで作られるのではない!―

Developmental Independence of Median Fins From the larval Fin Fold Revises Their Evolutionary Origin

Kazuhide Miyamoto, Koichi Kawakami, Koji Tamura, Gembu Abe*
*責任著者

Scientific Reports (2022) 12, 7521 DOI:10.1038/s41598-022-11180-1

プレスリリース資料

魚類の正中ヒレ(背ビレ・尻ビレ・尾ビレ)は、遊泳などにおいて重要な器官です。正中ヒレの発生・進化の過程については、150年前に提唱された、膜ヒレからの「削り出し」で形成されるという仮説が信じられてきました。東北大学大学院生命科学研究科の宮本知英氏(博士課程前期学生)・阿部玄武助教(現・鳥取大准教授)らのグループは、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の川上浩一教授と共同研究を行い、熱帯魚ゼブラフィッシュを用いて背ビレの発生過程を分子・細胞レベルで解析しました。この結果から、背ビレは発生初期に作り出される一続きの膜ヒレとは独立した「背ビレを作る細胞の出現と増殖」によって形成されることを明らかにしました。これは、背ビレは祖先の持つ一続きのヒレから「削り出された」のではなく、「膜ヒレとは独立な細胞が出現・増殖する発生メカニズム」の新たな出現によって正中ヒレが獲得されたことを示唆するもので、ヒレの進化的起源の新たな仮説を提案する重要な報告になります。本研究結果は、5月7日付でScientific Reports誌に掲載されました。本研究は、文部科学省科学研究費補助金および笹川科学研究助成の支援を受けて行われました。

遺伝研の貢献: 国立遺伝学研究所では、独自に開発したトランスポゾンを用いた遺伝子トラップ技術により、発生段階において、さまざまな組織・細胞・器官を可視化できるトランスジェニックゼブラフィッシュを2000系統以上作製してきました。それらを元に、国内外の発生生物学・神経科学研究者と共同研究を展開しています。

Figure1
図: 正中ヒレの発生過程と獲得過程の新たな仮説
正中ヒレが作られる領域で間葉系細胞が出現・増殖することで正中ヒレが形成(青矢印)
全身の成長に伴い膜ヒレが退縮(オレンジ矢印)
青矢印で示した発生メカニズムが進化の中で生じたことで、正中ヒレが獲得された
2022/05/13

楕円じゃないのよ、タマゴは

The extra-embryonic space and the local contour are critical geometric constraints regulating cell arrangement

*Sungrim Seirin-Lee, Kazunori Yamamoto, *Akatsuki Kimura
*Corresponding authors

Development (2022) 149, dev200401 DOI:10.1242/dev.200401

プレスリリース資料

「タマゴはどんな形?」と聞かれたら、多くの方は「楕円(だえん)形」と答えると思います。科学者も生物の卵の中で起こっている現象を考えるときに、卵の形を楕円形(数学的には(x/a)²+(y/b)²+(z/c)²=1)とみなして数値シミュレーションなどを行ってきました。国立遺伝学研究所・細胞建築研究室でも、以前に線虫の卵殻を楕円形とみなした数値シミュレーションを行い、卵殻内で細胞が配置する様子をかなり正確に再現・説明できることを示してきました[1]。しかしながら、この研究の中で、「逆T字型」と名付けられた細胞配置だけは、卵の形を楕円形とみなした当時の数値シミュレーションでは再現できていませんでした。卵殻内での細胞の配置は、隣接する細胞間のコミュニケーションに影響するため、正常な個体発生に重要な役割を果たします。

今回、京都大学の李聖林教授はフェーズフィールド法という数値計算方法を用いることによって任意の卵殻の形状の中での細胞配置を予想するシミュレーションを開発しました。そして、国立遺伝学研究所の木村暁教授、神奈川工科大学の山本一徳助教が取得した実験データを用いて、卵の形を線虫の実際の卵殻の形に正確に合わせた数値シミュレーションを行いました。すると、卵の形を楕円形としていた以前のシミュレーションでは再現できなかった「逆T字型」が再現できることを発見したのです。このことは、卵の形を楕円形と単純化していては細胞配置を説明できないことがあることを示しています。

実際の線虫の卵の形は楕円形ほどは先端が尖っていません。実際の卵で膨らんでいる部分の空間が細胞の配置に影響を与えていました。この発見を発展させて、李教授らは卵殻の中で細胞が占有していない「空き空間」が細胞の配置に重要であると数値シミュレーションで予想しました。木村教授は山本助教と協力し、実験的に線虫胚の空き空間を増やし、数値シミュレーションで予想された細胞配置の変化が実際に起きることを示しました。このことは、卵殻内の空き空間の少しの違いが細胞配置に決定的な影響を及ぼすことを示す重要な成果です。

本研究成果は米国科学雑誌「Development」に2022年5⽉12⽇(アメリカ東部標準時)に掲載されました。

[1] 2017年プレスリリース「はじまりは卵の形だった~初期胚における細胞の配置パターンの決定機構~」 論文:Yamamoto & Kimura, Development 2017 DOI: 10.1242/dev.154609

公募型共同研究・研究会「NIG-JOINT」「無脊椎動物初期胚における細胞表層の力の測定と種間比較」(83A2021)の課題遂行の一環として山本助教が国立遺伝学研究所訪問時に、本研究に関する議論をおこないました。

Figure1
図: 1A)逆T字型を示す線虫の4細胞期胚。細胞の配置がT字型に並んでいる(黄色点線)。1B)逆T字型を再現するシミュレーション。[上] 卵殻の形を考慮した今回のシミュレーションでは、逆T字型の細胞配置の再現に成功している。[下] 卵殻を楕円形とした従来のシミュレーションでは、逆T字型ではなく、ひし型状に細胞が配置している。
2A,B)「空き空間」を増やすと細胞配置が変わる。
2A) 空き空間が10%の場合。シミュレーション[上]はひし型を予想し、実際の胚[下]でもひし型となった。
2B) 空き空間が20%の場合。シミュレーション[上]は直線状を予想し、実際の胚[下]でも直線状となった。
2022/05/10

ニホンオオカミの起源を解明

Paleogenomics reveals independent and hybrid origins of two morphologically distinct wolf lineages endemic to Japan.

Takahiro Segawa, Takahiro Yonezawa, Hiroshi Mori, Ayako Kohno, Yuichiro Kudo, Ayumi Akiyoshi, Jiaqi Wu, Fuyuki Tokanai, Minoru Sakamoto, Naoki Kohno, Hidenori Nishihara

Current Biology 2022 May 09 DOI:10.1016/j.cub.2022.04.034

プレスリリース資料

山梨大学、国立科学博物館、東京農業大学、東京工業大学、国立遺伝学研究所、山形大学、国立歴史民俗博物館などからなる研究グループは、日本列島に生息していたオオカミの化石を用いてゲノムDNAの解析と放射性炭素による年代測定に成功しました。その結果、従来のニホンオオカミの起源に関する定説を覆し、更新世の日本列島にはこれまで知られていない古い系統の大型オオカミが生息していたこと、またニホンオオカミの祖先は、更新世の古い系統のオオカミと最終氷期の後期に日本列島に入ってきた新しい系統の交雑により成立したことを初めて明らかにしました。本研究成果は、日本時間の2022年5月10日に米科学雑誌Current Biology(カレント・バイオロジー)電子版に掲載されました。

本研究は、日本学術振興会科研費(課題番号: 20K20942)、国立科学博物館の化学層序プロジェクトと国立歴史民俗博物館の直良信夫コレクション共同研究助成の支援を受けました。

遺伝研の貢献
遺伝研スパコンを活用した大規模配列解析により、ニホンオオカミのミトコンドリアドラフトゲノム配列の構築と核SNPデータの抽出を行いました。これにより他のオオカミ配列との分子系統解析や分岐年代推定等の詳細な解析を可能にしました。

Figure1
図: 研究成果の概要図
2022/05/06

分子細胞工学研究室・鐘巻教授によるショートレビューがNature誌のNews and Views欄に掲載

分子細胞工学研究室・鐘巻教授によるDNA複製に関する論文へのショートレビューがNature誌のNews and Views欄に掲載されました。
A rethink about enzymes that drive DNA replication

鐘巻教授によるコメント

Nature誌に新たに掲載された論文に関するショートレビューを書きました。これまでDNA複製には二つのキナーゼCDC7とCDK2が必要とされてきましたが、ヒト及びマウス細胞ではCDC7もしくはCDK1のみでDNA複製を開始できることが示されました。本研究には、私たちが開発したオーキシンデグロン(AID)法が使われました。

鐘巻研究室・分子細胞工学研究室


2022/05/06

ゲノムダイナミクス研究室・前島教授らが編集したCurrent Opinion in Cell Biology誌のCell Nucleus特集号が出版

Cell Nucleus

ゲノムダイナミクス研究室・前島一博教授とイスラエル・ヘブライ大学Eran Meshorer教授によって編集されたCurrent Opinion in Cell Biology誌のCell Nucleus特集号が出版されました。

2022年2月刊行のVol. 74に11報、4月刊行のVol. 75に4報の細胞核に関する総説論文が掲載されています。
https://www.sciencedirect.com/journal/current-opinion-in-cell-biology/vol/74/suppl/C
https://www.sciencedirect.com/journal/current-opinion-in-cell-biology/vol/75/suppl/C

Vol. 74には分子細胞工学研究室・鐘巻教授による“Ligand-induced degrons for studying nuclear functions”も掲載されました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0955067421001228

遺伝研・客員教授 であるオーストリアGregor Mendel Institute のFrederic Berger教授による植物のクロマチンの論文も掲載されています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0955067421001186

ゲノムダイナミクス研究室 前島研究室 

2022/05/02

光合成を止(や)めた藻類の100年の謎解く全ゲノム解読に成功
―「植物-(ひく)光合成=動物」ではない―

Genome evolution of a non-parasitic secondary heterotroph, the diatom Nitzschia putrida

Ryoma Kamikawa, Takako Mochizuki, Mika Sakamoto, Yasuhiro Tanizawa, Takuro Nakayama, Ryo Onuma, Ugo Cenci, Daniel Moog, Samuel Speak, Krisztina Sarkozi, Andrew Toseland, Cock van Oosterhout, Kaori Oyama, Misako Kato, Keitaro Kume, Motoki Kayama, Tomonori Azuma, Ken-ichiro Ishii, Hideaki Miyashita, Bernard Henrissat, Vincent Lombard, Joe Win, Sophien Kamoun, Yuichiro Kashiyama, Shigeki Mayama, Shin-ya Miyagishima, Goro Tanifuji, Thomas Mock, Yasukazu Nakamura

Science Advances (2022) 8, eabi5075 DOI:10.1126/sciadv.abi5075

プレスリリース資料

光合成は光エネルギーを利用して生きていくことができるため便利だろうと考えられていますが、実際には進化の過程で光合成を止めた「元」植物や「元」藻類が数多く生息しています。また、それらの多くは光合成をしない葉緑体を維持したままです。

京都大学大学院農学研究科 神川龍馬 准教授、筑波大学計算科学計算センター 中山卓郎 助教、国立科学博物館動物研究部 谷藤吾朗 研究主幹、国立遺伝学研究所 中村保一 教授らの共同研究グループは、地球全体の光合成の約20%に貢献すると言われる珪藻の中で、光合成を止めた種の全ゲノム解読に成功しました。この種は光合成をしない代わりに環境中に溶存する栄養分を吸収して生育していますが、その詳細なメカニズムはわかっていませんでした。本研究では全ゲノム解読に加え、機能している遺伝子を網羅的に検出するトランスクリプトーム解析や生化学実験などを用いた多角的な研究により、本種が光合成を止めた後も葉緑体での物質生産を維持しつつ、周りの養分を効率よく獲得するための能力を増大させていることが明らかとなりました。これは一般的な植物や藻類とも、そして動物とも異なる能力をもつことを意味します。光合成を止めた本種の全ゲノム解読は地球上で起きてきた生物進化の一面を解き明かすとともに、生物にとって光合成とは何かをひも解く鍵となることが期待されます。

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業 新学術領域研究『学術研究支援基盤形成』先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム(16H06279; PAGS)、JSPS科学研究費基盤(A)(18H03743)、JSPS科学研究費基盤(B)(17H03723、19H03274、20H03305)、JSPS科学研究費挑戦研究(20K15783、21K19303)、NIG-JOINT (7A2017, 6A2018, 30A2019) の支援を受けて行われました。また、本研究は、京都大学、国立遺伝学研究所、国立科学博物館、筑波大学を始めとした日本、英国、フランス、ドイツの大学・研究機関との国際共同研究として実施されました。

本成果は、2022年4月29日 に米国の国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

遺伝研の貢献
先進ゲノム支援・情報支援担当グループとして、遺伝研スパコンを活用した情報解析によりニッチア・プトリダのゲノムDNA塩基配列を決定するとともに遺伝子領域の推定と機能予測を行いました。これにより光合成を止めた珪藻が他の珪藻とどのように遺伝子の組成が異なるのかの詳細な比較・考察を可能にしました。

Figure1
図: 光合成を止(や)めた珪藻のゲノムから明らかになった細胞機能。葉緑体内で物質生産をしながらエネルギー源などは外部から得る(右)。光合成する珪藻(左)のエネルギー源は光であり、植物同様葉緑体内で様々な物質を産生する・シリカは珪藻の細胞壁の主成分。

  • X
  • facebook
  • youtube