Archive

2018/07/31

膵島(ランゲルハンス島)の神経支配様式の解明

A new mode of pancreatic islet innervation revealed by live imaging in zebrafish.

Yang, Y.H.C., Kawakami, K., and Stainier. D.Y.R.

eLife 7: e34519 (2018) DOI:10.7554/eLife.34519

膵島(膵臓のランゲルハンス島)には、自律神経および感覚神経が侵入し、その機能を調節している。この研究では、ゼブラフィッシュを用いてin vivoイメージングと遺伝学的解析を駆使して、膵島神経支配につながる現象を解析した。血管構造の非存在下でも神経細胞密度は変わらなかったため、血管構造が初期の膵臓の神経支配のために必須ではなかった。神経堤細胞は、発生の初期に膵島の内分泌細胞と密接に接触している。我々は、そのような神経堤細胞が、長距離を移動しつつ、軸索を膵島に向かって伸ばす神経細胞を生じることを見出した。これらの神経細胞の特異的除去あるいは機能阻害は、他の神経細胞が膵島から移動する活性を抑制し、その結果として、膵島の神経支配が減少した。この研究によって、私たちは、器官の神経支配のメカニズムを明らかにするための、ゼブラフィッシュ膵島の神経支配モデルを確立した。本研究は、国立遺伝学研究所共同研究(A)の支援を受けて行われました。

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図:膵島を支配する神経細胞の移動と軸索伸長の様子。

2018/07/31

シャジクモの全ゲノム解読により陸上植物進化の起源を探る

Press Release

The Chara genome: secondary complexity and implications for plant terrestrialization

Tomoaki Nishiyama, Hidetoshi Sakayama, 他, 計60名

Cell Volume 174, ISSUE 2, P448-464.e24, July 12, 2018 DOI:10.1016/j.cell.2018.06.033

プレスリリース資料

金沢大学学際科学実験センターの西山智明助教,神戸大学大学院理学研究科の坂山英俊准教授,国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授,東京大学大学院新領域創成科学研究科の鈴木穣教授,ドイツ・マールブルク大学のStefan Rensing教授らの国際共同研究グループは,シャジクモ(図1)の概要ゲノムを解読し,他の藻類および陸上植物との比較により,シャジクモの系統と陸上植物の系統の分岐前後における遺伝子レベルの進化の一端を明らかにしました。

陸上植物はシャジクモ藻類の仲間から進化しました。その中でシャジクモ類は最も複雑な体の構造を持つものです。本研究グループは,シャジクモのゲノム(全遺伝子)概要配列を解読し,他の藻類および陸上植物のゲノムと比較することにより,陸上植物が成立する過程においてどのような新規性があったのか,また共通祖先からどのような遺伝子が引き継がれているのかを明らかにしました。

シャジクモの概要ゲノムは,植物の陸上での生活に重要と考えられる多くの陸上植物的な特徴がシャジクモ藻類にあること,これにより,最古の陸上植物ができる以前にそういった陸上植物的な特徴が獲得されたことを明らかにしました。また,シャジクモと陸上植物の祖先が分岐してから陸上植物が成立するまでに獲得された遺伝子がどれであるか推定できるようになりました。このシャジクモの概要ゲノムは,さらに多くの陸上植物に見られる遺伝子の進化的解析において参照されるとともに,シャジクモでの進化遺伝学的解析の基盤になると期待されます。

本研究成果は,2018年7月12日午前11時(米国東部標準時間)に米国学術雑誌「Cell」のオンライン版に掲載されるとともに,本研究に関する画像が「Cell」の表紙を飾りました。また,シャジクモのゲノム配列はDDBJより公開されました。

本研究は,以下の科学研究費補助金および各国の助成の支援を受けて実施されました。
特定領域研究ゲノム4領域「比較ゲノム」「基盤ゲノム」,新学術領域「ゲノム支援」,基盤研究(B), 若手研究(B), 基盤研究(C)
17020008,20017013, 22128008, 24370095 15H04413; 22770083, 24570100, 15K07185 221S0002

国立遺伝学研究所は、シャジクモのゲノム解析にあたり、塩基配列解析を担当しました。

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図1: ゲノム解析に用いたシャジクモS276株。
(左)主軸に枝が放射状に輪生し,「車軸」のように見える葉状体。スケールバーは1 cm。(右)輪生枝の途中に形成される生殖器官。上が生卵器,下が造精器。スケールバーは100 µm。(神戸大学 坂山英俊 提供)

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図2:陸上植物,シャジクモ藻類の系統関係を表した図
系統樹でゲノム配列が公表されている生物を含む枝は太線で示してある。今回ゲノム配列を公表したシャジクモはフラグモプラストを作る現生生物の中で陸上植物と最も初期に分岐した生物である。

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図3:Cell表紙画像
https://www.cell.com/cms/attachment/2119480371/2094205305/cover.tif.jpg

2018/07/30

「行動や性格の遺伝子を探す -マウスの行動遺伝学入門ー」をマウス開発研究室小出准教授が裳華房より出版

裳華房より、マウス開発研究室 小出 剛 准教授が出版いたしました。

→詳細情報
タイトル: シリーズ・生命の神秘と不思議
      行動や性格の遺伝子を探す
      -マウスの行動遺伝学入門-
著者:  小出 剛
定価:  定価1728円(本体1600円+税8%)

 行動や性格と遺伝との関係に興味を持ったことがある人は多いと思います.人を観察していると,社交的であったり,とっつきにくかったり,物静かだったり,心配性だったりというように,それぞれ性格が異なることに気づきます.
 人において,行動や性格と遺伝子の関係を詳細に調べることは難しいものですが,マウスならそれができます.現在,マウスを用いて,社会行動や攻撃性,学習記憶,不安,人懐っこさなど,さまざまな行動に関わる遺伝子の詳細な機能を調べる研究が進められています.マウスの行動遺伝学は,近年のゲノム科学や神経科学,さらには行動解析技術の進歩とそれら分野間の融合により,今後さらに大きく進展することが期待されているのです.
 本書では,行動遺伝学の研究の歴史から,現在の最先端の知見までをご紹介します.

→関連リンク: 裳華房 書籍のページ (本のイメージをクリックしても詳細ページへリンクします)

マウス開発研究室・小出研究室
2018/07/19

動画「全地球史アトラス」の公開 -研究成果に基づき生命の誕生と進化のストーリーを再現した最新映像-

Press Release

プレスリリース資料

東京工業大学地球生命研究所の丸山茂徳 特命教授および情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の黒川顕 教授らの研究グループは、文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究「冥王代生命学の創成」(課題番号2605)において、これまで未解明の問題であった「地球と生命の起源」を解明する研究に取り組んできました。

2014年度から始まった本研究によって、丸山 特命教授らは、生命誕生の場および生命の起源、進化に関するこれまでの定説を覆す新たな仮説を提案してきました。この新仮説をわかりやすく専門外の方々に紹介することを目的として、「冥王代生命学の創成」研究チームは、有限会社ライブの上坂浩光氏とともに、動画「全地球史アトラス」を制作し、順次公開してきました。今回、新シリーズを公開します。

本動画では、最新の研究成果により提案した仮説に基づいて、地球の誕生、そして生命の誕生と進化を映像化しています。

  • 動画「全地球史アトラス」はこちらでご覧いただけます
Figure1

図: 動画「全地球史アトラス」トップ画面(2018年7月13日現在)

2018/07/11

木村資生博士による「中立進化論」の提唱から50年


写真提供:太田朋子

1968年、当時国立遺伝学研究所の集団遺伝研究部門部長であった木村資生博士が、Nature誌の217巻624-626頁に “Evolutionary rate at the molecular level”と題した論文を発表しました。

この論文は、現代進化学理論の中核となっている「中立進化論」を提唱したものです。

今年は中立進化論提唱50周年であることを記念して、分子進化学の国際会議 SMBE2018 も横浜にて実施されています。


論文: Kimura, M. (1968). Evolutionary rate at the molecular level. Nature 217: 624-626.

2018/07/09

世界初!光で細胞分裂装置の操作に成功 ~体作りに重要な細胞分裂の仕組みの理解促進に期待~

Press Release

Dynein-Dynactin-NuMA clusters generate cortical spindle-pulling forces as a multi-arm ensemble

Masako Okumura, Toyoaki Natsume, Masato T Kanemaki, Tomomi Kiyomitsu

eLife Research Article May 31, 2018 DOI:10.7554/eLife.36559

プレスリリース資料

このたび、名古屋大学大学院理学研究科の 清光 智美 助教の研究グループは、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の 鐘巻 将人 教授、夏目 豊彰 助教との共同研究で、光を用いてヒトの内在性タンパク質の局在を自在に操作する技術を開発し、細胞分裂装置(紡錘体1))の配置を光で操作することに世界で初めて成功しました。紡錘体の配置は細胞分裂の方向や娘細胞のサイズを決めるため、母細胞が2つの同じ娘細胞に分裂するのか、それとも2つの異なる娘細胞に分裂するのかを決める重要な役割を担います。従って、紡錘体を適切に配置する仕組みは、私たちの体を作る基礎となりますが、どのようにして紡錘体を動かす力が生み出されるのかは、理解されていませんでした。私たちは、今回新たに開発した技術を用いて複数の候補因子の局在を操作したところ、紡錘体牽引力の生成に十分なヒト遺伝子を同定することに成功しました。この発見は、細胞分裂の対称性・非対称性制御の仕組みを理解する上で極めて重要な手がかりとなり、細胞分裂が私たちの体作りに果たす役割や、その破綻と疾患との関連について理解が進むことが期待されます。

この研究成果は、平成30年5月31日(日本時間)に英国科学雑誌「eLife」オンライン版に掲載されました。 

なお、この研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ、ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)、文部科学省科学研究費助成事業等の支援のもとで行われたものです。

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図1: 光によるタンパク質の局在操作と紡錘体配置の光操作
(A) 光によるヒト内在性タンパク質の局在操作の模式図。まず膜局在型のiLID(Mem-BFP-iLID)、RFP-Nanoを融合したNuMA(NuMA-RFP-Nano)の2つを発現する細胞株を樹立した。RNA干渉法(RNAi)7)をもちいてNuMAの上流因子LGNを発現抑制した後、赤丸領域を光照射することによって、NuMA-RFP-Nanoを細胞膜へと局在操作した。光照射によってiLIDは構造を変え、Nanoと結合するため、NuMA-RFP-Nanoを膜上へと局在化できる。(B) 光による紡錘体の牽引の様子。上段;NuMA-RFP-Nano像。下段; SNAPタグを融合したDynein-SNAP像。赤丸で記した領域に光を照射すると、NuMAおよびダイニンはその領域近くの細胞膜に局在化し、その後、その方向に紡錘体が引き寄せられていく。(C) 光による紡錘体の回転操作の様子。光照射部位を回転させると、NuMA局在の回転に伴い、紡錘体が回転する様子が観察された。上段:NuMA-RFP-Nano像。下段:紡錘体像。点線は紡錘体の長軸を表す。

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図2:紡錘体牽引装置の構造モデル
NuMAは尾部(カルボキシル末端)の自己集合ドメインを介して環状構造を形成し、かつ微小管結合ドメインを用いて、微小管の先端に結合することで、微小管の退縮エネルギーを牽引力に変換する。またNuMAの頭部(アミノ末端)領域によって局在化された複数のダイニン、ダイナクチン分子は微小管の側面に結合し、ダイニンのマイナス端への運動エネルギー用いて大きな微小管牽引力を生み出す。このようにダイニン, ダイナクチン, NuMAがcluster構造(Dynein-Dynactin-NuMA (DDN) clusterと命名)をとることによって、まるで人の手のような形をつくり、より効率的に微小管を捕らえ、紡錘体牽引力を生成できると考えられる。


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