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2024/04/26

神経回路構築研究室 テクニカルスタッフ募集

国立遺伝学研究所の神経回路構築研究室では、マウスを用いた脳科学研究をサポートしていただけるテクニカルスタッフを下記の内容にて募集いたします。


【募集人数】1名
【勤務地】国立遺伝学研究所(静岡県三島市谷田1111)
【契約期間】年度ごと。更新可(「国⽴遺伝学研究所特定有期雇⽤職員等の契約更新に関する判断基準 」に基づく)
【職務内容】・マウス飼育管理の補助
・生物学実験の補助(動物実験、組織切片作製、PCR等)
・その他、研究室内の研究補助業務
【応募資格】・協調性と責任感があり、丁寧にてきぱきと仕事ができる方。
・未経験者可(新しいことを学ぶ意欲のある方)。
・自宅でのげっ歯類、ウサギ類飼育不可。動物アレルギーの無い方。
【採用時期】採用決定以降のできるだけ早い時期(応相談)
【勤務形態】・週30時間:月~金、10:00~17:00(休憩1時間)(応相談)
・休日:土日、祝祭日、夏季休暇、年末年始等
※   動物飼育管理上、休日勤務をお願いすることがあります。
【給与・待遇】・研究所の給与規定に準じます(時給1,013 円~1,300円)
・健康保険、年金、雇用保険、労災保険に加入。通勤手当(条件による)。
・車通勤可
【応募書類】・履歴書(写真貼付、メールアドレス、及び、日中の電話番号明記)
・自己アピール文(職務経歴書等)
【応募書類提出】・メール添付にて、岩里( )にお送りください。
・メールタイトルは「テクニカルスタッフ応募」でお願いします。
【応募締切】適任者が決まり次第。
【選考方法】書類選考通過者のみ面接を行います。(面接日時はメール又は電話にて連絡)
【備考】・問い合わせは、岩里(教授: )、又は、佐藤(研究室事務: , 055-981-6774)までお願いします。
・研究室に関しては(https://iwasato-lab.sakura.ne.jp/)をご覧ください。
・応募書類は、情報・システム研究機構個人情報保護規定に則り厳重に管理、採用審査の用途に限り使用し、本募集の終了とともに採用者の分を除き責任を持って破棄いたします。
2024/04/24

タイムラプス撮影で胚の細胞分裂の謎を解明

鐘巻研究室・分子細胞工学研究室

メダカ胚の最初の細胞分裂における有糸分裂紡錘体を示すタイムラプス動画の静止画像。タイムラプス動画提供:清光愛(OIST)。

Ran-GTP assembles a specialized spindle structure for accurate chromosome segregation in medaka early embryos

Ai Kiyomitsu, Toshiya Nishimura, Shiang Jyi Hwang, Satoshi Ansai, Masato T. Kanemaki, Minoru Tanaka & Tomomi Kiyomitsu

Nature Communications (2024) 15, 981 DOI:10.1038/s41467-024-45251-w

メダカ、CRISPR、最新のイメージング技術を用い、生命の初期段階における細胞分裂の研究で新たな基準を打ち立てました。

生命の誕生は謎に包まれています。有糸分裂の複雑な動態は、いわゆる体細胞(皮膚細胞や筋肉細胞のような特殊な機能を持つ細胞)ではよく研究されていますが、私たちの体の最初の細胞である胚細胞に関しては、いまだ解明されていません。脊椎動物における胚性有糸分裂の研究は困難であることが知られています。というのも、ライブイメージングでの機能解析が技術的に限られており、胚形成中の細胞を追跡することが難しいからです。

このほど、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の細胞分裂動態ユニットの研究チームは、名古屋大学(現北海道大学)の西村俊哉助教、名古屋大学の田中実教授、東北大学(現京都大学)の安齋賢特定准教授、国立遺伝学研究所の鐘巻将人教授らと共に、学術誌『ネイチャーコミュニケーションズ』に論文を発表しました。本研究は、新しいイメージング技術、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術、最新のタンパク質ノックダウンシステム、そしてモデル生物としてミナミメダカ(Oryzias latipes)を用いることによって、胚性有糸分裂の解明のための、最初の大きな一歩となりました。研究チームが作成したタイムラプスは、胚で染色体が均等に分かれる複雑なプロセスについての根本的な理解に役立つとともに科学的探求の次のフロンティアにつながります。本研究の責任著者である清光智美准教授は、タイムラプスについて次のように語っています。「タイムラプスの画像自体も美しいのですが、胚の有糸分裂の解明につながる新たな基礎を築いた点も評価できます。」

胚性有糸分裂の主な謎は、細胞のすべての遺伝情報を保持する染色体が整列し、娘細胞に均等分配されるという重要なステップにあります。このプロセスの鍵を握るのが有糸分裂の紡錘体です。紡錘体は微小管(細胞内の構造形成と輸送に使われる長いタンパク質繊維)でできており、紡錘体の両極から放射状に伸び、中央で染色体に接着します。紡錘体は複製された染色体を適切に捕らえ、分裂の際に娘細胞に均等に分配します。紡錘体の形成を決定する因子は数多くありますが、その一つにRan-GTPというタンパク質があります。Ran-GTPは、中心体(微小管を組み立てる役割を担う細胞小器官)を持たない女性の生殖細胞の分裂では必須の役割を果たしますが、中心体を持つ小さな体細胞では必須ではありません。しかし、Ran-GTPが脊椎動物の初期胚の紡錘体形成に必要であるかどうかは長い間不明でした。脊椎動物の初期胚には中心体がありますが、細胞サイズが大きいなどの特徴があります。

哺乳類の初期胚とは対照的に、魚類の胚細胞は透明で、均一な単細胞層で同時に分裂し、発生を進行するため、観察が極めて容易です。ミナミメダカは適応できる温度範囲が広く、毎日卵を産み、比較的小さなゲノムを持つため、研究に特に適した魚であることが分かりました。温度耐性があるということは、ミナミメダカの胚細胞は室温でも生存できるということであり、長時間生きたままでのタイムラプス撮影に特に適しています。

メダカは頻繁に卵を産み、ゲノムサイズが比較的小さいことから、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集に適しています。このゲノム編集の技術を用いて、実際に胚の有糸分裂に関与する特定のタンパク質の動態を可視化する遺伝子組み換えメダカを作り出しました。

図:(左)卵を抱えたメダカ。(右)論文の筆頭著者である細胞分裂動態ユニットの清光愛博士が、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集プロセスの一環として、メダカ胚にRNAを注入する様子。写真提供:清光智美(OIST)

遺伝子組み換えメダカの胚で、分裂中の有糸分裂紡錘体をタイムラプス観察したところ、大きな初期胚は体細胞紡錘体とは異なる独自の紡錘体を組み立てていることを発見しました。また、初期胚の分裂ではRan-GTPが紡錘体形成に決定的な役割を果たしますが、後期胚ではあまり重要ではありません。これは、発生の過程で細胞が小さくなるにつれ、紡錘体構造がリモデリングされるためと考えられますが、正確な理由については、さらなる研究が必要です。

研究チームはまた、ほとんどの体細胞に特徴的な、染色体が分離前に正しく整列するときの紡錘体チェックポイントが、初期胚細胞には存在しないことも発見しました。清光准教授は「チェックポイントが活性化していないにもかかわらず、染色体の分離は非常に正確なのです。これは、胚細胞が非常に速く分裂する必要があることで説明できるかもしれませんが、さらに研究を進める必要があります」と話します。

メダカの遺伝子組み換えと初期胚の研究は、胚性有糸分裂に関する新たな知見につながりましたが、清光准教授と研究チームにとって、これはほんの始まりに過ぎません。後期段階におけるRan-GTPの役割の減少や、紡錘体形成チェックポイントの欠落に関する疑問に加えて、清光准教授はタイムラプスにおける細胞分裂の対称性の面白さを指摘します。「紡錘体の形成は高度な対称性を特徴としています。細胞は等しい大きさになるように、かつ規則的な方向に分裂しているように見え、紡錘体は一貫して細胞の中心にあります。紡錘体はどのようにして規則正しく配向し、どのようにして毎回、細胞の中心を見つけることができるのでしょうか?」

タイムラプスだけでなく、研究チームは、胚細胞研究のモデルとなる遺伝子組み換えメダカの種類を増やし、この新しい基盤をさらに強固なものにすると同時に、ゲノム編集プロセスを最適化したいと考えています。最終的には、他の生物においても胚性有糸分裂を研究することで、今回の発見が一般化可能かどうかを検証し、次の段階では、紡錘体形成と胚分裂の進化を探求することで、ヒトの胚発生をより深く理解し、ヒト不妊症の診断・治療法の開発にも貢献したいと考えています。

「この論文で、確かな基礎が築けました」と清光准教授は総括します。「と同時に、新たなフロンティアも開かれました。胚性有糸分裂は美しく、神秘的で、研究しがいのあるものです。私たちの研究によって、生命の始まりの複雑なプロセスの理解に少しでも近づけることを願っています。」

本研究に携わった3人。遺伝子組み換えメダカの入った水槽の前で。(左から右へ) OISTの清光愛博士、京都大学(元東北大学)の安齋賢特定准教授、OISTの清光智美准教授。写真提供:清光智美(OIST)

  • タイムラプス撮影で胚の細胞分裂の謎を解明 (YouTube ※音声あり)
    初期胚の細胞分裂を研究することの難しさはよく知られている。しかし、CRISP/Cas-9を用いたゲノム編集、メダカ、そして新しいイメージング技術のおかげで、タイムラプス撮影が可能になった。OIST細胞分裂動態ユニットの清光智美准教授が、この新しい技術と、それが生命の初期段階における細胞分裂の理解にどのように役立つかを解説する。
2024/04/23

ヤマアラシ亜目における嗅覚・フェロモン・味覚受容体遺伝子の同調的進化
~グルメな動物は鼻も良い!?~
(西アフリカで食用にされている大型げっ歯類グラスカッターの全ゲノムを解読)

Synchronized expansion and contraction of olfactory, vomeronasal, and taste receptor gene families in hystricomorph rodents

Yoshihito Niimura*, Bhim B. Biswa, Takushi Kishida, Atsushi Toyoda, Kazumichi Fujiwara, Masato Ito, Kazushige Touhara, Miho Inoue-Murayama, Scott H. Jenkins, Christopher Adenyo, Boniface B. Kayang, Tsuyoshi Koide*
*共同責任著者

Molecular Biology and Evolution Mol. Biol. Evol. (2024) 41, msae071 DOI:10.1093/molbev/msae071

プレスリリース資料

宮崎大学農学部獣医学科新村芳人教授、国立遺伝学研究所小出剛准教授・豊田敦特任教授、ふじのくに地球環境史ミュージアム岸田拓士准教授(研究当時。現在は日本大学生物資源科学部教授)、京都大学野生動物研究センター村山美穂教授らは、ガーナ大学との共同研究として、嗅覚・フェロモン・味覚の受容体遺伝子は、進化の過程で、同調的に増えたり減ったりしていることを示しました。

霊長類は、高度な視覚をもつ反面、嗅覚はあまり発達していません。また、ハクジラ類(イルカ)では、嗅覚や味覚は退化していますが、音波で外界を探索する反響定位の能力を進化させてきました。限られたエネルギーを異なる感覚系に振り分けなければならないため、「感覚のトレード・オフ」が起きると考えられています。しかしながら、異なる化学感覚―嗅覚・フェロモン・味覚―間でトレード・オフが起きるかどうかは、よくわかっていませんでした。ヤマアラシ亜目の進化系統樹(図1)の各枝において、遺伝子の重複・欠失がそれぞれ何回起きたかを分子進化学的な手法によって推定しました。解析の結果、ヤマアラシ亜目の系統樹の各枝で起きた重複(または欠失)数が、4種の化学感覚受容体遺伝子間で正の相関があることが分かりました(図2)。つまり、進化の過程において、ある生物の系統で、嗅覚受容体遺伝子の数が増える(減る)と、同時にフェロモンや味覚の受容体遺伝子の数も増える(減る)ということです。このことから、化学感覚間では感覚のトレード・オフは起きず、化学感覚受容体遺伝子は同調して増えたり減ったりしていることが示されました。

また、本研究ではグラスカッターのゲノムを高精度で解読し、新たにゲノム情報のウェブブラウザを作成しました(https://grasscutter.nig.ac.jp/)(図3)。グラスカッターは西アフリカ地域で食用に好まれている大型齧歯類です。現在、ガーナ大学においてグラスカッターの家畜化プロジェクトを進めており、本成果を家畜化の推進に活用されることが期待されます。

本研究は、新村芳人教授に対する科学研究費助成事業(18K06359および22K06341)および小出剛准教授に対する科学研究費助成事業(19KK0177)、その他、科学技術振興機構 持続可能開発目標達成支援事業aXis(JPMJAS2017)、国立遺伝学研究所共同研究NIG-JOINT(1B2020) 、村山美穂教授に対する味の素ファンデーション「食と栄養」国際支援プログラムの支援を受けて実施されました。

本研究結果は、2024年4月23日に「Molecular Biology and Evolution」に掲載されました。

図1: 17種のヤマアラシ亜目のもつ4種の化学感覚受容体遺伝子の数
種名の左側に、17種のヤマアラシ亜目の系統樹と分岐年代を示した。

図2: ヤマアラシ亜目の進化過程における、4種の化学感覚受容体遺伝子の増減の相関
赤線は遺伝子数の増加、青線は遺伝子数の減少に対する相関を示す。線の近くにある数値は相関係数を表す(*, **, ***はそれぞれ有意水準5%, 1%, 0.1%で有意)。

図3: 新たに作成したグラスカッターのゲノムウェブブラウザ

2024/04/23

iPS細胞を利用したEYS関連網膜色素変性の病態解明
-視細胞変性への光暴露の関与が明らかに-

Phototoxicity avoidance is a potential therapeutic approach for retinal dystrophy caused by EYS dysfunction

Yuki Otsuka, Keiko Imamura, Akio Oishi, Kazuhide Asakawa, Takayuki Kondo, Risako Nakai, Mika Suga, Ikuyo Inoue, Yukako Sagara, Kayoko Tsukita, Kaori Teranaka, Yu Nishimura, Akira Watanabe, Kazuhiro Umeyama, Nanako Okushima, Kohnosuke Mitani, Hiroshi Nagashima, Koichi Kawakami, Keiko Muguruma, Akitaka Tsujikawa, Haruhisa Inoue

JCI Insight. (2024) 9, e174179 DOI:10.1172/jci.insight.174179

プレスリリース資料

理化学研究所(理研)バイオリソース研究センターiPS創薬基盤開発チームの大塚悠生研修生(京都大学大学院医学研究科眼科学講座大学院生(いずれも研究当時))、今村恵子客員研究員(京都大学iPS細胞研究所特定拠点講師)、井上治久チームリーダー(京都大学iPS細胞研究所教授)、関西医科大学医学部iPS・幹細胞応用医学講座の六車恵子教授、京都大学大学院医学研究科眼科学講座の辻川明孝教授、国立遺伝学研究所発生遺伝学研究室の川上浩一教授、埼玉医科大学医学部ゲノム応用医学の三谷幸之介教授らの共同研究グループは、患者由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)から3次元網膜オルガノイドを作製およびゼブラフィッシュeys変異を作製して解析することにより、光刺激による視細胞の細胞死がEYS関連網膜変性疾患の病態に重要な役割を果たしていることを発見しました。

本研究成果は、未知であったEYS関連網膜変性疾患の病態メカニズムを明らかにするとともに、特定の波長光への暴露を遮断することが治療の選択肢の一つになる可能性を示唆しています。

日本を含む多くの国では、遺伝性網膜変性疾患(Inherited retinal dystrophies:IRD)の最も多い原因としてEyes shut homologEYS)遺伝子の変異が知られています。ただし、EYSはマウス、ラットなどにおいては喪失しており、哺乳類における研究モデルがないという課題がありました。

今回、共同研究グループは、健常者と網膜変性疾患患者それぞれのiPS細胞から網膜オルガノイドを作製し、病態解析を行いました。健常者由来オルガノイドの視細胞においてEYSタンパク質は結合線毛や外節[6]領域に局在していたのに対し、患者由来オルガノイドではこれらの領域での局在量が低下し、細胞質内に局在異常を生じていました。EYSは視細胞外節で働くタンパクの一つであるG-protein-coupled receptor kinase(GRK7)という分子と直接結合し、その外節への輸送に関与していることを発見し、患者由来オルガノイドでは外節へのGRK7の輸送量が低下していることを見いだしました。また、患者由来オルガノイドでは光刺激後に視細胞の細胞死が誘導されることが分かりました。さらに、ゼブラフィッシュeys遺伝子変異体を作製し解析を行い、ゼブラフィッシュモデルにおいても光刺激により視細胞の細胞死が誘導されることを明らかにしました。

本研究の一部は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)再生・細胞医療・遺伝子治療研究中核拠点(課題番号JP23bm1323001)の助成により行われました。また、本研究には理研バイオリソース研究センターから提供されたバイオリソース(ヒトiPS細胞株HPS3920、HPS5234、HPS3933、HPS3927、HPS0063、HPS1042)が使⽤されました。

本研究は、科学雑誌『JCI Insight』オンライン版(4月22日付:日本時間4月23日)に掲載されました。

図: 本研究に基づくEYS関連網膜変性疾患の病態の概略図

2024/04/19

東アジアのハツカネズミが明かす進化の秘密
~亜種間交雑によるゲノム進化のメカニズムを解明~

Inference of selective force on house mouse genomes during secondary contact in East Asia

Kazumichi Fujiwara, Shunpei Kubo, Toshinori Endo, Toyoyuki Takada, Toshihiko Shiroishi, Hitoshi Suzuki, Naoki Osada

Genome Research 2024 April 18 DOI:10.1101/gr.278828.123

プレスリリース資料

北海道大学大学院情報科学研究院の長田直樹准教授、国立遺伝学研究所の藤原一道特任研究員(同大学大学院情報科学院博士後期課程(研究当時))、理化学研究所バイオリソース研究センターの高田豊行開発研究員、城石俊彦センター長らの研究グループは、北海道大学大学院地球環境科学研究院などとの共同研究により、日本列島や中国などの東アジア地域から集められた野生ハツカネズミの全ゲノム配列を多数決定し、東アジアにおける野生ハツカネズミの遺伝的多様性とその進化の歴史を明らかにしました。

人類の活動により世界中に広がったハツカネズミは、南アジア周辺に起源をもち、三つの主要な亜種に分類されます。これらの亜種は、人類とともにそれぞれ別の経路を通って世界中に拡散し、その後、亜種集団同士の二次的接触を起こしました。今回の解析では、日本列島及び中国南部で広く亜種間雑種が形成されていることが示されました。また、二つの亜種が異所的に分布しているにもかかわらず、一方の亜種がもつ特定の型のY染色体が東アジア全体に急速に広まったことが示されました。そのメカニズムとして、X染色体とY染色体の対立による性比のゆがみが原因であるという仮説が立てられました。さらに、日本のハツカネズミにおける遺伝的構造は、免疫関連遺伝子や嗅覚受容体/フェロモン受容体遺伝子を含む特定の領域で一方の亜種からの影響を強く受けており、これが雑種ゲノムにはたらく自然選択や性選択によるものであることが示されました。

本研究では、ハツカネズミが人間の活動を通じてどのように遺伝的特徴を形成し、亜種間での遺伝的混合がどのように進行しているのかについて、新たな見解を提示しました。野生ハツカネズミのゲノム解析は、人間と密接に関連する他の生物種の進化を理解する上での重要な手掛かりとなることが期待されます。

本研究は、文部科学省新学術領域(複合領域)「ヤポネシアゲノム」及び学術変革領域(A)「統合生物考古学」の助成を受けたものです。

なお、本研究成果は、2024年4月19日(金)公開のGenome Research誌に掲載されました。

遺伝研の貢献
マウス開発研究室(小出研究室)の藤原一道特任研究員は、北海道大学の長田直樹准教授、理化学研究所バイオリソース研究センターの城石俊彦センター長、高田豊行開発研究員と協力し、主に東アジアで捕獲された野生のハツカネズミの全ゲノム配列を解読しました。
この研究に使用された野生ハツカネズミのサンプルの多くは、国立遺伝学研究所の故・森脇和郎名誉教授が世界中で収集した「森脇バッテリー」からのものです。以前はこの収集サンプルについて、ミトコンドリアDNAの一部を対象にした研究を行っていましたが、今回の研究では全ゲノムの解読により、より深い遺伝学的分析が可能となりました。さらに、Y染色体の遺伝学的分析を通じて、あるハツカネズミの亜種のY染色体が東アジアで急速に広がったことや、亜種間の雑種が形成される過程で自然選択や性選択が重要な役割を果たしていることが示唆されました。

図: 全ゲノム解析を用いて可視化した、東アジア地域のハツカネズミの遺伝的多様性。緑色が南方由来であるcastaneus亜種の遺伝的成分の強さを表している。

2024/04/09

福島健児准教授が令和6年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞

新分野創造センター・植物進化研究室の福島健児准教授が令和6年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞しました。

本賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者に授与されるものです。

授賞式日時: 令和6年4月17日

授賞式会場:文部科学省3階 講堂

受賞名:令和6年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞

受賞テーマ:食虫植物をモデルとしたマクロ進化機構の研究

令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者等の決定について

福島研究室・植物進化研究室

福島健児准教授

2024/04/09

技術課・木曾誠班長が令和6年度文部科学大臣表彰 研究支援賞を受賞

国立遺伝学研究所技術課・木曾誠班長が令和6年度文部科学大臣表彰 研究支援賞を受賞しました。

 本賞は、高度で専門的な技術的貢献を通じて研究開発の推進に寄与する活動を行い、顕著な功績があった者に授与されるものです。

授賞式日時: 令和6年4月17日

授賞式会場:文部科学省3階 講堂

受賞名:令和6年度文部科学大臣表彰 研究支援賞

受賞テーマ:1世代遺伝学を可能にしたキメラマウス解析技術確立への貢献

令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者等の決定について

技術課・木曾誠班長

技術課・木曾誠班長

2024/04/09

軟骨魚類の苦味受容体遺伝子を発見
~脊椎動物の苦味感覚の起源に迫る~

※研究に使用した軟骨魚類(イヌザメとアカエイ)

Evolutionary origins of bitter taste receptors in jawed vertebrates

Akihiro Itoigawa, Yasuka Toda, Shigehiro Kuraku and Yoshiro Ishimaru

Current Biology (2024) 34, 271-272 DOI:10.1016/j.cub.2024.02.024

プレスリリース資料

明治大学 研究知財・戦略機構研究員(日本学術振興会特別研究員PD) 糸井川壮大、農学部特任講師 戸田安香、同教授 石丸喜朗、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所教授 工樂樹洋の研究グループは、従来、苦味を検知する受容体を持たないと考えられていた軟骨魚類のサメやエイが苦味受容体遺伝子を持つことを発見しました。この発見により、脊椎動物の苦味受容体の進化的起源が従来の説よりも古く、有顎類の共通の祖先まで遡れることを明らかにしました。

本研究は主に、日本学術振興会 科学研究費助成事業、公益財団法人ロッテ財団 ロッテ重光学術賞、明治大学科学技術研究所 重点研究Bのサポートを受けて実施されました。

研究成果は、2024年4月9日(火)0時(日本時間)にCurrent Biology(カレントバイオロジー)誌にオンライン掲載されました。

図: 苦味受容体T2Rの進化について、従来の説と本研究の説の比較

2024/04/08

特任技術専門員(特定有期雇用職員)募集

募集要項:PDF

職  種特任技術専門員(特定有期雇用職員) ※常勤登用の可能性あり
募集人数1名
勤 務 地静岡県三島市谷田1111 国立遺伝学研究所
契約期間2024年10月1日以降(勤務開始日は応相談)
※また、契約期間は、勤務実績等を考慮のうえ、当初の採用日から3年(2024年10月1日採用の場合は2027年9月30日)を限度として、年度毎に更新することがあります。
ただし、本雇用契約締結直前に情報・システム研究機構と有期雇用契約がある者は、当該契約期間を通算の上、3年を超えることはできません。
職務内容・イネの栽培補助、実験水田・温室の管理、室内実験補助。
応募条件・上記職務内容に意欲を持って取り組んで頂ける方。
・いずれかの作業に経験がある方の応募は歓迎。
就 業 日週5日勤務(月曜日~金曜日)
土、日、祝祭日、年末年始(12月29日~1月3日)は休日
時間外勤務、土・日、祝祭日に勤務を命ずる場合があります。
就業時間1日7時間45分 (8:30~17:15) 休憩1時間(12:00~13:00) /フレックスタイム制
賃金形態特任技術専門員(特定有期雇用職員)
月額241,000円~ ※学歴、経験に応じ決定
文部科学省共済組合、雇用保険に加入
通勤手当、時間外勤務手当、休日給等を該当する場合に支給
就業規則勤務条件の詳細については、以下を参照してください。
特任技術専門員(特定有期雇用職員) https://www.rois.ac.jp/pdf/4_26%20tokuteiyuki.pdf
応募方法履歴書(写真貼付)、職務経歴書を添付のうえ、封筒に「特任技術専門員応募」と朱書きし郵送ください。
応募期限2024年8月30日 ただし、採用者が決定し次第締め切ります。
選考方法書類審査の上、面接により選考します。
※面接対象者には、電話にて日時を連絡します。面接の際の交通費は自己負担となります。
そ の 他・車通勤可
・提出いただいた書類は、本公募の採用審査及び採用後の雇用管理のためのみ使用し、正当な理由無く第三者に開示、譲渡及び貸与することはありません。選考終了後は、採用された方の情報を除き、すべての個人情報は責任を持って破棄します。
なお、応募書類は返却いたしかねますので、ご了承ください。
・受動喫煙防止対策:屋内禁煙(屋外喫煙場所あり)
雇 用 者大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 機構長 喜連川 優
連 絡 先
郵 送 先
〒411-8540 三島市谷田1111 
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所
管理部 総務企画課 人事・労務係
TEL 055-981-6716 FAX 055-981-6715

2024/04/08

DNAメチル化を維持するためのUHRF1の新たな機能を発見

鐘巻研究室・分子細胞工学研究室

Non-canonical functions of UHRF1 maintain DNA methylation homeostasis in cancer cells

Kosuke Yamaguchi, Xiaoying Chen, Brianna Rodgers, Fumihito Miura, Pavel Bashtrykov, Frédéric Bonhomme, Catalina Salinas-Luypaert, Deis Haxholli, Nicole Gutekunst, Bihter Özdemir Aygenli, Laure Ferry, Olivier Kirsh, Marthe Laisné, Andrea Scelfo, Enes Ugur, Paola B. Arimondo, Heinrich Leonhardt, Masato T. Kanemaki, Till Bartke, Daniele Fachinetti, Albert Jeltsch, Takashi Ito & Pierre-Antoine Defossez

Nature Communications (2024) 15, 2960 DOI:10.1038/s41467-024-47314-4

細胞が増殖する際には遺伝情報物質であるゲノムDNAが複製されます。その際、DNAだけではなく、細胞の生存に必須なDNAの修飾情報であるDNAメチル化も親細胞から娘細胞に維持されていきます。このDNAメチル化を維持するには、DNAメチル化酵素であるDNMT1とその活性化因子であるUHRF1が重要であることが知られていました。しかし、UHRF1自体にはDNAメチル化酵素としての機能はなく、UHRF1はあくまでDNAメチル化酵素であるDNMT1の機能を補助する役割であると認識されていました。一方で、UHRF1はDNMT1と異なり癌原遺伝子としても認識されており、多くの癌細胞において過剰発現をしていることが知られていたため、DNMT1の制御以外の役割があることが示唆されていました。

本論文では、UHRF1とDNMT1の詳細な機能比較を行うため、鐘巻研究室が開発した標的タンパク質分解技術であるオーキシンデグロン(AID)法およびAID2法により、大腸癌におけるUHRF1およびDNMT1の即時分解を行いました。興味深いことにDNMT1を分解した時に比べ、UHRF1を分解した際により顕著なDNAメチル化の減少が確認され、UHRF1がDNMT1を制御する以外の役割を持つことが示唆されました。また、UHRF1およびDNMT1分解後の細胞の全ゲノムDNAメチル化解析および遺伝子ノックアウト・ノックダウン解析により、UHRF1がDNMT1だけでなくDNAメチル化酵素であるDNMT3A/ DNMT3Bと脱メチル化酵素であるTET2も制御することが明らかになりました。

鐘巻研究室の山口助教(当時、パリ・シテ大学、博士研究員)が筆頭著者・共責任著者として、Pierre-Antoine Defossez博士の研究室において本研究をおこないました。また、鐘巻将人教授も共同研究者として本研究に参画しました。

図:DNAメチル化維持機構におけるUHRF1の役割の新モデル。

2024/04/04

総研大生・Jaeha Kimさんが日本ゲノム微生物学会年会で優秀ポスター賞を受賞

ゲノム多様性研究室のJaeha Kimさん(総研大遺伝学コースD3)が、2024年3月12日-14日にかずさアカデミアホールで開催された第18回日本ゲノム微生物学会年会でポスター発表をおこない、優秀ポスター賞を受賞しました。

Jaeha Kimさん

Jaeha Kimさん

2024/04/04

物理細胞生物学研究室 テクニカルスタッフ募集

国立遺伝学研究所の物理細胞生物学研究室では、研究をサポートしていただけるテクニカルスタッフの方を下記の内容にて募集いたします。


【募集人数】1名
【職務内容】(雇入れ直後)生物学実験の補助(培地作成など)、研究に関わる事務作業(発注など)
(変更の範囲)研究室の運営を補佐する業務全般
【勤務地】国立遺伝学研究所キャンパス(静岡県三島市谷田1111)
【応募資格】・理系・医療系の専門学校、大学、もしくは大学院の卒業者。
・協調性があり、積極的に業務に取り組む意欲がある方。
【採用時期】2024年4月以降のできるだけ早い時期(相談に応じます)
【契約期間】期間の定めあり(採用日〜2025年3月31日)
契約の更新あり(年度更新;契約期間満了時の業務量、勤務成績により判断)
更新上限あり (通算契約期間の上限:3年(業務内容により5年または10年))
【勤務形態】週5日勤務(月~金)9:00~16:00(休憩1時間)(時間は相談に応じます)
休日:土日、祝祭日、夏季休暇、年末年始
【給与・待遇】研究所の給与規定に準じます(時給1,013 円~1,300円)。
健康保険、年金、雇用保険、労災保険に加入。条件に応じて通勤手当を支給。
【応募書類】履歴書。これまでの経歴(就いていた職があればその期間・内容・役割など)と連絡先メールアドレスを必ず記載下さい。
【応募・連絡先】物理細胞生物学研究室 島本勇太:
【応募締切】適任者が決まり次第。
【備考】・この応募について質問がありましたら上の連絡先メールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。
・未経験の業務については適切に指導させて頂きます。
・書類選考の通過者を対象に面接を行い、採用を決定いたします。
・応募書類は、情報・システム研究機構個人情報保護規定に則り厳重に管理し、採用審査の用途に限り使用いたします。これらの個人情報は正当な理由なく第三者への開示、譲渡及び貸与することはありません。
・頂いた応募書類は、採用者の分を除き本募集の終了とともに責任を持って破棄させて頂きます。
2024/04/04

遺伝的に均質なゼブラフィッシュ近交系の樹立
~遺伝研発の新しいゼブラフィッシュバイオリソース~

※M-AB系統28代目の成魚の写真

Establishment of a zebrafish inbred strain, M-AB, capable of regular breeding and genetic manipulation

Kenichiro Sadamitsu, Fabien Velilla, Minori Shinya, Makoto Kashima, Yukiko Imai, Toshihiro Kawasaki, Kenta Watai, Miho Hosaka, Hiromi Hirata and Noriyoshi Sakai.

Scientific Reports (2024) 14, 7455 DOI:10.1038/s41598-024-57699-3

プレスリリース資料

ゼブラフィッシュは広く世界中で使われている脊椎動物のモデル生物ですが、子供の性比がオスメス1:1にならないことや近交弱勢の現象がみられることから、遺伝的に均質な近交系は開発されていませんでした。国立遺伝学研究所の酒井研究グループはこれまでに、野生型IND系統を16世代まで兄妹交配してIM系統を樹立し、ゼブラフィッシュで継続的な兄妹交配が可能なことを見出していました。しかしながら、この系統は子供が少なく寿命が短いため、研究に使いやすい近交系を樹立できるかが課題でした。

本研究では、IM系統を引き続いて兄妹交配を行い、20世代を超えて近交系として樹立するとともに、別の野生型*AB系統に着目し、その系統で兄妹交配を行い、あらたに近交系「Mishima-AB (M-AB) 」系統を樹立しました。

ゲノムシーケンスの結果、M-AB系統において相同塩基配列が異なっている率は 0.011%で、M-AB系統は十分に遺伝的に均質であることが分かりました。さらに、M-AB系統は多産で丈夫な卵を産み、受精卵への遺伝子改変操作ができることも分かりました。

M-AB系統を用いることで、行動や薬物反応等の多数の遺伝子がかかわる形質について高い精度の解析が可能となりました。

本成果は情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の酒井研究グループと青山学院大学の平田研究グループの共同研究によって行われました。

近交系の樹立は遺伝研の基盤研究費と研究プロジェクト支援、科研費 (19700372, 21KK0129, 21K06159) の支援を受けて遺伝研酒井研究グループで行い、ゲノム解析は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(21ek0109484s1102, 22ek0109484h0003, 22mk0101223h0601, 23mk0101223h0602)、科研費(19H03329)、日本化学工業協会、内藤記念科学振興財団、武田科学振興財団の支援を受けて青山学院大平田研究グループで行いました。

本研究成果は、国際科学雑誌「Scientific Reports」に2024年3月30日(日本時間)に掲載されました。

図: M-AB系統の兄妹交配の系図

2024/04/01

4月1日付け新任教員の着任と研究室開設

准教授

2024年4月1日付けで浅川和秀准教授が神経システム病態研究室を開設しました。

浅川 和秀:遺伝形質研究系,神経システム病態研究室

浅川 和秀 准教授

2024年4月1日付けで後藤恭宏 准教授が先端ゲノミクス推進センターに着任しました。

後藤 恭宏 准教授:先端ゲノミクス推進センター シーケンシング部門 

後藤 恭宏 准教授

助教

2024年4月1日付けで遺伝研に助教が着任しました。

山口 幸佑:分子細胞工学研究室・鐘巻研究室

2024/04/01

新分野創造センターにあたらしい研究室ができました

2024年4月1日付けで新分野創造センターに福島健児准教授が着任しました。

福島健児:新分野創造センター、植物進化研究室

福島健児 准教授

新分野創造センター(Center for Frontier Research)は,「あたらしい人材」と「あたらしい分野」を同時に育成するためのインキュベーションセンターです。 若手の優れた研究者が研究室主催者(テニュアトラック准教授)として研究室を運営し、 遺伝研の卓越した研究環境や様々なサポートを活用して遺伝学とその周辺領域に新しい分野を開拓する研究を行っています。


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