多くの検体の全DNAから特定のDNA断片を簡便に選択して解読する方法

井ノ上研究室・人類遺伝研究室

DNAの塩基配列を解読する方法は、1970年代後半に発明されて以来、目まぐるしく進歩し、現在ではたった一つの細胞などの微量検体のゲノム全長の塩基配列を解読することすら可能になりました。各々の検体DNAの塩基配列を比較することで、変異の蓄積過程、細胞の系統関係などを解析することができるようになってきたのです。しかしながら、多くの検体のゲノム全長の塩基配列を解読、解析するには現在でも多大な労力とコストがかかり、得られるデータも極めて大きなサイズになってしまいます。一方で、特定の遺伝子に注目してDNA断片を選択、濃縮後にDNAの塩基配列を解読する方法もありますが、多数の検体を処理するのは労力とコストがかかるという欠点があり、多くの検体のDNAから特定のDNA断片を簡便に低コストで選択、濃縮して塩基配列解読を可能にする方法の実現が待たれていました。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の井ノ上逸朗教授、佐々木研究所の中岡博史部長、東京薬科大学の細道一善教授(2022年4月から)らの研究グループは、多くの検体より得られたDNAライブラリをプールしたのちにハイブリダイゼーションによって選択、濃縮する「プールドキャプチャー法」を開発して、特定の遺伝子の塩基配列に注目した多数の検体の塩基配列解読、解析を可能にしました。

プールドキャプチャー法では、個々の検体の識別を可能にする「インデックス配列」をDNAに付けた状態でDNAライブラリを作成し、すべての検体由来のDNAライブラリをプールします。プールしたDNAライブラリから特定の遺伝子断片をプローブとしてハイブリダイゼーションをおこなうことで、一回の操作で多くの検体から特定の遺伝子断片と相同性のあるDNA断片を回収します。回収したDNA断片についてインデックス配列を含めて塩基配列を解読することにより、解読したDNA断片がどの検体由来かを判別するのです。

プールドキャプチャー法により、多くの検体からのハイブリダイゼーションによる特定のDNA断片の選択、濃縮の過程を1回の操作で済ませられることから、労力とコストを節約しつつ、多くの検体の特定のDNA断片の塩基配列の解読、解析が可能になったのです。

なお、本技術はただいま特許出願中です(特願2018-563325「次世代シーケンサーを用いた迅速な遺伝子検査方法」)。

本技術は以下の研究成果の基盤のひとつになっています
子宮内膜のゲノム解析がもたらすブレイクスルー
自然免疫に重要なKIR遺伝子領域の構造を解明

図:プールドキャプチャー法の概念図

  • X
  • facebook
  • youtube