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2015/06/26

Nanos2によるmRNAの転写後調節が精子幹細胞の維持に重要

発生工学研究室・相賀研究室

The RNA binding protein Nanos2 organizes a post-transcriptional buffering system to retain primitive states of mouse spermatogonial stem cells

Zhi Zhou, Takayuki Shirakawa, Kazuyuki Ohbo, Aiko Sada, Wu Quan, Kazuteru Hasegawa, Rie Saba, Yumiko Saga Developmental Cell. Published Online: June 25, 2015 DOI:http://dx.doi.org/10.1016/j.devcel.2015.05.014

成人男性が50年以上の長期間にわたって精子形成を継続的に維持できる理由は、精子幹細胞が自己複製と精子形成をバランスよく調整しているからである。我々はマウスの精子形成過程をモデルとしてその維持機構の解析を続けている。以前にRNA結合タンパク質Nanos2が精子幹細胞の維持に必須であることを明らかにしてきたが、その詳細な分子機構は不明であった。今回、Nanos2は主に2つのメカニズムで精子幹細胞の未分化性を維持することを明らかにした。ひとつは、Nanos2がP-bodyとよばれるmRNA-タンパク質複合体に標的となる分化促進mRNAをリクルートして、その分解及び翻訳抑制を介して発現を抑制することでその主な標的としてSohlh2 mRNAを同定した。またNanos2は, 細胞増殖や分化を促進するmTORCシグナル系のコア因子mTORと結合し、その機能を抑制することで未分化性を維持することを明らかにした。これらの機能はNanos2の発現量に依存しており、Nanos2がmRNPの機能を制御する緩衝因子として機能していると結論づけた。 本研究は、科研費「新学術領域研究:生殖細胞のエピゲノムダイナミクスとその制御」及び、融合研究「データ同化」の支援を受けています。また筆頭著者のZhi ZhouはH24年度遺伝研ポスドクとして採用されています。

Figure1

Nanos2はmRNPの形成を介して精子幹細胞の未分化性を維持する。Nanos2の発現が高い細胞は、多くのmRNPが形成され、分化関連遺伝子やmTORCシグナルの抑制を介して分化抑制する。

2015/06/23

集団遺伝研究部門 斎藤教授が、遺伝学振興会奨励賞を受賞しました

遺伝学奨励賞

遺伝学奨励賞

集団遺伝研究部門 斎藤成也教授が、浜松市にある遠州頌徳会 遺伝学振興会より、遺伝学奨励賞を受賞致しました。 この賞は、遺伝学の健全な発展を目的として1976年より遠州頌徳会が遺伝学振興会を設立し大賞及び奨励賞を授与しています。 1982年には、太田朋子先生も同じく奨励賞を受賞されております。

集団遺伝研究部門・斎藤研究室

2015/06/16

エゾサンショウウオの形態変化に関わる遺伝子群を同定

生態遺伝学研究部門・北野研究室

Transcriptome analysis of predator- and prey-induced phenotypic plasticity in the Hokkaido salamander (Hynobius retardatus).

Matsunami, M., Kitano, J., Kishida, O., Michimae, H., Miura, T., and Nishimura, K. Molecular Ecology 24: 3064–3076 (2015) DOI:10.1111/mec.13228

エゾサンショウウオの幼生は、捕食者であるヤゴが存在すると尾の高さや鰓のサイズが増し、餌であるエゾアカガエルのオタマジャクシが存在すると顎のサイズが大きくなることが知られています。周囲の環境に依存してこのように表現型を可塑的に変化させる現象は表現型可塑性として広く知られているものの、その背景で動く遺伝子の実体について脊椎動物では殆ど明らかになていません。このたび、生態遺伝学研究部門では、北海道大学や北里大学との共同研究によって、この際に発現量の変動を示す遺伝子群を同定しました。

解析の結果、捕食者によって引き起こされる形態変化は、被食者によって引き起こされる形態変化の約5倍の数の遺伝子の発現変化がおこっていること、異なる形態変化間で異なる遺伝子発現の変化が起こるだけではなく、共通の遺伝子発現の変化も生じていることが明らかになりました。したがって、このような形態変化は、独立に進化してきたのではなく、すでに持っている形態変化の分子基盤の一部を流用することで得られたのではないかと考えられました。

本成果は、総研大出身(遺伝研の斎藤研究室にて学位取得)の北海道大学の松波雅俊研究員が、国立遺伝学研究所の共同利用研究や科研費基盤A(西村欣成代表)の支援のもと、北野研究室を複数回訪問し共同研究することで得られた成果です。

Figure1

餌であるエゾアカガエルのオタマジャクシが存在すると顎のサイズが大きくなる(上)。北大の岸田治博士撮影。

2015/06/11

実験研究者にやさしい「NIGマウスゲノムデータベース」

NIG_MoG (The National Institute of Genetics Mouse Genome database)
URL:http://molossinus.lab.nig.ac.jp/msmdb/

哺乳動物遺伝研究室・城石研究室

国立遺伝学研究所で構築・公開しているマウスのゲノムデータベースについて、ビデオによるチュートリアルの掲載などの拡充により、実験研究者が使い易くするための改訂を行いましたのでお知らせいたします。

NIG_MoGは、マウスの基準ゲノム配列(C57BL/6J(B6))と、日本産モロシヌス亜種由来系統であるMSM/MsおよびJF1/Ms の全ゲノム情報を比較して検出されるゲノム多型情報を検索するためのナビゲーションシステムです。これらマウス亜種間ゲノム多型は、モロシヌス亜種とドメスティカス亜種の間で見出される形質の多様性の基盤になっています。モロシヌス由来系統と汎用近交系統の交配系によって遺伝解析を行う際には、NIG_MoGを利用することで各種ゲノム多型情報や解析ツールに迅速にアプローチすることができます。また、無尽蔵ともいえる遺伝マーカの作製や、塩基置換により引き起こされるアミノ酸置換、さらには遺伝子発現制御領域の多型情報を利用した機能ゲノム研究を効果的に推進することが可能です。

今回、「マウス実験遺伝学の研究者」が直感的にこのデータベースをご利用頂けるように、詳細な利用方法をビデオ・チュートリアルとしてトップページに掲載しました。このチュートリアルを有効に活用することにより、必要に応じて1塩基から数メガベースにわたるゲノム領域の塩基多型を直感的に観察することができます。また、個々の遺伝子についても、エクソンやアミノ酸配列、およびイントロンについて、B6 、MSMおよびJF1の各系統の比較を行うことができ、任意の塩基配列もデータとして取得可能です。NIG_MoGには、この多型情報に加えて、理研バイオリソースセンターで開発された、MSM系統およびC57BL/6N(B6の亜系統)のBACクローンを検索するシステムが搭載されています。これらの機能以外にも、マウス亜種間ゲノム多型情報を利用した機能ゲノム研究を効果的に行うための情報およびツールが拡充され、MSMおよびJF1を利用した各種の研究に欠かせないゲノム多型情報が一層効果的に閲覧できるようになりました。

このデータベースへは、下記のURLでアクセスできます。 http://molossinus.lab.nig.ac.jp/msmdb/

また、今回のビデオ・チュートリアルを含むNIG_MoGデータベースの拡充については、米国のマウスゲノム解析の専門誌であるMammalian Genomeに紹介論文が掲載されました。

Takada T, Yoshiki A, Obata Y, Yamazaki Y, Shiroishi T “NIG_MoG: a mouse genome navigator for exploring intersubspecific genetic polymorphisms.” Mamm Genome 2015 Published in Advance, DOI: 10.1007/s00335-015-9569-8. http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00335-015-9569-8

このデータベースの構築と公開は、国立遺伝学研究所の生物遺伝資源事業の一環として推進しています。また、一部は科研費(旧特定領域ゲノム「基盤ゲノム」情報支援班)の支援を受けました。掲載論文は、国立遺伝学研究所の哺乳動物遺伝研究室および系統情報(山崎)研究室、理研バイオリソースセンターの共同研究の成果です。


このデータベースについての質問やリクエストは下記にご連絡ください。


情報・システム研究機構国立遺伝学研究所
哺乳動物遺伝研究室
高田豊行 ttakada@nig.ac.jp
城石俊彦 tshirois@nig.ac.jp
Figure1

図:NIG_MoGのトップページ

2015/06/11

凝縮・弛緩の物理的プロセスが姉妹DNAを分離させる。

生体高分子研究室・前島研究室

Chromosomes Progress to Metaphase in Multiple Discrete Steps via Global Compaction/Expansion Cycles

Liang, Z., Zickler, D., Prentiss, M., Chang. F.S., Witz, G., Maeshima, K., Kleckner, N. Cell, 161, 1124-1137 (2015). DOI:10.1016/j.cell.2015.04.030

細胞は、コピーした2セットのゲノムDNA(遺伝情報)を正確に2つの娘細胞に分離・分配します。この過程を厳密におこなうために、細胞はコピーしたゲノムDNAを姉妹染色分体として凝縮させ、分配に備えます。このような姉妹染色分体の凝縮は、従来、prophase, metaphaseの進行において連続的に起こると考えられてきました。しかしながら、今回、ハーバード大学のLiangらは、この凝縮が、ストレスのかかる凝縮 (mid prophase; Fig a)、ストレスから解放される弛緩 (late prophase; Fig b)、再びストレスのかかる凝縮 (metaphase; Fig c) からなる不連続な過程を経て起こることを明らかにしました。そしてこの過程は、混在する姉妹DNAの効率的な分離を以下のように可能にすると思われます。

mid prophase (Fig a)において、コピーされた姉妹DNA(Fig 赤・青部分)はジグザグとしたチューブ状の染色体に凝縮されますが、まだ、染色体軸(Fig. 黄部分)は染色体周辺に一本存在するのみで、姉妹DNAは混在しています。Late prophase (Fig b)において、染色体のストレスが解放されると、より安定な構造を求めて、姉妹DNAが反発します。染色体軸は分離してそれぞれの姉妹部の中心に移動し、姉妹DNAはそれを安定に取り囲むように放射状になります。そして、metaphaseで、姉妹それぞれの染色分体が凝縮し、姉妹DNAの分離が完成します (Fig c)。最初のストレスをかける凝縮過程は、コンデンシンII, トポイソメラーゼIIaの結合 (Fig a)、弛緩過程は、姉妹DNAを束ねていたコヒーシンの解離、トポイソメラーゼIIaによるDNAの絡りの解消 (Fig b)、再凝縮過程はコンデンシンI(Fig c)の結合によるものと考えられます。

本論文は、今まで不明であった姉妹DNAの分離メカニズムに物理的視点から迫るものです。

Figure1

(a) mid-prophaseコピーされた姉妹DNAはジグザグとしたチューブ状の染色体に凝縮する。染色体軸を黄色で、姉妹DNAを赤・青で表している。
(b) late-prophase染色体のストレスが解放されると、より安定な構造を求めて、姉妹DNAが反発し、染色体軸は分離してそれぞれの姉妹部の中心に移動し、姉妹DNAは放射状にそれを安定に取り囲む。
(c) metaphase.姉妹それぞれの染色分体が凝縮し、姉妹DNAの分離が完成する。

2015/06/11

クラフォード賞授賞式がおこなわれました

太田朋子名誉教授とリチャード・ルウォンティン米ハーバード大名誉教授に2015年のクラフォード賞が贈られました。授賞に関する3日間の行事「クラフォードデイ」が5月5日から7日にかけておこなわれました。日本学術振興会(JSPS)ストックホルム研究連絡センターよりご提供いただいた写真や資料とともに、クラフォードデイの様子を詳しくお伝えします。

クラフォードデイ プログラム(PDF/1.3MB)

授賞式 プログラム(PDF/78KB)

News & Topics クラフォード賞受賞

Close-up!インタビュー 太田朋子先生のクラフォード賞受賞が決定

遺伝学の先達 太田朋子先生インタビュー

太田名誉教授のクラフォード賞受賞について (PDF/1.4MB)

(撮影:JSPSストックホルム研究連絡センター)

初日の記念シンポジウムと2日目の授賞式は、スウェーデン王立科学アカデミー(KVA)の建物でおこなわれました。赤レンガの建物は緑に囲まれ、木々に白い花が咲いて、とても良い季節だったそうです。

(撮影:JSPSストックホルム研究連絡センター)

シンポジウムではまず太田博士が「進化における『ほぼ中立』―遺伝子型と表現型をつなぐ」という題で講演しました。近年の生物学的知見、例えば、タンパク質の構造・機能のダイナミクスや、多様な遺伝子発現制御メカニズム間の相互作用が、ほぼ中立説とどのように結びつくかが論じられました。続いて英国やスウェーデンなど各国の6名の進化生物学者が、生物集団における遺伝的多様性についてさまざまな観点からの講演をおこない、休憩時間やランチタイムにも活発な議論が交わされました。詳しいプログラムや講演動画はクラフォード賞公式ウェブサイトで公開されています。

KVA事務総長による開会挨拶

太田博士の講演

太田博士の講演

ブロマム博士の講演

休憩時間

(撮影:JSPSストックホルム研究連絡センター)

翌日の授賞式では、前日と同じ会場が華やいだ雰囲気に包まれました。出席者にウェルカムドリンクが提供される傍ら、式典での演奏を担当するストックホルムコンサートオーケストラのメンバーが最終調整をおこないます。太田博士は、リハーサルや写真撮影、関係する方々との面会などのスケジュールを終えて式に臨みました。カール16世グスタフ国王王妃両陛下がご臨席され、太田博士と、ルウォンティン博士の代理を務めるアンドリュー・ベリー博士とに、国王陛下から賞状とメダルが手渡されました。国王陛下と握手を交わした太田博士は「私にとっては緊張の連続でしたが、国王陛下はとてもにこやかで、素晴らしいひとときでした」と振り返ります。

クラフォード賞委員会による発表

壇上の太田博士とベリー博士

賞を受け取る太田博士

楽団員による演奏

開場前の風景

クラフォードデイ プログラム

(撮影:JSPSストックホルム研究連絡センター)

授賞式終了後はグランドホテルに移動して晩餐会がひらかれました。メインテーブルの国王陛下と日本国大使閣下との間に太田博士の席があり、とても緊張したそうですが、国王陛下は気さくな方で、大使閣下も和やかにさまざまなお話をしてくださったそうです。太田・ルウォンティン両博士の業績やクラフォード財団の紹介に続いて、最後に、今回出席できなかったルウォンティン博士から事前に送られたメッセージを主に代読する形で太田博士がスピーチしました。国王王妃両陛下やクラフォード財団、王立科学アカデミーへの感謝とともに両博士の研究概要を紹介し、実験と理論とが両輪のように科学を進歩させるというメッセージが趣旨だったそうです。

(撮影:JSPSストックホルム研究連絡センター)

最終日にはクラフォード財団の所在するルンドに移動し、ルンド大学で受賞記念講演会がひらかれました。オーストリアのグレゴール・メンデル植物分子生物学研究所やルンド大学の進化生物学者とともに、太田博士は「進化における『ほぼ中立』という概念の発展」という演題で、中立説の歴史もまじえた講演をおこないました。

(撮影:スウェーデン王立科学アカデミー)

帰国後の5月13日、記者の方々向けの報告会が遺伝研でひらかれました。今回の受賞について太田博士は「思いがけない知らせに驚いた。私の研究内容はひじょうに基礎的で、私自身あまり情報発信をすることもなく、海外にしょっちゅう出かけることもなかった。最近になって『ほぼ中立説』を支持するデータが蓄積し、主に若手研究者からの支持が増していると感じていた。それだけでも嬉しかったので、今回の受賞は上乗せの喜びだと感じている」と語っています。

(撮影:国立遺伝学研究所)

2015/06/04

系統生物研究センター マウス開発研究室の吉見一人助教が第62回日本実験動物学会 奨励賞を受賞

吉見一人助教

系統生物研究センター マウス開発研究室の吉見一人助教が第62回日本実験動物学会 奨励賞を受賞しました。

授賞式日時

平成27年5月29日(金)

授賞式会場

京都テルサ(京都府民総合交流プラザ) 第1会場

受賞名

第62回日本実験動物学会 奨励賞

受賞テーマ

「ゲノム編集技術を用いた遺伝子改変ラットの開発研究」


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