プレスリリース
PZLAST: an ultra-fast amino acid sequence similarity search server against public metagenomes
H. Mori, H. Ishikawa, K. Higashi, Y. Kato, T. Ebisuzaki, K. Kurokawa
Bioinformatics 2021 July 7 DOI:10.1093/bioinformatics/btab492
「環境」中の細菌集団の研究すなわち「マイクロバイオーム研究」が急速に進展したことにより、DDBJなどの公共データベースにはヒト腸内や土壌、河川、海洋など多様な環境に生息する細菌集団のゲノム断片(メタゲノム)データが大量に登録されています。これらのゲノム断片のデータは「遺伝子の宝の山」と言われていますが、その情報量があまりにも莫大であるため、「宝の山」を「発掘」するための解析技術の適用が困難で、「似た配列」を探し出す相同性検索すら難しい状態でした。
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所、理化学研究所、株式会社PEZY Computingの共同研究グループは、公開中の膨大なゲノム断片から予測したアミノ酸配列データをもとに極めて高速かつ高精度にアミノ酸配列の相同性検索を可能とするWebサービス「PZLAST」を開発しました。「PZLAST」を利用することで「遺伝子の宝の山」に埋もれている新たな遺伝子をその遺伝子が存在する環境の情報などとともに容易に「発掘」することが可能になったのです。
膨大なゲノム断片のデータが検索可能になったことで、薬剤耐性因子、病原因子やウイルスなど特定の遺伝子の環境中での動態や、新たな機能を持つ遺伝子の発見、遺伝子と環境の関係性の解析、創薬など、さまざまな研究の発展に寄与することが期待できます。
本研究は文部科学省高性能汎用計算機高度利用事業「ヘテロジニアス・メニーコア計算機による大規模計算科学(代表:姫野龍太郎)」の支援によりおこなわれました。
本研究成果は、国際計算生物学会誌「Bioinformatics」に2021年7月8日(日本時間)に掲載されました。
▶ PZLASTはこちらでご利用いただけます
日時: 令和3年7月30日(金曜日) 9:30~12:00
場所: 三島市生涯学習センター3階 講義室
講師: 中島 一豪先生(中央大学教育技術員)
対象: 三島市内小学校4~6年生
定員: 30名(応募者多数の場合、抽選)
持ち物: 筆記用具、ルーペ(持っている人)
締め切り: 7/16(金)
申し込み先:
三島市政策企画課 まで お電話・電子メール・電子申請でお申込みください。
①氏名(読み仮名必須) ②通学する小学校 ③学年 ④郵便番号 ⑤住所 ⑥電話番号
をお伝えください。
ポスターのQRコード、以下の三島市ページから電子申請もできます。
Internal microbial zonation during the massive growth of marimo, a lake ball of Aegagropila linnaei in Lake Akan
R. Nakai, I. Wakana, H. Niki
iScience 2021 June 12 DOI:10.1016/j.isci.2021.102720
球状の集合体を作る緑藻の一種、マリモ(毬藻)は北半球に広く分布するものの、30センチを超える巨大なマリモは世界でも阿寒湖でしか見られません。なぜ阿寒湖のマリモは巨大化できるのでしょうか?
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の中井亮佑研究員(研究当時。現所属は産業技術総合研究所 研究員)、仁木宏典教授、釧路国際ウェットランドセンター 阿寒湖沼群・マリモ研究室の若菜勇博士らは、大きさの異なるマリモの内部に生息しているバクテリアの種類を比較研究することで、その謎に迫りました。
マリモは、直径が10センチを超えると中心部に空洞が形成されるため、大きくなるほど壊れやすくなってしまいます。ところが大きく成長したマリモでは、球体を形づくっているマリモ藻体に共生するバクテリアの層状構造が作られ、それらのバクテリア群集が藻体を相互に密着させて構造を強化していることを見出しました。さらに、バクテリアは藻体の成長に必要な栄養を供給していると考えられます。成長してさらに巨大化したマリモは、やがて波によって壊されてしまいますが、生じた破片は内部のバクテリアを受け継ぎ、巨大なマリモへと再生してゆくのです。
今年は、阿寒湖のマリモが1921年に天然記念物に指定されてから100年を迎えます。本研究成果は今後のマリモの保護や生息域の回復に役立つ手掛かりとなることが期待できます。
本研究は情報・システム研究機構の新領域融合プロジェクト「地球生命システム学」 の支援を受けておこなわれました。また一部は、科学研究費補助金(JP15H05620)の支援を受けておこなわれました。
本研究成果は、米国科学雑誌「iScience」に2021年6月13日(日本時間)に掲載されました。
図: マリモの切断面
湖底の砂礫を含み茶色味を帯びたバクテリア層が認められる。左の表はそれぞれのバクテリア層から見出されたバクテリア分類群。色の濃淡でバクテリアの量を示し、赤くなるほど増え、青くなるほど減っている。
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The evolutionary ecology of fatty-acid variation: implications for consumer adaptation and diversification.
Twining, C., Bernhardt, J., Derry, A., Cameron, H., Ishikawa, A., Kabeya, N., Kainz, M., Kitano, J., Kowarik, C., Ladd, S. N., Leal, M., Scharnweber, K., Shipley, J., and Matthews, B. Ecology Letters 2021 June 10 DOI:10.1111/ele.13771脂肪酸は生物にとって必要な因子ですが、陸域、海水域、淡水域などの異なる生態系には異なる組成の脂肪酸が分布しています。生態遺伝学研究室では、祖先型の海産魚が淡水魚に進化するためには、淡水生態系に少ないドコサヘキサエン酸(DHA)を合成する酵素のコピー数を増やすことが重要であることを発見し2019年に報告しています(Ishikawa et al. 2019 Science)(Research Highlights記事はこちら)。我々の本研究成果を受けて、海外の生態学者より、生態系間の脂肪酸分布の違い、及び、それが動物の進化に与える効果についてのワークショップ企画の誘いがあり、生態遺伝学研究室の北野潤教授と石川麻乃元助教(現・東京大学大学院新領域)が参加して、7カ国からの国際色豊かな研究者たちとワークショップにて議論を重ね総説を共同執筆しました。
陸域、海水域、淡水域の間では、DHAなどの脂肪酸組成が異なっていることをメタ解析した後、動物の諸機能における脂肪酸の役割を概説し、最後にそれがどのように動物の進化に影響を与えるのかについて考察しました。北野と石川は、動物の進化に関する部分を執筆しました。本総説は、生態学分野で評価の高い国際誌のエコロジーレターズに掲載されました。生態学と脂肪酸研究の更なる融合につながることが期待されます。
6月12日深夜から研究所ウェブサイトが閲覧できない不具合が発生していました。
6月15日午後4時現在、不具合は解消しています。
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6月11日午後から研究所ウェブサイトが閲覧できない不具合が発生していました。
6月11日午後4時現在、不具合は解消しています。
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Press release
An atlas of seven zebrafish hox cluster mutants provides insights into sub/neofunctionalization of vertebrate Hox clusters
Kazuya Yamada*, Akiteru Maeno*, Soh Araki, Morimichi Kikuchi, Masato Suzuki, Mizuki Ishizaka, Koumi Satoh, Kagari Akama, Yuki Kawabe, Kenya Suzuki, Daiki Kobayashi, Nanami Hamano, and Akinori Kawamura * these authors contributed equally to this work Development 148, dev198325 (2021) DOI:10.1242/dev.198325埼玉大学大学院理工学研究科 生体制御学コースの山田一哉 大学院生と川村哲規 准教授を中心とする研究グループは、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 前野哲輝 技術専門職員と共同で、動物のボディープランを規定するHox遺伝子クラスターが、マウスとゼブラフィッシュの間で多くの異なった機能をもつことを明らかにしました。Hox遺伝子クラスターは、動物の体づくりの基盤となる役割を担う遺伝子群で、これまで進化的にも機能が高く保存されていると考えられていましたが、本研究結果は、脊椎動物の進化の過程の新しい側面を示すものとなります。この研究成果は、国際科学誌「Development」に6月7日付のオンライン版で掲載されました。
遺伝研の貢献 7つのHoxクラスター欠失変異体のうち、成魚まで生存した5つの変異体について マイクロフォーカスX線CT装置によるCTスキャンをおこない、成魚期の全身骨格や全身臓器の網羅的な観察に貢献しました。本解析は2019年度および2020年度国立遺伝学研究所共同研究(NIG-Joint)としておこなわれたものです。
作製したhoxクラスター欠失変異体は、全ての系統をNational BioResource Project(ゼブラフィッシュ)に寄託しています。ゼブラフィッシュの発生などにおけるHox遺伝子群の機能解析として、利用することが可能です。図: CRISPR-Cas9によるHoxクラスター全域の欠失 CRISPR-Cas9法を用いて、Hoxクラスターの両端をターゲットとするgRNA(矢じり)を受精卵に導入し、Hoxクラスター全域を欠失させた変異体を作成した。
3D genomics across the tree of life reveals condensin II as a determinant of architecture type
Hoencamp, C., Dudchenko, O., Elbatsh, A. M.O., Brahmachari, S., Raaijmakers, J. A., van Schaik, T., Cacciatore, Á. S., Contessoto, V., van Heesbeen, R. G.H.P., van den Broek, B., Mhaskar, A. N., Teunissen, H., St Hilaire, B. G., Weisz, D., Omer, A. D., Pham, M., Colaric, Z., Yang, Z., Rao, S. S.P., Mitra, N., Lui, C., Yao, W., Khan, R., Moroz, L. L., Kohn, A., St. Leger, J., Mena, A., Holcroft, K., Gambetta, M. C., Lim, F., Farley, E., Stein, N., Haddad, A., Chauss, D., Mutlu, A. S., Wang, M. C., Young, N. D., Hildebrandt, E., Cheng, H. H., Knight, C. J., Burnham, T. L.U., Hovel, K. A., Beel, A. J., Mattei, P.-J., Kornberg, R. D., Warren, W. C., Cary, G., Gómez-Skarmeta, J. L., Hinman, V., Lindblad-Toh, K., di Palma, F., Maeshima, K., Multani, A. S., Pathak, S., Nel-Themaat, L., Behringer, R. R., Kaur, P., Medema, R. H., van Steensel, B., de Wit, E., Onuchic, J. N., Di Pierro, M., Lieberman-Aiden, E., Rowland, B. D. Science 372, 984-989 (2021) DOI:10.1126/science.abe2218染色体が細胞の核のなかでどのように配置されるのかは、細胞生物学の古典的な問題であり、19世紀から議論がありました。染色体の核内配置は、各染色体が核内にそれぞれの領域を保持する「染色体テリトリー」型と、各染色体のセントロメアやテロメアが核内の一部分に集合して配置される「Rabl」型の2つに分けることができます (図A)。例えば、菌類の細胞はRabl型で、ヒト細胞はテリトリー型であることが知られています。しかしながら、両者がどのような分子メカニズムで作り出されるのかは全く不明でした。
オランダガン研究所B.D. Rowlandとベイラー医科大学E. Lieberman-Aiden(遺伝研・国際戦略アドバイザー)率いる国際共同研究チームは、真核生物全体をほぼカバーする24種の生物のゲノム配列とその核内3次元構造をHi−C法を用いて決定しました (図B)。その結果、染色体の核内配置でRabl型をとる多くの生物は、コンデンシンIIのサブユニットが欠損していることを見出しました。コンデンシンは染色体形成に必須なタンパク質複合体であり、5個のサブユニットから出来ています。セキツイ動物ではコンデンシンIとIIの二種類が存在することが知られています。
実際、国際共同研究チームがヒト培養細胞で、コンデンシンIIを除去すると、各染色体のセントロメアが集合するようになり、Rabl型に近い核内配置となりました (図C)。コンデンシンIIは細胞分裂時の染色体形成において、染色体の長さを短くする機能を持ちます。さらに、計算機シミュレーションをおこない、細胞分裂時に染色体を短くすると、染色体テリトリー型の配置になりやすくなることを示しました。一方、染色体が短くならないと、染色体分配後、セントロメアが集合したままになり、それに付随してテロメアも集合しやすくなり、Rabl型になります(図C)。
またE. Lieberman-Aidenと国立遺伝研の共同研究より、近縁で染色体の長さが大きく異なるホエジカのHi-Cゲノム解析をおこないました。その結果、長い染色体をもつインドホエジカはRabl型で、短い染色体をもつ中国ホエジカはテリトリー型の配置であることが分かり、染色体の長さが核内配置に重要であることのさらなる示唆が得られました。遺伝研の貢献部分は文部科学省科研費 学術変革領域A「ゲノムモダリティ」(20H05936)の支援を受けています。
図:(A) Hi-Cマップによる染色体の核内配置の分類。一番上は染色体テリトリー型、下の3つはRabl型で個々の染色体のセントロメア(テロメアの場合もある)が集合している特徴をもつ。(B)真核生物をカバーする24種の生物 (動物 (中央の系統樹の黄領域)、植物(緑)、菌類(青)のHi-Cマップとその生物におけるコンデンシンIIの5つのサブユニットの有無(○有り、●なし)。欠損サブユニットがある場合、Con IIΔと表示している。(C) モデル図。Condensin IIによって細胞分裂中、染色体が短くなるとテリトリー型の配置となり、短くならないとRabl型の配置となる。
本日5月27日15:00より翌28日9:00まで、遺伝研ウェブサイトのメンテナンスを予定しています。メンテナンス時間においてもウェブサイトは利用できますが、断続的に利用できない場合があります。
皆様のご理解とご協力をお願いいたします。
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Press release
NeuroGT: A brain atlas of neurogenic tagging CreER drivers for birthdate-based classification and manipulation of mouse neurons
T Hirata*, Y Tohsato, H Itoga, G Shioi, H Kiyonari, S Oka, T Fujimori, S Onami *Corresponding author/責任著者
Cell Reports Methods 1, 100012 (2021) DOI:10.1016/j.crmeth.2021.100012
動物の発生過程では、多くの神経領域において個性の異なる神経細胞が異なるタイミングで発生することが知られています。情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の平田たつみ教授は、マウスにおいて神経細胞の発生タイミング(神経細胞の「誕生日」)の違いを利用して細胞特異的に遺伝子組換えを誘導する「誕生日タグづけ法」を開発しました。誕生日タグづけ法によって、神経細胞の分類と分類した細胞の実験操作が可能になりました。
今回、誕生日タグづけ法を用いる上で必要となる、マウス系統のカタログ的な全脳切片画像のデータベース 「NeuroGT (Brain Atlas of Neurogenic Tagging Mouse Lines)」 を公開しました。本データベースでは、タグづけされた神経細胞の細胞体や軸索が脳切片上で可視化されており、脳全体を前後軸に沿って見渡しながら、特定の脳領域をズームアップして極めて高解像度で観察できます。
個々の研究者が本データベースにアクセスし、自らの研究目的に適したマウス系統やタグづけステージを選び出し、そのマウス系統をバイオリソースセンターから取り寄せて自身の研究に利用することで、各研究への貢献が期待できます。
本データベースは、マウス発生工学(理化学研究所 生命機能科学研究センター 生体モデル開発チーム)、神経科学(国立遺伝学研究所 平田研究室)、イメージング(基礎生物学研究所 藤森研究室)、画像情報処理(立命館大学 遠里研究室、理化学研究所 生命機能科学研究センター 発生動態研究チーム)など専門の異なる研究グループが連携して開発しました。
本データベースは、ROIS未来投資型プロジェクト、科研費研究成果公開促進費(データベース、19HP7002)の支援を受けて作成及び公開しました。切片画像の高解像度デジタル化については、先端バイオイメージング支援プラットフォーム(ABiS)の支援を受け (JP16H06280)、平田(20H03345)と大浪(JP18H05412)に対する科研費の支援も受けています。
本研究成果は、米国科学雑誌「Cell Reports Methods」に2021年5月25日(日本時間)に掲載されました。
図: 脳画像データベース「NeuroGT」の概念図
動画: 上部のスライダーを操作することで、切片のサムネイル画像を脳の前後軸に沿って動かしながら観察できる。膜移行型mGFPレポーターと核移行型βGALレポーターを用いた染色は異なるスタックになっており、上部の「sync」ボタンを押すことで両方のスタックの切片位置を揃えることができる。
ショウジョウバエの遺伝学研究でノーベル賞を受賞しゼブラフィッシュ研究にも多大な貢献をしたNüsslein-Volhard博士の名前を冠した本賞は、European Zebrafish Society(欧州ゼブラフィッシュ学会)から、毎年ゼブラフィッシュの研究分野で、新技術による革新的な進歩を成し遂げた、ゼブラフィッシュコミュニティに多大な貢献をした、などの卓越した業績に対して授与されるものです。2021年が第5回目になります。
川上教授の受賞理由には、トランスポゾンを用いたトランスジェニックゼブラフィッシュ作製法を開発したこと、およびその方法を用いて様々な組織・細胞を可視化し自由自在に操作できるトランスジェニックゼブラフィッシュを2000系統以上作製し、世界中の研究者と共同研究を展開してきたこと、などがあげられています。2021年6月の国際ゼブラフィッシュ学会(バーチャル)において表彰式と受賞記念講演が行われます。
Press release
Chromosome oscillation promotes Aurora A-dependent Hec1 phosphorylation and mitotic fidelity
Kenji Iemura, Toyoaki Natsume, Kayoko Maehara, Masato T. Kanemaki, Kozo Tanaka Journal of Cell Biology 220 , e202006116 (2021) DOI:10.1083/jcb.202006116染色体数が細胞分裂を通じて正確に保たれるには、紡錘体上で染色体が微小管と正しく結合する必要があります。東北大学加齢医学研究所・分子腫瘍学研究分野の家村顕自助教、田中耕三教授らの研究グループは、国立遺伝学研究所の夏目豊彰助教・鐘巻将人教授、畿央大学の前原佳代子教授と共同して、染色体オシレーションとして知られている染色体の紡錘体上での反復運動が、染色体と微小管との誤った結合を解消することで、染色体が不均等に分配されるのを防いでいることを明らかにしました。がん細胞株では正常細胞株と比較して染色体オシレーションが減弱しており、このことが多くのがん細胞で見られる染色体異常の一因ではないかと考えられます。
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金、文部科学省科学研究費補助金、NIG-JOINT、武田科学振興財団医学系研究助成金、上原記念生命科学財団研究奨励金、かなえ医薬振興財団研究助成金、艮陵医学振興会研究助成金の支援を受けて行われました。
本研究成果は、5月14日に学術誌Journal of Cell Biology誌に発表されました。
図: 染色体オシレーションによる動原体と微小管の誤った結合の解消 (左)動原体が紡錘体極に近づくと、Hec1が紡錘体上のAurora Aによってリン酸化され、誤った結合が解消される。(右)がん細胞では染色体オシレーションが減弱しているため、誤った結合が解消されず、染色体の不均等な分配が起こる。
Decoding the transcriptome of pre-granulosa cells during the formation of primordial follicles in the mouse
Kurumi Fukuda, Masafumi Muraoka, Yuzuru Kato, and Yumiko Saga
Biology of Reproduction 2021 April 13 DOI:10.1093/biolre/ioab065
ヒトを含む哺乳動物のメスが長期に渡り卵子を作り続けるためには、その元となる原始卵胞を十分な数形成することが重要です。原始卵胞は一つの”卵母細胞”とそれを取り巻く顆粒膜細胞と呼ばれる体細胞から構成されています。原始卵胞の形成には、卵母細胞と顆粒膜細胞の前駆体である顆粒膜前駆細胞との相互作用が必要だと考えられますが、そのメカニズムについてはほとんど知られていませんでした。そこで本研究では原始卵胞の形成過程における顆粒膜細胞前駆体の遺伝子発現変化を読み解くことで、この謎に挑みました。その結果、原始卵胞の形成に伴い、細胞外マトリックス、細胞接着、数種類のシグナル伝達経路等に関する遺伝子の顕著な発現変動が起きていることが明らかになりました。また、生殖細胞が正常に発生しない変異マウスでは顆粒膜前駆細胞から顆粒膜細胞への分化が遅れ、分化に関わる遺伝子発現変化も阻害されていることが分かりました。これらの結果は、卵母細胞の適切な発生が顆粒膜前駆細胞の分化に必要であることを示唆しています。また、本データは、原子卵胞形成に関わる遺伝子制御ネットワークを理解するための貴重なリソースになることが期待されます。
図:原始卵胞を構成する顆粒膜細胞前駆体(緑)はそのGATA4陽性の細胞(青)から分化する。この分化過程に生殖細胞は必要ではないが(青矢印)、顆粒膜細胞への分化に卵母細胞が必要である(赤矢印)。
国立遺伝学研究所は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に際して、昨年4月以降、静岡県への協力を申し出るとともに調査協力に関する契約も締結してきました。今回、新型コロナウイルス変異株の感染拡大に伴い、新型コロナウイルスの全ゲノム解析による分子疫学調査(SARS-CoV-2 RNA全ゲノム解析)を静岡県と連携・協働して進めることについて、静岡県庁にて川勝平太静岡県知事と覚書を取り交わしました。
覚書では、「静岡県が実施する積極的疫学調査(SARS-CoV-2 RNA全ゲノム解析)の支援」、「新型コロナウイルス感染症に罹患した患者の治療及びまん延防止に資すること」、「新型コロナウイルス感染症の克服に資するため検査検体の分子疫学情報を公開すること」、「分子疫学情報の公開にあたっては、個人情報に十分配慮すること」などを定めています。国立遺伝学研究所では、覚書に基づき本格的にSARS-CoV-2 RNAの全ゲノム解析の支援業務を実施します。
2021年4月30日
国立遺伝学研究所