Archive

2016/04/14

マウス生殖細胞のオス化の鍵となる仕組みを解明

Press Release

Dazl is a target RNA suppressed by mammalian NANOS2 in sexually differentiating male germ cells

Yuzuru Kato, Takeo Katsuki, Hiroki Kokubo, Aki Masuda, Yumiko Saga

Nature Communications 7, Article number: 11272 DOI:10.1038/NCOMMS11272

プレスリリース資料

国立遺伝学研究所の相賀裕美子教授、加藤譲助教らはマウス生殖細胞のオス化の鍵となるタンパク質Nanos2が働く仕組みを明らかにしました。

ヒトを含め哺乳動物が子孫を残すためには、精子と卵子を作り出すことが必要です。精子も卵子も元は始原生殖細胞という未分化な細胞に由来していますが、生まれる前に、将来精子を作るか卵子を作るかの運命が決まります。この時、生殖細胞のオス化の鍵となるのがNanos2タンパク質です。Nanos2はメッセンジャーRNA(mRNA)に結合し、タンパク質への翻訳を抑制することが知られていました。しかし、Nanos2がどのmRNAを抑制し、オス化に関わるのか長い間謎でした。

今回の研究ではNanos2によって抑制されるmRNAを特定したことにより、世界で初めてNanos2による生殖細胞のオス化の仕組みを明らかにすることに成功しました。

ヒトと同じ哺乳動物であるマウスにおけるオス化の仕組みの解明はヒトの男性不妊の原因解明や、治療法の確立に繋がることが期待される基盤的な知見となります。

本研究成果は、平成28年4月13日(グリニッジ標準時)に英国オンラインジャーナルNature Communications に掲載されました。

今回の研究は国立遺伝学研究所 系統生物研究センター 発生工学研究室の加藤譲助教が中心となり、Kavli Institute for Brain and Mind, University of Californiaの勝木健雄博士との共同研究により行われました。また、この研究は科学研究費補助金若手B (25840091)、基盤S(21227008)の支援により行われました。

Figure1

(A)精巣に入った生殖細胞でのみNanos2が働き、生殖細胞に雄としての性質が備わる。遺伝子破壊によりNanos2タンパク質が働かなくなると、雄としての性質が備わらず、細胞は死んでしまう。
(B)Nanos2タンパク質によるDazl遺伝子機能の抑制モデル。

2016/04/13

細胞空間制御研究室 小田祥久准教授が平成28年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞

小田准教授

新分野研究センター細胞空間制御研究室の小田祥久准教授が平成28年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞しました。

本賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者に授与されるものです。


授賞式日時:平成28年4月20日(水)

授賞式場所:文部科学省3階 講堂

受賞名:平成28年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞

受賞テーマ:細胞の形態形成を導く空間シグナルの研究


平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者等の決定について


細胞空間制御研究室 小田研究室

2016/04/13

生命の設計図DNAは、不規則に折り畳まれる性質をもつ!

Press Release

Nucleosomal arrays self-assemble into supramolecular globular structures lacking 30-nm fibers

Kazuhiro Maeshima, Ryan Rogge, Sachiko Tamura, Yasumasa Joti, Takaaki Hikima, Heather Szerlong, Christine Krause, Jake Herman, Erik Seidel, Jennifer DeLuca, Tetsuya Ishikawa, and Jeffrey C. Hansen

The EMBO Journal Published online 12.04.2016 DOI:10.15252/embj.201592660

プレスリリース資料

国立遺伝学研究所の前島一博教授、米国コロラド州立大J. Hansen教授らのグループは、人工的に作成したヌクレオソームを国立研究開発法人理化学研究所(理研)の大型放射光施設スプリング8の理研構造生物学Iビームライン(BL45XU)の強力なX線を用いて、構造解析しました。ヌクレオソームを様々な塩(イオン)濃度の条件下で観察したところ、教科書に載っている規則的な構造は試験管内の特別な条件下(低塩) でしか作られないことが分かりました。そして生体内の条件下では、ヌクレオソームは染色体のような大きな構造を作るため、不規則に折り畳まれる性質を持っていることを明らかにしました(図)。
全長2メートルにもおよぶ長いヒトDNAは細い糸が「ヒストン」タンパク質に巻かれて「ヌクレオソーム」を作ります。1980年代から生物学の教科書では、このヌクレオソーム線維が規則正しく束ねられて「クロマチン線維」となり、更なる階層構造ができ、細胞のなかに収納されている様子が図示されてきました。2012年、前島教授らは規則正しく束ねられたクロマチン線維は存在せず、不規則に凝縮した状態で細胞のなかに収められていることを突き止めました。さらに、今回のDNAの不規則に折り畳まれる性質の発見によって、教科書に長年にわたって記載されてきた「規則正しいクロマチン線維」の改訂が進むことも期待されます。また今回の成果は、必要な遺伝情報が細胞の中でどのように検索され、読み出されるのかを理解するうえでの手がかりになります。

本研究成果は、平成28年4月12日(中央ヨーロッパ時間)にヨーロッパ分子生物学機構雑誌EMBO Journalオンライン版(オープンアクセス) に掲載されました。

本研究成果は、米国コロラド州立大Jeffrey C. Hansen教授、Ryan Rogge大学院生らのグループ、 理化学研究所 放射光科学総合研究センター 石川哲也センター長、引間孝明研究員、高輝度光科学研究センター 城地保昌チームリーダー、国立遺伝学研究所 前島一博教授、田村佐知子テクニカルスタッフの共同研究成果です。 JST・CREST「コヒーレントX線による走査透過X線顕微鏡システムの構築と分析科学への応用」、文部科学省科研費・新学術領域「少数性生物学」の支援を受けました。

Figure1

マイナス電荷を持ったヌクレオソーム線維(左)はプラス電荷の塩(Mg2+イオン)が無い状況では互いに反発して伸びる。低塩濃度では反発が少なくなり、教科書に載っている規則正しいクロマチン線維を作る(中央)。塩を更に加えると、反発がなくなり、どのヌクレオソームとの結合も可能になり、不規則で大きな構造を作る(右)。これが細胞内の染色体に相当すると考えられる。

2016/04/08

子宮内膜症の仕組みの一端が見えてきた

Press Release

Allelic Imbalance in Regulation of ANRIL through Chromatin Interaction at 9p21 Endometriosis Risk Locus

Hirofumi Nakaoka, Aishwarya Gurumurthy, Takahide Hayano, Somayeh Ahmadloo, Waleed H Omer, Kosuke Yoshihara, Akihito Yamamoto, Keisuke Kurose, Takayuki Enomoto, Shigeo Akira, Kazuyoshi Hosomichi, Ituro Inoue

PLOS Genetics Published: April 7, 2016 DOI:10.1371/journal.pgen.1005893

プレスリリース資料

国立遺伝学研究所 人類遺伝研究部門 井ノ上逸朗教授らのグループは子宮内膜症のリスクとなる遺伝子多型(SNP)について、どのような分子的なメカニズムで病気が発症するのか、その一端を明らかにしました。

子宮内膜症は不妊の原因にもなりうる病気ですが、これまで発症メカニズムが不明であり、効果的な治療法がありませんでした。

本研究では、次世代シーケンサーを用いた研究により、子宮内膜症の発症リスクとなるSNPが遺伝子の調節領域に存在することを発見しました。さらに、このSNPが細胞増殖制御に重要な遺伝子、ANRILの遺伝子発現に影響することを発見しました。

本研究により、子宮内膜症の発症メカニズムの理解が深まり、治療法の確立につながることが期待されます。

本研究成果は、平成28年4月7日午後2時(米国東部時間)に米国オンラインジャーナルPLOS Genetics に掲載されました。

本研究は日本医大産婦人科と新潟大学医学部産婦人科との共同研究です。文部科学省科研基盤研究A(15H02373)の支援を受けて研究を進めました。

Figure1

子宮内膜症の原因SNPのアレル特異的な機能的変化.子宮内膜症の低リスク遺伝子型は高リスク遺伝子型に比べて、転写因子TCF7L2の結合能が強く、ANRILプロモーターとのクロマチン相互作用が強いため、エンハンサー機能が高く、ANRIL発現量が高くなる.

2016/04/07

細胞核が細胞の真ん中に移動するしくみ

細胞建築研究室・木村研究室

Shape–motion relationships of centering microtubule asters

Hirokazu Tanimoto, Akatsuki Kimura*, and Nicolas Minc*

J. Cell Biol. 212: 777-787, 2016. DOI:10.1083/jcb.201510064

(* corresponding authors)

フランス・ジャック=モノー研究所のNicolas Minc博士と国立遺伝学研究所 細胞建築研究室の木村暁教授(総研大 教授兼任)らは、細胞核が細胞の中央に移動するメカニズムについて精緻な実験解析を行い、定量的なモデルを構築することに成功しました。この研究は、木村教授が、総研大若手教員海外派遣事業によってMinc研究室に滞在していた時の成果です。

細胞核が細胞の中央に移動する様子は、100年以上前から観察されており、そのしくみについては様々な説が提唱されていました。30年ほど前に日本のグループにより、細胞質が核を中央へと引っ張る「細胞質引きモデル」が提案されました(Hamaguchi & Hiraomoto, 1986)。木村教授らは、線虫(C. elegans)を用いた解析でこのモデルを支持する実験証拠や数理モデルを報告してきましたが(Kimura A & Onami, 2005; Kimura K & Kimura A, 2011)、現在でも核が「押されている」とする説や「細胞表層から引っ張られている」とする説を支持する研究者も多く、実験・理論両面でより強い証拠を得ることが求められていました。そこで、ウニ胚を変形させて細胞に加わる力を解析する技術(Minc et al. 2011)を有するMinc博士の研究室に滞在し、「細胞質引きモデル」を実証する共同研究を開始しました。

本研究で、Minc研究室の谷本博一研究員を筆頭著者とする研究グループはウニの受精卵において、精子核が細胞の端から中央まで長距離を移動することに着目し、多面的な解析を行いました。細胞へのレーザー照射や薬剤添加実験から細胞核が「押されている」のではなく、「引っ張られている」ことを示す証拠を得ました。また、細胞核を引っ張っている微小管という繊維状の構造物が進行方向側の細胞表層に到達していないことから、引っ張りの原動力は細胞表層ではなく、細胞質であることを示し、「細胞質引きモデル」を支持しました。移動速度が(線虫とは異なり)移動中ほぼ等速で、しかも、その速度が微小管の伸長速度と等しいという意外な測定結果に着目して、この現象を説明する数理モデルを構築しました。この数理モデルは、薬剤添加や微細加工技術で細胞を変形させた際の核の移動も見事に再現しました。以上の結果は、長い間続いている細胞核の中央配置に関する論争を「細胞質引きモデル」の支持へと大きく進展させる成果です。

Figure1

(A) ウニ(Sea urchin)受精卵における精子核の中央化:ウニの卵は線虫(C. elegans)の卵などに比べて細胞のサイズが大きいのが特徴で、核の移動中、微小管(緑)は細胞の全体をカバーしません。核(赤)は、微小管の伸長速度とほぼ同じ速度で中央化することがわかりました。
(B) 微細加工を用いた細胞の変形例:精子核(緑)が細胞の中央へ移動する様子がわかります(右端の写真は移動の軌跡を表しています)。本研究では、様々な形状に変形した細胞においても核の中央化を再現する数理モデルを構築することに成功しました。

2016/04/06

「生命科学の新分野創造若手育成プログラム」事後評価結果

科学技術人材育成費補助事業「若手研究者の自立的研究環境整備促進」の支援を受けて実施した「生命科学の新分野創造若手育成プログラム」(2010年7月 – 2015年3月)の事後評価結果が発表されました.

http://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/hyouka/1368603.htm

このプログラムは「生命科学分野で新分野創造のポテンシャルを持つ若手研究者を養成する」という目標のもと,2002年以来行ってきた「新分野創造独立准教授制度」を基にテニュアトラック制を新しく展開したものです.事後評価では,採用審査での工夫や自立性を重視した育成環境など,「新分野創造」をキーワードにした養成システムが高く評価されました(総合評価:A).
遺伝研は、本プログラム終了後もテニュアトラック制を活用して、新しい遺伝学の研究分野の創成を目指す人材の養成を継続します.2016年度にも新分野創造センターでの新たな公募が予定されています.

2016/04/01

4月1日付け新任教員の着任とテニュア獲得

2016年4月1日付けで2人の教授と3人の助教が遺伝研に着任しました.

 教授

佐藤 豊:系統生物研究センター,植物遺伝研究室

黒川 顕:生命情報研究センター,ゲノム進化研究室

佐藤 豊 教授
黒川 顕 教授

 助教

藤原 崇之:共生細胞進化研究部門・宮城島研究室

松本 知高:進化遺伝研究部門・明石研究室

河﨑 敏広:小型魚類開発研究室・酒井研究室

また,新分野創造センターの鐘巻将人准教授がテニュアを獲得するとともに、教授に昇任しました。

鐘巻 将人:分子遺伝研究系,分子細胞工学研究部門

鐘巻 将人 教授
2016/03/25

取り除けば働きがわかる!~特定のヒト細胞内タンパク質を素早く取り除いて機能を探る方法を開発~

Press Release

Rapid protein depletion in human cells by auxin-inducible degron tagging with short homology donors

Toyoaki Natsume, Tomomi Kiyomitsu, Yumiko Saga, and Masato T. Kanemaki

Cell Reports DOI:10.1016/j.celrep.2016.03.001

プレスリリース資料

国立遺伝学研究所 分子機能研究室の鐘巻将人准教授らのグループは、「ヒト培養細胞」で特定のタンパク質を素早く分解除去する方法を開発しました。これまでモデル生物でしかできなかった精緻な遺伝学研究が、ヒト細胞でもできるようになる画期的な手法です。

利用したのは、同グループが2009年に開発した「AID法」というタンパク質分解除去システムです。これは、動物細胞の特定のタンパク質を分解除去し、そのタンパク質を司る遺伝子の役割を解析できるシステムです。このシステムをヒト細胞にも導入できるよう、ゲノム編集技術を応用し、ヒト細胞内のタンパク質の分解除去を自在に操ることに成功しました。

今回開発した手法を使うと、これまで数日を要していたタンパク質の分解除去が、1時間程度で行えるようになり、細胞分裂や増殖などの、細胞の基本現象に与える影響を直接観察することが可能になります。また新技術では、分解除去のタイミングも任意に設定できるため、今までの技術では解明が難しかった、生存に不可欠な「必須遺伝子」の機能解析ができるようになります。本技術により今後がん細胞を含めた、ヒト細胞が増殖するための仕組みの解明が大いに進むことが期待されます。

本研究成果は、平成28年3月24日(米国東部時間)に米国科学誌Cell Reportsオンライン版に掲載されました。

本研究は、清光智美助教(名古屋大学)、相賀裕美子教授(遺伝研)との共同研究成果です。本研究の遂行にあたり、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)(鐘巻、清光)、遺伝研共同利用研究費(清光、2014-B, 2015-A1)および科研費による支援を受けました。本研究で作成した研究材料は全てナショナルバイオリソースから配布し、世界中の研究者が利用できます。

Figure1

(A)CRISPR/Casゲノム編集を利用したタグ付加とオーキシンデグロンの作用機序を示したモデル図。
(B)オーキシン添加前後の核に局在するコヒーシンタンパク質の発現を蛍光法により観察した結果、添加90分後の細胞では、コヒーシンタンパク質が消失した。


  • 本技術を紹介した総説をお読みいただけます

本技術は以下の研究成果の基盤のひとつになっています

2016/03/10

集団遺伝研究部門 Isaac Adeyemi Babarinde さんが「森島奨励賞」を受賞

総合研究大学院大学 遺伝学専攻が独自に行っている「森島奨励賞」の選考が、2015年度後期の学位申請者に対して行われ、集団遺伝研究部門 斎藤研究室に所属する Isaac Adeyemi Babarinde さんが受賞しました。授与式が2016年3月8日に行われ、桂専攻長から賞状と研究奨励金が贈られました。


Isaac Adeyemiさんと所長 Isaac Adeyemiさんと所長

森島奨励賞


遺伝学の先達

森島啓子名誉教授

2016/02/24

集団遺伝研究部門 斎藤成也教授が『歴誌主義宣言』をウェッジより出版

歴誌主義宣言

ウェッジより「歴誌主義宣言」が2月20日に出版されました。詳細は下記および出版社ホームページをご覧ください。

タイトル:
 歴誌主義宣言
著者:
 斎藤成也 教授(集団遺伝研究部門
価格:
 本体1,600円+税

 ウェッジ 本書紹介ページ

2016/02/19

大腸菌のすべての転写因子の制御標的を同定

系統情報研究室・山﨑研究室

Transcription profile of Escherichia coli: genomic SELEX search for regulatory targets of transcription factors

Akira Ishihama, Tomohiro Shimada, and Yukiko Yamazaki

Nucleic Acids Research (2016) DOI:10.1093/nar/gkw051

ゲノムにある遺伝子のどれが転写されるかは、転写装置によって決定されます。転写装置のターゲットの選択は、転写酵素RNAポリメラーゼと転写因子との相互作用で制御されています。これまで、遺伝子個別の転写制御に関しては、細菌からヒトにいたるまで盛んに研究がおこなわれ、関与する転写因子とその作用機序が同定されてきました。しかし、ゲノムの全ての遺伝子を対象にした転写制御の全体像の解明には程遠く、新たな研究戦略が求められていました。

大腸菌は、遺伝子が約4,500しかなく、個々の遺伝子の機能が最も解析されているモデル生物です。大腸菌ゲノムの転写制御では、7種のプロモーター認識シグマ因子と300種の転写因子との2段階の相互作用によって標的遺伝子が決まります。本研究は、新規に開発したGenomic SELEX法を用いて、全てのシグマ因子と全ての転写因子の認識配列を決定し、その情報から全ての転写装置が支配する標的遺伝子群を明らかにしました。その成果の中から、今回、約半分の転写因子の解析データを分析し、論文として公表すると同時に、当研究所の新たなデータベース (TEC: Transcription Profile of Escherichia coli) として公開しました。

これまでにも大腸菌で働く転写装置と下流標的遺伝子は、様々な研究グループが明らからにしようとしてきましたが、実験に用いる大腸菌標準株でさえも変異の蓄積という点で遺伝的背景が異なることが判明しており、異なる研究室からの論文データの寄せ集めでは、ゲノム全体像の正しい理解は得られませんでした。一方、本研究は、遺伝的背景が等しい同一菌株を利用し、ひとつの研究室で実施された研究成果であることが特徴です。本研究は、ひとつの生物で働く全転写因子の制御機能解明の先駆けとなることが期待されます。

本研究は、当研究所の石浜明名誉教授の研究室(法政大学)と島田友裕博士(東工大)山崎由紀子研究室(遺伝研)との共同研究です。

TEC: https://shigen.nig.ac.jp/ecoli/tec/top/

Figure1

TECデータベースの機能:(A)転写因子(TF)の標的遺伝子候補の検索(B)全ゲノム上のTF結合位置を表示(C)2つ以上のTFの結合領域や強度の比較(D)TFの結合強度のヒートマップ表示(E)TF結合部位のコンセンサス配列を解析

2016/02/17

細胞培養系によるゼブラフィッシュの精原幹細胞から機能的精子までの分化

小型魚類開発研究室・酒井研究室

Differentiation of zebrafish spermatogonial stem cells to functional sperm in culture.

Toshihiro Kawasaki, Kellee R Siegfried and Noriyoshi Sakai.

Development, 2016 143: 566-574; DOI:10.1242/dev.129643

精子形成は精原幹細胞の自己再生と分化によって維持され、分化した精原細胞は細胞架橋でつながったシスト分裂により増幅した後、減数分裂を経て機能的な精子へと分化します。 この複雑な過程が成体の精巣内で起こるため、制御因子等の遺伝学的解析は容易ではありません。そこで私たちは、ゼブラフィッシュを用いて精子形成をin vitroで再現する細胞培養系の開発を進めました。 はじめに、精原幹細胞が過増殖した肥大化精巣に着目し、この組織を継代維持する方法として免疫不全ゼブラフィッシュへの移植法を確立しました。 肥大化精巣はゼブラフィッシュで極まれに見つかるものですが、この方法により、必要なときに必要な量の肥大化精巣が使えるようになりました。 そして、肥大化精巣を用いて精原幹細胞を効率よく増殖させる培養とそれを精子まで分化させる培養の条件を検討し、精子形成全過程を再現する細胞培養系を動物で初めて確立することができました。

これにより、精子形成の制御因子や影響を与える化合物などをin vitroで解析したり、特定の細胞や細胞内構造体をライブイメージングすることが容易になりました。 本研究では、その一例として酸素の精子形成に及ぼす影響を調べ、空気中の酸素濃度(20%)が精原幹細胞から機能的精子への分化に阻害的に働くことを見つけています。 本研究は科研費(23013023, 25251034, 25114003)の支援を受けています。

Figure1

精原幹細胞で緑色蛍光タンパクを発現する系統を用いた精原幹細胞−精子の細胞培養。 精原幹細胞培養系では精原幹細胞が増殖するのに対して(左および中央パネル)、精子への分化培養系では精原幹細胞が機能的精子へと分化していく(右パネル)。

2016/01/30

三島市主催 太田朋子国立遺伝学研究所名誉教授クラフォード賞受賞記念講演会 開催

三島市が、遺伝研の名誉教授である太田朋子先生のクラフォード賞受賞を記念して講演会を開催いたします。
皆様ぜひご参加ください。

三島市HP:太田朋子国立遺伝学研究所名誉教授クラフォード賞受賞記念講演会
 

 

2016/01/29

「遺伝研メソッドで学ぶ科学英語プレゼンテーション」dZEROより出版

遺伝研メソッドで学ぶ科学英語プレゼンテーション

dZEROより「遺伝研メソッドで学ぶ科学英語プレゼンテーション」が1月28日に出版されました。詳細は下記および出版社ホームページをご覧ください。

タイトル:
 遺伝研メソッドで学ぶ科学英語プレゼンテーション[動画・音声付き]
 感じる力、考える力、討論する力を育てる
著者:
 平田 たつみ 教授(脳機能研究部門
 タジ・ゴルマン 講師(英語専任講師)
 広海 健 室長(リサーチ・アドミニストレーター室
価格:
 3888円(税込)

 dZERO 本書紹介ページ

2016/01/28

クロマチンの「液体」のようなふるまい。

生体高分子研究室・前島研究室

Liquid-like behavior of chromatin

Kazuhiro Maeshima, Satoru Ide, Kayo Hibino, and Masaki Sasai.

Current Opinion in Genetics & Development, 2016, 37: 37-45. DOI:10.1016/j.gde.2015.11.006

全長2mにもおよぶヒトゲノムDNAは人体の設計図であり、直径約10µmの細胞核のなかに折り畳められています。教科書などでは、直径2nmのDNAはまずヒストンに巻かれ、ヌクレオソームと呼ばれる構造体になり、さらに折り畳まれて直径約30nmのクロマチン線維になると長年紹介されてきました。しかしながら、最近の知見では、細胞のクロマチンが従来考えられてきたような、いわば結晶のように規則正しく折り畳まれた階層構造ではなく、「液体」のように不規則で流動的な構造であることを明らかになってきました。このようなクロマチンの「液体」のようなふるまいは、規則性を持つ構造に比べて、物理的な束縛が少なく、より動きやすいという利点を持っていると考えられます。この総説においては、クロマチン構造とダイナミクスの最近の知見に基づき、クロマチンの「液体」様ふるまいの物理的意味や、このふるまいが遺伝子の発現、DNA複製/修復などのゲノム機能に果たしている役割を論じました。

本研究は名古屋大工学研究科・笹井理生教授との共同研究としておこなわれました。JST CREST、遺伝研・共同研究(A)の研究成果です。

Figure1

ヌクレオソーム線維(10-nm線維)がとても不規則な形で折り畳まれ、ドメインを形成している。クロマチンの「液体」のようなふるまいは、規則性を持つ大きな構造に比べて、物理的な束縛が少なく、より動きやすい。NPC, 核膜孔; NE, 核膜

2016/01/21

従来の約100倍のサイズのゲノム編集が可能に! マウス・ラット等の遺伝子改変効率を向上させる新しい技術を開発

Press Release

ssODN-mediated knock-in with CRISPR-Cas for large genomic regions in zygotes

Kazuto Yoshimi, Yayoi Kunihiro, Takehito Kaneko, Hitoshi Nagahora, Birger Voigt, Tomoji Mashimo

Nature Communications Published 20 January 2016. DOI:10.1038/ncomms10431

プレスリリース資料

大阪大学大学院医学系研究科附属動物実験施設の真下知士(ましも ともじ)准教授、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所マウス開発研究室の吉見一人(よしみ かずと)助教らの研究グループは、ゲノム編集技術‘CRISPR/Cas システム’と一本鎖オリゴ(ssODN)を利用する二つの新しい遺伝子改変技術の方法(「lsODN(長鎖一本鎖DNA)法」と「2H2OP(2ヒット2オリゴ)法」)を開発しました。

‘CRISPR/Casシステム’は、マウスやラットにおける新しい遺伝子改変技術として注目されている技術です。DNAを切断する酵素Cas9と、ゲノム上の編集箇所を見つけ出すgRNAを動物の受精卵に注入することで、特定の遺伝子を破壊(ノックアウト)したり、特定の箇所へ導入(ノックイン)することができます。しかしながらこれまで動物の受精卵では、遺伝子などの大きなDNA配列の導入効率が低く、ノックイン動物を作製することが困難でした。

本研究で開発した二つの新しい遺伝子改変技術の方法により、GFP遺伝子の効率的かつ正確なノックインに加え、これまで不可能だった大きなサイズのゲノム領域(約200 kbp)の導入、ラット遺伝子のヒト由来遺伝子への置き換え(遺伝子ヒト化動物)に成功しました。

今後、これら二つのノックイン法は、マウスやラットなどのみならず様々な生物種における遺伝子改変操作の効率を向上させ、新しい遺伝子組み換え生物の作製に非常に有用な技術になることが期待されます。また、作製された遺伝子改変動物は、創薬研究、トランスレーショナル研究、再生医療研究などへの幅広い利用が期待されます。

本研究成果は英国ネイチャー出版グループ オープンアクセス誌「Nature Communications」から公開されました。

本研究の一部は独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業(基盤研究(B))「実験用ラットにおけるゲノム編集基盤技術の開発」(課題番号:26290033、代表:真下知士)、 独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業(研究活動スタート支援)「CRISPR/Cas9を用いた多重遺伝子ノックアウトラット作製技術の開発」(課題番号:25890011、代表:吉見一人)の事業の助成を受けておこなわれました。

Figure1

(A) 2H2OP法の略図
一本鎖DNA(ssODN)を‘のり’として利用することで、プラスミドを標的部位へ効率的にノックインできる。
(B) 2H2OP法により作製されたGFPノックインラット。
ノックイン個体は全身で緑色蛍光タンパク質を持つため、緑色に光る。

2016/01/20

卵母細胞からの中心体消失〜減数分裂時の中心体動態を司るLIN-41〜

分子遺伝研究系 中心体生物学研究部門•北川研究室

LIN-41 inactivation leads to delayed centrosome elimination and abnormal chromosome behavior during female meiosis in Caenorhabditis elegans

Rieko Matsuura, Tomoko Ashikawa, Yuka Nozaki and Daiju Kitagawa

Molecular Biology of the Cell, 2016 DOI:10.1091/mbc.E15-10-0713

中心体は生命現象の様々な局面で司令塔として働く細胞小器官です。その主な役割は、微小管形成中心(=中心体活性)として機能し、娘細胞へ染色体を均等に分配することです。中心体の複製や機能に異常が生じると染色体分配に影響を及ぼしますので、がんや不妊症などの原因にもなりえます。
興味深いことに、動物の受精卵には精子中心体が継承され、卵中心体は受精前に消失することがわかっています。この「卵中心体の消失」は後生動物に共通した現象ですが、メカニズムはほとんど研究されていません。
そこで我々は 、線虫の胚発生に重要な遺伝子約500個をノックダウンし、卵成熟過程における中心体動態の表現型を観察することで、卵中心体消失を積極的に誘導する因子を探索しました。左図のように、野生型では、減数分裂期に入った中心体は不活性化しており、卵が成長する過程(第一減数分裂前期複糸期)で次第に消失します。しかし、lin-41 遺伝子の発現を抑制すると、減数分裂中にも関わらず中心体の再活性化が見られ、最終的に中心体消失が抑制されることを見出しました。さらに興味深いことに、活性化された中心体は二極化した紡錘体を形成するものの、全ての染色体が片方の紡錘体極のみに引き寄せられるという奇妙な現象が見られることがわかりました。
今回の研究では、LIN-41が減数分裂時において中心体活性及び動態を制御することで、適切な減数分裂進行を担っていることが明らかにされました。
本研究は、学術振興会 科研費(24687026 24113003)、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団の支援を受けました。

Figure1

  • X
  • facebook
  • youtube