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2013/03/26

染色体工学の新たな幕開け!高等動物のセントロメア作製に成功

Press Release

Chromosome engineering allows the efficient isolation of vertebrate neocentromeres

Wei-Hao Shang, Tetsuya Hori, Nuno M.C. Martins, Atsushi Toyoda, Sadahiko Misu, Norikazu Monma, Ichiro Hiratani, Kazuhiro Maeshima, Kazuho Ikeo, Asao Fujiyama, Hiroshi Kimura, William C. Earnshaw, and Tatsuo Fukagawa
Developmental Cell, 24(6), 635-648, 14 March 2013. DOI: doi:10.1016/j.devcel.2013.02.009

プレスリリース資料

生物学の教科書を書き換えるような根本的な発見が、染色体研究の分野で起こっています。長い間謎に包まれていた染色体のセントロメア ──その正体を明らかにしてきた国立遺伝学研究所の深川竜郎教授らのグループは、今回、セントロメアを人工的に作成する画期的な染色体改変技術を考案しました。 分子生物学の基本的な技術として、医学や農学などの分野で今後大いに活用されると期待されます。

生命の設計図である遺伝子は、細胞分裂のたびに新たな細胞にきちんと受け継がれていきます。遺伝子を安全に次世代に「運ぶ」ことは、細胞の大切な仕事であり、細胞にはそのための精巧な仕組みが備わっています。 その1つが、遺伝子を積み込む「乗り物」としての染色体と、染色体の中央部で、染色体の「運転手」としての役割を果たすセントロメアです。

ヒトの病気の研究から、運転手であるセントロメアが何らかの理由で働けなくなったときに、「控えの運転手」(ネオセントロメア)が現れるという珍しい現象が知られていました。そこで深川教授らは、ネオセントロメアを自在に作成する技術を開発し、それが染色体のどこに現れ、どのような性質を持つかを調べました。 その結果、ネオセントロメアは、CENP-A(センプA)というヒストンタンパク質が含まれる染色体上の位置に作られること、今回作成したネオセントロメアが本来のセントロメアと遜色ない働きを果たすことがわかってきました。

今回の研究では、染色体が運ばれる機構(染色体分配)の基本的な仕組みが明らかになったことに加えて、染色体を改変する新しい技術をも考案しています。 すなわち、既存のセントロメアを壊し、染色体の任意の位置に新しいセントロメアを作る技術です。今回は、ニワトリの培養細胞を実験に用いていますが、この原理は他の高等動物にも応用でき、 例えば遺伝子デリバリーシステムなどに使用可能なヒト人工染色体の開発に利用されていくことでしょう。

Figure1

細胞分裂と染色体のセントロメア
細胞分裂の分裂期には、染色体の中央部分にあるセントロメアに向かって線維(紡錘糸)が伸びてきて、染色体は両極に運ばれ、その結果、染色体の均等な分配が達成されます。 この仕組みが障害されると、がんなどの病気が引き起こされます。セントロメア上で紡錘体と結合する構造体は、動原体ともよぶ。

2013/03/22

神経軸索投射が、感覚器官の細胞増殖に必要

初期発生研究部門・川上研究室

Innervation is required for sense organ development in the lateral line system of adult zebrafish
Hironori Wada, Christine Dambly-Chaudiere, Koichi Kawakami, and Alain Ghysen
PNAS, 2013 Apr 2;110(14):5659-5664. DOI: 10.1073/pnas.1214004110

感覚器官には必ず感覚神経軸索が分布し、外界からの情報を脳に伝えています。感覚器官からはさまざまな因子が分泌され、神経軸索を増殖・誘引することが知られていますが、神経軸索の働きについてはよくわかっていません。我々は、ゼブラフィッシュの側線器官(感丘)の細胞増殖が、神経軸索によって制御されることを示しました。

ゼブラフィッシュの側線器官(感丘)では、出芽によって新たな器官を形成し、クラスターを形成します。出芽して増殖する感丘において「Wntシグナル」が細胞増殖を制御しています。Wntシグナル活性が高い増殖細胞は、分岐した神経軸索が隣接して存在します(図A,矢頭)。感覚神経細胞をレーザー照射装置により除去すると、感丘は出芽するにもかかわらず、細胞増殖が起きないことを示しました(図B)。さらに、神経軸索が、Wnt活性を亢進することを示しました。つまり、神経軸索はWntシグナルを亢進することによって、感丘の細胞増殖を制御していることが分かりました。神経軸索と感覚器官には密接な相互作用があることを示しています。

本研究は、モンペリエ大学、アラン・ギーセン博士との共同研究であり、科学技術振興機構さきがけの助成のもと行われました。

Figure1

(A) ゼブラフィッシュ側線器官において、出芽する増殖細胞はWntシグナル活性が高い(緑)。また、増殖細胞は、神経軸索(矢頭)によって投射を受ける。
(B, C)神経軸索を除去すると、側線器官は出芽するにもかかわらず、細胞増殖が起きなくなる。

2013/03/21

インターシップ(NIGINTERN)留学生が日本の淡水イトヨの起源を確認

生態遺伝学研究室・北野研究室

Are Japanese freshwater populations of threespine stickleback derived from the Pacific Ocean lineage?
Cassidy, L. M., Ravinet, M., Mori, S., and Kitano, J.
Evolutionary Ecology Research, 15: 295-311 (2013).

昨年度のNIGINTERN制度にて、国立遺伝学研究所の北野研究室において数ヶ月間滞在して研究を行いました Lara M. Cassidyさんの研究成果が、米科学誌Evolutionary Ecology Researchに出版されました。

トゲウオ科魚類のイトヨは、淡水侵出によって適応放散し多様性を獲得したことが知られています。昔のアロザイムを用いた系統研究などによって、日本の淡水イトヨは、日本海ではなく、太平洋のイトヨが淡水域に侵出したことで進化したと考えられていました。今回は、マイクロサテライトという、さらに感度の良い手法を用いてその成果を確認したものであり、米科学誌Evolutionary Ecology Research に出版されました。今後の生態遺伝学研究室では「なぜ日本海イトヨは淡水に侵出できなかったのか」という問いに遺伝的手法で迫ることを目指しており、その基盤情報となる貴重な成果です。

Cassidyさんは、NIGINTERN制度を利用して数ヶ月間遺伝研に滞在してこの実験を行い、アイルランドに帰国後も、我々とメール会議を通してデータの共同解析や論文の共同執筆を行い、このたび、その成果が米科学誌に出版されました。

本成果は岐阜経済大学との共同研究であり、環境省、文部科学省、科学技術振興機構、国立遺伝学研究所共同利用の助成のもとで行われました。

Figure1

日本産イトヨのマイクロサテライト系統図
淡水集団(緑)は全て太平洋系統(赤)由来で、日本海由来(青)の淡水集団は見つかっていない。

2013/03/13

世界初!無菌化ノリのゲノム情報解読に成功

Press Release

The First Symbiont-Free Genome Sequence of Marine Red Alga, Susabi-nori (Pyropia yezoensis)

Yoji Nakamura, Naobumi Sasaki, Masahiro Kobayashi, Nobuhiko Ojima, Motoshige Yasuike, Yuya Shigenobu, Masataka Satomi, Yoshiya Fukuma, Koji Shiwaku, Atsumi Tsujimoto, Takanori Kobayashi, Ichiro Nakayama, Fuminari Ito, Kazuhiro Nakajima, Motohiko Sano, Tokio Wada, Satoru Kuhara, Kiyoshi Inouye, Takashi Gojobori, and Kazuho Ikeo
PLOS ONE, 2013;8(3):e57122. DOI: 10.1371/journal.pone.0057122

プレスリリース資料

私たちの目に見える世界は、網膜に映った後さらに脳へとその情報が伝えられます。視覚を司る脳の領域では、視野全体に対応するように神経細胞が並んでおり、これは「視覚地図」と呼ばれます。このような脳の構築様式はヒトや魚など視覚を持つ全ての動物に共通する特徴です。しかしながら、視野全体が脳の視野地図へと写されている様子を、神経活動としてリアルタイムに自然な条件下で捉えた例はこれまでありませんでした。私たちは、改良を加えて非常に高感度にしたカルシウムセンサーGCaMPを用いることにより、ゼブラフィッシュ稚魚の餌となるゾウリムシが、稚魚の視界の中で泳ぎ回るときの視覚地図上の神経活動を画像可視化することに成功しました。今回の研究は、視覚から入る情報に基づいて動物が行動するとき、脳内の認知プロセスでどのような神経活動が生じているのかを明らかにしていくための端緒になります。

本研究成果は、埼玉大学中井淳一教授らのグループと遺伝学研究所川上浩一教授らのグループとの共同研究によるものです。

Figure1

スサビノリ葉状体(バーは5cm)
プロトプラスト(平均直径約20μm)

2013/03/01

初期発生研究部門 川上研究室の発表論文が、国内外のメディアで紹介されました


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