2025/12/17

眼は脳に何を伝えるか ― 網膜からの暗号情報を脳が解読する仕組みを解明

プレスリリース

米原研究室・多階層感覚構造研究室

                    

Decoupling of visual feature selectivity in the retinocollicular pathway

Ole S. Schwartz, Akihiro Matsumoto, Haruka Yamamoto, and Keisuke Yonehara

Current Biology 2025 DOI: 10.1016/j.cub.2025.11.050

プレスリリース資料

わたしたちが「ものが“見えた”」と感じるとき、中枢神経系は明るさや、色、動きなど膨大な視覚情報を処理しています。その起点となる網膜は、光を受容して情報を神経発火として暗号化し、脳へ送ります。しかし、脳がこの網膜暗号をどのようにして解読するのか不明でした。

本研究ではネズミを用い、生存に重要な「明るさの変化」と「動き」というの2種類の視覚情報に着目しました。相互情報量解析を応用し、網膜と視覚中枢である中脳上丘の神経活動を比較分析しました。その結果、網膜では、それらの情報が互いに予測可能な形で結びついていました。これは、異なる情報を一緒に “パッキング”することで脳への伝送が効率化されることを示しています。一方、中脳上丘では、その重複性が解消され、視覚特徴が再編成されていました。これは、中脳上丘がただの暗号の中継局ではなく、暗号解読の精度を高め、視覚応答の多様性を劇的に増やす役割を担うことを示します。

こうした処理は、注意、危険検知、素早い眼球運動など、中脳上丘が担う高度でしなやかな認知や行動に不可欠だと考えられます。本研究は、注意欠如や統合失調症など神経暗号の解読異常が関わると予想される疾患の理解にも寄与すると期待されます。

 本成果は、オーフス大学生物医学部DANDRITE研究所のOle Schwartz大学院生、国立遺伝学研究所の松本彰弘助教、山本悠研究員、米原圭祐教授によるものです。

(左)視覚経験が形成される視覚情報処理経路。視覚情報は網膜において検出、暗号化され、上丘へ伝送される。(右)網膜では、「明るさ変化(情報X)」と「動き(情報Y)」の2種類の視覚情報を表現する神経活動の相互情報量が高い。上丘では、網膜暗号の重複性が解消される。


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