プレスリリース
Golgi polarity shift instructs dendritic refinement in the neonatal cortex by mediating NMDA receptor signaling
Naoki Nakagawa, Takuji Iwasato
Cell Reports 2023 Jul 28 DOI:10.1016/j.celrep.2023.112843
私たちの脳の神経回路は、胎児期にゲノム情報によって大まかに作られた後、出生後に様々な刺激を受ける中で再編されて完成します。例えば、マウスのヒゲ感覚を司る大脳皮質の神経回路では、神経細胞は新生仔期に入力を受けることにより、1本のヒゲからの刺激を伝達する軸索群の方向にのみ樹状突起を伸ばし、特徴的な非対称パターンを形成します。しかしながら、神経細胞の中でどのような仕組みが働くことで、樹状突起の非対称パターンが決められるのかはわかっていませんでした。
今回、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の中川直樹助教らは、マウスの新生仔期に、神経活動によって神経細胞の中でゴルジ体の分布に水平方向の偏りが生まれ(「ゴルジ体極性シフト」)、その極性が樹状突起の非対称パターンを決めていることを発見しました。
細胞内小器官であるゴルジ体は、胎児期など個体発生の早期に細胞内で極性を形成し、その極性が細胞分化や細胞移動等において重要な役割を担うことが知られていました。一方で、生後発達期に神経回路が再編される時に、神経活動によってゴルジ体の極性が変化することや、その極性の変化が神経回路再編に関与することはわかっていませんでした。
本研究成果は、生後発達期の神経活動に依存する神経回路発達の研究に細胞極性の概念を新たに導入する画期的なものです。
この研究は学術変革領域研究(A)「脳の若返りによる生涯可塑性誘導 -iPlasticity- 臨界期機構の解明と操作」(JP21H05702、JP23H04242)および「神経回路センサスに基づく適応機能の構築と遷移バイオメカニズム」(JP22H05518)、新学術領域研究「スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御」(JP16H06459)、科研費(JP19K16281、JP21K15199、JP20H03346、JP21K18245)、上原記念生命科学財団助成金、武田科学振興財団助成金の支援を受けておこなわれました。
本研究成果は、国際科学雑誌「Cell Reports」に2023年7月29日(日本時間)に掲載されました。