遺伝子の運動を支配する物理法則
〜細胞内の染色体の動きを表す数式を発見〜

Press Release

Formulation of chromatin mobility as a function of nuclear size during C. elegans embryogenesis using polymer physics theories.

Aiya K. Yesbolatova, Ritsuko Arai, *Takahiro Sakaue, and *Akatsuki Kimura.  *Corresponding authors

Physical Review Letters (2022) 128, 178101 DOI:10.1103/PhysRevLett.128.178101

プレスリリース資料

生命現象は多段階の複雑な反応で、それらを単純な数式で表すのは難しいように思われます。一方で、科学者は共通の単純な数式で一見全く違う自然現象を表せることを発見してきました。例えば、高分子物理学の世界では、ゴムやナイロン繊維のように異なる材料でできたものでも「ひも状」という共通点があれば、その性質を似たような数式で表せることを明らかにしてきたのです。

このたび、国立遺伝学研究所細胞建築研究室・総合研究大学院大学大学院生のYesbolatova, Aiyaさんらは、青山学院大学の坂上貴洋教授との共同研究で、細胞内での「染色体の挙動」という複雑な生命現象を高分子物理学の理論に基づいた数式で表すことに成功しました。注目すべき点として、染色体はDNAに加えて様々なタンパク質やRNAなどからなる複雑な構造体であるにもかかわらず、その運動はゴムをはじめとする「ひも状」の分子の運動と同様の単純な数式で表せることがわかりました。この研究成果により生命現象の物理学的理解を前進させることが期待できます。

本研究は科学研究費・新学術領域研究(研究領域提案型)「遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル」(平成30年度~令和4年度)の計画研究として、物理学者と生物学者の分野を超えた密接な共同研究によって遂行されました。

本研究成果は米国科学雑誌「Physical Review Letters」に2022年4月27日(日本時間)に掲載されました。

Figure1

図: 高分子物理学を用いた細胞内での染色体の動きの定式化
(A) 線虫C. elegans初期胚における細胞核内の染色体上の特定の遺伝子座を標識し、その動きを顕微鏡観察で追跡した。(B) 染色体の動きは、追跡結果からMSCD (Mean square change in distance、距離変化の二乗平均)という指標を産出して行った。半径(rad, R)が大きいほど、動き(MSCD)が大きいことがわかった。(C) 高分子物理学の理論に基づいて定量した結果を分析すると、様々な核で測定した結果が1本の線に収斂することを発見した。このことは高分子物理学の理論で細胞内の染色体の動きを表せることを意味する。この解析のために、我々はMSCDを、より汎用性の高い動きの指標であるMSD(mean square displacement、平均二乗変位)に変換する方法も開発した。(D) 収斂した線を表す方程式を得ることによって、染色体の動き(MSD)を時間τと核の半径Rの関数として定式化することに成功した。


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