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2016/02/24

集団遺伝研究部門 斎藤成也教授が『歴誌主義宣言』をウェッジより出版

歴誌主義宣言

ウェッジより「歴誌主義宣言」が2月20日に出版されました。詳細は下記および出版社ホームページをご覧ください。

タイトル:
 歴誌主義宣言
著者:
 斎藤成也 教授(集団遺伝研究部門
価格:
 本体1,600円+税

 ウェッジ 本書紹介ページ

2016/02/19

大腸菌のすべての転写因子の制御標的を同定

系統情報研究室・山﨑研究室

Transcription profile of Escherichia coli: genomic SELEX search for regulatory targets of transcription factors

Akira Ishihama, Tomohiro Shimada, and Yukiko Yamazaki

Nucleic Acids Research (2016) DOI:10.1093/nar/gkw051

ゲノムにある遺伝子のどれが転写されるかは、転写装置によって決定されます。転写装置のターゲットの選択は、転写酵素RNAポリメラーゼと転写因子との相互作用で制御されています。これまで、遺伝子個別の転写制御に関しては、細菌からヒトにいたるまで盛んに研究がおこなわれ、関与する転写因子とその作用機序が同定されてきました。しかし、ゲノムの全ての遺伝子を対象にした転写制御の全体像の解明には程遠く、新たな研究戦略が求められていました。

大腸菌は、遺伝子が約4,500しかなく、個々の遺伝子の機能が最も解析されているモデル生物です。大腸菌ゲノムの転写制御では、7種のプロモーター認識シグマ因子と300種の転写因子との2段階の相互作用によって標的遺伝子が決まります。本研究は、新規に開発したGenomic SELEX法を用いて、全てのシグマ因子と全ての転写因子の認識配列を決定し、その情報から全ての転写装置が支配する標的遺伝子群を明らかにしました。その成果の中から、今回、約半分の転写因子の解析データを分析し、論文として公表すると同時に、当研究所の新たなデータベース (TEC: Transcription Profile of Escherichia coli) として公開しました。

これまでにも大腸菌で働く転写装置と下流標的遺伝子は、様々な研究グループが明らからにしようとしてきましたが、実験に用いる大腸菌標準株でさえも変異の蓄積という点で遺伝的背景が異なることが判明しており、異なる研究室からの論文データの寄せ集めでは、ゲノム全体像の正しい理解は得られませんでした。一方、本研究は、遺伝的背景が等しい同一菌株を利用し、ひとつの研究室で実施された研究成果であることが特徴です。本研究は、ひとつの生物で働く全転写因子の制御機能解明の先駆けとなることが期待されます。

本研究は、当研究所の石浜明名誉教授の研究室(法政大学)と島田友裕博士(東工大)山崎由紀子研究室(遺伝研)との共同研究です。

TEC: https://shigen.nig.ac.jp/ecoli/tec/top/

Figure1

TECデータベースの機能:(A)転写因子(TF)の標的遺伝子候補の検索(B)全ゲノム上のTF結合位置を表示(C)2つ以上のTFの結合領域や強度の比較(D)TFの結合強度のヒートマップ表示(E)TF結合部位のコンセンサス配列を解析

2016/02/17

細胞培養系によるゼブラフィッシュの精原幹細胞から機能的精子までの分化

小型魚類開発研究室・酒井研究室

Differentiation of zebrafish spermatogonial stem cells to functional sperm in culture.

Toshihiro Kawasaki, Kellee R Siegfried and Noriyoshi Sakai.

Development, 2016 143: 566-574; DOI:10.1242/dev.129643

精子形成は精原幹細胞の自己再生と分化によって維持され、分化した精原細胞は細胞架橋でつながったシスト分裂により増幅した後、減数分裂を経て機能的な精子へと分化します。 この複雑な過程が成体の精巣内で起こるため、制御因子等の遺伝学的解析は容易ではありません。そこで私たちは、ゼブラフィッシュを用いて精子形成をin vitroで再現する細胞培養系の開発を進めました。 はじめに、精原幹細胞が過増殖した肥大化精巣に着目し、この組織を継代維持する方法として免疫不全ゼブラフィッシュへの移植法を確立しました。 肥大化精巣はゼブラフィッシュで極まれに見つかるものですが、この方法により、必要なときに必要な量の肥大化精巣が使えるようになりました。 そして、肥大化精巣を用いて精原幹細胞を効率よく増殖させる培養とそれを精子まで分化させる培養の条件を検討し、精子形成全過程を再現する細胞培養系を動物で初めて確立することができました。

これにより、精子形成の制御因子や影響を与える化合物などをin vitroで解析したり、特定の細胞や細胞内構造体をライブイメージングすることが容易になりました。 本研究では、その一例として酸素の精子形成に及ぼす影響を調べ、空気中の酸素濃度(20%)が精原幹細胞から機能的精子への分化に阻害的に働くことを見つけています。 本研究は科研費(23013023, 25251034, 25114003)の支援を受けています。

Figure1

精原幹細胞で緑色蛍光タンパクを発現する系統を用いた精原幹細胞−精子の細胞培養。 精原幹細胞培養系では精原幹細胞が増殖するのに対して(左および中央パネル)、精子への分化培養系では精原幹細胞が機能的精子へと分化していく(右パネル)。


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