Replication-dependent histone labeling dissects the physical properties of euchromatin/heterochromatin in living human cells.
Katsuhiko Minami, Kako Nakazato, Satoru Ide, Kazunari Kaizu, Koichi Higashi, Sachiko Tamura, Atsushi Toyoda, Koichi Takahashi, Ken Kurokawa, Kazuhiro Maeshima*
*責任著者
Science Advances (2025) 11, eadu8400 DOI:10.1126/sciadv.adu8400
ヒトのゲノムDNAは、クロマチンとして細胞内に収納され、遺伝情報の読み出し(転写)が活発な「ユークロマチン」と、抑えられた「ヘテロクロマチン」に分類されます。しかし、生きた細胞内で両者を識別することはこれまで困難でした。
このたび、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の南克彦 総合研究大学院大学(総研大)大学院生、仲里佳子 総研大大学院生、井手聖助教(現 東京科学大学 助教)、田村佐知子 テクニカルスタッフ、前島一博 教授のグループは、東光一 助教、黒川顕 教授のグループ、豊田敦 特任教授のグループ、さらに理化学研究所の海津一成 上級研究員、高橋恒一 チームリーダーと共同で、生きた細胞内のユークロマチンとヘテロクロマチンを別々に標識できる新技術「Repli-Histo標識」を開発しました(図1)。この技術を用いて、超解像蛍光顕微鏡により詳細に観察・解析を行いました。
その結果、ユークロマチンはヘテロクロマチンよりも大きく揺らいでいることが明らかになりました(図2)。さらに、ゲノムDNAは、揺らぎの大きな領域から順に複製(コピー)されていくことを発見しました。クロマチンの揺らぎの大きさは、ゲノムDNAの遺伝情報の読み出しやすさとも密接に関係しています。本研究の成果は、DNA上の遺伝情報がどのように複製・読み出されるのかを理解する手がかりを与えるとともに、これらの過程に欠陥をもつ「がん」などの遺伝的疾患の理解にもつながることが期待されます。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費(JP21H02453, JP23K17398, JP24H00061, JP21H02535, JP22H05606, JP23KJ0998)、学術変革領域A「ゲノムモダリティ」(JP20H05936)、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2104)、武田科学振興財団の支援を受け、おこなわれたものです。「先進ゲノム支援」の協力を受けています(JP22H04925(PAGS))。
本研究成果は、国際科学雑誌「Science Advances」に2025年3月29日(日本時間)にオープンアクセスとしてオンライン掲載されました。
図1: (上)本研究で開発した複製依存的ヒストン標識(Repli-Histo標識)。遺伝情報の読み出し(転写)が活発なユークロマチン(領域IA・IB)と、読み出しが抑制されたヘテロクロマチン(領域II・III)を、それぞれ別々に可視化できる。(下)超解像蛍光顕微鏡を用いた生きた細胞の核内のヌクレオソーム観察。Repli-Histo標識法により、ユークロマチンとヘテロクロマチンにおけるヌクレオソームの動きをそれぞれ可視化できる(動画1を参照)。白いドットが個々のヌクレオソームを示す。
図2: DNAが不規則に凝縮した「塊」(クロマチンドメイン)内でのヌクレオソームの動き。ユークロマチン(IA・IB)はヘテロクロマチン(II・III)よりも大きく揺らいでいる。この揺らぎの大きさは、大きなタンパク質(紫)のクロマチン内部への「アクセス」しやすさや、遺伝情報の読み出しの効率に直接影響を与える。
動画1: 生きた細胞内でのヌクレオソームの動き。遺伝子発現が活発なユークロマチン領域(左)と、抑制されたヘテロクロマチン領域(右)におけるヌクレオソームの揺らぎを捉えた動画。個々のドットが1個1個のヌクレオソームを示している。
動画2: ヌクレオソームの動きを再現するコンピューターシミュレーション。ヌクレオソーム(赤い球)の揺らぎが、大きなタンパク質(青い球)のヌクレオソームの塊(右半分)内部への「アクセス」を助ける様子を示す。