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2019/01/31

遺伝研 一般公開2019 : 4月6日(土)開催 – 講演の動画を配信中

国立遺伝学研究所の一般公開は、2019年4月6日(土)に決定いたしました。詳細は3月頃にウェブサイトで公開予定です。
2019/01/29

マウスの交配を介さない遺伝学による条件付き遺伝子ノックアウト

ES-mediated chimera analysis revealed requirement of DDX6 for NANOS2 localization and function in mouse germ cells

Ryuki Shimada, Makoto Kiso, Yumiko Saga

Scientific Report 9, Article number: 515 (2019) DOI:10.1038/s41598-018-36502-0

時期・組織特異的な遺伝子の機能解析に、マウスではCre-loxpシステムがよく利用されています。通常、このためには、時期・組織特異的なCreリコンビナーゼを持つマウスと目的の遺伝子がloxp配列ではさまれたマウスを作成し、それぞれを交配する必要がありました。そのため、マウスの準備に1年以上の時間が必要でした。今回我々は、遺伝子編集をしたES細胞を使ったキメラマウスの作成を利用することで、マウスの掛け合わせなしに遺伝子の時期・組織特異的な機能解析を可能にしました。

我々は生殖細胞で発現する誘導型CreとCreの発現に応答してGFPを発現するレポーター遺伝子をもつES細胞を樹立しました。このES細胞にゲノム編集技術を用いてDdx6遺伝子をloxp配列ではさんだES細胞を作成しキメラ解析を行いました。DDX6はRNAの転写後制御に重要であると考えられています。生殖細胞のオス分化はNANOS2を介したRNA制御が重要であることから、オス生殖細胞分化におけるDDX6の機能解析を行いました。その結果、DDX6は生殖細胞の分化においてNANOS2を介したRNA制御に必須であることが生体内で確認できました。本研究では時期・組織特異的なKOを簡便に行うことを可能にし、細胞質顆粒の生殖細胞分化における重要性を示しました。本研究は科学研究費補助金新学術領域研究「生殖細胞のエピゲノムダイナミクスとその制御」及び「先進ゲノム支援」の支援を受けて行われました。また筆頭著者の島田龍輝は総研大の学生です。

Figure1

図:(a) キメラを用いたcKO法の概略。 (b) キメラマウスの例。生殖細胞でのみCreが活性化し、GFPが生殖細胞でPositiveになっている。 (c) NANOS2が生殖細胞分化を制御するモデル。NANOS2は相互作用因子と共にtarget RNAに結合しP-bodyにリクルートする。DDX6によって形成されたP-bodyでNANOS2のtarget RNAが抑制され、生殖細胞のオス化が誘導され、細胞周期が抑制される。

2019/01/29

機械学習と次世代シークエンス技術の活用により日本人集団の白血球の血液型を解明

Press Release

Genetic and phenotypic landscape of the MHC region in the Japanese population.

Jun Hirata, Kazuyoshi Hosomichi, Saori Sakaue, Masahiro Kanai, Hirofumi Nakaoka, Kazuyoshi Ishigaki, Ken Suzuki, Masato Akiyama, Toshihiro Kishikawa, Kotaro Ogawa, Tatsuo Masuda, Kenichi Yamamoto, Makoto Hirata, Koichi Matsuda, Yukihide Momozawa, Ituro Inoue, Michiaki Kubo, Yoichiro Kamatani, Yukinori Okada,*. (* 責任著者)

Nature Genetics Published: 28 January 2019 DOI:10.1038/s41588-018-0336-0

プレスリリース資料

大阪大学 大学院医学系研究科の平田潤 大学院生、岡田随象 教授(遺伝統計学)らの研究グループは、次世代シークエンス技術と機械学習を用いて、日本人集団における白血球の血液型が11パターンで構成されており、その個人差が、病気や量的形質を含む50以上の表現型に関わっていることを明らかにしました。

ヒトの血液に含まれる白血球には血液型が存在し、ヒトゲノム上のHLA遺伝子の配列の個人差で決定されます。白血球の血液型は移植医療や個別化医療※7に際して重要ですが、HLA遺伝子構造が複雑で解読に専門技術が必要なことや高額な実験費用により、HLA遺伝子配列の詳細な個人差の解明は遅れていました。

岡田教授らの研究グループは、最先端のゲノム配列解読技術である次世代シークエンス技術を駆使して、日本人集団1,120名を対象に33のHLA遺伝子におけるゲノム配列を決定することに成功しました。得られたHLA遺伝子ゲノム配列情報に対して機械学習手法であるtSNEを適用した結果、日本人集団の白血球の血液型を11パターンの組み合わせに分類可能なことが明らかになりました。これは、複雑なヒトゲノム情報の解釈を、機械学習手法を用いて実現した先進的な成功例と評価することができます。

さらに研究グループは、日本人集団17万人のゲノムデータを対象に、白血球の血液型をコンピューター上で高精度に推定することに成功しました。推定された血液型パターンに基づき、多彩な表現型との関連を調べるフェノムワイド関連解析を実施しました。その結果、50以上の表現型において、白血球の血液型が発症に関与していることが明らかになりました。

本研究成果により、日本人集団における白血球の血液型の全容が解明されました。機械学習による白血球の血液型の分類に成功したことは、生命科学研究における機械学習の画期的な応用例と考えられます。さらに、白血球の血液型を用いた個別化医療の実現に貢献するものと期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Genetics」に、1月29日(火)午前1時(日本時間)に公開されます。

Figure1

図:機械学習と次世代シークエンス技術の活用により、日本人集団における白血球の血液型の個人差の全容が明らかとなった。

2019/01/29

細胞壁の形成を促進する新しい仕組みを発見 〜次世代バイオ素材・バイオ燃料の原料供給に光明〜

Press Release

A Rho-actin signaling pathway shapes cell wall boundaries in Arabidopsis xylem vessels

Yuki Sugiyama, Yoshinobu Nagashima, Mayumi Wakazaki, Mayuko Sato, Kiminori Toyooka, Hiroo Fukuda, Yoshihisa Oda

Nature Communications 10, Article number: 468 (2019) DOI:10.1038/s41467-019-08396-7

プレスリリース資料

植物の細胞壁は、陸上に存在する最大の生物資源です。木材や綿、紙パルプ等の工業製品の材料に利用されるだけでなく、近年では、セルロースナノファイバーのような次世代バイオ素材やバイオ燃料の原料としても注目されています。

国立遺伝学研究所 小田祥久准教授らの研究グループは、細胞壁が活発につくられる道管に着目することで、「細胞壁の形成」を促進する新しいタンパク質WALとBDR1を世界に先駆けて発見しました。WALタンパク質は、細胞壁成分の輸送を担うアクチン繊維(注1)を集めていることがわかりました。一方、BDR1タンパク質は、WALがアクチン繊維を集める場所を決定していました。つまり、これらのタンパク質がアクチン繊維を「どこに集めるか」を制御することで、細胞壁の形成を制御していることが明らかになったのです。

これらのタンパク質を利用して細胞壁の形成を促進することができれば、細胞壁の生産量の多い植物の開発に繋がると期待されます。

本研究は、東京大学大学院理学系研究科、理化学研究所 環境資源科学研究センターとの共同研究として行われました。

Figure1

図:道管を構成する細胞は、「壁孔」を伴った細胞壁を形成する。壁孔の縁は特に細胞壁の形成が活発におこり、アーチ状の細胞壁が形成される(上)。
今回、壁孔の縁ではたらくタンパク質WALとBDR1を同定した。これらのタンパク質はROPタンパク質とアクチン繊維を仲介して細胞壁の形成を制御する全く新しい仕組みであることが判明した(下)。

2019/01/28

黒川・相賀 教授が「遺伝学講座・みしま」で講演

遺伝学講座・みしま

最新の研究についてわかりやすくお話しします。この機会に生命の不思議、遺伝について学んでみませんか。

開催日時:

2019年3月3日(日)午後1時30分~午後4時(予定) ※開場は午後1時

開催場所:

三島市民文化会館小ホール(一番町20番5号)

講師・演題:

ゲノム進化研究室 黒川顕 教授
「目に見えない細菌の世界~ヤツらはどこに居て何をしているのか?~」

発生工学研究室 相賀裕美子 教授
「しっぽはどうやってできるのか?ーマウス遺伝学で解き明かす体の不思議」

定員・申込み:

要申込
三島市政策企画課まで電話か電子メールでお申込みください。
申込時に、①代表者名②連絡先③人数 をお伝えください。
申込み締切は2019年2月28日(木)です。

TEL:055-983-2616
E-mail: seisaku@city.mishima.shizuoka.jp

三島市HP

2019/01/23

フェロモンに多様性が生まれるしくみを発見 〜「厳密」と「柔軟」のあいだでフェロモンが愛を囁く〜

Press Release

Asymmetric diversification of mating pheromones in fission yeast

Taisuke Seike, Chikashi Shimoda, Hironori Niki

PLoS Biology published 22 Jan 2019 DOI:10.1371/journal.pbio.3000101

プレスリリース資料

地球上の多くの生物は、異性に存在を知らせるのに「性フェロモン」を使います。フェロモンの反応は通常、「同種」の異性に対して起こるため、種の維持に貢献しています。しかし、フェロモン分子の構造が変化すると、これら変化した集団は元々の種と交配ができなくなるため、結果として集団から隔離されます。こうして、隔離された集団は独立して、別の種として確立することにつながると考えられます。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の清家泰介 日本学術振興会特別研究員(PD) (現 理化学研究所 基礎科学特別研究員)と仁木宏典 教授、および大阪市立大学の下田親 特任教授らの研究チームは、世界中に棲息する野生の分裂酵母(図1)を対象に、フェロモンとその受容体の遺伝子を解析しました。その結果、分裂酵母は、雌雄の片方のフェロモンの構造が柔軟に変化しうることを明らかにしました(図2)。この成果は、フェロモンの多様性が生まれる仕組みや進化の原動力の理解につながることが期待されます。

Figure1

図1:分裂酵母の交配
分裂酵母には二つの性 (Minus型とPlus型)が存在する。
M型とP型の細胞が発するそれぞれのフェロモンに反応して、相手の方に伸び、やがて「*」のところで接触し、融合(交配)する。

Figure1

図2:酵母の「厳密」かつ「柔軟」なフェロモン認識システム
M型フェロモンの認識は「厳密」であるが、それに比べてP型フェロモンの認識は「柔軟」であることが示唆された。この「厳密と柔軟」なフェロモン認識システムは、酵母が種を維持しつつ、多様性を生み出すのに貢献していると考えられる。

2019/01/07

組織改編のお知らせ

遺伝研は2019年1月より大きく組織を改編しました。

それまでの研究系は、設置から約34年が経過しており、その間の著しい生命科学の進展によって遺伝学を先導するに相応しい研究系の組織を再検討する時期に来ていました。また、旧研究センターの多くは、共同利用事業センターの設置や生命科学の進展に伴い設置当初の目的が失われていました。そこで、大学共同利用機関の責務である、先端研究・共同利用事業・人材育成をより効果的に推進するために改編することとしました。

本組織改編により、遺伝研は大学共同利用機関のミッションをより効果的に推進することが可能となり、遺伝学のさらなる発展を先導します。


▶ 新組織図: http://www.nig.ac.jp/nig/ja/research/organization-top/laboratories


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