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2022/10/28

第5回「寺deサイエンス」を開催:11月24日(木)

日  時: 令和4年11月24日(木)18:30~20:30

収録場所: 君澤山 蓮馨寺(三島市広小路町1-39)

内  容:

 第1部:「 静岡がんセンター~20年の歩みと未来に向けて~」
  講演:山口建(静岡がんセンター 総長)
 第2部:「 最新のがんゲノム医療が開く未来」
  鼎談:山口建 × 小林武彦(遺伝学普及会共同代表理事、東京大学教授)
   × 五條堀孝(遺伝学普及会共同代表理事、KAUST特別栄誉教授)
 総合司会:斎藤成也(遺伝学普及会理事、国立遺伝学研究所特任教授)

対  象: サイエンスに関心のある一般の方 

定  員: 500人(Zoomでのライブ配信参加)、40人(収録場所での参加)
     11/23(水) 正午 申込〆切(先着順)

参 加 費 : 無料(Zoomでのライブ配信参加)、1000円(収録場所での参加)

お 申 込 : 専用フォーム

特 設 HP: 遺伝学普及会ページ


【問い合わせ】
〒411-8540 三島市谷田1111
公益財団法人遺伝学普及会
TEL:055-981-6857、 FAX:055-981-6877
Email:genetics@nig.ac.jp
2022/10/27

ゴカイ類の巣穴やホヤ類の体内をすみかとする新種のヨコエビを発見!

Leucothoid amphipod and terebellid polychaete symbiosis with description of a new species of Leucothoe Leach, 1814 (Crustacea: Amphipoda: Leucothoidae)

M. Kodama, KN. White, TK. Hosoki, R. Yoshida

Systematics and Biodiversity (2022) 20, 2118389 DOI:10.1080/14772000.2022.2118389

プレスリリース資料

自分で巣を作らずに、他生物の巣穴に間借りする生き物たちがいます。鹿児島大学の小玉将史助教、米国Georgia College & State UniversityのKristine N. White助教(Assistant Professor)、国立遺伝学研究所の細木拓也特任研究員、お茶の水女子大学の吉田隆太特任助教からなる研究グループは、他生物の巣穴や体内に間借りする珍しい甲殻類を発見し、新種として記載しました。この甲殻類は、端脚目(たんきゃくもく)マルハサミヨコエビ科の一種で、千葉県(館山)に生息するゴカイ類の巣穴や、静岡県(下田)に生息するホヤ類の体内から発見されました。マルハサミヨコエビ科に属するヨコエビ類は、ホヤ類やカイメン類などに寄生することは知られているものの、それ以外の宿主からはほとんど見つかっていませんでした。本研究グループは、ゴカイ類の巣穴やホヤ類の体内からマルハサミヨコエビ科の一種を見出し、形態的な比較と、系統関係から、本種を新種Leucothoe vermicola Kodama, White, Hosoki & Yoshida, 2022(和名:ユキレンゲマルハサミヨコエビ)として記載しました。これまで見過ごされてきたゴカイ類の巣穴にも、蓮華のような可愛らしい色に、雪の結晶を散りばめたような模様のヨコエビが間借りしていることがわかりました。今後、いろいろな生物の巣穴や体内をよりよく観察することで、様々な間借り生活を営む甲殻類が発見されるかもしれません。

本研究は、JSPS postdoctoral fellowship (No. P10711)、JAMBIO research grant、Rising Star Program(琉球大学およびGeorgia College)による支援を受けました。

この研究成果は2022年10月13日付で英国の学術雑誌「Systematics and Biodiversity」に掲載されました。

Figure1
図: 今回採集されたユキレンゲマルハサミヨコエビ (左)宿主のフサゴカイ類の上に定位している様子。(右)全体側面図。
2022/10/26

貝を持つ不思議なタコ、アオイガイの全ゲノム解読に成功
~貝殻の起源と進化について新たな知見~

Figure1

Gene Recruitments and Dismissals in the Argonaut Genome Provide Insights into Pelagic Lifestyle Adaptation and Shell-like Eggcase Reacquisition

M. Yoshida, K. Hirota, J. Imoto, M. Okuno, H. Tanaka, R. Kajitani, A. Toyoda, T. Itoh, K. Ikeo, T. Sasaki, D. H E Setiamarga

Genome Biology and Evolution 2022 October 26 DOI:10.1093/gbe/evac140

プレスリリース資料

カイダコの殻は冬になると日本海側の各地に打ち上がることが知られており、ビーチでみられる貝殻のなかでも特に珍重されているものです。この貝殻はタコの仲間が作ったものであることが知られています。今回カイダコ類の1種であるアオイガイの全ゲノム配列を世界で初めて解読しました。

アオイガイのゲノム中にある26,433個の遺伝子の中で、44個の遺伝子が貝殻形成に使われていることがわかりました。さらに、カイダコが底生生活から浮遊生活に移行する過程で起こったゲノム中の遺伝子の変化を見つけることができました。これにより、進化の過程で貝を失ったはずのタコが、どのようにして再び貝殻を作れるようになったのか?という進化上の大きな謎を解明することに一歩近づきました。

この研究は、文部科学省科学研究費助成事業(18K06363, 19K21646 , 22K06340)、先進ゲノム支援事業(PAGS)(16H06279)、Human Frontier Science Program grant(RGP0060/2017)、 旭硝子財団(2016年)、および藤原ナチュナルヒストリー財団(2017年)の助成を受けて実施しました。

本共同研究は、2022年10月26日(水)に英文論文誌Genome Biology and Evolutionにオンライン版が掲載されました。

カイダコの殻は冬になると日本海側の各地に打ち上がることが知られており、ビーチでみられる貝殻のなかでも特に珍重されているものです。この貝殻はタコの仲間が作ったものであることが知られています。今回カイダコ類の1種であるアオイガイの全ゲノム配列を世界で初めて解読しました。

アオイガイのゲノム中にある26,433個の遺伝子の中で、44個の遺伝子が貝殻形成に使われていることがわかりました。さらに、カイダコが底生生活から浮遊生活に移行する過程で起こったゲノム中の遺伝子の変化を見つけることができました。これにより、進化の過程で貝を失ったはずのタコが、どのようにして再び貝殻を作れるようになったのか?という進化上の大きな謎を解明することに一歩近づきました。

この研究は、文部科学省科学研究費助成事業(18K06363, 19K21646 , 22K06340)、先進ゲノム支援事業(PAGS)(16H06279)、Human Frontier Science Program grant(RGP0060/2017)、 旭硝子財団(2016年)、および藤原ナチュナルヒストリー財団(2017年)の助成を受けて実施しました。

本共同研究は、2022年10月26日(水)に英文論文誌Genome Biology and Evolutionにオンライン版が掲載されました。

Figure1
図: 公開ゲノムデータベースArgoBase
2022/10/26

植物生殖研究における長年の謎を解明!
〜 カロースによる減数分裂の開始制御 ~

Rice GLUCAN SYNTHASE-LIKE5 promotes anther callose deposition to maintain meiosis initiation and progression

H. Somashekar, M. Mimura, K. Tsuda, K. I. Nonomura

Plant Physiology 2022 October 22 DOI:10.1093/plphys/kiac488

プレスリリース資料

植物の花粉は、雄しべ(葯(やく))の中で花粉母細胞が減数分裂をすることで作られます。減数分裂の過程は遺伝的に厳密に制御されていますが、特に花粉の形成に必要な減数分裂の開始に関わる分子メカニズムは未解明でした。本研究のヒントとなったのは、減数分裂開始直前の葯に一時的に蓄積する「カロース」と呼ばれる植物特有の高分子多糖類でした。カロースの葯への蓄積は、減数分裂開始の指標として古くから知られていましたが、減数分裂には関与せず、減数分裂後の花粉形成のみに必要と考えられてきました。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 野々村賢一准教授、ソマシェカー ハーシャ総合研究大学院大学 大学院生らの研究グループは、葯で高発現するカロースの合成酵素GSL5の機能が欠損するイネ変異体の解析から、GSL5が減数分裂期の葯におけるカロース合成の主要酵素であり、GSL5によるカロース合成が葯における減数分裂の「適切な開始時期と進行」に必須であることを証明しました。

本研究によって、長年の謎であった葯へのカロースの高蓄積が、減数分裂の開始と進行の制御に必要であることが明らかになりました。今後はGSL5およびGSL5を制御する遺伝機構の解析を進めます。カロースの機能は減数分裂に留まらず、植物の生育過程の全般における環境ストレスへの応答と密接に関係することが知られています。したがって、減数分裂とその後の生殖過程におけるGSL5機能の更なる解析は、地球規模の環境変動で懸念される穀物の収量低下に解決の糸口を与える研究への発展が期待できます。

本研究は、日本学術振興会 科研費21H04729および18H02181(野々村)、二国間交流事業(共同研究)JPJSBP120213510(野々村)の支援を受けて遂行しました。また、文科省 国費外国人留学生制度の支援、および総研大 研究論文掲載費の助成(ソマシェカー)を受けました。本研究で使用した変異体の一部 (mel2変異体) は、日本医療研究開発機構(AMED)ナショナルバイオリソースプロジェクト イネ(NBRP Rice)から分譲いただきました。

本研究成果は、米国科学雑誌「Plant Physiology」に2022年10月23日(日本時間)に掲載されました。

Figure1
2022/10/26

成功にも失敗にもルールがある
―細胞分裂装置の正しい作り方―

Morphological growth dynamics, mechanical stability, and active microtubule mechanics underlying spindle self-organization

T. Fukuyama, L. Yan, M. Tanaka, M. Yamaoka, K. Saito, SC. Ti, CC. Liao, KC. Hsia, YT. Maeda, Y. Shimamoto

PNAS (2022) 119, e2209053119 DOI:10.1073/pnas.2209053119

プレスリリース資料

我々ヒトを含む真核生物は、紡錘体と呼ばれるミクロンサイズの力発生装置を細胞内に構築して、遺伝情報の実体であるDNAを母細胞から娘細胞へ受け渡します。遺伝情報の正確な受け渡しには紡錘体をラグビーボール状の整ったかたちに作り上げることが大切です。一方で、紡錘体のかたちが崩れると染色体の断片化や異数化の引き金となって娘細胞に異常を引き起こします。

本研究では、この紡錘体のかたち作りの成功と失敗を分けるしくみを明らかにしました。特に、整ったかたちの紡錘体を作るための正しい組み立て順序を明らかにすることに加えて、かたちの崩れた紡錘体は、その組み立て順序を無作為に間違ったせいでなく、ある決まったルールで失敗していることも明らかにしました。また、この成功と失敗を分ける鍵が、紡錘体が自らの形状を記憶するメモリーフォームのような性質にあることも分かりました。

紡錘体のかたちの崩れはガンや不妊症との密接な関連が示唆されています。本研究で得られた知見はそれら疾病の発症メカニズムの理解を進める重要な一歩になります。

本研究成果は、国内2拠点(国立遺伝学研究所、九州大学)の生物物理学研究チームと国外2拠点(香港大学、台湾中央研究院)の生化学研究チームの国際共同研究によって得られたものです。

本研究は、以下の支援を受けて行われました。
科研費補助金(JP19H03201, JP20K21404, JP22H02590, JP18H05427, JP20H01872, JP21K18605, JP22K14014)、Human Frontier Science Program(RGP0037/2015)、国立遺伝学研究所公募型共同研究NIG JOINT(91A2019 and 58A2020)。

本研究成果は、米国科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)」に2022年10月26日(日本時間)に掲載されました。

Figure1
図: 紡錘体の細胞内構築 ナノメートルサイズの分子モーターが微小管を運んで自らの1,000倍以上も大きな紡錘体を細胞内で正しく組み立てる。そこには鋳型も設計図も存在しない。組み上がった紡錘体は複製された染色体のペアを左右に分離することで遺伝情報(染色体)のコピーを母細胞から2つの娘細胞へ等しく分配する。写真は出来上がった二極性の紡錘体(左)と多極性の紡錘体(右)。多極性の紡錘体は染色体の均等分配能を欠く。赤は微小管、緑はDNA蛍光染色。スケールバーは10µm。

こちらの実験技術が本研究成果の基盤の一つになっています。

2022/10/05

植物進化の解明と微細藻類の高度な産業利用の促進
~温泉微細藻類ガルデリアの性の発見と高度な遺伝的改変技術~

Life cycle and functional genomics of the unicellular red alga Galdieria for elucidating algal and plant evolution and industrial use

S. Hirooka, T. Itabashi, T. M. Ichinose, R. Onuma, T. Fujiwara, S. Yamashita, L. W. Jong, R. Tomita, A. H. Iwane. S. Miyagishima

PNAS (2022) 119, e2210665119 DOI:10.1073/pnas.2210665119

プレスリリース資料

植物には、花を咲かせて受精により種子を生じるという「有性生殖」を伴う生活環が存在します。しかしながら、これまでに、進化の初期に出現した単細胞紅藻などは、無性生殖するとされていて、植物の有性生殖の起源や藻類・植物の進化の過程は不明でした。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の廣岡俊亮特任助教、宮城島進也教授、理化学研究所の岩根敦子チームリーダーによる共同研究グループは、単細胞紅藻の一種で国内外の酸性温泉に生息するガルデリアが、有性生殖を行う生物の特徴である2倍体として存在し、特殊な環境に晒すことで減数分裂を行い細胞壁が無い1倍体を生じることを発見しました。ガルデリアには、植物において花を作るための鍵遺伝子群の祖先遺伝子群が存在し、これらの機能を調べた結果1倍体が2倍体化する時にはたらくことがわかりました。さらに、1倍体を1倍体のまま安定的に増殖させることに加え、遺伝的改変技術の開発にも成功しました。

本研究は今後、植物の有性生殖の起源や藻類・植物の進化の過程の解明につながることが期待されます。一方で、ガルデリアは、タンパク質および各種ビタミンの含有量が高く、短期間で超高密度まで増殖するため、新たな産業用藻類として世界各国で活用法の開発が進められています。また本研究グループにより、ガルデリアは、強力な抗酸化作用を持ち、記憶力の向上などの脳機能の促進効果が認められているエルゴチオネインを高濃度に含むことも明らかとなっています。しかしながら、2倍体のガルデリアの活用は、強固な細胞壁が原因で内容物の抽出が困難であり、遺伝的改変による品種改良も不可能という問題がありました。本研究によって発見された細胞壁の無い1倍体は、内容物抽出が容易であり遺伝的改変も可能なため、これらの問題を解決することが期待されます。さらに、これらの特性を活用することによって家畜用の「食べるワクチン」など、微細藻類の高度な利用形態の創出も期待されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業 探索加速型 本格研究 「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域における研究開発課題「酸性水を用いた微細藻類の培養および利用形態の革新」(研究代表者:宮城島進也)の支援を受けて行われました。

本研究成果は、米国科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)」に2022年10月5日(日本時間)に掲載されました。

なお、後日、Ursula Goodenough教授(Washington University in St. Louis)による本論文に関する紹介記事が同誌に掲載される予定です。

Figure1
図: 本研究で発見されたガルデリアの有性生殖を伴う生活環

▶ EurekAlert!記事はこちら

2022/10/03

新生仔マウス三叉神経節のヒゲ投射領域における自発神経活動

Spontaneous Activity in Whisker-Innervating Region of Neonatal Mouse Trigeminal Ganglion.

P. Banerjee, F. Kubo, H. Nakaoka, R. Ajima, T. Sato, T. Hirata, T. Iwasato.

Scientific Reports (2022) 12, 16311 DOI:10.1038/s41598-022-20068-z

脳の神経細胞は外界からの入力がなくても発火します(自発神経活動)が、子供の脳には成体とは異なる特徴的な自発神経活動が見られ、その発生機序や役割が注目されています。子供期特異的な自発活動に関して、視覚系や聴覚系での研究は比較的進んでおり、それぞれ、網膜と内耳で自発活動が発生し、脳に伝達されることが知られています。一方、我々が最近、新生仔マウスの大脳皮質体性感覚野で発見したパッチワーク型の自発活動(2018年1月4日プレスリリース参照)がどこで発生するかについてはわかっていません。我々はこれまでの実験結果から、これらの自発活動の多くはヒゲ(感覚器)と脳を結ぶ三叉神経節(TG)で発生すると考えています。今回の研究では、新生仔マウスから三叉神経節を摘出してex vivoで観察することにより、三叉神経節のヒゲ投射領域の神経細胞が“外部からの刺激なし”に自発的に発火することを発見しました。一方、成体マウスから摘出した三叉神経節はほとんど発火しませんでした。三叉神経節の神経細胞の大部分は痛み伝達に関わる「小さい細胞」ですが、新生仔期の自発活動は触覚を伝達する「大きな神経細胞」で主に発生していました。また、同期して発火する神経細胞は互いに近距離にあることもわかりました。1本のヒゲに投射する神経細胞は互いに近距離に存在することから、新生仔期の三叉神経節では、同じヒゲに投射する神経細胞が同期して発火している可能性が示唆され、こうした自発活動が脳に伝えられ、パッチワーク型の神経活動として体性感覚系神経回路の成熟に重要な役割を担う可能性が考えられます。

Figure1
図:新生仔マウスから摘出した三叉神経節での自発活動
新生仔マウスから三叉神経節(TG)を摘出しex vivo で観察したところ、ヒゲ触覚を担当する「大きな神経細胞」が“外部からの刺激なしに”自発的に発火することが観察された。一方、「小さな細胞(痛みを担当)」や成体ではほとんど発火が見られなかった。同期する細胞は同期しない細胞と比較して互いに近距離(両矢印)にあった。
2022/10/03

コンパクトなクロマチン構造とDNAダメージ耐性

Chromatin organization and DNA damage.

K. Minami, S. Iida, K. Maeshima

The Enzymes “DNA Damage and Double Strand Breaks” 2022 September 27 DOI:10.1016/bs.enz.2022.08.003

Free link (2022.11.16まで) :

真核細胞のゲノムDNAは、ヒストンや関連タンパク質とともにクロマチンを構成して核の中に収納されています。近年の研究から、クロマチンは核の中でダイナミックに振る舞うドメインを構成し、様々なゲノム機能の単位として機能していることがわかってきました。

一方、細胞のゲノムは放射線などのDNA損傷源に絶えず曝されています。がん化や細胞死を引き起こしうるDNA損傷から、細胞はどのようにしてゲノムDNAを保護しているのでしょうか。 本総説では、ゲノムダイナミクス研究室からの研究成果 (Takata et al. “Chromatin compaction protects genomic DNA from radiation damage”. PLOS ONE (2013). DOI: 10.1371/journal.pone.0075622) をはじめとする最近の知見をもとに、ドメインの形成などを介したコンパクトなクロマチンの凝縮が、放射線や化学物質による損傷からDNAを保護する仕組みを議論しています。

さらに、生細胞でクロマチンのふるまいを計測する近年の成果をもとに、クロマチンが状況に応じてDNA損傷への耐性とダメージを受けたDNAの効率的な修復を両立している可能性が議論されています。1分子ヌクレオソームイメージングを用いた同研究室の成果 (Iida et al. “Single-nucleosome imaging reveals steady-state motion of interphase chromatin in living human cells” Science Advances (2022). DOI: 10.1126/sciadv.abn5626) から、クロマチンのゆらぎは細胞周期を通じて一定である一方、DNA損傷に応じて一時的に上昇することが明らかになりました。こうした一時的なクロマチン凝縮度の緩和により、損傷を受けたDNAに修復因子が容易にアクセスできる可能性が考察されています。

ゲノムダイナミクス研究室の南克彦・飯田史織 総研大生(共にSOKENDAI特別研究員)、前島一博 教授 の共同成果です。1970年創刊「The Enzymes」シリーズ(Elsevier)のVol. 51「DNA Damage and Double Strand Breaks」(2022年発行)の第3章として出版されます。

Figure1
図:(A) (左) 凝縮していない状態のクロマチンは、放射線によって発生するヒドロキシラジカル (活性酸素種、・OH) や化学物質 (抗がん剤、Pt) によるDNA損傷を受けやすい。(右) 高度に凝縮したクロマチンはこれらによるアタックを受けにくく、高いDNA損傷耐性を持つ。
(B) 細胞周期の間期を通じて一定に保たれているクロマチンの局所的ゆらぎ (“定常状態”、赤線) は、DNA修復反応の開始に応じて一時的に上昇する (赤破線)。この一過的なゆらぎの変化は、DNA修復に必要な因子のアクセシビリティ促進に寄与していることが示唆される。

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