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2024/09/27

腸内細菌の硫化水素合成能の役割を解明
-腸内細菌は硫化水素を合成することで鉄の取り込みを上昇させる-

Increased intracellular H2S levels enhances iron uptake in Escherichia coli

Shouta Nonoyama, Shintaro Maeno, Yasuhiro Gotoh, Ryota Sugimoto, Kan Tanaka, Tetsuya Hayashi and Shinji Masuda

mBio (2024), e0199124 DOI:10.1128/mbio.01991-24

プレスリリース資料

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の野々山翔太助教、増田真二教授のグループは、同 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の田中寛教授、国立遺伝学研究所の後藤恭宏准教授(当時 九州大学大学院医学研究院助教)、林哲也教授らと共同で、細菌の硫化水素(H2S)合成能が鉄(Fe)の取り込み活性の調節に重要であること、ならびにその制御を欠損すると抗生物質耐性が低下することを見出した。

多くの腸内細菌は硫化水素合成能を持ち、その機能を強化すると細胞内での硫化鉄(FeS)の形成が促され、その結果抗生物質耐性が高まることが分かっていた。しかしそのメカニズムは不明であった。

今回の研究では、過剰な硫化水素合成能を持つ変異体の大腸菌を作出し、その株の遺伝子発現(用語1)を解析したところ、細胞への鉄の取り込みに関与する遺伝子の発現が上昇していることが分かった。さらにその遺伝子発現の上昇には、硫化水素センサータンパク質「YgaV」の働きが必要であることを発見した。また、YgaVの機能を欠損させると、鉄取り込み活性が著しく阻害されることを明らかにした。この発見により、薬剤耐性を生じさせない新たな抗生物質の開発につながるものと期待される。

本研究は、科学研究費助成事業の学術変革A(21H05271)、先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム科学研究費助成事業の学術変革A(22H04925)の支援を受けて実施された。

研究成果は9月26日(現地時間)に「mBio」オンライン版に掲載された。

図: MstAによる硫化水素(H2S)合成とYgaVによる転写制御機構、またそれらの生理的重要性のモデル。硫化水素はシステイン(Cysteine)からMstAにより合成され、その量は厳密に制御されている。細胞内の硫化水素量が高まると、YgaVによる細胞外からの鉄の取り込みに関与する遺伝子の発現が上昇し、細胞内の利用可能な鉄の量が増加する。鉄の量が増加すると、活性酸素の消去酵素の活性が高まり抗生物質耐性が強まる。YgaVは、嫌気呼吸に関連した遺伝子の発現を制御することで活性酸素の生成を抑え、抗生物質耐性やレドックスバランスの維持に貢献することが分かっている。

2024/09/25

精子形成の新しいメカニズムを解明
〜tRNAの化学修飾が鍵〜

Mettl1-dependent m7G tRNA modification is essential for maintaining spermatogenesis and fertility in Drosophila melanogaster

Shunya Kaneko, Keita Miyoshi, Kotaro Tomuro, Makoto Terauchi, Ryoya Tanaka, Shu Kondo, Naoki Tani, Kei-Ichiro Ishiguro, Atsushi Toyoda, Azusa Kamikouchi, Hideki Noguchi, Shintaro Iwasaki, and Kuniaki Saito

Nature Communications (2024) 15,  8147 DOI:10.1038/s41467-024-52389-0

プレスリリース資料

tRNAの化学修飾は特定の酵素により決まった位置のヌクレオチドに導かれることで、tRNAの機能を制御し、正常なタンパク質合成を実現します。本研究では、ショウジョウバエ個体においてRNA修飾酵素Mettl1(Methyltransferase-like 1)がm7G46(tRNA 46位のN7-メチルグアノシン)という化学修飾を特定のtRNAに導くことで精子形成に必要なタンパク質の合成を進める新たなメカニズムを発見しました。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の金子隼也 総合研究大学院大学 大学院生(現 国立遺伝学研究所 特任研究員)、三好啓太 助教、近藤周 助教(現 東京理科大学 准教授)、齋藤都暁 教授らの研究グループは戸室幸太郎 大学院生リサーチアソシエイト(理化学研究所 開発研究本部 岩崎RNAシステム生化学研究室)、岩崎信太郎 主任研究員(理化学研究所 開発研究本部 岩崎RNAシステム生化学研究室)らの研究グループと共同で、m7G46修飾を持たないショウジョウバエの変異体を用いて、精巣でのタンパク質合成をリボソームプロファイリングという手法を駆使して測定しました。その結果、m7G46が失われると、雄性の配偶子である精子形成において重要な遺伝子のタンパク質合成が止まり、精子形成が破綻してしまうことを発見しました。(図)

tRNA修飾の異常はがん、脳・神経疾患、などの原因となることが報告されており、m7G46もその例外ではありません。本研究は、m7G46の異常が引き起こす病気の理解に貢献することが期待されます。

本研究成果は、情報システム研究機構 国立遺伝学研究所・無脊椎動物遺伝研究室(金子隼也 総研大大学院生[現 国立遺伝学研究所 特任研究員]、三好啓太 助教、近藤周 助教 [現 東京理科大学 准教授]、齋藤都暁 教授)、理化学研究所 開発研究本部 岩崎RNAシステム生化学研究室(戸室幸太郎 大学院生リサーチアソシエイト、岩崎信太郎 主任研究員)との共同研究成果です。

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費(JP18H02379, JP16H06279, JP23H02415, JP22H02669)、武田科学振興財団、山田科学財団、内藤科学技術財団、上原記念財団、AMED(JP20gm1410001)、熊本大学発達医療研究センター、及び、高深度オミクス共同利用・共同研究拠点(IMEG)のプログラムにより支援されました。

本研究は、2024年9月24日に「Nature Communications」にオープンアクセスとしてオンライン出版されました。

図: キイロショウジョウバエの精巣では生殖幹細胞が4回の有糸分裂を経て精原細胞となったのち、精母細胞が作られる。精母細胞は2回の減数分裂を繰り返して精子細胞となり、分離、伸長の過程を経て成熟した精子となる。作られた精子は貯精嚢に蓄えられている(野生型 左図)。一方でMettl1変異体では、精巣内で精子細胞の存在は確認されたものの、分離、伸長した精子細胞は見られなかった(Mettl1変異体 右図)。これは、精子の分離、伸長に関連するタンパク質が合成されなくなったことによるものであると考えられる。

2024/09/20

総研大生 Biswa, Bhim Bahadurさんが森島奨励賞を受賞

Bhim さん(左)と花岡所長(右)
Biswa さん(左)と花岡所長(右)

総合研究大学院大学 遺伝学コースが独自に行っている「森島奨励賞」の選考が、2024年度前期の学位出願者に対して行われ、マウス開発研究室 小出研究室に所属するBiswa, Bhim Bahadurさんが受賞しました。


・Biswa, Bhim Bahadur(マウス開発研究室 小出研究室)
 「Role of gut bacteria in domestication of mice」

 授与式が2024年9月10日に行われ、花岡所長から賞状と研究奨励金が贈られました。

森島奨励賞とは

 総研大遺伝学専攻で優秀な研究成果を発表して学位を取得した学生に、その研究内容を称えるとともに今後のさらなる発展を促す目的で贈られます。

遺伝学の先達

 森島啓子名誉教授

2024/09/17

動植物において雑種異常を引き起こす原因遺伝子を網羅的に分析

北野研究室・生態遺伝学研究室

Causative genes of intrinsic hybrid incompatibility in animals and plants: What we have learned about speciation from the molecular perspective

Kitano, J. and Okude, G.

Evolutionary Journal of the Linnean Society (2024), kzae022 DOI:10.1093/evolinnean/kzae022

生態遺伝学研究室の北野潤教授と奥出絃太研究員は、これまでに動植物において雑種異常を引き起こすとして報告されている原因遺伝子をリスト化し、どのような傾向がみられるかを調べました。本成果は、リンネ協会発行のEvolutionary Journal of the Linnean Societyの種分化特集号に掲載されました。

雑種異常は、種分化すなわち集団間の遺伝子流動が低下する過程において重要な役割を果たす生殖隔離機構の一つになりえます。これまでに雑種異常を引き起こす遺伝子が複数報告されており、特定の分類群に限った総説はあったものの、雑種異常を引き起こす遺伝子の全貌をまとめた総説はありませんでした。そこで、2024年の8月時点で報告されていた動物23例、植物72例を本総説でリスト化し、どのようなパターンが存在するかについて考察しました。

その結果、動植物に共通してその大半の事例で、個体の適応度とは無関係に同じ個体の別の遺伝領域を出し抜いて増幅あるいは次世代に伝達するような利己的遺伝子の作用(このような現象をゲノムコンフリクトという) が重要であることが示唆されました。

一方で、動植物間には違いもあり、植物では雑種の自己免疫反応による成長異常やミトコンドリアのキメラ遺伝子による雄性不稔の事例が多く報告されていますが、動物ではこれに該当するような明らかな事例はまだ見つかっていません。この動植物間の違いは免疫システムの違いやミトコンドリア遺伝子間の組換えの起こりやすさの違いに起因しているのかもしれません。また、動物ではX染色体に座乗する雑種異常に関与する遺伝子の報告が多数ありましたが、植物ではまだありません。これは、そもそも植物では性染色体をもつ種が少ないことに起因していると思われました。

動物の研究はショウジョウバエ、植物の研究はイネとシロイヌナズナに大きく偏っており、これらを定量的に検証して普遍的なパターンを見出すためには、より多様な分類群、特に野生生物に関するさらなる研究が必要と思われます。そこで、生態遺伝学研究室では、日本産トゲウオをモデルにして、この課題に現在取り組んでいます。

本研究は、科研費・基盤S、JST・CRESTなどの支援を受けて実施しました。

2024/09/02

総研大生・大塚碧さんが「First-place Poster Award」を受賞

ゲノムダイナミクス研究室の大塚碧(総研大遺伝学コースD4・SOKENDAI特別研究員) さんが、2024年8月30日-9月1日に台湾・桃園市で開催された「Physical Models of Living Matters – The 3rd Symposium of Physical Biology and Biological Physics」でフラッシュトークとポスター発表をおこない、「First-place Poster Award」を受賞しました。

本シンポジウム参加にあたって、学術変革領域A「ゲノムモダリティ」の若手研究者サポートを受けました。

大塚碧さん

First-place Poster Awardを受賞した大塚さん


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