2018/08/07

樹状突起が適切な方向に伸びる仕組み ―世界初:新生児マウス脳で神経細胞を長期間くり返し観察することに成功―

Press Release

Differential dynamics of cortical neuron dendritic trees revealed by long-term in vivo imaging in neonates

Shingo Nakazawa, Hidenobu Mizuno, Takuji Iwasato

Nature Communications 9, Article number: 3106 (2018) DOI:10.1038/s41467-018-05563-0

プレスリリース資料

個々の神経細胞が適切な方向に樹状突起(1)を伸ばすことは、脳が正常に機能するために重要です。しかしながら、新生児期の脳の中の神経細胞を長期間観察する技術がなかったため、神経細胞がどのように樹状突起を伸ばすかは、よくわかっていませんでした。

情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の中沢信吾 総研大大学院生、水野秀信 助教(現熊本大特任准教授)と岩里琢治 教授の研究グループは、マウスの大脳皮質の特定の神経細胞を、樹状突起形成に重要な生後3日目から6日目までの3日間くり返し観察することに世界で初めて成功しました。

その結果、樹状突起はいろいろな向きで生えては消えてということを繰り返しており、偏った方向から入力(刺激など)があるときには、入力の向きに生えたものの一部だけが生き残り「勝者」として大きく成長することがわかりました(図1)。

本研究で、世界で初めて哺乳類新生児の脳の中の神経細胞を長期間(3日間)にわたり観察することで、大脳皮質の神経回路が作られる仕組みの一端を明らかにしました。

本研究成果は、英国電子ジャーナル Nature Communicationsに平成30年8月6日(グリニッジ標準時)に掲載されました。

本研究は、国立遺伝学研究所 形質遺伝研究部門(岩里琢治 教授)にて、中沢信吾(総研大大学院生)が中心となり、水野秀信 助教(現熊本大学 国際先端医学研究機構 特任准教授)の協力のもと行われました。

この研究は新学術領域研究「スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御」(JP16H06459)および科研費(JP15J03643、JP16H06143、 JP16K14559、JP15H01454、JP15H04263)の支援を受けて行われました。

Figure1

図1:新生児の大脳皮質での樹状突起の発達
神経細胞の樹状突起はあらゆる方向に作られたり消えたりしているが、特定の方向(緑色の部分)からのみ入力を受ける場合、入力の方向に生えたものの一部だけが勝者となり生き残り大きく成長する。早い者勝ちではなく後から生えた樹状突起にも勝者となるチャンスがある。その結果として、入力のある方向だけに樹状突起が広がるようになる。(形成されたばかりの樹状突起をオレンジ、勝者となり大きく成長していく樹状突起を赤、敗者となり消えた樹状突起を点線で表した。)
 一方、どちらの方向からも入力を受けることができる場合、樹状突起の生存競争は緩和し、多くの樹状突起が生き延びマイルドに成長する。

Figure1

図2:観察の手順
二光子顕微鏡(3)を用いて、生後3日目から6日目まで繰り返し同じ神経細胞を観察し、神経細胞の形態変化を解析した。仔マウスは観察の合間に母親マウスの世話をうけながら正常に成長した。

本研究の基盤となった実験技術についてこちらでご覧いただけます

本論文の第1著者の中沢さんが「森島奨励賞」を受賞しました


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