2016/10/27

どの領域・細胞種の脳細胞でも高輝度標識し、任意の遺伝子を改変する新技術「Supernovaシリーズ」

Press Release

Supernova: A Versatile Vector System for Single-Cell Labeling and Gene Function Studies in vivo

Wenshu Luo*, Hidenobu Mizuno*, Ryohei Iwata, Shingo Nakazawa, Kosuke Yasuda, Shigeyoshi Itohara, Takuji Iwasato(*equal contribution)

Scientific Reports 24:35747. doi:10.1038/srep35747

プレスリリース資料

 国立遺伝学研究所 形質遺伝研究部門(岩里研究室)の羅研究員(元総合研究大学院大学大学院生)と水野助教らは、脳の細胞中で遺伝子機能を解析するための、新規ベクターシステム「Supernovaシリーズ」を開発しました。このシステムは簡便かつ高性能で、幅広い用途に適用できます。

 哺乳類の脳は、無数の神経細胞(ニューロン)が複雑なネットワーク(神経回路)を作ることで、様々な機能を生み出しています。脳の中に高密度で存在するニューロンから一部だけをランダムに選んで標識し、その細胞のみで目的の遺伝子をノックアウトすることができれば、脳の神経回路が形成され、機能するしくみを細胞レベル、分子レベルで理解することにつながります。しかしながら、これまでにまばらな細胞標識と遺伝子ノックアウトの両方を効率よくできるシステムはありませんでした。

 本成果のSupernova法では2種類または3種類のベクターを組み合わせて細胞に導入するだけで、少数の細胞のみを蛍光タンパクで可視化できるとともに、可視化された細胞だけで目的の遺伝子をノックアウトすることが可能となります。遺伝子ノックアウトには、floxマウスとよばれる遺伝子組換マウスを用いる手法に加え、ゲノム編集の手法(TALENとCRISPR/Cas9)も利用できるようになり、Supernova法は広範なモデル生物に使うことができます。また、ベクター導入にウイルスを用いる手法も利用できるので、脳以外の組織にも用いることができます。本手法によって遺伝子改変による細胞の挙動などの変化を追跡することが可能です。

 今回開発された手法は神経科学にとどまらない幅広い生命科学分野で、単一細胞における遺伝子機能解析に貢献することが期待されます。

 本研究は、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 形質遺伝研究部門(岩里研究室)にて、羅ブンジュウ研究員(元総合研究大学院大学大学院生)と水野秀信助教が中心となり、岩田亮平博士(同)、中沢信吾氏(総合研究大学院大学大学院生)の協力のもとおこなわれました。AAVを用いたシステムの構築では、理研脳センター 行動遺伝学技術開発チーム[安田光佑博士(元研究員)、糸原重美博士(シニアチームリーダー)]の協力を受けました。この研究は新学術領域研究(「スクラップ&ビルド」、「適応回路シフト」)など科研費の支援を受けて行われました。

Figure1

Supernova法のしくみ:2種類のSupernovaベクター(ベクター1、ベクター2)を組み合わせて脳に導入することで、ベクター1とベクター2を取り込んだ細胞のうちの一部でのみ正のフィードバックにより蛍光タンパクの発現の増幅が起こり、強い蛍光を発する。floxマウスと呼ばれる遺伝子組換マウスを用いるとCre/loxP法で目的の遺伝子をノックアウトできる。また、TALENやCRISPR/Cas9法を利用したベクター3を導入すれば、遺伝子組換動物を用いずに目的の遺伝子をノックアウトすることもできる。ベクターは、子宮内電気穿孔法あるいはアデノ随伴ウイルスを用いて導入する。


リストに戻る
  • X
  • facebook
  • youtube