Six6 and Six7 coordinately regulate expression of middle-wavelength opsins in zebrafish
Yohey Ogawa, Tomoya Shiraki, Yoshimasa Asano, Akira Muto, Koichi Kawakami, Yutaka Suzuki, Daisuke Kojima and Yoshitaka Fukada
PNAS (2019) 116 (10) 4651-4660 DOI:10.1073/pnas.1812884116
脊椎動物の視覚は視細胞と呼ばれる光感受性の細胞による光受容により始まります。視細胞は桿体細胞と錐体細胞という2種類に大別され、このうち錐体細胞が明るい場所での視覚や色覚を担っています。錐体細胞は応答する光の波長(色)によりさらに複数のサブタイプに分類され、各タイプの錐体細胞はそれぞれ異なる光受容タンパク質(オプシン)を発現します。この波長感受性の異なる複数の錐体サブタイプの組み合わせにより色覚は実現されます。魚類・鳥類・爬虫類など多くの脊椎動物は4種類(紫・青・緑・赤)のオプシン遺伝子をもち、この4色型の色覚は脊椎動物における色覚の原型であると考えられています。一方、哺乳類は進化の過程で青と緑の2種類のオプシン遺伝子を失っており、哺乳類において失われた青と緑のオプシンの存在意義や、その遺伝子発現の制御メカニズムについては全く明らかにされていませんでした。
本研究では、4色型の色覚をもつ小型魚類ゼブラフィッシュを用いてオプシン遺伝子の制御に必須の分子を探索しました。錐体細胞に強く発現する分子として同定された転写制御因子Six6とSix7に着目し、この両方の遺伝子を機能欠損する変異個体を作製したところ、青と緑のオプシン遺伝子の発現がともに消失しました。さらにChIPシーケンス解析から、青と緑のオプシン遺伝子のごく近傍にSix6とSix7が結合することが分かりました。これらの結果から、Six6とSix7が青と緑のオプシン遺伝子の発現を協調的に制御することが明らかになりました。
また、この変異個体は野生型と混在した通常の飼育環境下では成魚まで生育しないが、変異個体のみの飼育では成魚まで成長したことから、他個体との摂餌競争に勝てない可能性が想起されました。そこで、幼生期の変異個体においてゾウリムシの捕獲行動を解析したところ、摂餌の成功回数が顕著に低下することが分かりました。このことから青〜緑色の波長領域の色受容が生存に重要な意味をもつことが明らかとなりました。
本研究は、東京大学大学院理学系研究科の小川洋平特任研究員、小島大輔講師、深田吉孝教授らの研究グループと、東京大学の鈴木穣教授、国立遺伝学研究所の発生遺伝学研究室(川上浩一教授、武藤彩助教、白木知也特任研究員)との共同研究により実施されました。
本研究は科研費補助金(JP16J01681、JP16K20983、JP15K07144、JP18H04988、JP24227001、JP17H06096)の支援を受けて行われました。
図:(左)Six6とSix7を機能欠損する変異個体(TKO)は青と緑のオプシン遺伝子の発現がともに消失しているため、野生型(WT)と比較して中波長領域の光感受性が減弱する。(右)この変異個体では野生型と比較してゾウリムシ(paramecia)の捕獲行動能が低下する。
遺伝研創立70周年を記念して命名された「半兵衛白紅桜」の銘板が設置され、4月1日、除幕式を執り行いました。
除幕式では、遺伝研花岡所長、遺伝研さくらの会小出代表より挨拶がありました。
あいにくの寒空でしたが、天に向かう枝には桜が見頃を迎え紅白の花弁を揺らしていました。
2019年4月1日付けで新分野創造センターの准教授がテニュアを獲得するとともに、教授に昇任しました。
遺伝研の新分野創造センター(Center for Frontier Research)は,「あたらしい人材」と「あたらしい分野」を同時に育成するためのインキュベーションセンターです。遺伝研の卓越した研究環境や様々なサポートを活用して若手の優れた研究者がテニュアトラック独立准教授として研究室を運営し、遺伝学とその周辺領域に新しい分野を開拓する研究を行っています。テニュアを獲得した教員は遺伝研に新しい研究部門を創り、自らが創成に貢献している新分野を牽引していきます。
国立遺伝学研究所(遺伝研)の敷地内には、現在約220品種・500本の桜があります。これは、1950年頃に植物遺伝学者の竹中要(たけなか よう)博士が、遺伝学の研究と栽培品種の保存を目的に、桜を収集し植樹したことに由来します。
新しい品種は、2019年6月1日に創立70周年を迎えることを記念し、所内のメンバーによる投票を経て、「半兵衛白紅桜(はんべえしろべにざくら)」と命名されました。このサクラは、遺伝研で桜の研究が盛んに行われていた頃、いつの間にかこの地にて実生から発芽し、今日に至ります。空に向かってまっすぐ伸びる枝々に、「白い花弁」と「淡紅色の花弁」が咲き誇り、その特徴から、おそらくオオシマザクラとヤマザクラが自然交配して生じたものと思われます。
名前に付けた「半兵衛」とは、遺伝研の桜の収集と研究に多大なる貢献を果たした故・竹中要 博士の愛称です。また、所内投票では「『⽩紅』が花の様⼦が分かるので良い」「紅⽩とも重なり70周年を祝う意味で良い」という意⾒もみられたことから、「半兵衛白紅桜」と命名しました。
Division-site localization of RodZ is required for efficient Z ring formation in Escherichia coli
Yusuke Yoshii, Hironori Niki, Daisuke Shiomi
Molecular Microbiology 2019 DOI:10.1111/mmi.14217
細胞は伸長と分裂を繰り返しながら増殖するが、伸長と分裂はそれぞれ異なる仕組みで行われている。バクテリアでは、アクチン様タンパク質のMreBが伸長を制御し、チューブリン様タンパク質のFtsZが細胞分裂を行う。つまり、2種類の細胞骨格タンパク質の機能を交互に切り替えながら、バクテリアの細胞は分裂増殖している。伸長から分裂への転換時には、細胞分裂面でこの2つのタンパク質が直接作用し合い、伸長から分裂への切り替えが行われているらしい。しかし、細胞分裂面でこの2つのタンパク質の機能の切り替えを仲介する仕組みは謎であった。
立教大学の塩見グループではこれまでMreBと相互作用する因子RodZの解析を行ってきた。今回新たにRodZがFtsZに依存して分裂面に局在すること、その結果MreBを分裂面に呼び込むことを明らかにした。すなわち、RodZがMreBとFtsZの2つの細胞骨格タンパク質の分裂面での出会いを仲介していたのだ。実際、RodZが分裂面に来ないとFtsZによる分裂環(Zリング)形成が遅れてしまう。RodZはMreBを分裂面に呼び込むことで分裂環形成を促し、細胞伸長から分裂へのスムーズな切り替えを担っている。
本研究は遺伝研共同研究Aの支援を受け、立教大学の塩見大輔准教授と吉井佑介大学院生の研究チームと国立遺伝学研究所の微生物機能研究室で行われたものです。
図:RodZの分裂面への局在が、効率的なZリング形成(=伸長から分裂への切り替え)を促進する
Dynamic chromatin organization without the 30-nm fiber
Kazuhiro Maeshima, Satoru Ide and Michael Babokhov
Current Opinion in Cell Biology Volume 58, June 2019, Pages 95-104 DOI:10.1016/j.ceb.2019.02.003
真核生物のクロマチンはゲノムDNA、ヒストンや他のタンパク質からなる負に帯電した長いポリマーです。細胞内のクロマチンはどのような構造なのでしょうか? この10年多くの報告から、クロマチンは従来考えられてきたような、いわば結晶のような規則正しく折りたたまれた階層構造ではなく,ダイナミックで、不規則かつ流動的な構造であることがわかってきました。高等真核生物において、クロマチンは多数の塊(ドメイン)を作り、それを基本単位としてダイナミックに構造を変換しながら機能していると思われます。タンパク質のDNAへのアクセシビリティーを変化させることにより、クロマチンのダイナミックスは遺伝子の発現、 DNA複製、修復・組換えを含むさまざまなゲノム機能を支配しています。この総説論文ではゲノミックスとイメージングの最近の知見に基づき、生きた細胞におけるクロマチンの構造とダイナミクスとその生物学的役割を論じました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST) (JPMJCR15G2)、日本学術振興会(JSPS) 科研費(16H04746)、武田科学振興財団の支援を受けました。
図:ヌクレオソーム線維(10-nm線維)がとても不規則な形で折り畳まれ、コンパクトなドメイン(TAD)を形成している。ドメインは大きく束ねるコヒーシンとヌクレオソーム同士の局所的な結合によって束ねられている。クロマチンのダイナミックスな構造は、規則性を持つ大きな構造に比べて、物理的な束縛が少なく、より動きやすい。ドメイン同士は転写装置によって緩く繋がれていると思われる。核膜NEに面した領域はLAD (lamina-associated domain)と呼ばれている。NPC, 核膜孔。
遺伝研で提供する一時保育は3種類あります。
ご利用を検討される方は、下記ページをご覧ください。
https://sites.google.com/site/nigdanjo/4-day-care
この度、3.遺伝研研究会における一時保育が初めて開催されました。詳しくは下記の記事をご覧ください。
ゲノム進化研究室 東 光一 研究員が、3月6~8日に首都大学東京で開催された第13回日本ゲノム微生物学会年会にて、第13回日本ゲノム微生物学会若手賞を受賞しました。
▶ 受賞研究:微生物ゲノムと微生物群集構造の多様性に関する研究
▶ 受賞者一覧
東 研究員より受賞のコメントが届いておりますのでご紹介します。
このたびは日本ゲノム微生物学会若手賞をいただき大変光栄に思います。これまでお世話になった、そして現在も共同研究などで楽しく議論させていただいている多くの先生方に厚く御礼申し上げます。大量のデータの中から面白い発見ができるよう、今後とも精進いたします。 |
▶ 学会HP:日本ゲノム微生物学会
▶ 研究室HP:ゲノム進化研究室
共生細胞進化研究室 大沼 亮 研究員が、3月15~17日に京都大学で開催された日本藻類学会第43回大会にて、日本藻類学会研究奨励賞と、若手口頭発表賞を受賞しました。
▶ 課題名:渦鞭毛藻類Nusuttodinium属の盗葉緑体に関する研究
▶ 奨励賞受賞者一覧
▶ 発表タイトル:渦鞭毛藻類Nusuttodiniumの盗葉緑体現象から紐解く細胞内共生の進化
大沼研究員より受賞のコメントが届いておりますのでご紹介します。
この度は、日本藻類学会研究奨励賞、若手発表賞をいただくことができ、大変光栄です。これらの賞を受賞できたのも、今までご指導、ご鞭撻をしてくださった方々のおかげだと思っています。皆様のご期待に沿える楽しい研究ができるよう、これからもますます精進していく所存です。
▶ 学会HP:http://sourui.org/index.html
▶ 研究室HP:共生細胞進化研究室
▶ インタビュー:ポスドクインタビュー
総合研究大学院大学 遺伝学専攻が独自に行っている「森島奨励賞」の選考が、2018年度後期の学位出願者に対して行われ、 ゲノムダイナミクス研究室 前島研究室に所属する佐々木飛鳥さんが受賞しました。
・佐々木飛鳥(ゲノムダイナミクス研究室 前島研究室)
「Analysis of telomeric chromatin using pyrrole-imidazole polyamide probe」
授与式が2019年3月12日に行われ、花岡専攻長から賞状と研究奨励金が贈られました。
森島奨励賞とは
総研大遺伝学専攻で優秀な研究成果を発表して学位を取得した学生に、その研究内容を称えるとともに今後のさらなる発展を促す目的で贈られます。遺伝学の先達
国立遺伝学研究所は、株式会社日立製作所の協力のもとスーパーコンピュタシステムをリニューアルし、本日( 3月 5日)から稼働を開始します。
本システムは、高い演算性能や大規模なストレージ環境を有しており、世界中の研究者が塩基配列データを登録する国際塩基配列データベースをはじめ、ゲノム関連の各種データベースを構築するITインフラとしても活用されます。さらに、AIによる高度な解析環境や、高いセキュリティ環境なども提供することで、Society5.0 がめざすゲノム医療による研究に寄与し、一人ひとりの特性に合わせた病気の治療や予防を行う、個別化医療などの実現に貢献するものです。
Single nucleosome imaging reveals loose genome chromatin networks via active RNA polymerase II
Ryosuke Nagashima, Kayo Hibino, S. S. Ashwin, Michael Babokhov, Shin Fujishiro, Ryosuke Imai, Tadasu Nozaki, Sachiko Tamura, Tomomi Tani, Hiroshi Kimura, Michael Shribak, Masato T.Kanemaki, Masaki Sasai, and Kazuhiro Maeshima
Journal of Cell Biology Published March 1, 2019 DOI:10.1083/jcb.201811090
JCBの注目論文として解説論文Spotlightが掲載されました
私たちの体は約40兆個の細胞からできています。そして、それぞれの細胞には全長約2メートルにも及ぶ生命の設計図ヒトゲノムDNAが収納されています。DNAの収納構造については、近年、多くのことが分かってきた一方で、生きた細胞でのDNAのふるまい(動き)についてはほとんど分かっていませんでした。
このたび、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所・永島崚甫総研大大学院生・日比野佳代助教・前島一博教授らのグループは、名古屋大学大学院工学研究科・S.S. Ashwin特任助教、笹井理生教授と共同で、光学顕微鏡の分解能を超える超解像蛍光顕微鏡を駆使することで、生きた細胞内のDNAの動きを観察することに成功しました(図1、動画1)。一般に、ゲノムDNAの遺伝情報が読み出される転写が起きる際、DNAを含む高次構造であるヌクレオソームは緩くなり、よりダイナミックに動くと考えられてきました。しかし本研究で調べたところ、転写を阻害するとDNAの動きが逆に活発化することが明らかになりました(図1C、動画2)。さらに、転写の際にDNA上で働くRNAポリメラーゼIIや他の転写因子が塊(ハブ)を作ってDNAの動きを抑える様子が示されました(図2)。この結果は、ハブを作ることでゲノムDNAは連結されてネットワーク化し、DNAの動きを抑え、効率的に転写を行う可能性を示唆するものです。
研究体制と支援
本研究成果は、国立遺伝学研究所・ゲノムダイナミクス研究室(永島崚甫総研大大学院生、日比野佳代助教、Michael Babokhov研究員、田村佐知子テクニカルスタッフ、野崎慎学振特別研究員、今井亮輔元総研大生、前島一博教授)、名古屋大学大学院工学研究科(S.S. Ashwin特任助教、藤城新大学院生、笹井理生教授)、東京工業大学(木村宏教授)、国立遺伝学研究所・分子細胞工学研究室(鐘巻将人教授)、ウッズホール海洋生物学研究所(Michael Shribakチームリーダー、谷知己チームリーダー)の共同研究成果です。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST) (JPMJCR15G2)、日本学術振興会(JSPS) 科研費(16H04746)、武田科学振興財団、RIKEN Pioneering Project、NIG-JOINT(2016-A2 (6))、 総研大2017年度学生派遣事業の支援を受けました。
図1:(A)少数の蛍光標識されたヌクレオソーム(赤)。詳しくは、「研究の背景」を参照。それらに注目することで個々のヌクレオソームの動きを調べることができる。(B)超解像蛍光顕微鏡による核内のヌクレオソーム画像。1個1個のドットが1個1個のヌクレオソームを示している。(C)転写を阻害するとヌクレオソームの動きが上昇する(赤線)。黒線が通常状態のヌクレオソームの動き。ヌクレオソームの動きは「平均二乗変位」という量で表されている。
図2:細胞の核(左)の中で転写が起きる際、DNA上で働くRNAポリメラーゼII(赤)や他の転写因子(青)が塊(ハブ、ピンク色)を作ってクロマチンの動きを抑える(中央、右)。細胞核内のクロマチンは転写が起きる場所をハブとし、緩いネットワークを作っていると考えられる(右)。
動画1:超解像蛍光顕微鏡による核内のヌクレオソームの動きの動画。通常状態の細胞内のヌクレオソームの動き。1個1個のドットが1個1個のヌクレオソームを示している。1コマ50ミリ秒。
動画2:転写を阻害した際のヌクレオソームの動きの動画。通常の状態と比べて、ヌクレオソームの動きが活発化していることが分かる。1コマ50ミリ秒。
北川研究室・中心体生物学研究部門
The Cep57-pericentrin module organizes PCM organization and centriole engagement
Koki Watanabe, Daisuke Takao, Kei K. Ito, Mikiko Takahashi, Daiju Kitagawa
Nature Communications 10, Article number: 931 (2019) DOI:10.1038/s41467-019-08862-2
細胞分裂に伴い、遺伝情報を運ぶ染色体(DNA)が複製されて倍加し、娘細胞に均等に分配されることはよく知られています。このときに染色体を 2 方向に引っ張っているのが、微小管とよばれる繊維状の構造体であり、この微小管形成の中心として働くのが中心体です。この中心体の数や機能に異常が生じると、染色体を適切に分配できず、ゲノム不安定化に起因する癌などの疾患に繋がることが知られています。
中心体の構造はその核として機能する2つの母・娘中心小体とそれを取り囲む中心体マトリクス(PCM)から構成されています。細胞分裂前に母中心小体から娘中心小体が複製されますが、形成されたばかりの娘中心小体は細胞分裂の間、母中心小体に近接して存在します。しかしながら、細胞分裂時における母・娘中心小体ペアの結合メカニズムについては未知な部分が多く残っていました。
今回、東京大学大学院薬学系研究科(前・国立遺伝学研究所)の北川大樹教授、渡辺紘己研究員、高尾大輔助教、伊藤慶(学部四年生)らのグループは、帝京平成大学の高橋美樹子教授と共同で、母・娘中心小体間の結合とゲノム安定性維持に必須な中心体因子複合体(Cep57-PCNT複合体)を発見しました。Cep57、PCNTはそれぞれ多彩異数性モザイク(MVA)症候群とMOPDⅡと呼ばれる難病の原因遺伝子として知られていましたが、その発症メカニズムは長らく不明なままでした。Cep57-PCNT複合体に異常が生じると、分裂期前期に母・娘中心小体が早期に分離してしまい、適切な紡錘体が形成されないために、染色体分配異常が高頻度に誘発されることを明らかにしました。さらに、両疾患の患者由来の細胞や遺伝子変異体を用いた詳細な解析から、母・娘中心小体間の結合異常が両疾患の発症原因であることを明らかにしました。
本研究成果は、MVA症候群および、MOPDⅡの予防や治療のみならず、中心体の異常に起因する様々な病気の原因解明に役立つことが期待されます。
本研究は、日本学術振興会 特別研究員奨励費、科学研究費補助金・若手(A)、武田科学振興財団、持田記念医学薬学振興財団、第一三共生命科学研究振興財団、上原記念生命科学財団の支援により行われました。
図:分裂期の正常細胞では、母・娘中心小体ペアは近接して存在することで、微小管形成の中心として機能し、適切に染色体を分配します。Cep57-PCNT複合体の異常(MVA症候群、MOPD病)では、母・娘中心小体が早期に分離し、ひいては染色体分配異常の原因となることを明らかにしました。
Comparative analysis of seven types of superoxide dismutases for their ability to respond to oxidative stress in Bombyx mori
Yuta Kobayashi, Yosui Nojima, Takuma Sakamoto, Kikuo Iwabuchi, Takeru Nakazato, Hidemasa Bono, Atsushi Toyoda, Asao Fujiyama, Michael R. Kanost and Hiroko Tabunoki
Scientific Reports 2019 URL:www.nature.com/articles/s41598-018-38384-8
東京農工大学大学院農学府生物生産科学専攻 小林裕太と大学院連合農学研究科 野島陽水、大学院農学研究院生物生産科学部門 天竺桂弘子准教授とカンザス州立大学Michael R Kanost教授、国立遺伝学研究所、ライフサイエンス統合データベースセンターにより構成された研究グループは、活性酸素を除去する働きのある新型の酵素を昆虫から発見しました。本成果は、昆虫が他の生物にはない環境適応能力を持つ理由の解明に繋がると期待されます。
昆虫は他の生物が選ばない毒成分を含む食物や、厳しい生存環境を積極的に利用して、地球上で大繁栄することができたと考えられています。その適応システムのひとつとして、環境からストレスを受けた際に発生する多量の活性酸素を素早く処理できる能力があります。そのため昆虫は哺乳類とは異なる、活性酸素を除去する特別なシステムを持つと推測されていましたが、それに関わる酵素については分かっていませんでした。
本研究チームは、蛾(チョウ目昆虫に分類されます)に注目しました。公開されているカイコやタバコスズメガの遺伝子データベースから、活性酸素を除去する酵素SODを、バイオインフォマティクスを用いて予想される遺伝子産物の類似性に着目し探索しました。その結果、カイコでは既に知られている3タイプに加えて新しい4タイプのSOD遺伝子が存在することを発見しました(図)。4種類のうち2種類は、既知のSODでは知られていないユニークなタンパク質構造を持ち、それらの発現は組織や発生段階、ストレス要因に応じて異なっていました。さらに、タバコスズメガではカイコと共通するSOD遺伝子と共通しないSOD遺伝子が存在し、それぞれの昆虫において異なる遺伝子を使い分けていることが分かりました。
本研究チームが発見した特別なSODの機能解析が進めば、昆虫の環境適応戦略の仕組みの解明に役立つことが期待されます。さらに、昆虫とヒトのSOD遺伝子機能の比較により、ヒトのSODが進化の過程においてどのように機能の変化を遂げてきたのかを推測することができます。
研究体制
本研究は国際共同研究として東京農工大学(上記参照)、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所(豊田敦特任准教授、藤山秋佐夫特任教授)、情報システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設ライフサイエンス統合データベースセンター(坊農秀雅特任准教授、仲里猛留特任助教)およびアメリカ・カンザス州立大学(上記参照)で実施されました。
国立遺伝学研究所の貢献
比較ゲノム解析研究室および先端ゲノミクス推進センターはトランスクリプトーム配列解析を実施することにより、機能遺伝子の基盤情報提供と質の向上に貢献しました。
情報・システム研究機構 ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)の貢献
ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)はトランスクリプトームデータ解析を実施することにより、遺伝子発現の定量情報提供と生物種間比較データ解析に貢献しました。
図:昆虫の遺伝子データベースから新規SOD遺伝子配列を発見
Exonuclease III (XthA) Enforces In Vivo DNA Cloning of Escherichia coli To Create Cohesive Ends
Shingo Nozaki, Hironori Niki
Journal of Bacteriology 2018 Dec 10 PMID:30530516 DOI:10.1128/JB.00660-18
DNAクローニング技術では制限酵素処理をしたDNA断片同士をDNAリガーゼにより結合させる方法がかつては主流でした。しかし、最近では末端部分に15 – 40 bp程度の相同配列を持たせたDNA同士を試験管内で結合させる方法が取って代わるようになりました。いずれの方法も精製した酵素を必要とします。意外なことにこのような精製酵素による処理をせずとも、相同配列が付加されたDNA断片を大腸菌に導入するだけで目的の組換え体を得ることができます。大腸菌の組換え能力を利用したDNAクローニング(iVEC、in vivo E. coli cloning)法については、これまでも様々手順や条件が検討されてきましたが、そのメカニズムに関しては分かっていませんでした。
今回私たちはiVEC活性が、3’→5’エキソヌクレアーゼであるXthAに依存することを明らかにしました。細胞内に入った二本鎖DNAはXthAにより3’末端のみが削られて一本鎖の5’突出末端を生じます。この相補的な一本鎖の5’突出末端同士が二本鎖を形成し、DNA断片同士がつながるのです。この作用原理を理解した上で、私たちはiVEC活性を高めた大腸菌株を新たに作製しました。この株を使うと最大7つのDNA断片を同時にクローニングできます。さらにコンピテント大腸菌の作製からDNAの導入までの実験操作をマイクロテストチューブ一本で行える形質転換法も開発しました。この新型形質転換方法と改良版iVEC株を組み合わせることで、DNAクローニングや遺伝子変異導入法に要する時間やコストを大幅に削減することできます。改良版iVEC株はナショナルバイオリソース大腸菌から公開されており、オンラインで入手可能となっています。
本論文はJournal of Bacteriology誌でSpotligt論文、またF1000primeの2つ星に選出されました。
図:
(A) 大腸菌におけるin vivo クローニングのメカニズムのモデル
(B) “One-tube”形質転換。一本のチューブでコンピテントセルの作製から大腸菌へのDNAの導入までが可能。
生態遺伝学研究室 石川麻乃 助教は、2018年10月2~5日に開催された「第46回 内藤コンファレンス」に於いてポスター発表を行い、ポスター賞を受賞しました。