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2021/02/19

現代ヤポネシア人(日本列島人)の内なる二重構造

Press release

Genome-wide SNP data of Izumo and Makurazaki populations support inner-dual structure model for origin of Yamato people

Timothy Jinam, Yosuke Kawai, Yoichiro Kamatani, Shunro Sonoda, Kanro Makisumi, Hideya Sameshima, Katsushi Tokunaga, and Naruya Saitou

Journal of Human Genetics 2021 January 25. DOI:10.1038/s10038-020-00898-3

プレスリリース資料

日本列島人(ヤポネシア人)の形成に関する「二重構造」モデルは、在来の採集狩猟民(象徴的に「縄文系」と呼ぶ)と弥生時代以降に日本列島に渡来した稲作農耕民(象徴的に「弥生系」と呼ぶ)が混血したと仮定しています。その結果、縄文系の要素は北方に居住するアイヌ人と南方に居住するオキナワ人の双方で高い一方、中央部に居住するヤマト人は弥生系の要素が高くなっています。このモデルは私たちが以前おこなった遺伝子解析で支持されましたが、その解析で使われたヤマト人は主に東京周辺に居住する人々でした。今回私たちは島根県の出雲出身者45名と鹿児島県の枕崎出身者72名のゲノム規模SNPデータを生成し、それらとバイオバンクジャパンのデータを含む東アジアの他の人類集団のゲノムデータと比較解析しました。主成分分析、系統ネットワークなどのさまざまな統計手法を用いた結果、出雲・枕崎・東北地方の集団は、関東(東京を含む)・東海・近畿と遺伝的にすこし異なっていました。日本列島中央部内に居住するヤマト人内にこのような内部構造が生じたのは、縄文時代以降に東アジア大陸部から複数回の渡来があったことを示唆します。これは、「二重構造」モデルをすこし変更した「うちなる二重構造」モデルを支持しています。

本研究は、集団遺伝研究室のTimothy Jinam助教と斎藤成也教授、国立国際医療研究センターの河合洋介副プロジェクト長と徳永勝士プロジェクト長、東京大学大学院新領域創成科学研究科の鎌谷洋一郎教授、鹿児島県枕崎市医師会の園田俊郎博士、牧角寛郎博士、鮫島秀弥博士らによって実施されました。また、出雲地方出身者のDNA収集には、東京いずもふるさと会の岡垣克則会長、荒神谷博物館の藤岡大拙館長にお世話になりました。現代人の進化に関する総合研究大学院大学の共同研究経費、文部科学省の新学術領域研究「ヤポネシアゲノム」(18H05505)、大学共同利用機関4機関連携の文理融合研究、およびジェネシスヘルスケア社との共同研究の支援を受けました。

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図: ヤポネシアの9集団といくつかの大陸集団の遺伝的関係
(A) 主成分分析の結果。出雲 (6)と枕崎 (8)のDNAデータは今回あらたに決定し、他の7集団のデータはバイオバンクジャパンから提供を受けました。大陸の5集団は右下に位置しています。九州 (7)は 沖縄 (9)と近いクラスターAとヤマト人(他の7集団)と近いクラスターBに分かれました。 (B) Neighbor-Net法を用いた系統ネットワーク。沖縄と九州-Aが左に、韓国人と北京の漢族 (CHB)が右に位置しています。枕崎集団は左側のクラスターにもっとも近く、次に出雲集団が近くなっています。逆に近畿集団は右側の大陸クラスターにもっとも近く位置します。

2021/02/16

魚類と羊膜類における視覚系から終脳への中継核の収斂進化

Non-thalamic origin of zebrafish sensory nuclei implies convergent evolution of visual pathways in amniotes and teleosts

Solal Bloch, Hanako Hagio, Manon Thomas, Aure´ lie Heuze´, Jean-Michel Hermel, Elodie Lasserre, Ingrid Colin, Kimiko Saka, Pierre Affaticati, Arnim Jenett, Koichi Kawakami, Naoyuki Yamamoto, Kei Yamamoto

Elife 9, e54945 (2020) DOI:10.7554/eLife.54945

哺乳類の視覚情報を皮質に伝える視蓋徘徊性経路(視蓋から視床を経由して皮質へ投射する経路)に類似した上行性の投射は、脊椎動物種にひろく見られますが、それらの経路の相同性、発生学的起源についてはよくわかっていませんでした。その進化について、より深い洞察を得るために、我々はゼブラフィッシュの視床類似構造、糸球体前核群(PG)の発生学的起源を解析しました。羊膜類の視床核と同様に、PGの外側核は視蓋の情報を受け取り終脳に投射します。トランスジェニックゼブラフィッシュを用いた細胞系譜解析により、PGの細胞の大部分が羊膜類の視床とは異なり中脳に由来することが明らかになりました。このことは、真骨魚類のPGは、前脳由来の細胞で形成される羊膜類の視床と相同ではないことを示唆しています。魚類の機能的に視床皮質経路に類似した投射は、非前脳細胞集団から形成されていたということは、脊椎動物の感覚系の収斂進化の驚くべき多様性を示しています。

1. 背景
脊椎動物の脳は発生学的に3つの主要な区分から成っています。すなわち、前脳、中脳、および後脳です。脳機能を決定するニューロンの接続は、後の発生段階で確立されます。機能的な接続は、異なる脊椎動物グループ間で保存されています。接続パターンは脊椎動物間で類似していることが多いため、それらの発生学的起源が同じか否かはよくわかっていませんでした。

2. 結果
ゼブラフィッシュの視覚情報を視蓋から終脳(外套、哺乳動物の皮質に相当する)へ投射する中継核―糸球体前核群(PG)―を特異的にラベルする遺伝子トラップ系統を作製し解析しました。Cre-loxPシステムを用いた細胞系譜の解析等を行い、ゼブラフィッシュのPGは中脳由来であることをつきとめました。これは、羊膜類(哺乳類と鳥を含むグループ)脳の感覚情報を外套(皮質)に投射する視床核―皮質経路が前脳内の経路であるのとは異なります。このように、脊椎動物脳のニューロンの接合パターンは、類似した機能を維持しているが発生学的起源を異にしており、収斂進化により形成されたと考えられます。

3. 今後の期待
魚類脳と羊膜類や哺乳動物脳の構造と機能を解析することにより、私たちはどのようにして複雑な脳を獲得してきたのか?について理解と洞察を得ることができます。 本研究は、パリ=サクレ大学・フランス国立科学研究センター(CNRS) 山本渓博士、名古屋大学大学院生命農学研究科山本直之博士との共同研究として行われました。本研究は部分的に、NBRP、NBRP基盤技術整備プログラムおよびNIG-JOINT (2013-A15)に支援されました。

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図1:さまざまな脊椎動物種における視蓋徘徊経路


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図2:遺伝子トラップゼブラフィッシュ系統においてGFP発現でラベルされた糸球体前核群(PG)細胞および終脳への投射。緑色(A, B)、オレンジ色(C,D)。

2021/02/04

ヘキサンジオールは細胞内のクロマチンの動きを止める

1,6-hexanediol rapidly immobilizes and condenses chromatin in living human cells

Yuji Itoh, Shiori Iida, Sachiko Tamura, Ryosuke Nagashima, Kentaro Shiraki, Tatsuhiko Goto, Kayo Hibino, Satoru Ide and Kazuhiro Maeshima

Life Science Alliance 4, e202001005 (2021) DOI:10.26508/lsa.202001005

液―液相分離によって細胞内で形成される液滴は、膜の無い構造体であり、ある分子の濃度を高め、細胞の機能を時間的・空間的に制御するために重要です。脂肪族アルコールの一つである、1,6-ヘキサンジオール (1,6-HD) は、液滴の形成に必要な、弱い疎水性のタンパク質―タンパク質相互作用、及びタンパク質―RNA相互作用を阻害するため、液滴を溶かす作用があります。このため、細胞質や核内の構造体形成の過程を調べるために盛んに使われてきました。しかし、生きた細胞の中で、1,6-HD がクロマチンにどのような影響を与えるかは、不明でした。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所・伊藤優志 日本学術振興会特別研究員(元遺伝研博士研究員)、飯田史織 総研大生、田村佐知子 テクニカルスタッフ、井手聖 助教、前島一博 教授らのグループは、生細胞内の単一ヌクレオソームイメージングを用い、1,6-HDがヒト細胞内のクロマチンの動きを著しく抑制し、クロマチンを凝縮させることを発見しました。その効果は、1,6-HDの濃度が高いほど強く、5%以上の濃度では不可逆的になりました。このクロマチンの凝縮は、1,6-HDが液滴を可溶化する作用とは異なるメカニズムによって引き起こされていました。1,6-HDのようなアルコールは、クロマチンの周りの水分子を取り除き、局所的にクロマチンを凝縮させると考えられます。これらの結果は、クロマチンが関わる液滴に対して用いた場合、得られた結果を注意深く解釈・考察する必要があることを示しています。

本研究は、国立遺伝学研究所・ゲノムダイナミクス研究室の伊藤優志 日本学術振興会特別研究員、飯田史織 総研大生、田村佐知子 テクニカルスタッフ、井手聖 助教、日比野佳代 助教、永島崚甫 元総研大生、前島一博 教授、筑波大学 白木賢太郎 教授、帯広畜産大学生 後藤達彦 助教との共同研究成果です。日本学術振興会 (JSPS) 及び文部科学省科研費 (19K23735, 20J00572, 18K06187, 19H05273, 20H05936)、科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業 (CREST) (JPMJCR15G2)、武田科学振興財団、上原記念生命科学財団、国立遺伝学研究所博士研究員、JSPS特別研究員(PD)の支援を受けました。

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図:1,6-HDによるクロマチンの動きの抑制効果とクロマチン凝縮作用の模式図
(A) 生細胞のヌクレオソームの動きは1,6-HDによって濃度依存的に抑制される。単一ヌクレオソーム測定データを平均二乗変位MSDとして表した。(B)(左) クロマチンは静電相互作用で多くの水分子と会合している。(右) 1,6-HDのようなアルコールは、クロマチンの周囲の水分子を取り除くと思われ、クロマチンの周りの環境はより疎水的になる。この環境の変化が、クロマチンの凝縮を促進する。この模式図は単純化されたものであり、分子の大きさの比率は正確でない。また、1,6-HDが分子レベルでどのようにクロマチンに作用するか、分かっていない。

2021/02/03

日本人に感染しているEBウイルスが他のアジア地域のEBウイルスと異なることを発見

Press release

A global phylogenetic analysis of Japanese tonsil-derived Epstein–Barr virus strains using viral whole-genome cloning and long-read sequencing

Misako Yajima, Risako Kakuta, Yutaro Saito, Shiori Kitaya, Atsushi Toyoda, Kazufumi Ikuta, Jun Yasuda, Nobuo Ohta and Teru Kanda

J Gen Virol. 2021 January 12 DOI:10.1099/jgv.0.001549

プレスリリース資料

東北医科薬科大学 医学部の神田 輝(かんだ てる)教授(微生物学教室)と太田 伸男(おおた のぶお)教授(耳鼻咽喉科学教室)らの研究グループは、国立遺伝学研究所、東北大学 東北メディカル・メガバンク機構との共同研究により、日本人の扁桃組織に潜伏感染しているEBウイルスが、他のアジア地域でみられるEBウイルス株とは異なる系統であることを明らかにしました。EBウイルスが関連する疾患にはアジアの特定の地域に好発するものがあり、本研究は、アジアにおけるEBウイルス株の地域分布とEBウイルス関連疾患の地域偏在が一致する可能性があることを示した初めての報告です。

本研究結果は2021年1月12日付で国際専門誌Journal of General Virology誌のオンライン版に掲載されました(doi: 10.1099/jgv.0.001549)。

なお、本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究(C)、文部科学省科学研究費助成事業 新学術領域研究 先進ゲノム支援(PAGS)、日本医療研究開発機構、三菱財団研究助成の支援を受けて行われたものです。

遺伝研の貢献
Pacific Biosciences社のSequelシステムを用いて、日本人に感染しているEBウイルスのゲノム情報を整備しました。本解析は2018年度先進ゲノム支援の支援課題としておこなわれたものです。

Figure1

図: 世界のEBウイルス株の系統樹
EBウイルス関連疾患ではない検体(扁桃、唾液、血液など)から得られたEBウイルス株のウイルスゲノム全長の塩基配列情報を用いて系統樹を作成した。アジア地域のEBウイルス株の中で、日本を含む東アジアの株と中国南部・東南アジアの株は異なるグループを形成していることが明らかになった。


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