2022/02/07

改良オーキシンデグロンAID2による線虫個体における迅速なタンパク質の分解除去法の開発

The auxin-inducible degron 2 (AID2) system enables controlled protein knockdown during embryogenesis and development in Caenorhabditis elegans.

Negishi T#, Kitagawa S#, Horii N, Tanaka Y, Haruta N, Sugimoto A, Sawa H, Hayashi KI, Harata M*, Kanemaki MT*.
# 筆頭著者 * 責任著者

Genetics (2022) 220, iyab218 DOI:10.1093/genetics/iyab218

線虫のタンパク質機能を解析するためには、そのタンパク質機能を欠損させて表現型を調べることが有効です。この目的のために、変異遺伝子を持つ個体やRNA干渉法が用いられてきました。しかしながら、発生過程に重要な役割を持つ遺伝子は、欠損により発生不全となり、それ以降の解析が困難となる場合があります。また、卵には母性由来のmRNAやタンパク質が多量に蓄積しているために、本来ならば初期発生に関与するタンパク質の機能が、既存の技術では初期発生において表現型として表出しないこともあります。我々の開発したオーキシンデグロン(AID)法は、標的タンパク質を任意の時間において迅速に分解除去できるため、既存の技術では観察できない表現型を解析できることが期待されます。すでにAID法はアメリカのグループにより線虫に応用されて、さまざまな研究で使われています。しかしながら、従来のAID法はオーキシン非添加時における弱い標的分解や、高濃度オーキシン投与による影響などの問題点がありました。

そこで、我々は出芽酵母、培養細胞、マウスを材料に去年開発した、改良オーキシンデグロンAID2を線虫に応用し、これらの問題を克服することを目指しました(図1)。その結果、線虫においてもAID2法を用いることでリガンド非特異的分解を完全に抑制し、従来の1/1300のリガンド濃度で迅速に標的タンパク質分解を誘導できることを見出しました(図2)。さらに、内在性ヒストンタンパク質の一種H2A.Zを分解することで、初期発生における発生不全表現型を観察することに成功しました。さらには、卵内の胚において分解誘導を誘導するために、卵殻透過に適した修飾リガンドを開発し、胚における迅速タンパク質分解も可能にしました(図3)。

本研究は、国立遺伝学研究所・根岸剛文助教、鐘巻将人教授と東北大学・大学院生北川紗帆、原田昌彦教授が中心となり、岡山理科大学・林謙一郎教授、国立遺伝学研究所・澤斉教授、東北大学・杉本亜砂子教授らとの共同研究として行われました。

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図1:線虫におけるAID2の作動原理。デグロンタグ(AID*もしくはmAID)を付加した標的タンパク質は、リガンド5-Ph-IAA存在下において、変異型AtTIR1 (AtTIR1(F79G))が作るE3ユビキチンリガーゼ複合体に認識されて、ユビキチン化後に迅速に分解される。
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図2:幼虫および生体における分解誘導。AIDとAID2の比較実験をおこなった。AIDを導入した個体では、GFPレポーターの発現が低下している。一方で、AID2導入個体では、GFPレポータの発現変化は見られない。両システムとも、リガンド添加により分解誘導できるが、AID2で使用する5-Ph-IAAはより低濃度で分解誘導が可能である。
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図3:卵内の胚における分解誘導。卵殻透過性をもつ新規リガンド5-Ph-IAA-AMを利用することで、胚においても効率的な分解誘導が可能になった。

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