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2019/04/25

両親由来のゲノム配列を個別に決定する新手法-ゲノム多様化領域に起因した生命現象の解明へ-

Press Release

Platanus-allee is a de novo haplotype assembler enabling a comprehensive access to divergent heterozygous regions

Rei Kajitani, Dai Yoshimura, Miki Okuno, Yohei Minakuchi, Hiroshi Kagoshima, Asao Fujiyama, Kaoru Kubokawa, Yuji Kohara, Atsushi Toyoda & Takehiko Itoh

Nature Communications 10, Article number: 1702 (2019) DOI:10.1038/s41467-019-09575-2

プレスリリース資料

東京工業大学、国立遺伝学研究所、東京大学の共同研究グループは、真核生物のゲノム配列決定において、両親由来の配列を区別し、高精度にそれぞれを決定する、新しい情報解析手法の開発に成功しました。

ヒトなど真核生物のゲノム情報は、両親から受け継いだ情報を持ち合わせていますが、今までは両親由来ゲノムの差異を無視して配列決定を行うことが一般的でした。しかしながら、この差異の大きな領域は、種々の昆虫の表現型(紋様)との関連や、ヒトでの免疫型の決定、さらには疾患との関連も報告されるようになっています。そのため、簡便に両親由来の配列を区別して解析できる手法が求められていたのです。

研究チームが開発した「Platanus-allee(プラタナス アリー)」と呼ばれる新しいプログラムは、特殊な装置や前処理を必要とせず、現在の主流になっている次世代シークエンサーの大規模な断片配列データのみから、両親由来の配列を高精度に再構築できる画期的なものです。

本成果は、2019年4月12日付けの「Nature Communications」に掲載されました。

研究支援
本研究は、文部科学省科研費「新学術領域研究『学術研究支援基盤形成』」先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム(16H06279)および、16H04719, 15H0597などの支援を受けて行われました。

国立遺伝学研究所の貢献
比較ゲノム解析研究室および先端ゲノミクス推進センターは、両親由来の配列を区別して高精度にゲノム配列を再構築できる新たな手法の開発にあたり、さまざまな生物種から高分子かつ高品質なゲノムDNAを調製するとともに、現在主流となっている次世代型シーケンサを用いて、開発・評価用にショートリードやロングリードの配列決定を実施しました。

Figure1

図:新たな情報解析プログラム「Platanus-allee」のアルゴリズムの模式図

2019/04/19

システム神経科学研究室 久保准教授が平成31年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞

久保准教授
      久保 郁 准教授

新分野研究センター システム神経科学研究室 久保 郁 准教授が、平成31年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞しました。

本賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者に授与されるものです。


授賞式日時:平成31年4月17日(水)

授賞式場所:文部科学省3階 講堂

受賞名:平成31年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞

受賞テーマ:視覚情報処理と行動制御の神経メカニズムに関する研究


平成31年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者等の決定について (MEXT)


システム神経科学研究室 久保研究室

2019/04/17

2つに分裂するか、3つに分裂するか、それが問題だ

Choice between 1- and 2-furrow cytokinesis in Caenorhabditis elegans embryos with tripolar spindles

Tomo Kondo and Akatsuki Kimura

Molecular Biology of the Cell Published Online:20 Feb 2019 DOI:10.1091/mbc.E19-01-0075

国立遺伝学研究所博士研究員の近藤興博士(現・東京大学 助教)と細胞建築研究室の木村暁教授は、過剰数の中心体を有した細胞がその分裂のパターンを決定するしくみを明らかにした。本成果は米国細胞生物学会が発行するMolecular Biology of the Cell誌の「細胞内外の力学(Forces on and within Cells)」をテーマとした特集号(7/22発行予定)に掲載される。

動物細胞が遺伝情報を2つに分配し分裂するとき、細胞小器官の「中心体」が重要である。正常な分裂期の細胞では中心体は2つだが、それ以上になった細胞は一体どうなるのか?本研究では、モデル生物である線虫C. elegansの受精卵を使って、中心体を3つに増やした細胞を遺伝学的に作出し解析した。3つの中心体をもつ細胞は3つに分裂すると予想されたが、実際は、そのような細胞はわずか30%しかなかった(図A右)。残りの70%は、あたかも正常に2分裂した(図A左)。詳細に分析すると、いずれの細胞でも形成されていた3つの中心体を頂点とする三角形の紡錘体と細胞長軸のなす角度が、分裂パターンと相関することを見出した。近藤博士らは、画像解析とコンピュータ・シミュレーションを駆使し、この紡錘体の配置は、1)細胞の形状、2)中心体にかかる力、3)中心体の大きさの違いに起因する力の非対称性によって決定されることを提唱した。本研究の成果は、細胞内力学の基本的な理解に繋がるとともに、がん細胞など様々な細胞の分裂を人為的に制御できる可能性を示唆している。

Figure1

図:(A) 3つの中心体(矢印)を持った線虫の受精卵。左列の細胞は中心体を2つ有する通常の細胞のように2つに分裂する。一方、右列の細胞は3つに分裂した。(B) 3つの中心体を有する細胞の分裂パターンを説明する模式図。3つの中心体が形成する三角形状の紡錘体の細胞長軸に対する角度が重要であった。

2019/04/11

NAROジーンバンクとナショナルバイオリソースプロジェクトのデータ連携による遺伝資源の横断検索システム(PGR-Gateway) ―遺伝資源への効率的なアクセスの実現に向けて―

Press Release

プレスリリース資料

農研機構と国立遺伝学研究所、京都大学は、NAROジーンバンクとナショナルバイオリソースプロジェクトで保存している植物の遺伝資源のうち、イネとコムギの遺伝資源につ いて横断的に検索できるシステム(PGR-Gateway)を開発し、2019年1月に公開しました。  

遺伝資源は、農産物や医薬品などとして活用する直接的な価値と、地球環境保護に利用する間接的な価値を持つ、将来の人類にとって貴重な財産です。いくつかの国立研究開発法人や公設試験場、大学等では、植物種子などの遺伝資源を収集・保存し、遺伝資源の配布や遺伝資源情報の提供を行っています。遺伝資源の利用者にとって、どこの保存機関がどのような遺伝資源を保存しているかという情報は重要であり、効率的に遺伝資源を探すことができる環境の整備が求められています。

今回、国内の代表的植物遺伝資源保存事業である農業生物資源ジーンバンク(略称NAROジーンバンク)事業とナショナルバイオリソースプロジェクト(略称NBRP)は、双方が保存するイネとコムギ遺伝資源のデータ(合計でイネ2万7千点、コムギ2万9千点)を横断的に検索できるシステム(PGR-Gateway)を開発し、2019年1月7日に公開しました。

NAROジーンバンクは農学研究の立場から将来の品種改良用の素材として国内外の在来品種や育成品種を中心とした遺伝資源を、NBRPはライフサイエンス研究の立場から野生種や実験系統も含めた幅広い遺伝資源を保存しています。これまでは個別にデータベースを作成し、遺伝資源の情報を公開していました。PGR-Gatewayの公開により、我が国のイネとコムギの植物遺伝資源検索のワンストップ化が実現し、遺伝資源情報により効率的にアクセスできるようになりました。

今後は、PGR-Gatewayに他機関が保有するイネ・コムギ遺伝資源情報を追加したり、対象作物を追加することにより、食料・農業関連の遺伝資源検索の更なるワンストップ化を進めていく予定です。

国立遺伝学研究所の貢献
生物遺伝資源センターバイオリソース部門(植物遺伝研究室)およびバイオリソース情報部門(系統情報研究室)は、イネの総合データベース・Oryzabaseから野生イネを含む系統情報の提供、並びに、NBRPリソース総合検索APIを提供しました。

植物遺伝資源の横断検索システム(PGR-Gateway)へのリンク
・NAROジーンバンクから
https://www.gene.affrc.go.jp/?db_pl_xs
・NBRPから
https://resourcedb.nbrp.jp/

Figure1

図1:NAROジーンバンクからの統合データベース(PGR-Gateway)の横断検索結果
横断検索画面の機関「SHIGEN」はNBRPとして国立遺伝学研究所に、「NARO」はNAROジーンバンクに保存されていることを示します。
(URL)https://www.gene.affrc.go.jp/?db_pl_xs

Figure1

図2:NBRPからの統合データベース(PGR-Gateway)の横断検索結果
検索結果表示画面の機関「SHIGEN」はNBRPとして国立遺伝学研究所に保存されていることを示します。
(URL)https://resourcedb.nbrp.jp/

2019/04/11

青や緑の色覚遺伝子を制御する分子の同定

Six6 and Six7 coordinately regulate expression of middle-wavelength opsins in zebrafish

Yohey Ogawa, Tomoya Shiraki, Yoshimasa Asano, Akira Muto, Koichi Kawakami, Yutaka Suzuki, Daisuke Kojima and Yoshitaka Fukada

PNAS (2019) 116 (10) 4651-4660 DOI:10.1073/pnas.1812884116

脊椎動物の視覚は視細胞と呼ばれる光感受性の細胞による光受容により始まります。視細胞は桿体細胞と錐体細胞という2種類に大別され、このうち錐体細胞が明るい場所での視覚や色覚を担っています。錐体細胞は応答する光の波長(色)によりさらに複数のサブタイプに分類され、各タイプの錐体細胞はそれぞれ異なる光受容タンパク質(オプシン)を発現します。この波長感受性の異なる複数の錐体サブタイプの組み合わせにより色覚は実現されます。魚類・鳥類・爬虫類など多くの脊椎動物は4種類(紫・青・緑・赤)のオプシン遺伝子をもち、この4色型の色覚は脊椎動物における色覚の原型であると考えられています。一方、哺乳類は進化の過程で青と緑の2種類のオプシン遺伝子を失っており、哺乳類において失われた青と緑のオプシンの存在意義や、その遺伝子発現の制御メカニズムについては全く明らかにされていませんでした。

本研究では、4色型の色覚をもつ小型魚類ゼブラフィッシュを用いてオプシン遺伝子の制御に必須の分子を探索しました。錐体細胞に強く発現する分子として同定された転写制御因子Six6とSix7に着目し、この両方の遺伝子を機能欠損する変異個体を作製したところ、青と緑のオプシン遺伝子の発現がともに消失しました。さらにChIPシーケンス解析から、青と緑のオプシン遺伝子のごく近傍にSix6とSix7が結合することが分かりました。これらの結果から、Six6とSix7が青と緑のオプシン遺伝子の発現を協調的に制御することが明らかになりました。
また、この変異個体は野生型と混在した通常の飼育環境下では成魚まで生育しないが、変異個体のみの飼育では成魚まで成長したことから、他個体との摂餌競争に勝てない可能性が想起されました。そこで、幼生期の変異個体においてゾウリムシの捕獲行動を解析したところ、摂餌の成功回数が顕著に低下することが分かりました。このことから青〜緑色の波長領域の色受容が生存に重要な意味をもつことが明らかとなりました。

本研究は、東京大学大学院理学系研究科の小川洋平特任研究員、小島大輔講師、深田吉孝教授らの研究グループと、東京大学の鈴木穣教授、国立遺伝学研究所の発生遺伝学研究室(川上浩一教授、武藤彩助教、白木知也特任研究員)との共同研究により実施されました。

本研究は科研費補助金(JP16J01681、JP16K20983、JP15K07144、JP18H04988、JP24227001、JP17H06096)の支援を受けて行われました。

Figure1

図:(左)Six6とSix7を機能欠損する変異個体(TKO)は青と緑のオプシン遺伝子の発現がともに消失しているため、野生型(WT)と比較して中波長領域の光感受性が減弱する。(右)この変異個体では野生型と比較してゾウリムシ(paramecia)の捕獲行動能が低下する。

2019/04/04

「半兵衛白紅桜」銘板の除幕式を実施

遺伝研創立70周年を記念して命名された「半兵衛白紅桜」の銘板が設置され、4月1日、除幕式を執り行いました。

   半兵衛白紅桜と銘板    除幕

除幕式では、遺伝研花岡所長、遺伝研さくらの会小出代表より挨拶がありました。

あいにくの寒空でしたが、天に向かう枝には桜が見頃を迎え紅白の花弁を揺らしていました。

   花岡所長挨拶    小出代表挨拶

半兵衛白紅桜 命名記事

   半兵衛白紅桜 接写

2019/04/01

新分野創造センターのテニュアトラック教員がテニュア獲得

2019年4月1日付けで新分野創造センターの准教授がテニュアを獲得するとともに、教授に昇任しました。

小田 祥久:細胞制御研究室

遺伝研の新分野創造センター(Center for Frontier Research)は,「あたらしい人材」と「あたらしい分野」を同時に育成するためのインキュベーションセンターです。遺伝研の卓越した研究環境や様々なサポートを活用して若手の優れた研究者がテニュアトラック独立准教授として研究室を運営し、遺伝学とその周辺領域に新しい分野を開拓する研究を行っています。テニュアを獲得した教員は遺伝研に新しい研究部門を創り、自らが創成に貢献している新分野を牽引していきます。

小田 祥久 教授
2019/04/01

4月1日付で助教が着任

2019年 4月 1日付けで遺伝研に助教が着任しました.

根岸 剛文:多細胞構築研究室・澤研究室


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