歯の本数は、複数のエンハンサーによるShh遺伝子の発現調節によって決まる

哺乳動物遺伝研究室・城石研究室

SHH signaling directed by two oral epithelium-specific enhancers controls tooth and oral development

Tomoko Sagai, Takanori Amano, Akiteru Maeno, Hiroshi Kiyonari, Hyejin Seo, Sung-Won Cho and Toshihiko Shiroishi

Scientific Reports, 7, Article number: 13004 (2017) DOI:10.1038/s41598-017-12532-y

動物の種によって臼歯や切歯の数や並び方はさまざまです。このような形態の多様性を生み出す遺伝学的なメカニズムは、まだ明らかになっていませんでした。国立遺伝学研究所の嵯峨井知子博士研究員、天野孝紀助教、城石俊彦教授らのグループは、複数の遺伝子発現制御配列(エンハンサー)が協調的に機能して歯の形成を制御するメカニズムを発見しました。この研究成果は、韓国のヨンセ大学Sung-Won Cho博士、理研ライフサイエンス技術基盤研究センターの清成寛ユニットリーダーらのグループとの共同研究として、英国科学誌Scientific Reportsのオンライン版(10月11日)に掲載されました。

歯や舌など口腔内における器官形成に重要な遺伝子であるShhは、その発現がどのように制御され、形態にどのように寄与しているのか、ほとんど分かっていませんでした。本研究では、歯と舌の味蕾におけるShhの発現を制御する2つのエンハンサーに着目して、これらを遺伝子工学的に破壊したマウス(ノックアウトマウス)を作製しました。どちらか1つのエンハンサー配列を破壊しても、歯や舌などの口腔器官の形成に顕著な異常は見られず、2つのエンハンサーを同時に破壊した場合に、はじめて臼歯が過剰に形成されるという異常な表現型が見られました。

このエンハンサー同時破壊マウスでは、発生中の歯においてShh遺伝子の発現量が著しく低下するものの、発現量がゼロにならないことがわかりました。この結果から、本研究で破壊した2つのエンハンサー以外にもShh発現に寄与する制御配列の存在が推定され、3つ以上のエンハンサーによって発現量が段階的に制御されていることが示唆されました。すなわち、複数のエンハンサーがShhの発現を一定量以上に保つことによって、マウスの歯の本数が正確にコントロールされていることが明らかになりました。本研究は、文部科学省の科学研究費補助金(科研費番号24247002)の助成によっておこなわれました。

Figure1

Shhエンハンサーの同時ノックアウトマウスにおける過剰臼歯の形成。野生型マウス(A)とエンハンサー同時ノックアウトマウス(B)の胎仔の下顎のX線CT画像。エンハンサーが破壊された場合には、第一臼歯の前に過剰な歯が形成される。歯の形態形成におけるShhエンハンサーの作用モデル(C)。二つのエンハンサー(MFCS4とMRCS1)は、進化的に保存された三つのモチーフを持ち(C、矢頭)、両者の機能が重複していることをよく説明する。Shhの発現量は、未同定のエンハンサーを含む複数のエンハンサーによって加算的に制御され、Shh発現が一定量のしきい値を下回ることにより過剰歯が形成されると考えられる。二つのエンハンサーは、制御する発現領域が少し異なることから、部分的に機能分化しつつも協調して歯の形態形成に寄与していると考えられる。

※本研究成果にはマイクロCTスキャンの技術が貢献しています