日時: 令和5年7月26日(水曜日) 9:30~12:00
場所: 国立遺伝学研究所 講堂
講師: 佐藤 豊 先生(植物遺伝研究室 教授)
対象: 三島市内小学校4~6年生
定員: 40名(応募者多数の場合、抽選)
持ち物: 筆記用具、ルーペ(持っている人) 写真撮影できるスマホまたはタブレット (三島市から貸与されているタブレット端末可)
申し込み先:
三島市教育委員会 生涯学習課 申込用紙・はがき・電子申請でお申込みください。 7/12(水)までに ①氏名 ②フリガナ ③通学する小学校 ④学年 ⑤郵便番号 ⑥住所 ⑦電話番号 「夏休みこども遺伝学講座」と記入し、生涯学習センター4階生涯学習課へ。 〒411-0035 三島市大宮町1-8-38 電話:055-983-0881
電子申請:https://logoform.jp/form/pqff/266259Is euchromatin really open in the cell?
Kazuhiro Maeshima*#, Shiori Iida*, Masa A. Shimazoe, Sachiko Tamura, Satoru Ide
*cofirst authors; #corresponding author
Trends in Cell Biology 2023 June 27 DOI:10.1016/j.tcb.2023.05.007
ヒトのゲノムは、主に「ユークロマチン」「ヘテロクロマチン」の2つの領域に分類できるとされています。これまで長い間、頻繁に遺伝情報の読み出しが行われるユークロマチンは「ほどけて」いる一方、遺伝情報の読み出しが抑えられているヘテロクロマチンは凝縮して「塊」を形成している、と考えられてきました。
今回、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 ゲノムダイナミクス研究室の前島一博 教授、飯田史織 総研大生(学振特別研究員 DC2)、島添將誠 総研大生、田村佐知子 テクニカルスタッフ、井手聖 助教は、Trends in Cell Biology誌に、この定説を覆すOpinion Paperを発表しました。この論文では、最近報告された超解像クロマチンイメージング、クロマチンのアクセシビリティをDNA消化酵素に対する感受性でゲノムワイドに調べた解析、さらには、密度勾配遠心法を用いたヌクレオソーム密度のゲノムワイドな解析をもとに、高等真核細胞ではユークロマチンも直径100-300 nm程度の凝縮した「塊 (ドメイン)」を形成していること、凝縮したドメインがクロマチンの基本構造であることを提唱しています。さらに、凝縮したドメインが存在することによって実現する転写制御のモデルや、分裂期染色体でのドメインの役割についても議論しています。
転写を司る転写複合体は、サイズが大きいため、クロマチンドメイン内部には侵入できず、転写は主にドメインの表面で行われると考えられます。転写の場所がドメイン表面に限定されることは、意図しない遺伝子の発現の抑制につながります。一方で、このドメインが固体のようにかたい構造を持つ場合、転写因子による転写活性化、すなわち読み出したい遺伝情報の検索を妨げる可能性があります。しかし、凝縮したドメインの内部は液体のような流動性をもつため、サイズの小さな転写因子はドメインの内部のDNAにも適度にアクセスでき、転写したい遺伝子をドメインの表面にもってくることで転写を活性化すると考えられます。この論文は、このようなユークロマチンの微細な構造と物理的性質が、高次の転写制御の仕組みに寄与する可能性を示しています。また、凝縮したクロマチンドメインが、細胞が分裂する際、分裂期染色体を作るためのレゴブロックのような基本単位としてはたらくことも提唱しています。
本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科研費(JP21H02453, JP22H05606, JP21H02535)、学術変革領域 A「ゲノムモダリティ」(JP20H05936)、先進ゲノム支援(JP16H06279(PAGS))、日本学術振興会特別研究員 (JP23KJ0996(DC2))、科学技術振興機構JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2104)の支援を受けました。
図:ユークロマチンは凝縮した「塊」(クロマチンドメイン)を形成する。RNA Pol II (紫)による転写は、ドメインの表面で行われている。ドメインの内部にはRNA Pol II (紫)は入れず、転写は起こりにくい。一方で、ドメインは液体のように流動的な性質を持つため、転写因子(緑)などの小さな分子は塊内部のDNAにもアクセスできる。目的の配列に結合した転写因子は「浮き」のようにはたらき、転写したい遺伝子をドメインの表面にもってくることで転写を活性化すると考えられる。細胞分裂期において、このドメインは、分裂期染色体を作るためのレゴブロックのような基本単位としてはたらくことも提唱している。
Do sex-linked male meiotic drivers contribute to intrinsic hybrid incompatibilities? Recent empirical studies from flies and rodents
Kitano, J. and Yoshida, K.
Current Opinion in Genetics and Development (2023) 81, 102068 DOI:10.1016/j.gde.2023.102068
生態遺伝学研究室の北野潤教授と吉田恒太特任助教は、Current Opinion in Genetics and Developmentのゲノムコンフリクト特集号に総説を発表しました。
雑種不稔や雑種致死などの内因性雑種不適合は、種間の生殖隔離機構のひとつとして重要です。性染色体を持つ生物では、内因性雑種不適合とくに雑種不稔は、ホールデイン則とラージX効果の2つの法則に従うことが多いと考えられています。この2つの法則を説明する仮説として、性染色体は減数分裂ドライブ因子などの利己的遺伝子の温床となりやすく、地理的に隔離された2集団で異なる減数分裂ドライブ因子が蓄積すると雑種異常を引き起こすという説が提唱されています。
この仮説はもっともらしく思われ、いくつかの経験的データもこの仮説と一致していますが、自然界での種分化、特に遺伝子流動を伴う種分化についても、このようなメカニズムで雑種異常が進化するのかについては、いまだに多くが不明です。そこで、性染色体の進化と種分化における減数分裂ドライブの役割を調べた最近二年間に発表された実証的研究をレビューしました。まだまだ野生生物でのデータ蓄積が必要であることが認識されました。
本成果は、科研費基盤S(22H04983)とJST・CREST(JPMJCR20S2)の支援を得て行われました。
Expanded male sex-determining region conserved during the evolution of homothallism in the green alga Volvox
Kayoko Yamamoto, Ryo Matsuzaki, Wuttipong Mahakham, Wirawan Heman, Hiroyuki Sekimoto, Masanobu Kawachi, Yohei Minakuchi, Atsushi Toyoda, Hisayoshi Nozaki iScience (2023) 26, 106893 DOI:10.1016/j.isci.2023.106893ボルボックス(Volvox)は緑の宝石に例えられる美しい緑藻類です。ボルボックスには卵と精子を形成するメスとオスの性(sex)があり、また、異なる遺伝子型でメスとオスが決まる「雌雄異株種」と、同じ遺伝子型の一個の培養株の中で卵と精子を形成する両性型の「バイセクシュアル種」が存在します。ボルボックスの仲間では雌雄異株種からバイセクシュアル種への進化が多く認められ、「生物多様性を生み出す性の多様性」という点で重要です。
今回、日本女子大学の山本荷葉子学術研究員(兼学振特別研究員)ら及び国立環境研究所の松﨑令高度技能専門員らは、国立遺伝学研究所、東京大学、コンケン大学、カラシーン大学の研究者との共同研究により、バイセクシュアル種への進化を探るためにタイ国産株のボルボックス・アフリカヌスの全ゲノム解析に取り組みました。
これまでボルボックスでは、雌雄が遺伝的に異なる雌雄異株種からバイセクシュアル種に進化するためには、メスの性染色体にオス特異的遺伝子が取り込まれることが必要と考えられており、性染色体は雌雄で異なっていて、各々メスまたはオスに特異的な遺伝子を保有するものと解釈されていました。しかし、タイ国産株のバイセクシュアル種では、メスの性染色体に相当する部分が全て欠落している一方で、オスの性染色体に相当する部分がほとんどそのまま残存していました。このことは、性染色体にはメスとオスを区別する以外の未解明の機能が存在することを示唆し、今後の研究が期待されます。
本研究の一部は文部科学省 科学研究費新学術領域研究 先進ゲノム支援(PAGS)(16H06279)の支援を受けて遂行されました。また、本研究の解析の一部は遺伝研スーパーコンピュータシステムを用いておこなわれました。
本研究成果は国際科学雑誌「iScience」に2023年6月16日に掲載されました。
図: 緑藻ボルボックスにおける有性生殖の4タイプ。
分子細胞工学研究室の鳩山雄基さん(総研大博士課程4年)が、2023年6月5日〜7日に九州大学医学部百年講堂で行われた、第27回DNA複製・組換え・修復(3R)ワークショップにおいて口頭発表を行い(演題:Enhanced AID2-based protein knockdown systems for the analysis of biological pathways)、学生発表賞を受賞しました。 本ワークショップは国内の3R研究者が二年毎に集まって開催している歴史ある研究会です。
製品評価技術基盤機構(NITE)、東京大学、京都大学、茨城大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所、情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設 ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)及びbitBiome株式会社は、共同で新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業「バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進」プロジェクトに参画し、「CO2固定微生物利活用プラットフォームの構築」事業を開始しました。
本事業では、CO2を原料とした有用物質の生産に寄与する多種多様な微生物とその関連情報(生育条件、ゲノム情報、有用遺伝子情報等)を整備するとともに、それらを利活用できるプラットフォームを構築し公開します。このプラットフォームを活用することで、産業界はCO2を直接原料とした微生物によるバイオものづくりの開発スピードを加速できます。
図: カーボンリサイクルにおける微生物への期待
POLR1A variant- and tissue-specific effects underlie phenotypic heterogeneity in craniofacial, neural and cardiac anomalies
Kelly Smallwood, Kristin E.N. Watt, Satoru Ide, Kristina Baltrunaite, Chad Brunswick, Katherine Inskeep, Corrine Capannari, Margaret P. Ada, Amber Begtrup, Debora R. Bertola, Laurie Demmer, Erin Demo, Orrin Devinsky, Emily R. Gallagher, Maria J. Guillen Sacoto, Robert Jech, Boris Keren, Jennifer Kussmann, Roger Ladda, Lisa A. Lansdon, Sebastian Lunke, Anne Mardy, Kirsty McWalters, Richard Person, Laura Raiti, Noriko Saitoh, Carol J. Saunders, Rhonda Schnur, Matej Skorvanek, Susan L. Sell, Anne Slavotinek, Bonnie R. Sullivan, Zornitza Stark, Joseph D. Symonds, Tara Wenger, Sacha Weber, Sandra Whalen, Susan M. White, Juliane Winkelmann, Michael Zech, Shimriet Zeidler, Kazuhiro Maeshima, Rolf W. Stottmann, Paul A Trainor, K. Nicole Weaver
The American Journal of Human Genetics (2023) 110, 809-825 DOI:10.1016/j.ajhg.2023.03.014
近年、次世代シークエンサー技術の進歩により、症例が少なく診断が難しい疾患(希少疾患)のゲノムも比較的容易に解析できるようになりました。その結果、希少疾患の原因となりうる遺伝子の変異(バリアント)が次々と同定されています。今回、シンシナティ小児病院医療センターN. Weaver博士らが率いる国際共同研究チームは、遺伝病が疑われる患者グループのゲノム解析をおこないました。この解析により、研究チームはRNAポリメラーゼIの遺伝子変異を多数発見しました。RNA ポリメラーゼIはタンパク質翻訳装置であるリボソームの構成RNA(rRNA)を合成することが知られています。これらの遺伝子変異をもつRNAポリメラーゼIは、RNA合成活性が低下または過度に上昇しました。またRNAポリメラーゼIの細胞内局在にも異常がみられました。これらの異常により、顔面の骨の形成不全や心臓疾患、てんかん等の神経合併症など、さまざまな症状が引き起こされることが明らかになりました(図A)。今後、これらの疾患の確定診断や疾患モデルマウスを利用した対処療法や治療法の開発が期待されます。
遺伝研の貢献
ゲノムダイナミクス研究室 井手聖助教と前島一博教授は、N. Weaver博士らと共同で、今回の患者で見つかった9種類の変異を持つRNAポリメラーゼIのrRNAの合成活性とその細胞内局在を調べました。機械学習を用いた画像分類法を利用した結果、変異型RNAポリメラーゼIはrRNAの合成活性に応じて、RNAポリメラーゼIが集まる核小体内で異なる局在パターンを示すことがわかりました(図B)。このことは、機械学習を用いた核小体の形態解析によって、rRNAの合成活性が予測できる可能性を示しています。
遺伝研の貢献部分は文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究「非ドメイン生物学」(22H05606)、科学研究費補助金(21H02535, 19H05273 ,20H05936)などの支援を受けて行われました。機械学習の利用に関して、がん研究会がん研究所 斉藤典子部長の協力を得ました。
図:(A)疾患モデルマウスの表現型(左:正常、右:疾患モデル)。ヒト希少疾患の原因変異をもつRNAポリメラーゼIの遺伝子(POLR1A)を組織特異的にマウス内で発現させている。その結果、頭蓋顔面骨形成の不全(上段)、大脳皮質の萎縮(中段)、心臓の肥大化(下段)が観察された。(B)ヒト培養細胞で発現した9つの変異型RNAポリメラーゼI(RNA Pol I)と正常型(WT)の画像(細胞核:シアン、RNA Pol I:ピンク)。それらの特徴を、機械学習の一つである画像パターン認識アルゴリズムwndchrmにより抽出し分類した(類似関係を示す系統樹)。この局在パターンによる分類が、RNA Pol IのrRNAの合成活性による分類(転写が上昇する変異:赤、転写が低下する変異:青、転写が変化しない変異:黒色)と一致した。