プレスリリース
A deletion at the X-linked ARHGAP36 gene locus is associated with the orange coloration of tortoiseshell and calico cats
Hidehiro Toh, Wan Kin Au Yeung, Motoko Unoki, Yuki Matsumoto, Yuka Miki, Yumiko Matsumura, Yoshihiro Baba, Takashi Sado, Yasukazu Nakamura, Miho Matsuda, Hiroyuki Sasaki.
Current Biology (2025) DOI:10.1016/j.cub.2025.03.075
三毛猫やサビ猫はメスばかりであること、オレンジ/黒の毛色を決める「オレンジ遺伝子」がX染色体上にあることは120年以上前から知られていました。1961年、メスの細胞では一対のX染色体の片方がランダムに選ばれて不活性化されるという仮説が提唱され、三毛猫やサビ猫の模様はこの仮説と合致する例として広く受け入れられてきました。しかし、それから60年以上経った今日まで、オレンジ遺伝子の正体やその働きについては明らかになっていませんでした。
九州大学生体防御医学研究所(研究当時)の佐々木裕之特別主幹教授(現:高等研究院)、同大学大学院歯学研究院の松田美穂准教授、国立遺伝学研究所の藤英博特命准教授、中村保一教授、国際基督教大学の歐陽允健助教、東京大学の鵜木元香准教授、アニコム先進医療研究所株式会社の松本悠貴研究員(麻布大学特任准教授兼任)および、近畿大学農学部の佐渡敬教授らの研究グループは、オレンジ遺伝子の正体が「ARHGAP36」であることを突き止めました。
本研究グループは、福岡市内の様々な毛色を持つ18匹の猫のDNAを解析し、オレンジ毛を持つ猫のX染色体にはARHGAP36遺伝子内に約5,000塩基の欠失があることを見つけました。さらに50匹以上の猫を調べ、海外のデータも参照したところ、この欠失の有無とオレンジ毛の有無が完全に一致していました。この欠失領域には、動物種を超えて高度に保存された配列が含まれ、この配列がARHGAP36の発現を制御している可能性が強く示唆されました。次に、オレンジ毛が生えた皮膚での遺伝子発現を調べたところ、欠失によってARHGAP36の発現が上昇し、その結果としてメラニン合成遺伝子群が抑えられ、黒色のユーメラニンからオレンジ色のフェオメラニン(※2)へと合成の切り替えが起きることが示唆されました。さらに、遺伝子の発現を抑制するDNAメチル化の状態を調べたところ、ARHGAP36はX染色体の不活性化に伴って高度にメチル化されることが分かりました。これらの結果から、オレンジ遺伝子の正体はARHGAP36であり、60年前に提唱された通り、この遺伝子の不活性化がオレンジ/黒の斑の形成に関与することが明らかになりました。
本研究成果は、⽶国の雑誌「Current Biology」に2025 年5⽉16⽇(金)午前0時(⽇本時間)に掲載されました。なお、同雑誌の同じ号にはStanford大学のGregory Barsh教授らの類似の論文が掲載されており、日米の独立した研究がほぼ同時に同じ結論に到達しました。
図: 本研究で明らかになったオレンジ/黒の斑ができる仕組みの概要図