マイクロフォーカスX線CT装置による海産無脊椎動物の解析方法

Microfocus X-ray CT (microCT) Imaging of Actinia equina (Cnidaria), Harmothoe sp. (Annelida), and Xenoturbella japonica (Xenacoelomorpha).

Maeno A, Kohtsuka H, Takatani K, Nakano H.

Journal of Visualized Experiments 150 e59161 1-9 DOI:10.3791/59161

これまで生物を扱う研究者は、不透明な生物内部の器官を調べる際に、組織標本の作成など破壊的な観察方法に頼らざるをえませんでした。一方で、非破壊的なマイクロフォーカスX線CT装置(microCT)を用いる観察方法は、技術進歩によりとても有効な観察手法となってきました。しかしながら、この観察手法は、生物学分野では医療および産業分野においてほど一般的とはいえません。この理由はサンプル採取、固定、染色、撮影、およびデータ解析までの各ステップをカバーするわかりやすいマニュアルが少ないことと、生物学で対象とするような後生動物に多様性があるからです。特に、海産無脊椎動物は、多様なサイズや形態、生理機能を持つため、サンプル調整法やハードウェア設定などの手法をサンプルに応じて最適化することが重要です。

国立遺伝学研究所 前野哲輝技術専門職員、東京大学 幸塚久典技術専門職員、筑波大学 中野裕昭准教授らの共同研究グループは、この課題の解決に取り組みました。その取り組みの成果として、系統発生的に異なる3つの海産無脊椎動物(ウメボシイソギンチャク(刺胞動物)、ウロコムシ(環形動物)、およびニッポンチンウズムシ(珍無腸動物))を使用して、microCTによる解析手法を紹介した論文を、ビデオジャーナル「JoVE(Journal of Visualized Experiments)」にて公開しました。今後、本手法により、様々な海産無脊椎動物の構造が明らかになることが期待されます。

microCTを研究に活用したい方へ
国立遺伝学研究所では、microCTを使用する環境にない研究者を対象に、研究目的に合わせた撮影計画とmicroCTによるデータ取得、プレゼンテーション用の画像や動画作成までをサポートする画像解析支援を行なっています。対象となる生物材料は、海産無脊椎動物だけでなく、魚類、哺乳類、昆虫、植物など広い範囲をカバーしています(装置の仕様による制限はあります)。ご興味のある方は、毎年、10月頃に募集の始まる公募型共同研究(NIG-JOINT)をご確認の上、担当者までお問い合わせください。

技術専門職員 前野哲輝(amaeno@nig.ac.jp

Figure1

図:この研究で使用した海洋無脊椎動物 (A,B)
(A)麻酔下のウメボシイソギンチャク(刺胞動物花虫綱)。(B)麻酔下のウロコムシ (環形動物門多毛綱)。この段階で、ほとんどのウロコ(背鱗)が失われている。残っているのは後方(写真右側)の4枚のみである。 Scale bars = 3 mm.
CTスキャンによる断面画像 (C-G)
ウメボシイソギンチャクの横断面(C) と縦断面(D) Scale bars in C, D = 3 mm.
ウロコムシ前端部分の矢状断面 (E) とE図点線fとgの横断面(F, G)
Scale bars: E = 1 mm; F, G = 0.3 mm.

動画: CTスキャンデータから作成したウロコムシ全身のボリュームレンダリングおよび横断面動画。6秒から16秒:ボリュームレンダリング画像。上段は左から見た図、下段は正面から見た図。17秒から1分42秒:横断面動画。上段の矢状面画像上の動く緑色のラインは横断面の位置を示す。17秒から53秒の左下は、標本前端部分を拡大撮影したデータの横断面。1分7秒から1分14秒の右上は、画像解析ソフトImarisを用いて作成した主要臓器の3Dモデル。
協力:鹿児島大学 田中正敦氏

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