IPTG- and estradiol-inducible gene expression systems in the unicellular red alga Cyanidioschyzon merolae.
Takayuki Fujiwara, Shunsuke Hirooka, Shota Yamashita, and Shin-ya Miyagishima.
Plant Physiology(2025)DOI:10.1093/plphys/kiaf575
本研究では、微細藻類(単細胞光合成真核生物)において、細胞への影響がほとんどない薬剤を添加することで、任意の遺伝子の発現を制御できる実験系を確立しました。
微細藻類は、細胞構造やゲノム構成が非常に単純であることから、光合成生物に共通する生命現象を理解するための優れた生物群です。また、光合成や代謝機能を基盤とした有用物質生産など、応用研究の観点からも注目されてきました。一方で、遺伝子操作のための技術基盤は十分に整備されておらず、基礎研究から応用研究に至るまで、その潜在力を十分に活かしきれていないのが現状でした。
このような背景のもと、我々はこれまでに、微細藻類における遺伝子改変技術をはじめとした実験基盤の整備を段階的に進めてきました。しかし、各遺伝子やその産物の機能を理解するために必要な、任意の遺伝子の「発現誘導系」、すなわち特定のタイミングで機能を調べたい遺伝子のはたらきを On/Off する技術については、なお課題が残されており、その手法は、熱ショックや培地中の栄養塩類(肥料)の種類の切り替えといった、細胞に強いストレスを与えるものに限られていました。
そこで本研究では、細胞への影響が少ない薬剤である IPTG およびエストラジオールを用いた、薬剤誘導型遺伝子発現系を新たに開発しました。これらの薬剤は、分子生物学の分野で広く利用されている誘導物質です。微細藻類に適した薬剤応答性プロモーターを新たに設計することで、背景発現(リーク)が極めて少なく、誘導時には高い転写活性を示す制御系を実現しました(図1)。
さらに、この誘導系を応用することで、特定のタンパク質を条件的に分解する実験手法も構築しました。これにより、遺伝子の転写量の制御にとどまらず、細胞内のタンパク質量を人為的に調節し、その機能をより直接的に解析することが可能になりました。
以上のように、本研究で確立した技術は、生存に必須な遺伝子の機能解析をはじめ、代謝や環境応答など、細胞状態の変化に敏感な研究分野において不可欠な実験基盤となり、藻類研究によって解明可能な生命現象の範囲を広げることに貢献すると期待されます。
本研究は、科学研究費補助金(25K09670、24H00579)および JST 未来社会創造事業(JPMJMI22E1)の支援を受けて実施されました。

IPTG を用いた遺伝子発現誘導法
(A) 微細藻類の1種である単細胞紅藻 Cyanidioschyzon merolae の細胞構造の模式図と、微分干渉顕微鏡(DIC)像。
(B) IPTG 誘導型遺伝子発現系の模式図と、レポータータンパク質 GFP(緑)を IPTG 依存的に発現した細胞の蛍光顕微鏡像。プロモーター領域内に lac オペレーター配列(lacO)を 4 か所配置した。別途発現させた大腸菌由来の LacI リプレッサーがこれらに結合することで転写が抑制される。IPTG を添加すると LacI がlacO から解離し、転写が開始される。IPTG 添加後 4 時間以降に GFP タンパク質の発現が確認された。DIC像は細胞の輪郭を示す。GFP(緑)は細胞質に局在する蛍光シグナルを、Chl(マゼンタ)は葉緑体の光合成色素による蛍光を示す。スケールバーは図中に示す。