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2017/12/26

有田・井ノ上 教授が「遺伝学講座・みしま」で講演

遺伝学講座・みしま

最新の研究についてわかりやすくお話しします。 最先端の遺伝学にふれ、人類の遺伝や身体の仕組みの謎について一緒に学んでみませんか?


 

開催日時:

2018年2月4日(日)午後1時30分~午後4時(予定) ※開場は午後1時

開催場所:

三島市民文化会館小ホール(一番町20番5号)

講師・演題:

生命ネットワーク研究室 有田正規 教授
「食べものは体の中でどうなるか ―遺伝子と代謝―」

人類遺伝研究部門 井ノ上逸朗 教授
「遺伝でわかること わからないこと」

定員・申込み:

三島市政策企画課まで電話か電子メールで氏名・連絡先・参加人数 をお伝えください。
申込み締切は2018年1月31日(水)です。

TEL:055-983-2616
E-mail: seisaku@city.mishima.shizuoka.jp

三島市HP

2017/12/26

石川麻乃助教が「三島市 第3回 図書館講座」で講演

子育てする魚、トゲウオとその進化の話

 トゲウオ科の魚は、オスが巣作りや求愛ダンス、子育てをすることで知られ、古くから動物行動学や進化生物学の研究対象とされてきました。
 本講座では、このトゲウオのユニークな生態や行動と共に、この魚を使った生き物の適応進化の研究について紹介します。 ぜひご参加ください。

講 師:

生態遺伝学研究部門 石川 麻乃 助教

日 時:

2018年2月24日(土) 午後2時から午後3時30分

会 場:

三島市民生涯学習センター 3階 講義室

定 員:

150人 入場無料・申込み不要ですが、先着順です。 直接会場におこしください。

三島市立図書館
2017/12/26

細胞核内のDNA密度と、分裂期染色体の凝縮度との間の種を越えた相関関係

細胞建築研究室・木村研究室

Scaling relationship between intra-nuclear DNA density and chromosomal condensation in metazoan and plant.

Hara Y, Adachi K, Kagohashi S, Yamagata K, Tanabe H, Kikuchi A, Okumura S-I, Kimura A.

Chromosome Science, 19, 43-49 (2016). DOI:10.11352/scr.19.43

真核生物の染色体の基本的な構造は種を超えて保存されているため、多くの遺伝情報(塩基対の長さ)を持つ生物種は、その量に比例して、細胞内の染色体の物理的な長さも長いと思われるかもしれません。しかし、実際はそう単純ではありません。国立遺伝学研究所の木村暁教授は、山口大学、北里大学、千葉大学、近畿大学、総合研究大学院大学(総研大)の研究者と共同で、総研大学融合プロジェクト、および情報・システム研究機構未来投資プロジェクトを遂行するチームを組織し、様々な生物種を用いて、DNAの量、染色体の物理的な長さ、細胞核の大きさなどを比較しました。その結果、間期核内の密度と、分裂期染色体の凝縮度の間に、種を超えた相関関係があることを見出しました。DNAの量が増えても、染色体の長さは比例して長くなるわけではなく、DNA密度が高くなれば、その分、分裂期染色体はより凝縮度を増すために、分裂期染色体の長さはそれほどは長くならないのです。研究チームの定量的解析は、種間による分裂期の染色体の長さの違いは、核の表面積と比例的な関係にあることを示唆しました。この関係は、細胞が分裂する際に、分裂板と呼ばれる領域の中に染色体を収納するのに重要ではないかと推察されます。本研究は、進化の過程で染色体の大きさや凝縮度に対して種を越えた制約がかかっていることを示唆し、今後の研究の足がかりになると期待されます。

Figure1

図:染色体の凝縮度と細胞核内のDNA密度との種を超えた相関関係(本論文の図1)。染色体の凝縮度を細胞核内のDNA密度に対してプロットした両対数グラフ。本研究で測定した生物種は色のついた四角で示されている。

2017/12/26

初期胚発生過程における染色体の動きの変化を検出

細胞建築研究室・木村研究室

Reduction in chromosome mobility accompanies nuclear organization during early embryogenesis in Caenorhabditis elegans.

Arai R, Sugawara T, Sato Y, Minakuchi Y, Toyoda A, Nabeshima K, Kimura H, Kimura A.

Scientific Reports, 7, 3631 (2017). DOI:10.1038/s41598-017-03483-5

遺伝情報を担う染色体DNAは長い繊維ですが、球形の細胞核の中にただやみくもに詰められているわけではありません。染色体ごと、あるいは機能領域ごとに整理されて細胞核内に整頓されていると考えられていますが、そのような整頓された構造が生物の個体発生の過程でどのようにできあがるのかについては不明な点が残されています。国立遺伝学研究所・細胞建築研究室の荒井律子元研究員らは、同・比較ゲノム解析研究室や東京工業大学の研究グループと共同で、線虫の初期胚発生の過程における染色体の動きを可視化・定量化し、受精卵が3回分裂した8細胞期のあたりで、急激に動きが小さくなることを見つけました。染色体の核内での存在様式は、遺伝子の発現など様々な染色体機能に関わると予想されます。実際に研究チームは、染色体の動きが小さくなる時期が、遺伝子の活性の指標となる染色体の化学修飾の変化や核小体の構造が明確になる時期と同時期であることも見出しました。したがって、今回見出した染色体の動きは、染色体の”整頓”の指標になり得ると考えます。

Figure1

図:[左写真] 染色体上の特定の遺伝子座(白点)の動きを、各発生時期で追跡した例(線)。黄色い点は核の中心を表す(48細胞期については表示していない)。[右グラフ] MSCD (二点間の距離の変化の二乗平均)を指標とした動きの評価。MSCDを測定間隔(τ)に対してプロット。図の中の幾つかのパネルは論文(Arai et al., 2017)で発表したものと同一。

2017/12/19

初期発生研究部門 浅川助教が第一回「せりか基金」賞を受賞

宮崎研究員
受賞式にて 浅川助教(右)

初期発生研究部門 浅川和秀助教は、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の克服に資するために設立された「せりか基金」が、革新的で今後発展が期待できる優れた研究に対して贈る「せりか基金」賞を受賞し、研究助成金を授与されました。
 

せりか基金

漫画『宇宙兄弟』で、自らの父をALSで亡くしたヒロイン・せりかが、宇宙飛行士となり無重力空間でALS治療薬の開発のための実験に成功したように、現実でもALSを治療可能な病気にしたい、という想いから立ち上がった基金。


初期発生研究部門
2017/12/19

遺伝子スイッチの「移設」が手に水かきを作る

Press Release

Enhancer adoption caused by genomic insertion elicits interdigital Shh expression and syndactyly in mouse

Kousuke Mouri, Tomoko Sagai, Akiteru Maeno, Takanori Amano, Atsushi Toyoda, Toshihiko Shiroishi

PNAS Published online before print December 18, 2017 DOI:10.1073/pnas.1713339115

プレスリリース資料

生物の体が作られるときには、どの組織でどの遺伝子の働きがオンになるかが重要です。遺伝子をオンにする「スイッチ」として働くエンハンサーと遺伝子の組み合わせが生物の多様な「かたち」を生み出すと考えられています。

情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の毛利亘輔博士研究員、城石俊彦教授、豊田敦特任教授らのグループは、ある遺伝子が使っていたエンハンサーが別遺伝子の近くにコピー&ペーストされること、いわばスイッチが「移設」されることによって形態の変化が生じることを明らかにしました。

本成果では、指の間に皮膜が張って水かき状の構造になる変異マウス、Hammer toe (Hm)において、Sonic hedgehog (Shh) 遺伝子の近くに別染色体からのエンハンサーが挿入されていることを明らかにしました。その結果、様々な組織の形態形成に働くSonic hedgehog (Shh) 遺伝子が、本来オフになっている指間部でオンになって、指間部の皮膚の構造が変化していたのです。つまり、エンハンサーの移設によってHm変異体は水かきを獲得したのです。

本成果が、生物の形態の多様性を作り出す仕組みを理解する大きなヒントになることが期待されます。

本研究は情報・システム研究機構国立遺伝学研究所哺乳動物遺伝研究室の毛利亘輔、嵯峨井知子、前野哲輝、天野孝紀、城石俊彦、それに同研究所比較ゲノム解析研究室の豊田敦らの研究グループによって遂行されました。

本研究の一部は、文部科学省の科学研究費補助金(科研費番号JP15J06985, JP17K15162, JP17K19411)の支援を受けておこなわれました。

本研究成果にはマイクロCTスキャンの技術が貢献しています。

Figure1

図1:(A)Hm変異体では、複数のエンハンサーを含む配列がShh遺伝子の近くに挿入されていた。(B)野生型およびHmの手のマイクロCTスキャン像。Hmでは指間部にShh遺伝子が発現した結果、膜が残り、指が分離しない。

Figure1

図2:この研究は、ゲノムの変化が組織の形態を変化させるまでのプロセスを明らかにした。

※本研究成果にはマイクロCTスキャンの技術が貢献しています

※本成果がPNAS内の記事で紹介されました 

※EurekAlert!で本成果を紹介した記事を配信しています 

2017/12/18

日本近海で初の珍渦虫の新種を発見 ―動物の起源や進化過程を探る糸口に―

Press Release

A new species of Xenoturbella from the western Pacific Ocean and the evolution of Xenoturbella

BMC Evolutionary Biology, inclusive and trusted 2017 17:245 DOI:https://doi.org/10.1186/s12862-017-1080-2

プレスリリース資料

筑波大学 中野裕昭准教授、宮澤秀幸研究員、国立遺伝学研究所 前野哲輝技術課職員、城石俊彦教授、北海道大学 角井敬知講師、東京大学 大森紹仁特任助教(現在は、新潟大学助教)、幸塚久典技術専門職員らの研究グループは、日本近海で初めて、珍渦虫を採 取することに成功し、それが新種であることを明らかにしました。

珍渦虫は、脳などの集中神経系、肛門等を欠いた非常に単純な体を持つ海生動物です。その単純な構造は、多くの動物の共通祖先の特徴を残している可能性があると考えられています。そのため、珍渦虫の研究をすることが、ヒトも含めて、現在生きている動物の起源や進化過程の解明につながると期待されています。しかし、珍渦虫はこれまでに全世界で5種しか報告されておらず、また、そのほとんどの種は採取が困難であるため、実験動物として扱いづらく、研究が進んでいないのが現状です。卵からどのような幼生を経て成体になるのか、その個体発生の過程も完全にはわかっていません。

本研究では、西太平洋の日本近海で珍渦虫を採取することに成功し、採取された個体はこれまでの5種とは異なる、新種であることを明らかにしました。また、この日本で採取された珍渦虫の体の構造を調べたところ、これまで珍渦虫から報告されていない新しい器官を発見しました。

日本近海の珍渦虫は海外の多くの種と比べると採取しやすい場所、水深に生息しているため、今後は、この種を用いて研究を進めることで、動物の起源や進化過程を探る上で興味深い新知見が得られることが期待されます。

本研究成果は、2017 年12月18日付で、BMC Evolutionary Biology誌にて公開されました。

本研究は、日本学術振興会の科学研究費補助金、国立遺伝学研究所公募型共同研究、スウェーデン・イエテボリ大学の王立科学アカデミー基金、JAMBIOの支援で実施されました。

遺伝研の貢献
マイクロCTスキャンで珍渦虫の構造の観察をおこない、消化器官、神経系、筋肉などの基本的な構造に加えて、前端孔という未知の構造があることを明らかにしました。

Figure1

図1:三浦半島沖で採取された珍渦虫Xenoturbella japonica。体長は5 cm程度である。写真の左側が前方であり、右側が後方。中央をベルト状に横断する線があるのが珍渦虫の特徴。(撮影:大森紹仁)

Figure1

図2:珍渦虫と他の動物との類縁関係。珍渦虫は、クラゲなどに近い原始的な動物であるという説(A)と、現在生きている全動物の中で、ヒトを含む脊索動物に比較的近縁であるという説(B)があり、どちらが正しいか、まだ解明されていない。

  • 珍渦虫の3D画像の動画をこちらでご覧いただけます
  • 本成果の基盤のひとつとなったCTスキャンの記事をこちらでお読みいただけます
2017/12/01

脳全体にセロトニン神経軸索を分散させるしくみ

形質遺伝研究部門・岩里研究室

Protocadherin-αC2 is required for diffuse projections of serotonergic axons

Shota Katori, Yukiko Noguchi-Katori, Atsushi Okayama, Yoshimi Kawamura, Wenshu Luo, Kenji Sakimura, Takahiro Hirabayashi, Takuji Iwasato & Takeshi Yagi

Scientific Reports, 7, Article number: 15908 (2017) DOI:10.1038/s41598-017-16120-y

底面が水平な浴槽にコップ一杯の水を入れて水を隅々まで行き渡らせることはできません。なぜなら水分子が互いに引き寄せあって水たまりをつくってしまうからです。水を隅々まで行き渡らせるためには、上から均等に圧力をかけるなど何らかの工夫が必要です。

摂食、睡眠、性行動、攻撃性、情動、記憶学習など様々な脳機能に関与するセロトニンという神経修飾物質は脳全体に必要ですが、セロトニン神経の細胞体(DNAを含む核やタンパク質合成が行われる小器官を含む部分)は脳の深部である脳幹の正中部分にしかありません。いかにしてセロトニンを脳全体に届けているのでしょうか。脳幹正中部にあるセロトニン神経は軸索という神経突起を脳全体に伸ばし、ある程度均一に分布させることで、脳全体にセロトニンを供給していると考えられます。しかし、セロトニン神経の軸索を脳全体に分布させるメカニズムについてはよくわかっていませんでした。

香取らは以前に大阪大学八木健研究室にてプロトカドヘリンαファミリー(14種類からなる細胞膜貫通タンパク質群)を欠損したマウスではセロトニン神経の軸索の分布異常(局所的な過密化と過疎化)が見られることを報告していました(Katori et al., J Neurosci 2009)。今回の研究では解析をさらに進めて、プロトカドヘリンαファミリーの一つのタイプであるαC2をセロトニン神経で欠損させたマウスを作製したところ、セロトニン神経の軸索分布が異常となりました。一方、プロトカドヘリンαの他のタイプを欠損させたマウスのセロトニン神経軸索の分布は正常でした。セロトニン神経軸索の詳細な形態解析から、αC2がセロトニン神経軸索の過密化を抑制し、分散させるために必要であることを明らかにしました(図)。αC2を持つセロトニン神経軸索同士が接触すると、そこでの軸索伸長を抑制し、軸索密度の低い場所に軸索を伸長させることで脳全体に軸索を分散させていると考えられます。プロトカドヘリンα遺伝子はヒトの神経疾患との関連が示唆されていることから、本研究の成果はセロトニン神経が関与する神経疾患の解明につながることが期待できます。

本研究は香取将太研究員(現福井大学特命助教)が中心となって行ったものであり、大阪大学大学院生命機能研究科、国立遺伝学研究所、新潟大学脳研究所の共同研究として行われました。

Figure1

図:マウスの嗅球(嗅覚に関与する脳領域)でのセロトニン神経軸索の分布。セロトニン神経の軸索(ピンク)は野生型(左)では層全体にほぼ均一に分布するが、プロトカドヘリンαC2欠損型(右)では一部の層(顆粒細胞層)で過密化し、他の層では過疎化する。過密化した層ではセロトニン神経軸索同士が近接している様子が観察できる(拡大図)。

2017/12/01

百年を超えて信じられてきた神経回路形成の基本原理に見直しを迫る

脳機能研究部門・平田研究室

Netrin-1 Derived from the Ventricular Zone, but not the Floor Plate, Directs Hindbrain Commissural Axons to the Ventral Midline

Kenta Yamauchi, Maya Yamazaki, Manabu Abe, Kenji Sakimura, Heiko Lickert, Takahiko Kawasaki, Fujio Murakami, and Tatsumi Hirata

Scientific Reports, DOI:10.1038/s41598-017-12269-8

本研究では、腹側正中線並びに脳室帯特異的に軸索誘導分子ネトリン1(Ntn1)を欠損したマウスを作成し(Ntn1FP-Ko, Ntn1VZ-Koマウス)、脳室帯に由来するNtn1こそが、交連軸索の腹側伸長に必要不可欠であることを示しました。この結果は百年を超えて信じられてきた神経回路形成の基本原理に見直しを迫るものです。

今から一世紀以上も前に、スペインの神経解剖学者Cajalは、神経管背側から腹側正中線へと伸長していく交連軸索の観察から、「軸索は標的由来の拡散性化学物質を検出することにより標的へと到達する」という化学走性説を提唱しました。Ntn1は交連軸索標的の腹側正中線に発現し、交連軸索に対して誘引活性を示すことから、Cajalの提唱した化学走性説の責任分子として考えられてきました。しかしながらNtn1は、交連軸索伸長経路の近傍の脳室帯にも発現するため、交連軸索の腹側伸長は、腹側正中線ではなく脳室帯に由来するNtn1により、制御されている可能性が残されていました。この問題に取り組むため、私達は脳室帯特異的、腹側正中線特異的にNtn1を欠損するマウスを作成しました。化学走性説が真であるならば、標的由来のNtn1、即ち腹側正中線に発現するNtn1を除去した場合、交連軸索の腹側伸長が阻害されるはずです。しかしながら、腹側正中線特異的にNtn1を欠損させたマウスでは、交連軸索の腹側伸長にほとんど影響は見られず、一方で脳室帯特異的にNtn1を欠損させたマウスでは、交連軸索の多くは、腹側正中線へと伸長できませんでした(図参照)。これらの結果は、交連軸索の腹側伸長は、Cajalの唱えた化学走性説では説明できず、脳室帯由来のNtn1が局所的な作用により制御されていることを示唆しています。

Figure1

腹側正中線、脳室帯からNtn1の発現を除去した際の後脳交連軸索の走行。腹側正中線からNtn1の発現を除いた場合、交連軸索は腹側正中線(VM)へと伸長する(左図矢頭)。一方で、脳室帯からNtn1の発現を除去した場合、交連軸索は腹側正中線へと到達できない(右図)。交連軸索は脂溶性色素DiIにより標識した。

2017/12/01

新分野創造センターにあたらしい研究室ができました

2017年12月1日付けで新分野創造センターに久保郁准教授が着任しました.

久保 郁:新分野創造センター,システム神経科学研究室

久保 郁 准教授

新分野創造センター(Center for Frontier Research)は,「あたらしい人材」と「あたらしい分野」を同時に育成するためのインキュベーションセンターです. 若手の優れた研究者が研究室主催者(テニュアトラック准教授)として研究室を運営し, 遺伝研の卓越した研究環境や様々なサポートを活用して遺伝学とその周辺領域に新しい分野を開拓する研究を行っています.

2017/11/29

ゼブラフィッシュ胚/稚魚全個体移植による個体形成

小型魚類開発研究室・酒井研究室

Development and growth of organs in living whole embryo and larval grafts in zebrafish

Toshihiro Kawasaki, Akiteru Maeno, Toshihiko Shiroishi & Noriyoshi Sakai

Scientific REPORTS, 7: 16508 DOI:10.1038/s41598-017-16642-5

異なる年齢の動物2個体を並体融合 (parabiosis) した場合、血液性因子を介して別個体の器官再生等に影響を与え、老化個体の若返りや若い個体の老化が起こることが知られています。すなわち、動物では加齢に伴い個体全体が調和して発生・老化が進むと考えられます。しかしながら、これまでの並体融合法では初期胚と成体を融合させることは困難で、加齢の進んだ成体の血液性因子が器官形成を行っている胚に及ぼす影響は不明でした。

本研究で私たちは、免疫不全ゼブラフィッシュに胚/稚魚を個体まるごと皮下移植すると、宿主の血管が胚/稚魚へ浸潤し、循環系を共有して胚/稚魚が発生することを見つけました。これは並体融合とほぼ同等の体制を形成できたことを意味します。移植個体の器官形成を調べると、半数以上の個体で心臓、肝臓、精巣が欠損していることが認められました。宿主から生殖細胞を取り除くと移植胚の精巣欠損が起こらなくなったため、成体の特定の器官(細胞)に起因する血液性因子が初期胚の器官原器の発生に重篤な影響を与えることが明らかとなりました。今後、この移植法により脊椎動物の器官形成に影響を及ぼす新たな因子を明らかにできるものと期待されます。

本研究は国立遺伝学研究所小型魚類開発研究室と哺乳動物遺伝研究室の共同研究で行われました。

本研究は科学研究費補助金(JP23570260, JP25251034, JP25114003)の助成を受けました。

Figure1

免疫不全ゼブラフィッシュに移植した72時間胚の発生。(a)全個体移植の概要。(b) 72時間胚と移植後の胚。(c) 移植後2ヶ月の胚のµ-CTイメージ。頭蓋骨と脊椎骨 (No staining)、血管系 (Lugol staining) が観察できる。


本成果の基盤のひとつとなったCTスキャンの記事をこちらでお読みいただけます
2017/11/29

はじまりは卵の形だった~初期胚における細胞の配置パターンの決定機構~

Press Release

An asymmetric attraction model for the diversity and robustness of cell arrangement in nematodes

Kazunori Yamamoto, Akatsuki Kimura

Development 2017 144: 4437-4449; DOI:10.1242/dev.154609

プレスリリース資料

私たち多細胞生物は、たった一つの細胞(受精卵)が細胞分裂で数を増やすことによって形成されます。この個体形成の過程では、細胞同士の配置関係(細胞の配置パターン(1))が重要です。細胞の配置パターンは種によって多様で、一般にそれぞれ固有のパターンを持っていますが、細胞の配置パターンを決めるしくみはわかっていませんでした。

本研究では、特定の種の線虫(2)(C. elegans)の「卵の形」を変えると細胞の配置パターンが「他種の線虫のパターン」に変化することを発見しました。つまり、細胞の“容器”の役割を果たす卵の形が細胞の配置パターンに重要だったのです。また、卵の形の変化と細胞配置パターンの変化を再現する数理モデル(3)を世界で初めて構築しました。本研究で提唱する細胞の配置パターン決定のしくみは、ヒトをはじめとする様々な生物に共通すると考えられます。

本研究は、山本一徳博士(今春まで総合研究大学院大学(総研大)・大学院生/日本学術振興会特別研究員DC2、現・同特別研究員PD)によって、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 細胞建築研究室の木村暁教授のもとでおこなわれました。山本博士は本研究の成果によって総研大遺伝学専攻の森島奨励賞を受賞しました。

本成果は、国際学術誌Developmentにおいて、定量的発生生物学に大きな影響を与えたダーシー・トムソン博士の著作「On Growth and Form」の刊行100周年を記念した特別号に掲載されます。

本研究は、科学研究費補助金(JP15H04372、JP15KT0083、JP16J09469)及び内藤記念科学奨励金、住友財団基礎科学研究助成、総合研究大学院大学学融合推進センター研究論文掲載費等助成の支援を受けておこなわれました。

Figure1

図1:細胞配置パターンの制御については、分裂方向の違い(A)によるものはよく研究されていたが、力による制御(B)についてはほとんどわかっていなかった。

Figure1

図2:本研究では、異なる線虫種の細胞配置パターン(A)を、ある種の線虫(C. elegans)の卵殻の形状を変えるだけで再現することに成功し(B)、さらに、このパターンの形状依存の変化を再現する数理モデルの構築にも成功した(C)。(A)でピラミッド型を示す種はEnoplus brevis (写真の出典は Schulze and Shierenberg, 2011)、T字型はCephalobus sp. (Goldstein, 2001)、直線型はBelonolaimus sp. (Goldstein, 2001)。

2017/11/28

タンパク質レベルで発現調節を可能とするデグロン技術

分子細胞工学研究部門・鐘巻研究室

Conditional Degrons for Controlling Protein Expression at the Protein Level

Toyoaki Natsume and Masato T. Kanemaki

Annual Review of Genetics, DOI:https://doi.org/10.1146/annurev-genet-120116-024656

タンパク質の発現を抑制した際に、その表現系を観察することにより、細胞内におけるタンパク質の機能を推察することは、様々な生物種において行われる遺伝学的解析です。この目的のために、siRNAやコンディショナル遺伝子ノックアウトによるタンパク質発現抑制が一般的に行われてきました。これらの方法は直接タンパク質を除去する訳ではないため、除去効果は間接的であり、除去にはタンパク質の半減期に依存した比較的長い時間を要します。そのため、時として除去による二次的影響が表現系として現れてくるといった問題がありました。

近年、タンパク質分解を誘導する「デグロン」配列を狙ったタンパク質に付加することにより、直接的にタンパク質発現を制御する技術が注目を集めています。デグロン技術によるタンパク質除去は直接的かつ迅速で、その効果を素早く観察することが可能です。私たちは、植物ホルモンオーキシンにより制御可能なデグロンを使い、オーキシンデグロン技術を開発しました。その他にも温度、低分子化合物、光、他のタンパク質の発現などにより制御可能なデグロン技術が開発されています。私たちは、これら新たな技術の開発の歴史と特性を総説としてまとめて発表しました。

Figure1

(A) タンパク質発現を制御するための技術。遺伝子レベルからタンパク質レベルまで様々な方法が有る。デグロン技術はタンパク質レベルで機能する。(B)デグロン技術には温度、低分子化合物、光、他のタンパク質発現により制御する方法が考案されている。

2017/11/24

分裂期染色体の「脱」凝縮に関わる新たな機構

原核生物遺伝研究室・仁木研究室

Release of condensin from mitotic chromosomes requires the Ran-GTP gradient in the reorganized nucleus.

Keita Aoki and Hironori Niki

Biology Open, November 15; 6(11):1614-1628, 2017 DOI:10.1242/bio.027193.

細胞周期の分裂期に高度に凝縮した染色体は、その後の間期で脱凝縮します。染色体の脱凝縮には、凝縮因子として有名なコンデンシンが染色体から解離する必要があると考えられていますが、その機構はまだよくわかっていません。

原核生物遺伝研究室では、ヒト細胞と同様に分裂期後に核膜再生と染色体脱凝縮が協調して起こるSchizosaccharomyces japonicus(分裂酵母の一種)を真核細胞のモデルとして、この問題に取り組みました。

本研究では、まず、脱凝縮の異常変異体として染色体が過凝縮する変異株をS. japonicusの温度感受性変異株ライブラリーから見つけることにしました。見つかった過凝縮する変異株は、pim1遺伝子に変異があることがわかりました。Small GTPase Ranのグアニンヌクレオチド交換因子であるPim1/RCC1の変異株では、染色体が異常に強く凝縮することが分裂酵母やハムスターを用いた研究から予てより知られていました(Nishimoto et al., 1978; Matsumoto and Beach 1991; Sazer and Nurse 1994)。

次に、S. japonicusの染色体過凝縮表現型の原因を明らかにするために、Pim1の細胞内局在を野生型と変異型とで比べました。そうしたところ、野生型Pim1は細胞周期を通じて主に核膜孔に局在していました。一方、変異型Pim1は、核膜孔に局在しましたが、この局在は核分裂後に娘細胞のうち片方の核から消失していました。そして、Pim1局在の消失した核でのみ染色体の過凝縮が起こることを我々は見つけました。

では、なぜPim1の核膜孔局在が不安定になると染色体の過凝縮が起こるのでしょうか?我々は、原因としてコンデンシンの影響を考えました。コンデンシンの染色体局在は野生型では分裂期後になくなりますが、pim1変異株では、過凝縮した染色体にコンデンシンが残留していました。また、pim1変異株の過凝縮染色体の頻度はコンデンシンの活性化リン酸化サイトの一つであるCDKサイトの活性化型変異により増加しました。これらの結果から、Ran経路に依存したコンデンシンの脱リン酸化もしくは不活性化が、効率的な染色体脱凝縮に関わると考えられました。

Figure1

通常の核(左側)では、染色体上のコンデンシンは、分裂期後にRan-GTPに依存して染色体から離れる。そのため、脱凝縮したG1期核が形成される。一方、Pim1/RCC1に異常がある核(右側)では、Ran-GTPが少ないために分裂期後にコンデンシンが染色体から離れることができない。そのため、G1期に染色体が過凝縮する。

2017/11/14

植物内の“水の通り道”を広げる遺伝子、発見

細胞空間制御研究室・小田研究室

CORTICAL MICROTUBULE DISORDERING1 is required for secondary cell wall patterning in xylem vessels

Takema Sasaki, Hiroo Fukuda, Yoshihisa Oda

The Plant Cell, Published November 2017. DOI:https://doi.org/10.1105/tpc.17.00663

陸上の植物は地中の水分を根からくみ上げ全身に行き渡らせています。植物体内の水分は光合成などのあらゆる代謝に加え、体の体積を増やすための充填材として使われており、植物が葉を大きく広げ、高く生長していく上で必要不可欠なものです。この水分は植物体内で道管と呼ばれる中空の筒の中を通り、茎や葉の先端まで運ばれています。道管には壁孔と呼ばれる直径数ミクロンの微小な穴が開いており、道管内の水分は壁孔を通って道管から道管へ、さらには道管から葉や茎の細胞へと移動します(図左)。このように壁孔は植物の体のなかで水分の通り道となる重要な構造です。これまで、この壁孔の大きさが決まる仕組みはほとんどわかっていませんでした。

道管は、道管の元となる細胞が細胞の表面に厚く丈夫な細胞壁を沈着し、細胞内容物を消化することにより作られます。この道管の細胞壁の沈着が部分的に抑制されると壁孔が形成されます。植物細胞の表面には微小管と呼ばれる非常に細い繊維状の管が並列に規則正しく並んでおり、この微小管に沿って細胞壁が沈着します。これまでの研究により、道管の細胞では一部の微小管が分解されることにより細胞壁の沈着が抑制され、壁孔が作られることが分かってきました。しかしどのようにしてこの微小管の分解が制御され、壁孔の大きさが決まるのか未解明でした。

国立遺伝学研究所 小田祥久准教授らの研究チームは東京大学と共同で道管の細胞で働く遺伝子を網羅的に調べることにより、表層微小管の安定性を下げる新しいタンパク質を発見し、CORD1 (Cortical Microtubule Disordering1)と名付けました。このタンパク質は微小管に結合し、細胞表面での微小管の規則的な並びを乱し、分解されやすくすることにより、壁孔を作りやすくしていることがわかりました。CORD1を失った細胞では微小管が強固に並列に並び、分解されにくくなるために、壁孔が小さくなりました。一方、CORD1を過剰に発現させた細胞では微小管が散在し、分解されやすくなったために壁孔が大きくなりました。このように道管の細胞はCORD1の量によって微小管の壊れやすさを調節し、壁孔の大きさを決定していることがわかりました(図右)。CORD1の量を人為的に制御することができれば、植物内の水分の輸送効率を改変し、より早く育つ植物の作出が可能になるかもしれません。

微小管は道管細胞だけでなく、植物の体のほとんどの細胞で細胞壁の沈着を制御しています。微小管の並び方や分解されやすさは細胞壁の沈着の仕方に大きく影響し、その結果、細胞の形や役割にも影響します。これまでの研究では表層微小管を並行に並べる仕組みはよく研究されており、様々な遺伝子の働きが明らかとなってきました。しかし、今回発見したCORD1タンパク質のように微小管の配列を乱し分解されやすくするようなタンパク質の発見は世界で初めてです。この発見により、道管に加え、様々な植物細胞で細胞壁の沈着を制御する仕組みが見えてくると期待されます。

本研究は、東京大学大学院理学系研究科との共同研究として行われました。

本研究成果は、平成29年11月13日(米国東部標準時間)に米国科学雑誌The Plant Cellに掲載されました。

本研究は、文部科学省の科学研究費補助金 (16H01247, 15H01243, 15H05958)、日本学術振興会の科学研究費補助金16H06172, 16H06377)、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業さきがけ (JPMJPR11B3)、三菱財団、内藤記念科学振興財団の助成を受けました。

Figure1

(左)植物の体内において水分は道管を通して全身に運ばれます。道管内の水分は道管から隣の道管へ、さらに道管から茎、葉、根の体細胞へと壁孔を通して運ばれます。(右)CORD1の量が多いと細胞壁の沈着を促進する微小管の並び方がバラバラになり、大きな壁孔が作られます。逆にCORD1の量が少ないと微小管はしっかりと平行に並び小さな壁孔が作られます。

2017/11/06

リボソーム遺伝子の新たな機能 〜染色体の凝縮の場として〜

原核生物遺伝研究室・仁木研究室

Multiple cis-acting rDNAs contribute to nucleoid separation and recruit the bacterial condensin, Smc-ScpAB

Koichi Yano, and Hironori Niki

Cell Reports, Vol. 21 Iss. 5, October 31, 2017 DOI:http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2017.10.014

長いDNA分子は折れ畳まれ、染色体として細胞内に収納されている。この折り畳みの一端を担っているのがコンデンシン複合体である。コンデンシン複合体はバクテリアからヒトまで共通に保存された生物の基本的因子の一つである。バクテリアのコンデンシン複合体は、複製開始点付近の染色体領域に結合し、複製した染色体DNAを順次折り畳んで行く。こうして、2つの姉妹染色体へと分けられる。この時、バクテリアのコンデンシン複合体は複製開始点付近の、どの染色体領域を選んで結合しているのか?この点についてはこれまで不明であった。

今回、私たちは枯草菌を使い、複製の開始点付近に散在している複数のリボソーム遺伝子が、バクテリアコンデンシンの結合の場になっていることを見出した。私たちは、これまでにもバクテリアコンデンシンタンパク質が二本鎖DNAよりも一本鎖DNAに対して、より選択的に結合をすることを明らかにしている(Niki & Yano, 2016)。リボソーム遺伝子の転写は常に活発である。さらに、リボソーム遺伝子では転写されたRNAがDNAと結合したいわゆるR-ループを形成し、転写で生じた二本鎖の開裂を安定化させる。そのため、リボソーム遺伝子では他の遺伝子領域よりも一本鎖DNAが露出しやすい。このことが、一本鎖DNAに結合しやすいバクテリアコンデンシン複合体をリボソーム遺伝子に特異的に結合させている原因だと私たちは考えている。複数のリボソーム遺伝子が複製の開始点付近に散在しているのはリボソームRNAを増産するためだと、これまで考えられてきた。しかし、それだけではなく、このリボソーム遺伝子の配置はコンデンシン複合体によるDNA凝縮の場としても役立っていることが今回の研究から明らかになった。

Figure1

環状のバクテリア染色体は、1箇所の複製起点(黄色の丸)から複製を開始し、姉妹染色体を形成する。枯草菌のコンデンシンであるSmc-ScpAB複合体は、複製起点に散在するリボソーム遺伝子(rDNA、ピンクの丸)に結合し、リボソーム遺伝子以外の場所に結合したSmc-ScpAB複合体と共もに相互作用して、2つの姉妹染色体の分離を助ける。また、Smc-ScpAB複合体はSpo0J(ParB)-parSというDNAタンパク質複合体からも染色体に結合して、複製した染色体の左右のDNA鎖を対合させるように機能している。

2017/11/02

チンパンジー親子トリオ(父親−母親−息子)の全ゲノム配列を高精度で解明

Press Release

Direct estimation of de novo mutation rates in a chimpanzee parent-offspring trio by ultra-deep whole genome sequencing

Shoji Tatsumoto, Yasuhiro Go, Kentaro Fukuta, Hideki Noguchi, Takashi Hayakawa, Masaki Tomonaga, Hirohisa Hirai, Tetsuro Matsuzawa, Kiyokazu Agata, Asao Fujiyama

Scientific Reports 7, Article number: 13561 (2017) DOI:10.1038/s41598-017-13919-7

プレスリリース資料

京都大学 高等研究院の松沢哲郎(まつざわ・てつろう)副院長・特別教授、自然科学研究機構 新分野創成センターの郷康広(ごう・やすひろ)特任准教授、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の藤山秋佐夫(ふじやま・あさお)特任教授、学習院大学 理学部の阿形清和(あがた・きよかず)教授(元 京都大学 理学研究科)らの研究グループは、京都大学霊長類研究所のチンパンジー親子3個体(父:アキラ、母:アイ、息子:アユム)の全ゲノム配列(遺伝情報の配列)を高精度で決定(解明)し、父親・母親それぞれのゲノムが子どもに受け継がれる際に起きるゲノムの変化を明らかにしました。今回の研究では、霊長類研究所において長期にわたる比較認知科学研究(通称「アイ・プロジェクト」)の中心となっているチンパンジーを研究の対象としました。

チンパンジーは、進化的に私たちの最も近縁であり、99%のゲノム情報を私たちと共有している「進化の隣人」です。しかし、残りの1%のゲノムの違いに、「ヒトをヒトに」「チンパンジーをチンパンジーに」した原因があると考えられています。本研究では、そのチンパンジーを対象として、進化の駆動力である新規突然変異が、親から子どもへとゲノムが伝わる過程でどのように生じているか、その詳細を明らかにしました。

全ゲノム配列を高精度に明らかにするために、チンパンジーゲノム(約30億塩基対)の約150倍にあたる4500〜5700億塩基対(新聞朝刊の約7000〜8000年分の文字数に相当)の配列の決定を3個体すべてに対して行い、1世代における新規突然変異率の推定やそのパターンを解析しました。本研究で得られたデータ量は、これまでのヒトを含めた個人ゲノム研究として前例のない大規模データになります。それらの大規模データの解析を行った結果、チンパンジーの生殖細胞系列では、1世代に生じる新規一塩基突然変異は1億塩基対あたり平均1.48個生じていました。この値はヒトで報告されている値(0.96~1.2)より高い結果でした。また父親(精子)由来が75%でした。さらに、高精度な配列を得たことにより、1世代で生じるゲノム構造変化(新規遺伝子交換や新規コピー数変異)の動態も高精度に明らかにすることができました。これらのゲノム構造変化は、ヒトゲノム研究においても、その詳細がいまだ充分に明らかにされていないため、今回の研究で開発した方法や得られた結果は、ヒトゲノムの構造変化を含めたよりダイナミックなゲノム変化を解析するための方法論も提示することができました。

本研究成果は英国時間11月1日午前10時(日本時間11月1日午後7時)に、英科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。

遺伝研の貢献
京都大学霊長類研究所から解析用試料の提供を受けて、遺伝研先端ゲノミクス推進センターにおいて大規模ゲノムシーケンシングによる塩基配列決定とその後の配列アセンブリング、個体間の配列比較などのゲノム情報解析をおこないました。

研究支援
本研究は、以下の研究事業、研究課題、研究助成による支援を受けて実施されました。 日本学術振興会「グローバルCOEプログラム」「研究拠点形成事業:先端拠点形成型」「博士課程教育リーディングプログラム」、科学研究費補助金「新学術領域研究:ゲノム支援」「新学術領域研究:ゲノム相関」「新学術領域研究:個性創発脳」「特別推進研究」「基盤研究(S)」「基盤研究(A)」「基盤研究(B)」「若手研究(A)」「若手研究(B)」「挑戦的萌芽研究」「特別研究員奨励費」、国立遺伝学研究所共同研究、京都大学霊長類研究所共同利用・共同研究、稲盛財団

2017/10/30

大学共同利用機関シンポジウム2017「研究者に会いに行こう!大学共同利用機関博覧会」


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