2022/03/10

自然免疫に重要なKIR遺伝子領域の構造を解明
~高深度シークエンス技術と配列決定アルゴリズムを実装~

Decoding the diversity of killer immunoglobulin-like receptors by deep sequencing and a high-resolution imputation method.

Saori Sakaue*, Kazuyoshi Hosomichi, Jun Hirata, Hirofumi Nakaoka, Keiko Yamazaki, Makoto Yawata, Nobuyo Yawata, Tatsuhiko Naito, Junji Umeno, Takaaki Kawaguchi, Toshiyuki Matsui, Satoshi Motoya, Yasuo Suzuki, Hidetoshi Inoko, Atsushi Tajima, Takayuki Morisaki, Koichi Matsuda, Yoichiro Kamatani, Kazuhiko Yamamoto, Ituro Inoue, Yukinori Okada*.
* 責任著者

Cell Genomics (2022) 2, 100101 DOI:10.1016/j.xgen.2022.100101

プレスリリース資料

大阪大学大学院医学系研究科の坂上沙央里助教(研究当時、現ハーバード大学医学部博士研究員)、岡田随象教授(遺伝統計学 / 理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)、金沢大学医薬保健研究域医学系革新ゲノム情報学分野 細道一善准教授、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 井ノ上逸朗教授、理化学研究所生命医科学研究センター 山本一彦センター長、東京大学大学院新領域創成科学研究科 松田浩一教授らの研究グループは、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)遺伝子領域の構造を高精度に解明し、ヒト疾患への関わりを明らかにしました(図)。

KIR遺伝子は、ナチュラルキラー(NK)細胞表面に発現しHLA分子を認識してその機能を調節していることから、ヒトの自然免疫応答や移植後拒絶反応に重要な役割を果たすと考えられています。しかしその重要性にも関わらず、KIR遺伝子領域は高度な多様性を持つことから、詳細な解析が困難で集団中での構造多様性の全貌が謎のままでした。

今回研究グループは、KIR遺伝子構造に特化した独自の高深度シークエンス技術の開発と、機械学習や深層学習の手法を応用した遺伝子コピー数推定・遺伝的変異・アレル組み合わせを網羅する解析アルゴリズムの実装により、日本人集団1,173名の高精度タイピングに成功しました。さらに、より多くのサンプルを対象としたゲノムデータにおいても、コンピューター上で簡便にKIR遺伝子配列の個人差(KIR遺伝子型)を特定するためにインピュテーション法を実装し、様々な疾患やヒト形質とKIR遺伝子型との網羅的関連解析が可能になりました。バイオバンク・ジャパンのゲノム・表現型情報を対象に解析を実施したところ、これまで報告されてきたKIR遺伝子と自己免疫疾患との関わりは想定されていたより弱いことが示唆されました。研究グループは本研究で得られた独自の解析アルゴリズムと日本人集団内でのKIR遺伝子型参照配列パネルを公開し、インピュテーション法の実装と合わせて今後さらに多くのデータへ応用する道を開き、免疫疾患や造血幹細胞移植の成績との関連を明らかにすることが期待されます。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED) ゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム:B-cureのうち、ゲノム研究バイオバンク(旧:疾患克服に向けたゲノム医療実現プロジェクト(オーダーメイド医療の実現プログラム))、ならびにゲノム医療実現推進プラットフォーム・先端ゲノム研究開発:GRIFIN 「遺伝統計学に基づく日本人集団のゲノム個別化医療の実装」の一環として行われ、文部科学省が推進する新学術領域研究「ゲノム科学の総合的推進に向けた大規模ゲノム情報生産・高度情報解析支援(ゲノム支援)」・「先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム(先進ゲノム支援)」および大阪大学大学院医学系研究科バイオインフォマティクス・イニシアティブの協力を得て行われました。

本研究成果は、米国科学誌「Cell Genomics」に、2022年3月10日(木)午前1時(日本時間)に公開されました。

遺伝研の貢献
自然免疫機能に重要な役割を果たす19番染色体上のKIR遺伝子はシーケンシングが困難領域の一つとして知られています。井ノ上教授らの研究グループはKIR遺伝子を網羅的にターゲットシークエンスする手法を確立し、日本人1,173名の高精度KIR配列決定に寄与しました。

本解析の一部は、2017年度先進ゲノム支援の支援課題としておこなわれました。

Figure1
図: 高深度シークエンス技術と集学的数理解析手法の開発により日本人集団1,173名で高精度にKIR遺伝子構造を解明

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