サメやエイのからだづくりの理解へ:DNA情報学か?あるいは迷宮入りか?



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卵殻の中で発生するイヌザメ胚

Shark and ray genomics for disentangling their morphological diversity and vertebrate evolution

Shigehiro Kuraku

Developmental Biology 477 262-272 (2021) DOI:10.1016/j.ydbio.2021.06.001

ひとくくりにされがちな「サメ」であるが、実際には500種以上が含まれ、近縁なエイと合わせると計1200種にものぼる軟骨魚類を構成しています。軟骨魚類は外見が多様であるにもかかわらず、その形づくりの仕組みについての研究は断片的にしか行われていませんでした。これに関して、今回、分子生命史研究室の工樂博士は、軟骨魚類のゲノム研究が与えうる知見について総説を出版しました。サメ類やエイ類が含まれる軟骨魚類の多くの種は胎生で、交尾や出産の記録がありません。そもそも、発生段階を追って形態を観察し操作的実験を行うことは、体が大きく発生のペースが遅いことからも現実的とは言えません。また、卵生であっても、深海棲の場合、胚にアクセスすることは至難の業でもあります。成体の形態学的特徴を探るにあたり、本来なら正当なアプローチといえるはずの発生学的解析がままならないとしたら、彼らの多様な形づくりの謎は迷宮入りなのでしょうか?

近年、そのような種であっても、DNA情報の全体として知られる「ゲノム」の配列を比較的容易かつ安価に読み取ることができるようになりました。死亡漂着したような、新鮮とはいえない成体の一部からでも、ゲノムの情報を得ることができれば、形づくりを制御する遺伝子のDNA配列やその遺伝子のはたらく場所や時期を決める部分の配列までも調べることができます。とはいえ、これらの因子がどう作用し、種ごとの特徴がどう生じるかは即座に読み取ることができるわけではなく、十分な基礎情報をこれから積み上げていく必要があります。それには、小型かつ卵生で既に研究でよく用いられているトラザメやイヌザメでの発生のメカニズムの解明が先立つべきだと考えられます。分子生命史研究室では、これら小型のサメ類に加え、希少な大型種のゲノム情報の読み取りも進めており、これまでの動物学では扱うことのできなかった他の様々な対象についても、DNA情報解析を駆使して挑んでいきます。

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図:サメとエイの独特の体の特徴とその起源。目レベルの系統関係(A)は最新の分子系統解析の結果を総合して表示。種数などの情報の出典は総説本文を参照のこと。分子発生学研究のほとんどはごく限られた卵生種(Bにおもな種を列挙)で進められており、形態学的な多様性のほんの一部しか発生学的な観点からは調べられていない。右端には細胞ごとの核ゲノムDNA量の測定に基づくゲノムサイズ(白抜長方形および数字)とゲノムシークエンスによるDNAの総塩基長(橙色長方形)を示した。

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