Telomere Visualization in Tissue Sections using Pyrrole–Imidazole Polyamide Probes
Asuka Sasaki, Satoru Ide, Yusuke Kawamoto, Toshikazu Bando, Yukinori Murata, Mari Shimura, Kazuhiko Yamada, Akiyoshi Hirata, Kiyoshi Nokihara, Tatsumi Hirata, Hiroshi Sugiyama, Kazuhiro Maeshima
Scientific Reports 6: 29261 (2016) DOI:10.1038/srep29261
国立遺伝学研究所の総研大大学院生 佐々木飛鳥、井手聖助教、前島一博教授、平田たつみ教授、京都大学の杉山弘教授らのグループ、(株)ハイペップ研究所 軒原清史代表らのグループ、国立国際医療センターの志村まり室長らのグループは、細胞老化・がん化に重要な役割を担う染色体テロメア配列を組織切片の細胞において簡便かつ迅速に標識する方法を開発しました。
染色体の末端はテロメアと呼ばれる繰り返し配列により保護されています。ある種のがん細胞では、テロメアの長さが短くなっていることから、テロメア長はがん診断の指標になると考えられています。これまでテロメアの検出にはFISH法が利用されてきましたが、実験に1日以上を要する上に、細胞内の構造を壊すおそれのある熱・有機溶媒処理も必要とすることが課題でした。研究グループらは、これらの問題点を克服する新化合物「ピロール・イミダゾール(PI)ポリアミド化合物」(図1)を開発してきました。本研究では、マウスやヒト凍結組織切片にこの標識法を応用することに成功しました。さらにPIポリアミドは抗体染色と併用できるため、がん組織切片においてがん細胞に焦点を当ててテロメア長を測定することに成功しました(図2)。
本研究の成果により、PIポリアミド化合物は、簡便かつ高精度な1細胞レベルでのテロメア長の測定法として、基礎研究のみならず臨床分野において広く用いられることが期待されます。また本技術は、細胞内の空間情報を保持したままテロメアを標識できるので、超解像顕微鏡技術と組み合わせることにより、細胞が持つテロメア構造の本来の姿を捉えることが期待されます。
本研究の遂行にあたり、JST・CREST 「統合1細胞解析のための革新的技術基盤」および遺伝研共同利用研究費(2015-B)の支援を受けました。
図1. 二本鎖DNAに結合するPIポリアミド。
図2. ヒト食道がん・非がん組織切片におけるテロメア標識。(A) がん・非がん組織切片を染色した画像。緑がテロメア(PIポリアミドで染色)、赤色が腫瘍マーカー陽性(抗Ki-67抗体染色)、青色がDNA(DAPI染色)を示す。 (B) がん・非がん組織切片におけるテロメアの蛍光強度を定量した結果。がん組織切片におけるテロメアの蛍光強度は、非がん組織切片よりも小さく、テロメアが短くなっていることが示唆される。