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2015/02/18

電位依存性ナトリウムチャネルの品質管理と動物の運動能力

運動神経回路研究室・平田研究室

RING finger protein 121 facilitates the degradation and membrane localization of voltage-gated sodium channels

Ogino, K., Low, S. E., Yamada, K., Saint-Amant, L., Zhou, W., Muto, A., Asakawa, K., Nakai, J., Kawakami, K., Kuwada, J. Y., and Hirata, H.
PNAS, 112: 2859-2864. DOI: 10.1073/pnas.1414002112

私たちは動物の運動能力を規定する遺伝的要因(氏)と環境要因(育ち=後天的変化=神経可塑性)の実体解明を目指しています。

動物が運動するためには神経細胞が活動電位を発生させることが必要です。そのためには電位依存性ナトリウムチャネル(NaV)が神経細胞の中でも軸索起始部とよばれる軸索の根元部分に輸送され、そこでNa電流を発生させなければなりません。これまでNaVがNa電流を発生させ活動電位を生み出す機構についてはよく研究されてきましたが、NaVが合成されて軸索起始部まで輸送される過程は分かっていませんでした。私たちはゼブラフィッシュ個体やヒト細胞を用いた解析から、小胞体に存在するユキチンリガーゼRNF121がNaVの品質管理を行い、これが軸索起始部へのNaVの輸送、ひいては活動電位の発生や動物の運動に必須であることを明らかにしました。

NaVは小胞体で合成され、適切に折りたたまれることで正しい立体構造をとります。その後、ゴルジ体で補助サブユニットNaVβと会合することで安定化し、軸索起始部へ輸送されます。NaVは膜貫通ドメインが24個ある、折りたたみの難しいタンパク質で、合成されたNaVは一定の割合で折りたたみ異常による不良品になると考えられます。RNF121は小胞体でこれらNaVをユビキチン化し、プロテアソームによる分解へ仕向けることで、NaVの品質管理を行うことが分かりました。RNF121を欠く神経細胞では、折りたたみ異常の不良品NaVが小胞体やゴルジ体に蓄積してNaVβを差し押さえるため、正常に折りたたまれたNaVと会合できるNaVβが不足し、NaVがゴルジ体から先へ輸送されなくなります。その結果、RNF121を欠く個体では神経細胞が活動電位を作れず、運動能力がなくなり、逃避行動が見られなくなります。

本研究から、運動能力を規定する遺伝的要因として、RNF121による電位依存性ナトリウムチャネルNaVの品質管理と局在制御が重要であることが分かりました。これは活動電位の発生とその異常に関する新しい動作原理を提唱するものです。膜貫通ドメインを多くもつイオンチャネルやトランスポーターは神経細胞に多く、他のチャネルやトランスポーターでも同様の品質管理機構が存在し、それが神経活動を支え、動物の運動・行動・情動を規定すると考えられます。

本研究はロックフェラー大学、ミシガン大学、埼玉大学との共同研究で行われました。

Figure1

小胞体で合成されるNaVは一定の確率で折りたたみ異常による不良品(赤色)となりますが、これらはRNF121によりユビキチン化され、プロテアソームにより分解されます。一方、正常に折りたたまれたNaV(緑色)はゴルジ体でNaVβ(紫色)と会合して軸索起始部へ輸送されます。また、NaVβは単独でも一定量は細胞膜へ運ばれ、これは細胞接着に寄与します。RNF121を欠く神経細胞では、折りたたみ異常のNaVが小胞体やゴルジ体に蓄積し、これらがNaVβと会合してNaVβを差し押さえるため、正常に折りたたまれたNaVと会合できるNaVβが枯渇し、NaVはゴルジ体から先へ輸送されなくなります。その結果、RNF121を欠く個体では神経細胞で活動電位が作られず、運動能力がなくなります。

2015/02/03

痛風の発症に関わる新たな遺伝子領域を発見 —どの病型になりやすいかの予測も可能に—

Press Release

Genome-wide association study of clinically-defined gout identifies multiple risk loci and its association with clinical subtypes

Hirotaka Matsuo, Ken Yamamoto, Hirofumi Nakaoka, Akiyoshi Nakayama, Masayuki Sakiyama, Toshinori Chiba, Atsushi Takahashi, Takahiro Nakamura, Hiroshi Nakashima, Yuzo Takada, Inaho Danjoh, Seiko Shimizu, Junko Abe, Yusuke Kawamura, Sho Terashige, Hiraku Ogata, Seishiro Tatsukawa, Guang Yin, Rieko Okada, Emi Morita, Mariko Naito, Atsumi Tokumasu, Hiroyuki Onoue, Keiichi Iwaya, Toshimitsu Ito, Tappei Takada, Katsuhisa Inoue, Yukio Kato, Yukio Nakamura, Yutaka Sakurai, Hiroshi Suzuki, Yoshikatsu Kanai, Tatsuo Hosoya, Nobuyuki Hamajima, Ituro Inoue, Michiaki Kubo, Kimiyoshi Ichida, Hiroshi Ooyama, Toru Shimizu, and Nariyoshi Shinomiya
Annals of the Rheumatic Diseases, 2015 Feb 2. pii: annrheumdis-2014-206191. DOI: 10.1136/annrheumdis-2014-206191

プレスリリース資料

生活習慣病の一つである痛風は、激しい関節痛を引き起こすのみならず、高血圧、脳卒中などのリスクとなることが知られています。近年の遺伝子研究により、痛風の発症には遺伝的要因が関与していると考えられていましたが、その全容はまだ明らかとなっておりません。

この度、松尾洋孝(防衛医科大学校講師)、山本健(久留米大学教授)、中岡博史(国立遺伝学研究所特任研究員)、中山昌喜(防衛医科大学校医官)、崎山真幸(同)らの研究グループは、ヒトゲノム全体を調べるゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、新規のものも含め、痛風の発症に関わる5つの遺伝子領域を発見しました。今回の研究は、アンケート用紙などによる自己申告の痛風症例は対象とせず、医師により確実に診断された痛風症例のみを対象とした世界で初めてのGWAS です。このため、痛風の病型ごとの違いを見るような詳細な解析が可能であり、病型ごとに異なる遺伝子領域が関連していることも発見しました。

本研究は、近年増えつつある痛風患者の遺伝的リスクを評価する有用な手段となりうる成果です。この発見により、痛風を発症するリスクの高いヒトを早期に見つけ出し、さらにどの病型になりやすいかを予測でき、個人差に応じた治療薬の選択につながることが期待されます。痛風に対する新たな視点からの予防法や治療薬の選択に有用であり、医療費の削減につながることが多いに期待されます。

本研究は、文部科学省新学術領域研究「ゲノム支援」のサポートを受けて進められました。

Figure1

日本人男性の痛風患者におけるゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果
日本人の痛風患者945人と対照者1,213人についてのGWASの結果(一次解析)で、第1~22番染色体までの約70万か所の一塩基多型(横軸)における痛風との関連の強さ(縦軸)をグラフ化したもので、プロットが上に行くほど痛風との関連が強い一塩基多型であることを表しています。図に示す5か所の遺伝子領域で痛風との強い関連性を認め、別の集団でも関連性が再現(二次解析)されました。

2015/02/02

線虫C. elegans 初期胚における、細胞周期時間と細胞サイズにはベキ則の関係がある

多細胞構築研究室・澤研究室

Power law relationship between cell cycle duration and cell volume in the early embryonic development of Caenorhabditis elegans

Yukinobu Arata, Hiroaki Takagi, Yasushi Sako, and Hitoshi Sawa
Frontiers in Physiology, 2015 Jan 28;5:529. DOI: 10.3389/fphys.2014.00529

細胞サイズは細胞周期時間を決定する要因の一つである。トロント大学の増井禎夫教授らは、アフリカツメガエル初期胚における細胞周期時間は、細胞半径の2乗に比例して伸長することを見つけた。この結果を基に、彼らは細胞周期時間が細胞表面の活性によって決定すると言うモデルを提唱した。しかし、この“2乗ベキ則”は脊椎動物であるツメガエル以外の動物胚では検証されていなかった。我々は、無脊椎動物である線虫C. elegans 初期胚でも細胞周期時間と細胞サイズの関係がベキ則に従うことを見つけた。ただし、細胞系譜ごとのベキの値は3つのグループに分類され、いずれの系譜のベキ値もツメガエル胚の値よりも小さかった。興味深いことに、細胞サイズと細胞核サイズの間にもベキ則が成立していた。細胞質と核の相互作用を想定して細胞と核サイズの比のベキ値を求めると、そのベキ値が「最もサイズ—時間の相関が強い細胞系譜」におけるサイズ-時間のベキ値にほぼ一致することを見つけた。この「サイズ—時間」と「細胞体積—核体積」の間のベキ値の一致から、我々は、「C. elegans 初期胚におけるサイズ—時間の関係が、細胞と核サイズの比という幾何的な制約により決定している」という新たなモデルを提案した。他の動物種でも同様の制約により、細胞周期時間が決定している可能性がある。

本研究は理化学研究所および奈良県立医科大学との共同研究で行われました。

Figure1

細胞周期時間と細胞体積は、両対数グラフ上で直線的な関係(ベキ則)にある。分類された3種のベキ値を示す細胞系譜の内、AB細胞系譜における結果を表示した。


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