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2017/07/26

左右の神経の混線を防ぐ“正中線の関所”を守る仕組み

Press Release

Spinal RacGAP α-chimaerin is required to establish the midline barrier for proper corticospinal axon guidance

Shota Katori, Yukiko Noguchi-Katori, Shigeyoshi Itohara, Takuji Iwasato

Journal of Neuroscience 26 July 2017, 3123-16; DOI:10.1523/JNEUROSCI.3123-16.2017

プレスリリース資料

遺伝研のある三島からすぐ東の箱根には江戸時代、関所が設けられ入り鉄砲出女などの不適切な旅人が通過することを防ぐために厳しい取り調べがおこなわれていました。同様に、発達期の脳や脊髄の中にも関所があり、越えてもよい神経と越えてはいけない神経の選別がおこなわれています。こうした関所での神経の選別の仕組みは比較的よく研究されてきました。一方、もし、箱根の関所自体が壊れてしまったら、不適切な旅人も審査を受けずに自由に行き来できるようになってしまいますので、関所が正常に機能するためには関所を護衛することも大切です。神経でも同様ですが、これまで神経の関所が守られる仕組みは知られていませんでした。

情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の香取将太研究員、岩里琢治教授らの研究チームは、脊髄の真ん中(正中線)にある関所に着目し、マウスを用いた実験で神経の関所を守る仕組みを世界で初めてあきらかにしました。

胎児や子供の脳・脊髄では、正中線にある関所において、正中線を通過して左右交差する神経を適切に選別し、左右の神経の混線を防いでいます。本研究では遺伝子ノックアウトの技術を駆使して、脊髄の正中線の関所を守る仕組みにαキメリンと呼ばれるたんぱく質が重要な役割を持ち、αキメリンは周辺細胞が正中線に侵入して関所を壊すのを防いでいることをあきらかにしました(図)

神経の「関所を守る仕組み」が存在することは新しい発見であり、本成果により、発達期に神経が選択的につながる仕組みの理解を進展させることが期待されます。

本研究成果は、平成29年7月26日(米国東部時間)に北米神経科学学会誌 Journal of Neuroscience に掲載されました。

本研究は、国立遺伝学研究所形質遺伝研究部門の香取将太研究員が中心となり、国立遺伝学研究所形質遺伝研究部門 岩里琢治研究室、理化学研究所脳科学総合研究センター行動遺伝学技術開発チームとの共同研究でおこなわれました。

本研究は、科学研究費補助金(15K14889, 13J04498, 16K14559, 15H04263, 15H01454, 22115009)、新学術領域「スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御」(16H06459)、新潟大学脳科学研究所共同利用・共同研究(2016-2610)の支援によりおこなわれました。

Figure1

図 脊髄のαキメリンは、神経の関所を守ることによって、不適切な軸索が通過することを防いでいる。

2017/07/25

ヒト内在性レトロウイルス由来転写調節エレメントの網羅的同定

人類遺伝研究部門・井ノ上研究室

Systematic Identification and Characterization of Regulatory Elements Derived from Human Endogenous Retroviruses.

Jumpei Ito, Ryota Sugimoto, Hirofumi Nakaoka, Shiro Yamada, Tetsuaki Kimura, Takahide Hayano, and Ituro Inoue.

PLoS Genetics. Jul 12;13(7):e1006883. 2017. DOI:10.1371/journal.pgen.1006883

トランスポゾンの一種であるヒト内在性レトロウイルス(HERV)は、自身の配列中に転写調節エレメントを有しており、挿入部位近傍の遺伝子発現に様々な影響を与える。本研究では公的データベースに蓄積したChIP-Seqデータを再解析することで、HERV由来転写調節エレメント(HERV-RE)を網羅的に同定した。合計794,972箇所のHERV-REが同定された。クラスター解析により、HERVが転写因子の結合パターンによりいくつかのグループに分類されることが明らかとなった。すなわち、多能性幹細胞系(POU5F1, SOX2, NANOG)、内胚葉系(FOXA1/2, FATA4/6, SOX17)、造血幹細胞系(GATA1/2, SPI1, TAL1)の転写因子、およびCTCFが結合するHERVグループが同定された。HERV-REは先天性免疫システムに関わる遺伝子周囲に有意に多く存在しており、これら遺伝子の調節に関わっていることが示唆された。また我々は、同定されたHERV-REを搭載したデータベースdbHERV-REs (http://herv-tfbs.com/)をWEB上に公開した。本研究は遺伝子転写調節におけるHERV-REの役割を解明するための基盤を提供するものである。

Figure1

dbHERV-REs (http://herv-tfbs.com/)。各種パラメータおよび転写因子の種類等を選択し(A)、HERVの種類を選択すると(B)、HERVの基礎情報(系統学的分類、コピー数、挿入年代)(C)、およびHERV-REのHERV配列上およびヒトゲノム上における位置情報を表示する(D)。

2017/07/19

「夏休み子ども遺伝学講座」を開催

お米が実るようすを観察しよう!

お米が実るようすを観察しよう!と題して「夏休み子ども遺伝学講座」を開催いたします。
毎日食べているお米を一緒に観察してみましょう。

対象:

三島市内の小学校3年生~6年生 30名
申込者多数の場合は抽選となります。

日時:

平成29年8月23日(水)
午前9時00分~午前12時00分(予定)

場所:

国立遺伝学研究所(三島市谷田1111)

申込:

三島市政策企画課まで電話か電子メールでお申込みください。
申込時に ①氏名 ②学年 ③住所 ④電話番号 をお伝えください。
申込み締切は平成29年8月10日(木)です。

TEL:055-983-2616
E-mail: seisaku@city.mishima.shizuoka.jp
2017/07/14

DNAは、生きた細胞の中で不規則な塊を作っていた!-遺伝子情報や細胞関連疾患の理解につながる成果-

Press Release

Dynamic organization of chromatin domains revealed by super-resolution live-cell imaging

Tadasu Nozaki, Ryosuke Imai, Mai Tanbo, Ryosuke Nagashima, Sachiko Tamura, Tomomi Tani, Yasumasa Joti, Masaru Tomita, Kayo Hibino, Masato T. Kanemaki, Kerstin S. Wendt, Yasushi Okada, Takeharu Nagai, and Kazuhiro Maeshima

Molecular Cell Published: July 13, 2017 DOI:10.1016/j.molcel.2017.06.018

プレスリリース資料

DNAは規則正しくらせん状に折り畳まれて細胞の核の中に収められていると、長い間考えられてきました。ところが近年、この規則正しい構造は存在せず、不規則に核のなかに収納されていることがわかってきました。しかしながら、実際の収納の様子を「生きた細胞」で捉えた決定的な証拠はありませんでした。

このたび情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所・野崎慎研究員・前島一博教授らと大阪大学・永井健治教授、理化学研究所・岡田康志チームリーダーの共同グループは、光学顕微鏡の分解能を超える超解像蛍光顕微鏡を構築することで、生きた細胞内におけるDNAの収納の様子を観察することに世界で初めて成功しました。その結果、DNAは不規則に折りたたまれ、「クロマチンドメイン」とよばれる小さな塊を形作っていることがわかりました(図1)。このクロマチンドメインは細胞増殖、細胞分裂を通じて維持されていることから、遺伝情報の検索・読み出し・維持に重要な染色体ブロック(機能単位)として働くことが示唆されます。

本研究の結果によって、遺伝情報がどのように検索され、読み出されるのかについての理解がさらに進むとともに、DNAの折りたたみの変化で起きるさまざまな細胞の異常や関連疾患の理解につながることが期待されます。

本研究成果は、平成29年7月13日12時(米国東部時間)に米国科学雑誌 Molecular Cell に掲載されました。

本研究は、大阪大学産業科学研究所・永井健治教授、理化学研究所生命システム研究センター・岡田康志チームリーダー、米国MBL・谷知己チームリーダー、JASR・城地保昌チームリーダー、国立遺伝学研究所・鐘巻将人教授、オランダエラスムスMC・Kerstin S. Wendtチームリーダー、慶應義塾大学・冨田勝教授、国立遺伝学研究所・野崎慎学振特別研究員、前島一博教授グループとの共同研究としておこなわれました。

本研究は文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究「少数性生物学」(領域代表:大阪大学 永井健治教授)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST) 「統合1細胞解析のための革新的技術基盤」(研究総括:東京大学大学院 菅野純夫教授)(研究課題名「超解像3次元ライブイメージングによるゲノムDNAの構造、エピゲノム状態、転写因子動態の経時的計測と操作」(JPMJCR15G2)、研究代表者:岡田 康志)、および科学研究費補助金(16H04746)の支援を受けました。

Figure1

図1 DNAの細胞内収納に関するこれまでの定説(中段左)と新しい説(中段右)。

Figure1

図2 左は従来の生細胞の顕微鏡像(DNAを染色している)。中央は今回の研究で得られた超解像のクロマチン像。より細部の構造がはっきりと分かり、つぶつぶのクロマチンの塊(クロマチンドメイン)が観察された。(右)ヌクレオソーム(研究の背景参照)が塊を作ってドメインを形成すると考えられる。

 

DBCLS ライフサイエンス新着論文レビューでの解説

2017/07/06

DNAの違いから、芽生え段階でカンキツの様々な果実特性を高精度に予測 -カンキツ品種改良へのゲノミックセレクションの有効性を確認-

Press Release

Potential of genomics-assisted breeding for fruit quality traits

Mai F. Minamikawa, Keisuke Nonaka, Eli Kaminuma, Hiromi Kajiya-Kanegae, Akio Onogi, Shingo Goto, Terutaka Yoshioka, Atsushi Imai, Hiroko Hamada, Takeshi Hayashi, Satomi Matsumoto, Yuichi Katayose, Atsushi Toyoda, Asao Fujiyama, Yasukazu Nakamura, Tokurou Shimizu, Hiroyoshi Iwata

Scientific Reports 7, Article number: 4721 (2017) DOI:10.1038/s41598-017-05100-x

プレスリリース資料(農研機構)

近年、果樹の品種改良では、DNAの違いから特性を予測し個体を選抜する「DNAマーカー選抜」の利用が進んでいます。しかし、DNAマーカー選抜の利用は少数の遺伝子が関わる特性に限られており、果実重など重要な特性の多くを占める、多数の遺伝子が少しずつ関わる特性には利用できませんでした。

農研機構、東京大学および情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所は共同で、大量のDNAマーカー情報から特性を予測する新技術「ゲノミックセレクション」により、芽生え段階で果実重、果実の硬さ、果皮の色、果皮のむきやすさ、果肉の色、じょうのう膜3)のやわらかさといった果実の特性を高い精度で予測することに成功しました。

その結果、ゲノミックセレクションを利用すれば、従来のDNAマーカー選抜法の利用が困難であった、多数の遺伝子が関わる特性についても、芽生え段階で選抜できることが明らかになりました。

ゲノミックセレクションの活用により、消費者などの新たなニーズ(たとえば特徴的な香りを持つカンキツなど)に応える、カンキツの品種改良の加速化・効率化が期待されます。

遺伝研の貢献:
国立遺伝学研究所先端ゲノミクス推進センターならびに比較ゲノム解析研究室は、柑橘全ゲノムシーケンスを実施しました。また、同研究所大量遺伝情報研究室は、シーケンスデータをもとにSNPアレイの設計をおこなうことで本研究に貢献しました。

掲載雑誌:
本研究成果は国際科学雑誌「Scientific Reports」(7月5日付け:日本時間7月5日18時)に掲載されました。

助成金等の情報:
本研究は農林水産省委託プロジェクト「ゲノム情報を活用した農産物の次世代生産基盤技術の開発」プロジェクト「多数の遺伝子が関与する形質を改良する新しい育種技術の開発」(NGB)、情報・システム研究機構 新領域融合プロジェクト「生命システム」サブテーマ1 超大量ゲノム情報、運営費交付金の支援を受けました。

Figure1

従来の育種法とゲノミックセレクションを取り入れた育種法の比較

2017/07/05

家畜動物はなぜ人になつくのか~人に近づくマウスをつくり遺伝のしくみを解明~

Press Release

Selective breeding and selection mapping using a novel wild-derived heterogeneous stock of mice revealed two closely-linked loci for tameness

Yuki Matsumoto, Tatsuhiko Goto, Jo Nishino, Hirofumi Nakaoka, Akira Tanave, Toshiyuki Takano-Shimizu, Richard F Mott, Tsuyoshi Koide

Scientific Reports 7, Article number: 4607 (2017) DOI:10.1038/s41598-017-04869-1

プレスリリース資料

家畜動物の多くは、自ら人に近づく(能動的従順性)性質をもつことがわかっていますが、この性質がどのような遺伝的しくみによってもたらされるのか不明でした。このたび、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の松本悠貴(総研大遺伝学専攻大学院生)と小出剛准教授らのグループは、動物が人に近づく行動に関わるゲノム領域を明らかにしました。

本研究では、野生マウス同士を交配させて生まれたマウスの中から人の手を恐れず近寄ってくるマウスを選び、それらをさらに交配させるという選択交配実験を繰り返すことによって、自ら人に近づくマウス集団を作り出すことに成功しました。次に、これらマウスから、人に近づく行動を生み出すゲノム領域を調べたところ、11番染色体上の二つのゲノム領域が重要であることを発見しました。さらに、これら二つのゲノム領域がイヌの家畜化にも影響している可能性を比較ゲノム解析から見出しました。

本成果は動物の家畜化に関わる遺伝の仕組みを明らかにした画期的なものです。これまで家畜化に成功していない多くの動物種に家畜化の道をひらく可能性が期待できます。

本研究は、ロンドン大学のRichard F. Mott博士との共同研究の成果です。

この成果は平成29年7月4日午前10時(英国時間)に英国オンライン・ジャーナル Scientific Reports に掲載されました。

本研究は、科研費(15H01298, 15H05724, 16H01491, 15H04289(代表:小出剛);24658240(代表:後藤達彦)、特別研究員奨励費(代表:松本悠貴)、情報・システム研究機構新領域融合プロジェクトの支援を受けました。

Figure1

選択交配により自ら人に近づくマウスを作成して解析したところ、11番染色体上のゲノム領域が人に近づく行動に重要だった。また、この領域は犬の家畜化に関するゲノム領域と相同だった。

2017/07/03

新分野創造センターにあたらしい研究室ができました

2017年7月1日付けで新分野創造センターに村山泰斗准教授が着任しました.

村山 泰斗:新分野創造センター,染色体生化学研究室

村山泰斗 准教授

新分野創造センター(Center for Frontier Research)は,「あたらしい人材」と「あたらしい分野」を同時に育成するためのインキュベーションセンターです. 若手の優れた研究者が研究室主催者(テニュアトラック准教授)として研究室を運営し, 遺伝研の卓越した研究環境や様々なサポートを活用して遺伝学とその周辺領域に新しい分野を開拓する研究を行っています.


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