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2017/08/30

遺伝子発現解析の基準となるデータを快適に検索できるウェブツール「RefEx」を開発

Press Release

RefEx, a reference gene expression dataset as a web tool for the functional analysis of genes

Ono H, Ogasawara O, Okubo K, Bono H

Scientific Data, 4:170105 DOI:10.1038/sdata.2017.105

DBCLSニュース

現在、生命科学分野においては誰でも利用可能なデータが公共データベースとして多数存在しているものの、実際にそれらを自らの研究に利用しようとしたときに、どれを使ったらよいか分からないといった問題があります。とくに遺伝子発現データは、DNAマイクロアレイの発明によってゲノム規模の測定が可能となってから、さまざまな研究グループによって異なる測定手法を用いて産生されたデータが指数関数的に蓄積していました。大量の遺伝子発現データの中から、まずどれを選び、調べればよいのかの指針になりうる代表的な遺伝子発現量データセットあるいはリファレンス(参照)データが必要とされている状況でした。 

このたび、情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設 ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)の小野 浩雅 特任助教、坊農 秀雅 特任准教授、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の小笠原 理 特任准教授、大久保 公策 教授の研究グループは、 遺伝子発現解析の基準となる各遺伝子の遺伝子発現量を簡単に検索、閲覧できるウェブツール「RefEx」(http://refex.dbcls.jp)を開発しました。複数の遺伝子発現計測手法によって得られた哺乳類の正常組織、細胞等における遺伝子発現データを収集し並列に表現することによって、各組織における遺伝子発現状況を計測手法間の差異とともに直感的に比較できることが特長です。RefExを用いることで、生命現象の解明や医薬品の開発等につながる研究成果の解釈などが容易になり、生命科学研究の進展に大いに寄与することが期待されます。

本研究は、国立遺伝学研究所が有する遺伝研スーパーコンピュータシステムを利用しました。

本成果は8月30日(英国時間)に英国オンライン・ジャーナル Scientific Data に掲載されました。

発表論文の日本語レビュー (First Author’s by DBCLS)

FANTOM5データを誰でも活用できる形に (Nature Japan著者インタビュー, フリーアクセス)

Figure1

図 遺伝子発現解析の基準となるデータを快適に検索可能なウェブツール「RefEx」

2017/08/24

生細胞クロマチンの「密度」イメージングに成功!

生体高分子研究室・前島研究室

Density imaging of heterochromatin in live cells using orientation-independent-DIC microscopy

Ryosuke Imai, Tadasu Nozaki, Tomomi Tani, Kazunari Kaizu, Kayo Hibino, Satoru Ide, Sachiko Tamura, Koichi Takahashi, Michael Shribak, and Kazuhiro Maeshima

Molecular Biology of the Cell, 2017 DOI:10.1091/mbc.E17-06-0359

国立遺伝学研究所・総研大大学院生 今井亮輔(学振特別研究員)、野崎慎 学振特別研究員、前島一博教授らは、米国ウッズホール海洋生物学研究所(MBL)・Michael Shribakチームリーダー、谷知己チームリーダー、理化学研究所生命システム研究センター・高橋恒一チームリーダーらと共同で、ヘテロクロマチンなどの細胞内構造の密度を生きた細胞のなかで観察することに成功しました。この成果は、米国細胞生物学会Molecular Biology of the Cell誌にオンライン出版されました。同誌Quantitative Cell Biology特集号(11月号)に重要論文であることを示す「ハイライト」として掲載されます。

真核生物の細胞核の中には「ヘテロクロマチン」と呼ばれる転写不活性で凝集したクロマチンが存在しています。細胞核内のDNAを特異的染色によって調べると、このヘテロクロマチン領域は周囲の脱凝集領域(ユークロマチン)の5.5倍から7.5倍もDNAが濃縮されていることがわかります。これまで、ヘテロクロマチンはこのような高度な凝集によって転写因子等のアクセスを阻害し、転写不活化していると考えられてきました。しかしながら今回、MBLのShribakによって開発された、観察対象の屈折率および質量濃度を定量的にマッピングする微分干渉顕微鏡Orientation Independent DIC (OI-DIC)を用いて、生細胞核内の各クロマチン領域の絶対密度定量を行ったところ、ヘテロクロマチンの密度(208 mg/mL) はユークロマチン(136 mg/mL)のわずか1.53倍であることが明らかになりました(図)。

定量解析の結果、各クロマチン領域における最大の構成成分はDNA(ヌクレオソーム)ではなく、タンパク質やRNAといったヌクレオソーム以外の成分(~120 mg/mL)であることが分かりました。更に遺伝研スパコンを用いたモンテカルロシミュレーションの結果から、このヌクレオソーム以外の構成成分がヘテロクロマチンの穏やかなアクセス阻害(moderate access barrier)を産み出していることが示唆されました。

これらの成果により、生きた細胞のクロマチン環境を理解するためには、従来クロマチンの主な構成成分と思われていたヌクレオソームだけでなく、それ以外の成分にも着目する必要性が明らかになりました。また今回定量した密度値は今後の細胞内クロマチン環境の細胞生物学的・生物物理学的研究にとって重要な基礎データとなります。

本研究の遂行に当たり、平成27年度総研大海外学生派遣事業、遺伝研・共同研究(2016-A2)、文部科学省科研費(16H04746, 17J10896)、JST CREST (No. JPMJCR15G2)、NIHグラント(R01-GM101701) の支援を受けました。

Figure1

(左) 同一のマウス生細胞におけるOI-DIC光路長差マップ (光が透過する局所領域の屈折率差をマッピングした像)、DNA染色像およびヘテロクロマチンマーカーMeCP2-EGFP蛍光像。矢尻で示される蛍光の強い領域がヘテロクロマチン。光路長差マップでは、これらの領域は周囲のユークロマチンより同等か、わずかにだけ明るい。OI-DIC光路長差マップの核内の強いシグナルは、核小体に由来するもの。(右) 既知の質量濃度と屈折率を持つ溶液の検量線に基づいて定量したヘテロクロマチン (Hch, 208 mg/mL) およびユークロマチン (Ech, 136 mg/mL) の質量濃度(密度)。各クロマチン領域の密度比は1.53であった。

米国ウッズホール海洋生物学研究所(MBL)のニュースリリース記事

2017/08/11

セルロース合成の”足場”増やす遺伝子を発見

Press Release

A novel plasma membrane-anchored protein regulates xylem cell-wall deposition through microtubule-dependent lateral inhibition of Rho GTPase domains

Yuki Sugiyama, Mayumi Wakazaki, Kiminori Toyooka, Hiroo Fukuda, Yoshihisa Oda

Current Biology DOI:10.1016/j.cub.2017.06.059

プレスリリース資料

セルロースは、紙・綿だけでなく近年注目されているセルロースナノファイバーなどの成分にもなる重要な生物資源です。セルロースは植物細胞の「細胞壁」に含まれる主要な物質ですが、その合成を制御する仕組みはよく分かっていません。

情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の小田祥久准教授らの研究グループは植物の細胞壁合成を制御する新しい遺伝子IQD13を発見しました。IQD13遺伝子が作り出すタンパク質はセルロース合成の足場となる微小管(1)を安定化させるとともに、細胞壁合成を阻害するタンパク質の分布を制限することで、細胞壁の面積を増やす働きがあることがわかりました(図)。

IQD13遺伝子の働きを人為的に操作することにより、細胞壁の合成を制御して、セルロース生産に利用しやすい植物の作出に繋がることが期待されます。

本研究は、東京大学大学院理学系研究科、理化学研究所 環境資源科学研究センターとの共同研究としておこなわれました。

本研究成果は、平成29年8月10日(米国東部標準時間)に米国科学雑誌Current Biology に掲載されました。

本研究は、文部科学省の科学研究費補助金 (16H01247, 15H01243, 15H05958)、日本学術振興会の科学研究費補助金16H06172, 16H06377)、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業さきがけ (JPMJPR11B3)、三菱財団の助成を受けました。

Figure1

図 IQD13は、微小管を壊れにくくすると同時に、細胞壁合成を阻害するタンパク質の分布を制限していると考えられる

2017/08/09

脳機能研究部門 平田教授と、多細胞構築研究室 澤教授が 平成28年度特別研究員等審査会専門委員(書面担当)として表彰されました

受賞した澤教授(左)、平田教授(右)と桂 研究所長
受賞した澤教授(左)、平田教授(右)と桂 研究所長

 日本学術振興会では、学術研究の将来を担う研究者の養成・確保を目的とした特別研究員事業を行っており、その選考に際しては、適正・公平な審査のため、審査終了後、書面審査結果の検証を行っています。その検証結果に基づき第一段の書面審査において有意義な審査意見を付した専門委員が表彰されることとなっていますが、平成28年度は書面審査を行った約1,500名の専門委員等のうち、表彰対象の任期2年目にあたる約600名の中から158名が選考され、本研究所の平田教授と澤教授が対象となりました。

 表彰式は8月8日(火)に行われ、桂勲研究所長より表彰状が授与されました。

平成28年度表彰者一覧(日本学術振興会)

脳機能研究部門 平田研究室

多細胞構築研究室 澤研究室

2017/08/04

社会的順位がうつ様行動や脳内の遺伝子発現に影響する

Press Release

Hierarchy in the home cage affects behaviour and gene expression in group-housed C57BL/6 male mice

Yasuyuki Horii, Tatsuhiro Nagasawa, Hiroyuki Sakakibara, Aki Takahashi, Akira Tanave, Yuki Matsumoto, Hiromichi Nagayama, Kazuto Yoshimi, Michiko T. Yasuda, Kayoko Shimoi, Tsuyoshi Koide

Scientific Reports Article number: 6991 (2017) DOI:10.1038/s41598-017-07233-5

プレスリリース資料

うつ病の発症の多くで生活環境によるストレスが関わっていると考えられており、その中でも「社会的ストレス」は対応の難しいものの一つです。したがって、社会的ストレスが脳に与える影響を明らかにすることは、うつ病を軽減するための治療法の確立に役立つと期待されています。

本研究では、社会的ストレスがあると報告されていた実験動物のマウスを用いることで、うつ様行動を誘発する社会的ストレスの詳細を調べました。その結果、社会的順位(1)が「低い」とよりうつ様行動(2)を示すことが判明しました。さらに、社会的順位の脳内の遺伝子発現への影響を調べた結果、セロトニン受容体などの遺伝子の発現に影響することが明らかになりました。また、このうつ様行動と遺伝子発現の変化は抗うつ薬(3)の投与によって緩和されました。

本研究成果によって、社会的順位によるストレスが脳に与える影響を明らかにすることができました。うつ病の改善に向けた方法論の確立につながることが期待できます。

行動や性格には遺伝と環境の両方が重要な役割をはたしていますが、今回の研究では遺伝によらない環境の影響について遺伝研の行動遺伝学をテーマにしているチームと静岡県立大のチームが明らかにしました。

本研究成果は、平成29年8月1日10時(英国時間)に英国オンライン・ジャーナル Scientific Reports に掲載されました。

本研究は、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の堀井康行および小出剛准教授らと静岡県立大学の大学院生長澤達弘および下位香代子教授らとの共同研究として実施されました。

本研究は科学研究費補助金、特に新学術領域「マイクロ精神病態」(15H01298)、科学研究費補助金(15H05724, 16H01491 and 15H04289)、遺伝研共同研究(2013-B7)の支援を受けました。

Figure1

図:本研究では、ケージ内で形成される社会的順位がマウス個体の行動・性格や脳内の遺伝子発現に影響を及ぼすことを明らかにしました。

2017/08/04

夏季休業のお知らせ(8/14,15)

本研究所は、下記のとおり夏季一斉休業を実施します。
ご不便をおかけいたしますが、ご理解とご協力のほどお願いいたします。


平成29年8月14日(月)、15日(火)


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