2026/01/15

Wntは匂い物質のように細胞に方向を伝えるのか?

澤研究室・多細胞構築研究室

Differential functions of multiple Wnts and receptors in cell polarity regulation in C. elegans

Hitoshi Sawa , Masayo Asakawa , Takefumi Negishi

Genetics(2026)DOI:10.1093/genetics/iyag004 DOI:10.1101/2025.11.25.690575

Wntシグナル伝達は、細胞の分化・増殖・極性の制御を通じて、形態形成や恒常性維持など多様な生命現象に関与しています。高等動物は10種類以上のWntとその受容体を持ち、それらが冗長的に働くため、単一遺伝子変異の解析だけではWnt機能の全体像を理解することは困難です。また、Wntは細胞極性を制御することが知られていますが、その「方向」をどのように決定するかは未解明でした。Wntが匂い物質のように濃度勾配を介して極性方向を指示する可能性は以前から提唱されてきましたが、明確な実証はありませんでした。

線虫 C. elegans の表皮幹細胞の極性は三種類のWntと受容体によって冗長的に制御されています。極性方向がランダムになる三重Wnt変異体においてWntの濃度勾配を反転させると極性異常が回復することから、Wntは濃度勾配に依存しない仕組みで極性方向を制御していることが示されました。本研究では、三種類のWntと受容体変異を網羅的に組み合わせて解析し、それぞれが特異的な役割を担うことを明らかにしました。さらに、受容体LIN-17/Frizzled変異体では、特定のWnt勾配反転により極性逆転が増強され、極性方向が濃度勾配依存的にも制御されることが示されました。すなわち、細胞極性の方向付けは、勾配依存・非依存の二つの機構によって安定に制御されています。

本研究は科研費(JP16KT0078, JP23K21314)、武田科学振興財団の支援を受けて実施しました。

Wnt三重変異体やWnt+受容体(lin-17/Frizzled)変異体では表皮幹細胞の極性方向がランダムになる。後方で発現するWnt(EGL-20)を前方で発現させ、その濃度勾配を反転させると、三重Wnt変異体では異常を回復するが、Wnt+受容体変異体では極性逆転が増強される。


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