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2018/04/27

ゼブラフィッシュを用いて腸の腫瘍が肝臓に作用するメカニズムを解明

A novel zebrafish intestinal tumor model reveals a role for cyp7a1-dependent tumor-liver crosstalk in tumor’s adverse effects on host

Sora Enya, Koichi Kawakami, Yutaka Suzuki, Shinpei Kawaoka

Disease Models & Mechanisms (2018) DOI:10.1242/dmm.032383

癌(悪性腫瘍)が個体の全身に悪影響を与える仕組みを明らかにするため、後腸特異的にGal4を発現しているトランスジェニックゼブラフィッシュを用いて、後腸に発癌性RAS遺伝子(krasG12D変異)を発現させ、後腸腫瘍モデルの作製に成功しました。この後腸腫瘍モデルゼブラフィッシュは、肝臓の肥大や炎症、全身の成長阻害、個体の死など様々な異常を示しました。これはマウス癌モデルやヒト癌患者でも観察されるものです。この後腸腫瘍モデルフィッシュを解析し、後腸の腫瘍が肝臓のコレステロール−胆汁代謝の異常を介して肝臓に炎症を引き起こすことを明らかにしました。さらにコレステロール代謝酵素遺伝子cyp7a1の過剰発現による炎症の抑制が観察されました。このように本ゼブラフィッシュモデルは、癌が肝臓に悪影響を与えるメカニズムの理解や、生体・臓器への影響を制御しながら癌と共存できる治療法の開発につながることが期待されます。本研究は、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)河岡慎平グループリーダー、東京大学鈴木穣教授との共同研究として行われました。

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図:変異型kras(G12D)遺伝子をGal4-UAS法により後腸特異的に発現させ作製したゼブラフィッシュ後腸腫瘍モデル。
A, B(蛍光画像):コントロール。点線は正常な後腸。C, D(蛍光画像): 後腸腫瘍モデル。点線は異常な後腸。矢印は、EGFPの発現を示す。

2018/04/27

ゼブラフィッシュを用いた脊索損傷修復にはたらく新しい細胞集団の同定

Wilms Tumor 1b defines a wound-specific sheath cell subpopulation associated with notochord repair

Lopez-Baez, J.C., Simpson, D.J., Forero, L.L., Zeng, Z., Brunsdon, H., Salzano, A., Brombin, A., Wyatt, C., Rybski, W., Huitema, L.FA., Dale, R.M., Kawakami, K., Englert, C., Chandra, T., Schulte-Merker, S., Hastie, N.D., and Patton, E.E.

eLife 2018;7:e30657 DOI:10.7554/eLife.30657

加齢等による脊椎の変性の再生治療のためには、変性のプロセスを遅らせたり、元に戻したりする可能性のある細胞の同定が重要です。本研究では、ゼブラフィッシュの脊索傷害後に、脊索鞘細胞(sheath cell)の一部にWilms Tumor(WT)1bを発現する細胞群が出現し、それらが損傷部位に移動してストッパーのような構造を形成し、脊索構造の完全性を維持する可能性があることを明らかにしました。驚くべきことに、wt1b発現細胞は非典型的な軟骨中間体を経て、損傷部位において成人期の脊椎にまで維持されていました。このことは発生期の脊索細胞が成人の椎間板に保持されうることを示してます。本研究により同定された新規細胞集団は、脊椎疾患再生治療に重要な可能性を拓くものです。

本研究は、国立遺伝学研究所、University of Edinburgh (英国), Hubrecht Institute (オランダ)Institute for Cardiovascular Organogenesis and Regeneration (ドイツ)Loyola University Chicago (米国)Lipmann Institute (ドイツ), Friedrich-Schiller-University (ドイツ)の共同研究として行われました。

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図:脊索の液胞細胞特異的にGFPを発現するトランスジェニックフィッシュにおいて、脊索損傷後に脊索が修復される様子を表す(24-72時間後のGFP発現細胞の出現)。

2018/04/26

育種遺伝研究部門 齋藤 絡さんがCold Spring Harbor Asia Conference 2018ポスター発表で1位を受賞

齋藤 絡さん

育種遺伝研究部門 齋藤 絡(総研大遺伝学専攻D4)さんが、先日、中国 蘇州市で行われた Cold Spring Harbor Asia Conference 2018 “Chromatin, Epigenetics & Transcription” においてポスター発表を行い、”1st prize of the CSH Asia fellowship” を受賞しました。


この学会でポスター発表された107の演題の中から見事 1位となったものです。


▶ 学会HP:CSH Asia 2018 Conference Chromatin, Epigenetics & Transcription

▶ 演題:Evolution of sequence-specific DNA demethylation systems by transposon-encoded anti-silencing factor


育種遺伝研究部門 角谷研究室
2018/04/25

動物はどうやって危険を察知することができるようになるのか? ~魚類の恐怖条件付け学習の神経回路を発見~

Press Release

Identification of a neuronal population in the telencephalon essential for fear conditioning in zebrafish

Pradeep Lal, Hideyuki Tanabe, Maximiliano L. Suster, Deepak Ailani, Yuri Kotani, Akira Muto, Mari Itoh, Miki Iwasaki, Hironori Wada, Emre Yaksi , and Koichi Kawakami

BMC Biology Published: 25 April 2018 DOI:10.1186/s12915-018-0502-y

プレスリリース資料

恐怖を感じるような危険な出来事をその予兆(刺激)と関連付けること(恐怖条件付け学習)は、動物が危険を回避し、生存するためにとても大事なことです。哺乳動物では、脳の構造のひとつである扁桃体がこの学習に重要な役割を果たしています。けれども、より原始的な魚類の脳で恐怖条件付け学習に重要な神経回路はわかっていませんでした。

総合研究大学院大学院生(当時)のPradeep Lal博士と情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 川上浩一教授らの研究グループは、モデル生物のゼブラフィッシュにおいて特定の脳神経細胞を可視化したり、操作したりする技術の開発に成功してきました。今回、これらの技術を駆使して、終脳(4)のDmとよばれる領域の特定の神経細胞が恐怖条件付け学習に重要であることを突き止めました。すなわち、この神経細胞が哺乳動物の扁桃体と同じ役割を果たしているのです。

本成果は、恐怖条件付け学習に必須な脳神経回路の構造や進化を明らかにしていく手掛かりになります。また恐怖や不安が関わる疾病やPTSDなどの原因解明や治療の基盤になることが期待されます。

本研究は、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所 川上浩一教授と総合研究大学院(総研大)大学院生(当時)のPradeep Lal博士らの研究グループによっておこなわれました。

本研究は文部科学省科学研究補助金JP15H02370とJP16H01651の支援を受けておこなわれました。

本研究成果は、英国電子ジャーナルBMC Biologyに平成30年4月25日午前2時(グリニッジ標準時)に掲載されました。

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図:ゼブラフィッシュの恐怖条件付け学習に重要な神経回路を発見

ゼブラフィッシュの恐怖条件付け学習。ゼブラフィッシュが2つの区画をもつプラスチックボックス中にはいっている。 LED点灯後10秒に電気ショックを与える(1日目)。これを1日10回行い、5日間連続して繰り返した。5日目には、 LEDが点灯するとゼブラフィッシュは別の区画に逃亡する。

恐怖条件付けに不可欠な神経細胞の3D画像。透明なゼブラフィッシュ脳を作製し、ライトシート顕微鏡による解析を行った。

※EurekAlert!で本成果を紹介した記事を配信しています 

2018/04/24

NGS解析プラットフォーム「Maser」の開発

Maser: one-stop platform for NGS big data from analysis to visualization

Sonoko Kinjo, Norikazu Monma, Sadahiko Misu, Norikazu Kitamura, Junichi Imoto, Kazutoshi Yoshitake, Takashi Gojobori, Kazuho Ikeo

Database (2018) Vol. 2018: article ID bay027; DOI:10.1093/database/bay027

情報・システム研究機構国立遺伝学研究所 遺伝情報分析研究室 池尾一穂准教授、金城その子研究員、北村徳一研究員、井元順一研究員らは、次世代シークエンサーからの膨大なデータを分析するためのデータ解析プラットフォーム、Maser(Management and Analysis System for Enormous Reads)およびゲノムブラウザ、GE (Genome Explorer)を紹介する論文を雑誌DATABASEに出版しました。

Maserは、グラフィカル表示を改善し、複数の解析ツールを組合せた分析パイプラインを提供することにより、特に解析に不慣れな初心者にとって使いやすい分析プラットフォームを実現しました。Maserの機能に関する詳細は下記のURLをご覧下さい。

Maserは現在、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構の資金提供を受けて運営しています。

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図1:Maserの機能説明およびユーザー登録サイト

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図2:Maserのトップページ(ユーザーのみアクセス可能)

2018/04/10

染色体生化学研究室 村山准教授が平成30年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞

村山准教授(受賞式後)
     村山准教授(受賞式後)

新分野研究センター染色体生化学研究室の村山准教授が平成30年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞しました。

本賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者に授与されるものです。


授賞式日時:平成30年4月17日(火)

授賞式場所:文部科学省3階 講堂

受賞名:平成30年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞

受賞テーマ:コヒーシン複合体による姉妹染色体接着形成の分子機構の研究


平成30年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者等の決定について


染色体生化学研究室 村山研究室


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